本田技研工業
【東証プライム:7267】「輸送用機器」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社、連結子会社および持分法適用会社(以下「当社グループ」という。)が判断したものであり、将来生じうる実際の結果と大きく異なる可能性もあります。詳細は「3 事業等のリスク」を参照ください。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは、「人間尊重」と「三つの喜び」(買う喜び、売る喜び、創る喜び)を基本理念としています。「人間尊重」とは、自立した個性を尊重しあい、平等な関係に立ち、信頼し、持てる力を尽くすことで、共に喜びをわかちあうという理念であり、「三つの喜び」とは、この「人間尊重」に基づき、お客様の喜びを源として、企業活動に関わりをもつすべての人々と、共に喜びを実現していくという信念であります。
こうした基本理念に基づき、「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品 を適正な価格で供給することに全力を尽くす」という社是を実践し、株主の皆様をはじめとするすべての人々と喜びを分かち合い、企業価値の向上に努めていきます。
当社グループは、総合モビリティカンパニーとして、一人ひとりの創造力から生まれる夢のあるモビリティや多様なサービスによって「環境負荷ゼロ社会」「交通事故ゼロ社会」を実現するとともに、2023年にグローバルブランドスローガンである「The Power of Dreams」を再定義して明確に示した「時間や空間といったさまざまな制約から人々を解放し(Transcend)、また人の能力と可能性を拡張する(Augment)」という本質的な提供価値を世界中にお届けすることで、人や社会を前進させるパワーとなることをめざしていきます。めざす姿の実現に向けて、夢を原動力に、独創的な技術とアイデアで、当社グループはこれからも果敢にチャレンジを続けていきます。
(2) 経営環境および対応の方向性
当社グループを取り巻く経営環境は、大きな転換期を迎えています。価値観の多様化や、高齢化の進展、都市化 の加速、気候変動の深刻化、さらに電動化、自動運転化、IoTといった技術の進化による産業構造の変化が、グローバルレベルで進んでいます。また、ウクライナ、中東および南シナ海情勢等の国際情勢や各国の通商政策において不透明な状況が続くなど、地政学的リスクも顕在化しています。そのような中、将来の成長に向けては、提供価値の質の向上に継続的に取り組むとともに、企業活動に関わるすべてのステークホルダーと、長期的な社会課題を解決するための、積極的な関係構築が求められます。
四輪事業においては、長期的な観点ではカーボンニュートラル実現に向けて、EV(電気自動車)が最も有効なソリューションであると考えています。一方で、四輪車の電動化を取り巻く環境は大きな変化に直面しています。電動化の普及は、地域によって進展の差が大きく、また、黎明期である現在においては、その普及のスピードにも変動があります。当社グループは、電動車の市場動向を見極めながら、リソースの効果的な配分を行うなど、柔軟かつ適応力のある戦略を維持していきます。
二輪事業は、若年層人口比率の高い国々を中心に、今後も市場の成長が見込まれます。一方で、世界最大の二輪車市場であるインドでは政策の後押しもあり、電動車の需要も急速に拡大しています。その他の国々でも、電力の安定供給や充電ネットワークの整備といったインフラ面では国ごとに異なる課題があり、政府の販売支援策や産業育成策の実行力にも違いがあるものの、長期的には電動車の拡大トレンドが継続すると考えています。当社グループはこのような状況を踏まえ、ICE(内燃機関)車と電動車の拡大ペースを市場ごとに見極めながら、リソースの効果的な配分を行うとともに、躍進する電動新興メーカーに対して当社グループの強みを活かしながら対応策を展開していきます。
パワープロダクツ事業及びその他の事業においては、建設機械・産業機械業界などにおいても官民一体によるカーボンニュートラルの動きが加速し、環境に配慮された製品のニーズが高まりを見せています。当社グループは、それらの業界の完成機メーカーなど法人顧客向けに電動製品のラインアップを拡充させることで、カーボンニュートラル社会の実現に向けた動きを加速させる役割を担っています。
(3) 優先的に対処すべき課題
持続可能性の観点から網羅的に抽出した社会課題を、当社グループがめざす方向性に照らしあわせ、優先的に対処すべき課題を選定しています。従来より経営の重要テーマとして掲げてきた「環境」と「安全」に加え、当社グループの成長の原動力である「人」と「技術」、またすべての企業活動の総和ともいえる「ブランド」の5つの非財務領域を重要テーマとして選定し、財務戦略と連携させることで社会的価値・経済的価値の創出を実現していきます。
