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【東証プライム:9434】「情報・通信業」
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企業概要
当社グループは、通信を基盤とした様々なサービスの提供を目指し、AI、IoT、ロボット、6G、HAPS(注)、デジタルツイン、自動運転や量子技術などの先端技術の研究開発を実施しています。「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと、来たるAI社会を支える基盤の構築と通信ネットワークの高度化を推進し、社会に広がる課題をテクノロジーの力で解決することを目指し、日々研究開発に取り組んでいます。
(注)HAPS(High Altitude Platform Station):成層圏を長期間飛び続ける無人航空機を通信基地局のように運用し広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称。
(研究開発活動の目的)
お客さまに対して最先端技術の製品を安定的に供給していくこと、および当社グループ内での情報通信技術の中長期的なロードマップを策定していくことを目標に、情報通信技術に関わる最先端技術の動向の把握、対外的なデモンストレーションを含む研究開発および事業化検討を目的としています。
(研究成果)
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は以下の通りです。
HAPS向け大型機体「Sunglider」が成層圏飛行に成功
当社は、AeroVironment,Inc.と米国国防総省が2024年8月に米国で行った実証実験において、ソフトバンクの成層圏から通信サービスを提供するプラットフォーム(HighAltitude Platform Station、以下「HAPS」)向け大型無人航空機「Sunglider(サングライダー)」が成層圏飛行に成功しました。「Sunglider」は翼幅78mと他のHAPS向け無人航空機と比較しても大型で、75kgまでの通信ペイロードを搭載することができ、高速かつ大容量のモバイル通信を安定的に提供できることが特長です。
今回の実証実験では、構造面や機能面で改良された機体が使用され、そのパフォーマンスは米国国防総省の要求を満たしました。
当社はこの実験結果を今後の機体開発に活用し、更なる性能向上、長期間滞空、光無線通信の実現を目指し、商用化を加速させていきます。
AI-RAN統合ソリューション「AITRAS」の開発
当社は、AI-RAN統合ソリューション「AITRAS」の開発を本格的に開始しました。「AITRAS」により、従来は別々に構築されていたAI(人工知能)インフラとRAN(無線アクセスネットワーク)インフラを、同一のNVIDIA製プラットフォーム上で動作させることが可能となります。国内外の通信事業者は「AITRAS」を導入することで、従来のRANインフラを生かしながらAIインフラを構築することができるため、インフラ投資の効率化、運用の簡素化、リソースの最適化を実現できます。
当社が開発した「AITRAS」の L1(注1)ソフトウエアは、NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip(注2)プラットフォーム上で動作するように設計されており、信号の並列処理やタスク起動タイミングの最適化などにより、通信事業者が求める高いレベルの安定性と高性能を実現すると同時に、RAN容量の最大化や消費電力の削減にも貢献します。
また当社は、AI-RANのコンセプトの一つである、AIアプリケーションとvRAN(virtualized Radio Access Network、仮想無線アクセスネットワーク)アプリケーションを同一の仮想化基盤上で動作させることが可能なオーケストレーターを開発しました。オーケストレーターは、AIアプリケーションとvRANアプリケーションという特性の異なるソフトウエアを一つの仮想基盤上で高効率に共存させることができます。これにより限られた資源を最大限に活用し、かつ消費電力の削減といった経済的なメリットが期待できます。
「AITRAS」のエッジAIサーバーには、大規模言語モデル(LLM)の開発・展開を容易にする機能軍で構成されたソフトウエアプラットフォームであるNVIDIA AI Enterprise(注3)が実装されており、顧客である企業自身でAIアプリケーションを開発・展開することも可能になります。
当社は2025年以降に、通信事業者向けに「AITRAS」のリファレンスキットの提供を開始する予定です。当社は「AITRAS」を通じて、通信事業者の新たな強みを創出し、AIと通信の融合による豊かな社会の発展を促進してまいります。
(注1)L1:vRANソフトウエア構造におけるOSI参照モデル「物理層(第1層)」。
(注2)NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip:NVIDIA が開発した高性能計算(HPC)とAIに特化した巨大なプロセッサ。1つのパッケージにCPUとGPUを統合した点が特徴で、高性能かつ低消費電力な処理を実現する。
(注3)NVIDIA AI Enterprise:企業が AI を開発・導入するためのエンドツーエンドのソフトウエアプラットフォーム。
国内最大級のAI基盤の整備に向け、4.7エクサフロップスの計算能力の実現と「二相式DLC技術を最適化したラック統合型ソリューション」の開発
当社は、AIとの共存社会に向け、AI時代を支えるさまざまな社会基盤の構築に取り組んでいます。AI計算基盤の構築においては、2024年10月に新たに約4,000基のNVIDIA Hopper GPUの整備を完了し、AI計算基盤全体のGPUを約6,000基に拡張しました。これにより2023年9月から稼働しているAI計算基盤と比較して約7倍となる4.7EFLOPS(エクサフロップス)(注1)の計算処理能力を実現しています。
