アンリツ 【東証プライム:6754】「電気機器」 へ投稿
企業概要
当連結会計年度の研究開発投資(無形資産に計上された開発費を含む)の内訳は、次のとおりです。
| 当連結会計年度 |
| 売上収益比率(%) |
通信計測事業 | 7,496百万円 |
| 10.6 |
PQA事業 | 1,625百万円 |
| 6.4 |
環境計測事業 | 417百万円 |
| 5.6 |
その他の事業 | 129百万円 |
| 2.1 |
基礎研究開発 | 274百万円 |
| - |
合 計 | 9,943百万円 |
| 9.0 |
また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。
(1) 通信計測事業
1) ME7873NR/ME7834NR RF/プロトコル コンフォーマンス試験・通信事業者受入試験システムの機能拡充
コンフォーマンス試験は、モバイル通信サービスの品質を保つための世界的な評価基準で、世界中の通信事業者に広く受け入れられています。また、多くの先進的な通信事業者は、このコンフォーマンス試験に加え、独自の端末品質評価体系を整備し、運用しています。
ME7873NR及びME7834NRは、RFとプロトコルそれぞれのコンフォーマンス試験及び通信事業者受入試験に対応した自動試験システムです。すでに数多くの試験機能が認証団体(GCFやPTCRB) (注1)や大手通信事業者に認証され、実際の5G端末コンフォーマンス認証試験や端末受け入れ試験に使用されています。
当社は、従来のスマートフォン向け通信におけるDownlink 4CC, Uplink MIMOなどデータ速度向上に寄与する機能の認証に加え、IoT市場向けの認証にも対応しました。また、RF、プロトコルコンフォーマンス試験の両方で、5G IoT用途機器向けの通信であるRedCap(Reduced Capability)や NTN(Non-Terrestrial Network)の認証取得を開始しました。通信事業者受入試験に関しては、主に各事業者のSA(Stand Alone)サービスの拡大に向けた試験に対応しました。特に、日本においてはネットワーク障害時の緊急呼試験の検討会に参加し、技術基準適合試験の仕様策定等に貢献しました。引き続き、日本及び米国の主要通信事業者7社の端末受入試験を提供する唯一のメーカーとして、5G端末の品質向上に貢献します。
2) MT8000A ラジオ コミュニケーション テストステーションの機能拡張
MT8000A ラジオ コミュニケーション テストステーションは、2018年の販売以来、第5世代通信システム(5G NR)のプロトコル試験、無線特性試験及びアプリケーション機能試験に対応した、チップセットなどのデバイス開発を含むモバイル端末開発用試験プラットフォームとして活用され、LTEネットワークとの組み合わせで5G技術を活用するNSA(Non Stand Alone)方式、およびLTEネットワークに頼らないSA方式、FR1/FR2周波数帯、高速大容量(eMBB : Enhanced Mobile Broadband)/超高信頼性低遅延(URLLC : Ultra Reliable Low Latency Communication)など、様々な方向に進化を続ける5G NR通信技術の普及と発展に貢献しています。
5G NR通信は、IoT市場向けのRedCapやモバイル通信のカバレッジ拡張、災害時の非常時におけるネットワークの確保が期待されるNTN技術の導入が進んでおり、当社は、MT8000Aへの機能拡張を進めることで、これらの新しい技術に対する5G端末の評価に貢献してきました。また、MT8000Aは、B5G/6Gで新たな周波数帯として検討が進められているFR3(7.125GHz-24GHz)への対応も進めており、パートナー企業との協業を継続しながら、5Gおよびその先のBeyond 5G/6Gへの発展に貢献すべく、先端技術への対応を継続しています。
3) MT8862A ワイヤレスコネクティビティテストセット IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)機能追加
IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)は、11axに続いて6 GHz帯をサポートし、既存技術を拡張して最大チャネル幅320MHz、最大シンボル数4096QAM、空間多重技術は16ストリームまでをサポートします。無線通信で30Gbps超のデータスループットを低遅延で提供することにより、4Kを超える高解像度のビデオストリーミングやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)などの最新アプリケーション・サービスを支える基盤技術となることが期待されています。
MT8862Aは、WLAN IEEE 802.11 a/b/g/n/ac/ax/be(2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯)搭載機器のRF送受信特性測定器です。ダイレクトモードによる柔軟な測定環境の提供に加え、標準WLANプロトコルメッセージング(WLANシグナリング)を使用して、被測定物(DUT:Device Under Test)と接続することで送受信測定が可能となるネットワークモードを搭載しているのが特長です。ネットワークモードは、通信チップとテスタ双方に実装されているデータリンク層通信プロトコルを利用し、通信チップとテスタ間の通信を確立させた実動作状態でRF送受信特性を評価する方法です。当社は、本ソリューションの提供を通じて、有線接続(Conducted)試験によるRF評価のほか、無線接続(OTA:Over the Air)試験(注2)に対応することで、WLAN搭載機器の接続性改善、信号品質向上に貢献します。
4) MP1900A PCI Express 5.0/6.0対応ソリューションの開発
AI(人工知能)やML(機械学習)の普及に伴い超高速・大容量に対応するネットワークインフラの整備、およびデータセンターの高速大容量化、省電力化が社会課題となっています。データセンターを構築する伝送装置やサーバでは、内部インターフェースの高速化に向けてPCI Express 5.0(32GT/s) (注3)の採用が進んでおり、MP1900Aは認証機器としてデバイス認証試験(ワークショップ)や、PCI-SIG®の認証試験プログラム設備として採用されています。
次世代PCI Express 6.0規格では、信号速度は64GT/sに高速化し、PAM4(Pulse Amplitude Modulation)変調方式やFEC(Forward Error Correction)が採用され、IPや先端デバイスベンダーの研究開発が進んでいます。当社は、自社製の超高速デバイスによる高品質波形生成、高感度測定に加え、試験に必要なPCI Express 6.0 Link Training機能や、FECシンボルエラーのリアルタイム測定によるエラー訂正解析機能を業界に先駆けリリースしました。
5) MT1040A MU104014B OpenZR+測定ソリューションの機能拡張
データセンターやメトロネットワークの増設が急速に進む背景には、生成AIやクラウドサービスの普及、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などの社会的要請があります。これまではデータセンター間接続(DCI)には大手通信キャリアが提供する高額なWDM回線が広く使用されていましたが、これに代わり、マルチベンダーの光トランシーバ相互接続を可能にし、100Gから400Gまでの伝送速度を低価格かつ長距離伝送に対応したOpenZR+規格が策定されました。当社は、ネットワークマスタプロ MT1040Aのモジュールとして「400G(QSFP-DD) マルチレートモジュール MU104014B」をリリースし、OpenZR+を使用したデータセンターネットワーク試験に対応しました。
6) 標準化活動
通信計測事業における研究開発活動の重要な取組のひとつとして、国内外の標準化活動へ積極的に参画しています。情報通信産業における最先端の知識・技術を常に製品へ反映し、競争力に優れたソリューションをタイムリーに提供するために、主要な標準団体として現在3GPP、ITU-T、IEEE、PCI Express、IOWN等へ参加し、4G/5G、データセンター、IoT/M2M、コネクテッドカーといった有線・無線通信事業の戦略立案や情報収集に役立てています。