<5つの重要テーマ>
① 環境負荷ゼロ社会の実現
当社グループは、持続可能な企業活動をめざし、それぞれが連鎖している環境負荷を網羅的に低減する取り組みに向けて、全社の重要テーマの一つを「環境負荷ゼロ社会の実現」と設定しています。「環境負荷ゼロ社会の実現」をめざした活動は、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」、この3つを1つのコンセプトにまとめた「Triple Action to ZERO」を中心にして取り組んでいます。
1.カーボンニュートラルの取り組み
当社グループは、カーボンニュートラルの実現に向けて、乗用車をはじめとする小型モビリティの領域において、長期的視点ではEVが最適解であると考え、その普及に向けて大きく舵を切り、取り組みを進めてきました。
一方で、四輪事業を取り巻く環境は日々刻々と変化しています。特に、EV普及の前提となる各地域での環境規制の変化などによるEV市場拡大スピードの鈍化や、通商政策動向の変化など、事業環境の不透明さが増しています。
このような環境下で、当初の目標である2030年にグローバルでのEV/FCEV(燃料電池自動車)販売比率30%は見直しておりますが、引き続き「2040年にEV・FCEVの販売比率100%」とする目標に向けて、着実に、強いEVブランドと事業基盤の構築に取り組んでいきます。また、EV普及までの過渡期を担うパワートレーンとしてハイブリッド車の商品群を強化していきます。
二輪事業においては、2040年代に全ての二輪製品でのカーボンニュートラルを実現することをめざし、ICEの進化にも継続的に取り組みながら、環境戦略の主軸として二輪車の電動化を加速させています。
(商品ラインアップの拡充)
当社グループは、2030年のグローバルでの電動二輪車の年間販売台数目標を400万台、2030年までにグローバルで30機種の電動モデルを投入することをめざし、戦略的に電動二輪車の市場投入を進めています。この達成に向けて、2024年を電動二輪車のグローバル展開元年と位置付け、電動二輪市場への参入を本格化しており、多様化するお客様のニーズに応える多彩なバリエーション展開により、電動二輪車においてもリーディングカンパニーをめざしていきます。
(充電・利用環境の整備)
電動二輪車の普及に向けては、商品ラインアップの強化だけでなく、利用環境の整備に向けた施策を展開します。日本、インドネシア、タイに引き続きインドでも、交換式バッテリーを搭載する電動二輪車の普及強化に向けて、現地法人ホンダパワーパックエナジーインディアプライベート・リミテッドによるバッテリーシェアリングサービス事業を展開しています。また、インド全土6,000店舗で展開している業界最大(注)の販売ネットワークを活用し、アフターサービス、メンテナンスを強化するほか、今後順次投入していく固定式バッテリー搭載車両の電欠不安に対しても、この幅広いネットワークを生かして充電網を拡充していきます。
(注) 当社調べ(2025年1月時点)
パワープロダクツ事業では、パワーユニット領域とガーデン領域を電動化の主要ドメインに位置付け、商品力の向上に向けた取り組みを強化することで、業界における電動化をリードしていきます。また、多様なモビリティを有する当社グループの強みを活かし、電動化に必要なコア部品を二輪事業と共用化することでコストを削減するなど、事業間のシナジーによる開発・コスト競争力の強化を図っていきます。
パワーユニット領域では、パワープロダクツの基幹事業である汎用エンジンで培ったBtoBの既存顧客に加えて、電動化が期待される領域へ積極的に「eGX」(Hondaの「GX」シリーズを電動化した汎用エンジン)の搭載を拡大させるため、日本・欧州を中心とするパワーユニット供給先企業との連携を強化します。そしてお客様の要望にきめ細やかに応えていくため、幅広いバリエーションを「eGX」シリーズとして準備していきます。
ガーデン領域では、米国市場において、造園業者向け電動製品をフルラインアップ展開し、プロのお客様へも電動製品の拡大を図ります。その実現に向けて、北米の展示会でプロトタイプとして発表した、電動乗用芝刈機や自動芝刈機といった大型モデルについても量産準備のフェーズに移行しました。さらに、手押し芝刈機や、刈払機などの小型の電動製品に関しては、外部協業先を活用し、効率的な開発・生産スキームで電動化を加速するとともに、協業の枠組みを拡大させ、さらなる顧客の獲得をめざしていきます。
2.「クリーンエネルギー」3.「リソースサーキュレーション」の詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。
② 交通事故ゼロ社会の実現