国内最大級(注2)のAI基盤の整備と国産大規模言語モデル(LLM)の開発に取り組む中、データセンターのエネルギー効率向上は、AI開発の加速と持続可能な社会の実現に不可欠といえますが、当社は、ZutaCore,Inc.(以下、ZutaCore)、Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.と協業し、NVIDIA H200 GPUを搭載したAIサーバー向けに、ZutaCoreの二相式DLC(Direct Liquid Cooling、直接液冷)技術(注3)を世界に先駆けて(注4)実装しました。
また当社は、二相式DLC技術を搭載した冷却機器をはじめとするサーバーの各構成要素を、ラックスケールで統合したラック統合型ソリューションを設計・開発し、このソリューションでラック単位での冷却効率としてpPUE1.03(実測値)を達成しました(注5)。
(注1)エクサ:10の18乗、フロップス:コンピューターの処理能力の単位。
(注2)2024年10月31日時点での公開情報に基づく。当社調べ。
(注3)二相式DLC技術:サーバー内部の半導体チップ(プロセッサ)上のコールドプレートに、水を使用しない絶縁性冷媒を二相式(液体、気体)で循環させて冷却する技術。
(注4)2025年1月時点、ZutaCore調べ。
(注5)ZutaCore調べ。pPUE(partial Power Usage Effectiveness)とは、データセンターの冷却効率を示す指標の一つであるPUE(Power Usage Effectiveness)に対して、サーバールームやモジュールなど特定の範囲や設備の効率を示す指標。数値が1.0に近いほど、エネルギー効率が良いことを示す。
自動運転の社会実装に向け「交通理解マルチモーダルAI」と「遠隔自動運転サポートシステム」を開発
当社は、自動運転車の運行業務の完全無人化を目指し、低遅延なエッジAIサーバーで動作する自動運転向け「交通理解マルチモーダルAI」(注1)を開発しました。
「交通理解マルチモーダルAI」は、自動運転車から送信された走行映像などを基に交通状況を判断し、そのリスクと対処法をリアルタイムで言語化することが可能です。また、日本の交通知識、走行シーン、リスクと対処方法を学習済みのAI基盤モデルを使用しているため、交通状況と走行リスクを高度に理解できることも特徴としてあげられます。
2024年10月に開始した実証実験では、エッジAIサーバー上で稼働させた「交通理解マルチモーダルAI」が、現在の「交通状況」「走行リスク」「リスク対処のための推奨動作」を生成し、外部から自動運転を遠隔サポートできることを確認しました。
当社はまた、レベル4(高度運転自動化)(注2)の自動運転の社会実装に向けて、AI-RANの統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」のエッジAI(人工知能)サーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」を開発しました。
このシステムは、自動運転車に搭載した前方カメラの映像を5Gネットワーク経由でエッジAIサーバーに送信し、エッジAIサーバー上にある認知AIが送信された映像を基に前方の障害物や路面の形状などを即座に認知し、その結果を自動運転車へ伝送することで、自動走行をサポートします。
更に「遠隔自動運転サポートシステム」と「交通理解マルチモーダルAI」を連携させることで、自動運転車の自動運転システムや認知AIでは対応できない予測困難な事態に直面した場合でも、スムーズに走行を続けることが可能になります。
2025年2月に開始した実証実験では、横断歩道に障害物がある状況を「交通理解マルチモーダルAI」が分析して停車指示を出し、その停車指示を「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」がリアルタイムで自動運転車へ伝送することで、障害物の手前で安全に停車できることを確認しました。
当社は「交通理解マルチモーダルAI」の精度を向上させ、将来的には「遠隔自動運転サポートシステム」と「交通理解マルチモーダルAI」を活用した自動運転車の運行業務の完全無人化を目指します。また当社は今後も自動運転の社会実装に向けた研究開発を推進してまいります。
(注1)マルチモーダルAI:テキストや音声、画像、センサー情報など、複数の異なるデータ種別から情報を収集し、それらを統合して処理するAIシステムのこと。
(注2)レベル4:特定の条件下で、システムが全ての運転のタスクを実施する状態のこと。
金属リチウム電池の寿命予測モデルの構築に成功
当社は国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下「NIMS」)との共同研究で、現行のリチウムイオン電池よりも複雑な劣化機構を持つ金属リチウム電池において、特定の劣化機構を仮定することでなく、機械学習を用いて高精度な寿命予測モデルを構築することに成功しました。
当社は、多数の金属リチウム電池セルの充放電データから抽出した放電、充電、緩和プロセスにおける特微量(注1)に基づいたデータ駆動型のアプローチを採用することで、予測精度に寄与する特微量を特定させ、決定係数(注2)R² = 0.89という高い精度の寿命予測を可能としました。
当社は、今後も寿命予測モデルの更なる高精度化、新規材料開発への活用を進めることで、高エネルギー密度金属リチウム電池の早期実用化を目指してまいります。
(注1)特微量:機械学習のモデルが学習や予測を行う際に使う、データの特徴を数値で表したもの。
(注2)決定係数:予測モデルのあてはまりの良さを表す指標。この値が1に近いほど、より予測精度の高いモデルであるといえる。
上記の他、主にHAPS、AI、広告関連サービスやアプリの研究開発を行い、当連結会計年度における研究開発費は73,934百万円となりました。
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