特に移動通信システムの規格を策定する3GPPにおいては、 基地局と携帯端末の通信手順試験用コンフォーマンステスト(端末認証試験)の仕様策定に際し4G/5Gの規格策定段階から参画しています。国内外の通信オペレータ、チップセットベンダ、端末ベンダとも協業し今年度はNTN, RedCapなどのリリース17、18規格策定および、既存規格保守に取り組みました。中でも5G用ミリ波通信周波数帯(注4)においては国内法整備も考慮し、希少な測定器ベンダとしてバンドn259(40GHz帯通信周波数)のOTA(Over The Air)の測定限界、測定方法の検討、および、測定の不確かさ算出に貢献しました。これら試験規格を端末の認証試験用プログラムとして四半期毎に製品に取り込んでおり、認証団体(GCFやPTCRB)を介して無線通信端末の市場投入をサポートしています。
また、PCI ExpressではPCI-SIG®の会合へ参加し、次世代6.0, 7.0の規格化や認証試験に向けた測定手順書の作成、規格化に向けた測定結果の提示、測定課題解決に向けた提案、更にはワークショップでのデバイス認証のための測定サポートを行うなどPCI Expressの普及発展に貢献しています。
NTTが主導するIOWN構想では、2023年3月に初めての商用サービスとして、APNを用い低遅延を実現したIOWN1.0の提供を開始されました。2025年に開催される大阪・関西万博においてIOWN2.0サービスの商用化を目指し、IOWN2.0に向け各社共同検証等を発表しています。アンリツはOFC2024においてNTTやテキサス大学ダラス校(UTD)とのIOWN Open APN向けエンドツーエンド通信品質評価の共同検証に参加しました。また、2030年の最終的なIOWN構想実現に向けて、標準化活動や、IOWNの各タスクフォースでの会合に参加するだけではなく、参加企業・団体と協力し、技術の実証実験となるPoC活動にも取り組んでまいります。
(注1)GCF/PTCRB
GCF: Global Certification Forum
PTCRB: PCS Type Certification Review Board
それぞれヨーロッパ発祥、アメリカ発祥の認証機関であり、携帯端末が3GPPの規格に準拠していることの認証を行うとともに、コンフォーマンステストシステムの認証の役割も担っている。
(注2)OTA (Over The Air)
物理的にケーブル接続を行い通信するのに対し、無線での通信、電波の測定を行うこと。5Gのミリ波帯通信信号の携帯端末・基地局内における品質劣化を防ぐために回路の集積化が進められた結果、従来は携帯端末や基地局と測定器間は物理的にケーブルを用いて接続されていたのに対し、5Gのミリ波帯では携帯端末・基地局のアンテナから送信される無線信号を測定器のアンテナで受信し、その品質を評価する形となった。
(注3)PCI Express
PCI ExpressはPCI-SIGによって策定されたコンピュータの拡張バスの標準仕様で、CPUやメモリなどと通信するためのI/Oシリアルインターフェース。5.0は32GT/s、6.0は64GT/sのデータ転送速度。
(注4)ミリ波通信周波数帯
3GPPリリース15より採用された移動通信システム用通信周波数帯の一つ。採用されている周波数としては24.25 GHz~29.5 GHz、37.0 GHz~43.5 GHz、47.2 GHz~48.2 GHzがある。その周波数帯では既存の6 GHz以下の周波数帯と比較し広い帯域を用いた高速大容量通信が可能である反面、電波の空間伝送損失が非常に大きいため通信信号の品質劣化が大きく、通信可能な距離に制約があるため端末性能の評価がより重要となる。
(2) PQA事業
1) 超高速タイプ自動重量選別機の開発
食品・医薬品メーカーは、市場のグローバル化、原料コストの高騰、労働人口の減少などの環境変化を背景に、生産ラインの高速化や自動化など、さらなる生産性と品質向上の両立に取り組んでいます。そのため、包装機の高速化も進んでおり、当社の検査機においても検査選別能力の向上が求められています。