当社グループは、2050年に全世界で、当社グループの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロをめざしま
す(注1)。また、そのマイルストーンとして2030年に全世界で当社グループの二輪車・四輪車が関与する交通事
故死者半減(注2)をめざします。これらは、新車だけでなく、登録・届出されたすべての当社グループの二輪
車、四輪車が対象となります。
(注) 1 当社グループの二輪車、四輪車が関与する交通事故:当社グループの二輪車・四輪車に乗車中、および歩行者・自転
車・その他当事者(故意による悪質なルール違反、および故意により飲酒・薬物その他による責任能力のない状態の二
つを除く交通参加者)が関与する交通事故。
2 2020年比で2030年に全世界で当社グループの二輪車・四輪車が関与する1万台当たりの交通事故死者数を半減。
詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。
③ 人的資本経営の進化
当社グループの人的資本経営とは、全社の方針である「一人ひとりの夢を原動力に人と社会を前進させる総合モビリティカンパニー」をめざし、事業戦略の到達点からバックキャストした将来必要な人材ポートフォリオを形成していくことです。そしてこれを実現するために中長期・短中期の観点から達成すべき二つの人材マテリアリティ(注)を設定しています。さらに、人材マテリアリティごとに二つ、合計四つの主要テーマを設定しています。
(注) マテリアリティ:持続可能性の観点から網羅的に抽出した社会課題を、当社グループのめざす方向性に照らし優先順位
を付けたうえで選定した「重要テーマ」において、とくに注力していくべき課題。
詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。
④ 独創的な技術の創出
めざす提供価値として定めた「Transcend」・「Augment」の実現に向け、「コア技術の創出こそが将来にわたるサステナブルな事業基盤や競争力を生む源泉になる」という考え方に立脚し、イノベーションマネジメントの強化に、継続的に取り組んでいます。将来の「環境負荷ゼロ社会」「交通事故ゼロ社会」の実現に向け、またモビリティフィールドとその概念の拡大をめざし、注力領域を定めた上で、各領域エキスパートがその実現に向け技術開発をリードしています。また、世界中のさまざまな研究機関と共同研究を行うことで、グローバルでの知の探究と結集をはかっています。技術開発は試行錯誤の繰り返しであり、その弛まぬ努力が実際に世の中に上市される商品へと結実するまでには長い時間と莫大なリソースが必要となります。しかし、どのような時代においても「新技術の探究」こそが次代の当社グループをつくり上げるドライビングフォースであるという信念のもと、思い切ったリソース投入を行うことで、高い競争力を持ち続け、サステナブルな事業展開に貢献していくことをめざします。
このような技術開発のもと、当社グループは「知能化」の強化およびハイブリッド車の競争力強化に取り組んでいます。「知能化」においては、カーナビで目的地を設定すると、一般道か高速道路かを問わず、目的地までの全経路において、クルマがアクセルやハンドルなどの運転操作を支援する次世代ADAS(先進運転支援システム)の独自開発を進めています。また、ハイブリッド車においては、Honda独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」と、それを搭載するプラットフォームを全方位で進化させ、燃費向上をめざすとともに、Hondaならではの五感に響く上質・爽快な走りをさらに進化させていきます。
⑤ ブランド価値の向上
Hondaのブランドは、創業時から現在に至るまで、お客様とともに歩み続けたあらゆる企業活動の積み重ねによって形づくられてきました。75年の歴史によって紡がれたHondaブランドをさらに輝かせ、将来にわたってその価値を高めていくことは、当社グループにとって極めて重要な課題の一つであると認識しています。ブランドマネジメントにおいては、「企業としての一貫性」と「商品・サービスの多様性・独自性」との間に相乗効果を生み出すことが重要だと考えています。あらゆる企業活動に価値ある一貫性を反映していくことによって、ブランディングを強化し、ブランドの価値を高めていくことをめざします。この一環として、グローバルでブランドに価値ある一貫性をもたらすため、さまざまな発信やブランディングを実践する際の指針として活用する「ブランドアセット」の整備と拡充に取り組んできました。今後はこれらのブランドアセットをさらに拡充するとともにコンテンツを進化させ、グローバルで活用の拡大をはかっていくことで、当社グループで働くすべての仲間の「夢」を原動力とした創造性の発揮を後押しするとともに、ステークホルダーの皆様から共感いただける魅力的なブランドの確立をめざしていきます。
