企業兼大株主日揮ホールディングス東証プライム:1963】「建設業 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

当連結会計年度は、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の1stフェーズ「挑戦の5年間」と位置付ける中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure (BSP2025)」の2年目として、引き続き3つの重点戦略①EPC事業のさらなる深化、②高機能材製造事業の拡大、③将来の成長エンジンの確立に注力してきました。その結果、将来のビジネスの核となる技術の早期獲得を目的とした実証事業の推進の継続に加えて新たな実証事業の推進、事業推進のための特別目的会社の設立、事業化推進のための関係者との連携構築、新たな産学の連携を促進することができました。なお、研究開発費については、当社で行っている各セグメントに配分できない研究開発費用2,096百万円が含まれており、当連結会計年度の研究開発費の総額は、7,862百万円です。

① 総合エンジニアリング事業

 設計・調達・建設(EPC)ビジネス分野

 現地セキュリティや自然環境が厳しい地域や労働者の確保が困難な地域等、建設工事の遂行が困難な地域におけるプロジェクトが増加傾向にある中で、当社グループは大型モジュール工法の採用や、プロジェクト遂行の効率性向上のためにAWP(Advanced Work Packaging)による工事管理の採用などを実践しています。さらに新しい工法(ロボット化、自動化、3Dプリンター導入、小型モジュール工法、リモート化など)、要素技術の導入(新素材、設計にAIやBIM導入など)、EPC全領域でAWP採用拡大などを図り実装することによって、熟練労働者不足、不安定な現場生産性、スケジュール遅延などのプロジェクトリスクを低減することを目指しています。同時にこうした取組みが当社グループの競争力強化にもつながると考えEPC事業会社を中心に全社的な活動を展開しています。

  IT/DX関連

1. EPC効率向上を目指して行っているもの

(1) プロットプラン自動化Auto Plot PATHFINDER®

 プラント全体の配置図であるプロットプランの設計は、プラントの運転・メンテナンスのし易さ、安全性の確保、環境保全はもちろんのこと、建設コストを決定付ける最も重要なものとして位置付けられています。したがって複雑な制約条件のもとで様々な要求を最適化するという大変難しい技術が必要であり、従来、経験豊富なシニア技術者の感覚に頼る部分が大きい領域でしたが、当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」においてAI設計イノベーションを掲げ、プロットプラン設計を自動化するAuto Plot PATHFINDER®を開発しました。Auto Plot PATHFINDER®による設計は、形式知化・コード化されたシニア技術とAIによるユニット分割をもとにしたユニット単位・機器単位の自動配置、位置確定などエンジニアによる指示取込み、最適配置のステップで行われます。Auto Plot PATHFINDER®により、多数のプロットプラン案を超短時間で作成することが可能になり、人間が思いつかないものを含む多くの提案が瞬時にできることから、新しい提案型設計 (Generative Design)へ変革し、基本設計の段階から顧客の検討に貢献できると考えております。2022年度ではPreFEED業務に初実装し、複数のプロットプラン案の定量評価が客先説明時に好評だったことから、今後のFS(フィージビリティスタディ)やFEED(基本設計)業務に適用していきます。

(2) Data Centric EPC遂行、AWP 

Data Centric EPC遂行は、従来の人の手を介した図書ベースの情報交換に代え、ICT技術を最大活用したデータ中心の効率の良い情報交換とタイムリーな意思決定を図ることを目指した新たなプロジェクト遂行手法であり、プロジェクト遂行におけるリスクを低減し品質・コスト・納期それぞれの要素を向上させることが期待されています。当社グループにおけるData Centric EPC開発においては、設計・調達・建設の作業対象となるタグを一元管理し、そのタグのデータをデータソースとなるシステムから集約し、またそのデータを活用するシステムへ連携する仕組みを構築しています。AWPは、Data Centric EPC遂行の仕組みを活用した一例であり、対象作業の開始を制限する可能性がある先行作業の特定とモニタリングが可能となります。現在進行中の複数プロジェクトにおいて、建設工事に実装したほか、設計・調達業務との連携と効果波及を目指してAWP管理の拡大を進めています。また、当社グループでは、Data Centric EPC遂行とAWPの統合を主軸に置き、EPC全体におけるデジタルトランスフォーメーション (Digital Project Delivery) へも取り組んでいます。

2. 顧客によるオペレーション&メンテナンス(O&M)業務の面からの要求に応えるもの

(1) アセットインフォメーションマネジメント(IM)

 アセットインフォメーションは、顧客が安定したプラント操業を維持するために重要な情報です。近年は本分野の顧客要求の高まりもあり、複数のプロジェクトでアセットインフォメーションマネジメントの実装が進み、当社グループにおける技術の蓄積が進んでいます。設計・調達・建設(EPC)の各フェーズの中で生成されるプラントを構成する各種のアセットのインフォメーションに関し、一貫性をもって管理・統合するため、当社グループではデジタルツイン技術への取組みを進めています。社内標準化を進めることでインフォメーションの精度を飛躍的に向上させるとともに、データハンドオーバーの国際業界標準規格である「CFIHOS」に準拠したインフォメーションマネジメント遂行を実現しています。これにより遂行したプラントの完成・引渡し後に顧客がスムーズに運転・保全に移行し、アセットやプラントのオペレーション&メンテナンス(O&M)コストの低減という付加価値を提供し、顧客の事業価値向上に貢献しています。