AW9シリーズ超高速タイプ自動重量選別機は、当社の強みである電磁平衡式はかりの性能を向上させ、従来機比で70%アップとなる世界最高水準の選別能力1,000個/分を実現しました。新開発のデジタル振動制御やフレーム構造など、多面的な振動除去技術により、振動影響が無視できない高速ラインで高精度を実現しました。さらに、高速で搬送される商品の揺れを抑制する小径ローラーを採用したことにより、サイズの小さな商品でも安定計量を実現しました。これらの高速・高精度計量技術によって、従来では対応が難しかった超高速計量ラインへの導入を可能にしました。
2) AIを搭載し検査性能を高めたX線検査機の開発
当社が以前から研究開発に取り組んでいる深層学習技術をベースにした独自の異物検出用AIは、近年のAI技術の急速な進歩を活用し、その学習・判断能力を飛躍的に高め、実用に供するまでに至りました。
当社は、このAIを高精細なX線撮像能力を持つX線検査機XR75シリーズHRタイプに搭載することにより、その検査性能を大きく向上させました。
高品質な食肉への需要が世界的に高まる中、加工工程での確実な骨の検出と除去が課題となっています。当製品は、食肉の中でも特に検出難度が高い鶏肉における軟骨や樹脂系異物を自動検出し、従来機では検出が困難であった異物の排除に威力を発揮します。また、食肉加工食品のソーセージにおける折れや欠けなどの形状不良検査に対しても、ソーセージ同士の重なりなどの検出難度が高い条件下で高精度な検出を可能にしました。
(3) 環境計測事業
1) 製造業のDXを加速するAccelVisionやローカル5Gパフォーマンスモニタの開発
製造業では、労働人口の減少に対する生産性の維持・向上が課題となっています。当社は、映像及び通信のコンピテンシーを活用し、ヒト・モノ・コトを繋げて見える化を加速する産業DXソリューションであるAccelVisionを開発しました。これにより、生産現場で生じる様々な事象を技術者や作業員の“目”の代わりとなっていち早く収集・伝達します。製造現場の工程ごとに散在していた生産情報を一元的に可視化し、トラブル発生時の生産ロスを大幅に削減することが期待されます。
また、ローカル5Gは広帯域・低遅延・高セキュリティなどの特徴により製造現場での活用が期待されていますが、電波は目に見えないため、異常発生時に状況把握が困難という課題がありました。
当社は、通信計測技術とパートナーである株式会社構造計画研究所のシミュレーション技術を融合し、電波環境を可視化する「ローカル5G運用パフォーマンスモニタ」を開発しました。複数のプローブ端末で多点同時測定を行うことで、時間変動も考慮した電波環境が把握でき、ヒートマップと時系列グラフで電波環境を可視化することで、通信障害の迅速な復旧や未然防止を支援します。
2) 大容量ズーム直流電源(DZ-X)、電力回生型双方向電源(RZ-XA)の開発
カーボンニュートラル社会の実現に向け、自動車市場では内燃機関から EVやFCVへのシフト(電動化)の動きが急速に進んでいます。その流れは自動車から、建機や農機、船舶といった市場へと広がっており、搭載されるモータやインバータ、電池が多様化し、各メーカーでは試験の効率化や試験環境構築のための投資最適化が課題となっています。当社はモータやインバータの特性試験、電池の充放電試験、さらには車載電装品の試験を行うことができる大容量の電源装置を販売しており、設備投資費や運用コストの大幅な削減に貢献しています。
この度、開発時の試験から生産ラインにおける出荷検査まで幅広い場面での活用を想定した2種類の電源装置を開発し、販売を開始しました。DZ-X は直流給電専用電源装置、RZ-XA は電力供給(力行)と電力吸収(回生)の機能を併せ持つ双方向電源装置です。また、RZ-XAは試験対象のモータなどで回生した電力を系統側に戻し、電力を再利用することができます。どちらも当社が強みとする電源制御技術により、装置を直列/並列で複数台接続し、お客様の試験環境に必要な電源容量を実現できます。さらに、当社のオリジナルであるズーム機能により、多様化する試験ニーズに合わせた出力設定が可能です。装置の高さも従来比で1/3にコンパクト化を達成し、試験環境最適化に貢献します。
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