<財務戦略>
⑥ 経済的価値の向上
企業価値の向上に向けては、財務・非財務資本を活用し、キャッシュ・フローの持続的な成長と資本効率の向上を実現する必要があると認識しています。この実現に向けて、「事業変革フェーズに応じた戦略的な資源配分」「資本コストを意識した経営の強化と環境変化への対応」「積極的な対話による経営の質・透明性の向上」へ取り組んでいきます。
1.事業変革フェーズに応じた戦略的な資源配分
(原資創出)
2030年に向けては、二輪事業の継続的な事業拡大と、四輪事業での次世代ハイブリッドシステムやプラットフォームの適用に伴うコスト低減効果、ハイブリッド車の販売台数増加により収益性を向上させ、2031年3月期のROIC(投下資本利益率)(注1)目標10%の達成に向けて取り組んでいきます。
(注) 1 (親会社の所有者に帰属する当期利益+支払利息(金融サービス事業を除く事業会社))÷投下資本(注2)
2 親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債(金融サービス事業を除く事業会社)、期首期末平均により算出しています。
(資源投入)
2024年5月に発表した、電動化戦略の実現に向けた設備投資、出資と研究開発支出など合わせて10兆円の投入資源については、カナダでのEVの包括的バリューチェーン構築の2年程度延期などにより、2031年3月期までの間で合計3兆円を減額し、総額7兆円へ見直しを行いました。この投入資源の減額を踏まえた、2027年3月期からの5年間のキャピタルアロケーションについては、二輪事業での安定的なキャッシュ創出力に加え、ハイブリッド車の販売台数の増加により、R&D調整後営業CF(注)12兆円以上のキャッシュ創出をめざします。また、2031年3月期までの資源配分としては、EV関連への資源投入を3兆円減額した一方、ハイブリッド車への資源投入に関してはミニマムの増加を見込んでいます。
(注) 研究開発費控除後の営業キャッシュ・フロー(金融サービス事業を除く事業会社の営業キャッシュ・フロー + 研究開発
支出 – 開発資産への振替額)
(株主還元)
成果の配分については、株主の皆様に対する利益還元を、経営の最重要課題の一つとして位置付けています。市場の変化にリニアに対応した資源配分の見直しにより、将来に向けた仕込みと収益力向上を両立した四輪事業の確立をめざすとともに、二輪事業の強固な収益力も合わせることで、さらなる成長をめざします。
また、従来は連結配当性向30%を目安に、安定的・継続的な配当に努めてきましたが、不透明な事業環境下においても、当社グループの強みを活かしたキャッシュ創出力を原資に、今後も継続して事業の成長に応じた株主還元を維持していくという意思表示として、DOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)(注)を導入します。
このように、事業体質のさらなる強化による成長と、安定的、継続的な株主還元の両立を図ります。
(注) DOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)のベースとなる「親会社の所有者に帰属する持分」は為替や市場環境の影響に
よる変動の大きい「その他の資本の構成要素」を除外した調整後の数値を基にします。
2.資本コストを意識した経営の強化と環境変化への対応
環境変化に柔軟かつ適切に対応し企業価値の向上を実現するため、資本コストを意識した経営の浸透をはかるとともに時間軸を踏まえた複数の選択肢を持ち、柔軟な資源配分によるリスクへの対応をはかっていきます。今後の変革期においては、将来に向けた投資が先行しますが、正味現在価値(NPV)を活用し資本コストを踏まえた投資判断を実施するとともに、経営の守るべきラインとして、資本コストを上回る全社ROICの維持をめざします。
3.積極的な対話による経営の質・透明性の向上
株主や投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様に、経営の方向性が正しく理解され評価いただけるよう、経営陣が主体となり、イベントや個別面談等を通じて、これまで以上に対話を積極的に行っていきます。これらの対話を通じて、経営陣や各領域技術責任者から成長戦略に向けた想いをお伝えするとともに、資本市場が当社グループに求めていることを直接把握し、経営や事業戦略へ活かすことで、PBR1倍超の早期達成と企業価値の継続的な向上へつなげていきます。
以上のような企業活動全体を通した取り組みを行い、株主、投資家、お客様をはじめ、広く社会から「存在を期待される企業」となることをめざしていく所存でございます。
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