(2) スマート保全ビジネス

 プラントの高経年化が進む中で重要性が増している保全業務に資するべく、当社グループは、プラントの設備診断業務を強力に支援する設備管理システム(A-MISTM)の販売・運用を行ってきました。また、このシステムを包含する情報プラットフォームを構築し、IoTやビッグデータを活用した統合型スマート保全サービス(INTEGNANCE®)の事業化を進めています。

INTEGNANCE®では、検査結果や運転情報などをもとにしたプラントのAI予兆保全と定期修理計画の立案を保全戦略支援サービスとして提供するほか、モバイル端末タブレットやスマートフォンを活用した作業状況の電子化とタイムリーな情報共有による工事進捗管理を行います。

 また、3Dビューア「INTEGNANCE® VR」(以下、「本ビューア」という。)を開発、デジタルツインの構築・運用を行う事業会社「ブラウンリバース株式会社」を設立し、2022年9月より有償提供を開始しました。本ビューアでは、既存プラント全体を撮影した360°パノラマ写真上にアノテーション(関連データをタグ登録)することで、各機器や部材の関係を可視化するいわば“プラントのストリートビュー”を実現、プラント内のあらゆる情報に視覚的に迅速にアクセスすることで実務者の運用・保守業務の大幅な効率化を可能にしています。

 さらに、英国の原子力業界をはじめ、高度かつ確実な安全管理が求められる分野で幅広く利用されている事故想定シナリオ管理手法「フォルトスケジュール」をベースに開発したスマート保安の最適化を支援するリスクマネジメントソフトウェア(Coresafety®)の提供を2023年3月より開始いたしました。

※ストリートビューは、Google LLCの登録商標です。

 天然ガス分野

 昨今、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められていますが、当社グループではCO2の排出抑制→分離回収→有効利用・貯留→資源再生というカーボンマネジメント・サイクルの各要素で技術・知見を継続して積み上げています。

CO2-EOR(原油増進回収)においては、原油とともに随伴されるCO2を有効に活用するために、当社グループは特殊なゼオライト膜で効率的にCO2を分離回収することを可能とする技術を開発し、米国テキサス州での実証試験を継続して実施中です。本技術とともにカーボンマネジメント・サイクルの知見と合わせて、産油ガス国、企業向けにCO2に関する課題解決に向けたトータルソリューションを提供していく方針です。

 さらに、「尼国グンディガス田におけるCCUSのJCM実証に向けた準備調査」において、現在、大気放散されているCO2を近郊の圧入井までパイプライン輸送して、地下に圧入・貯留するCCS実証プロジェクトの事業化調査を完了しました。今後、実証設備の基本設計、建設を経て、2020年代後半を目途にCO2の圧入、モニタリングを開始することを想定しています。本プロジェクトが実現すれば、アジア地域におけるCCS事業のモデルになるものと期待しています。

 また、温室効果ガスの中でもメタンの排出量は、既往の計算では精度高く求めることが困難とされており、欧州や米国などではセンサーによる実測が求められつつありますが、実際に計測をしている企業は多くありません。精度の高いメタン排出量の計測がなされていないために、排出源が特定されておらず、正しいメタン削減ソリューションにつなげられていない現状があります。当社は石油・天然ガス設備からのメタン排出を想定した「メタン排出計測技術評価設備」を技術研究所に建設し、国内外の計測器メーカーなどと幅広い協働を通じて計測技術を向上させることにより、一層効果的なメタン排出対策を実現していきます。今後、メタン排出量削減が温室効果ガス削減に向けて重要であることを引き続きアピールし、優れた温室効果ガス測定技術とエンジニアリング技術を駆使し、温室効果ガス排出の少ない設備の実現を目指していきます。

 さらに、既設LNGプラント関連のAI・IoTビジネスとして、運転ビッグデータ解析及び気象解析を通じて得られた知見を基に操業改善によるLNG増産サービスを海外顧客向けに展開しています。例えば空冷式LNGプラントの場合、生産量減退の要因となるHot Air Recirculationに対しFoggingを適用しLNG増産につなげた試みのほか、アジアの国営石油会社向けにHot Air Recirculationの予測モデルを開発、本モデルを操業と連携させ増産するシステムを構築、運用中です。増産量を正確に把握するため、機械学習やシミュレータを利用したデジタルツインの開発も行っています。また、その他複数社のLNGプラントオーナー向けに、月次で運転ビッグデータ解析から解析結果・改善案を提供するサブスクリプション型サービスをLNG3 Envisionとして提供しています。

 オフショア分野

 世界には未開発の中小規模海洋ガス田が多数存在し、効率的な開発手段が期待されています。その最有力候補が、当社グループが世界有数の建造実績を持つ洋上LNGプラント(FLNG)です。

FLNGは、現地ガス消費市場規模に限界のある、またセキュリティ・環境問題を抱えるような地域での陸上パイプラインガス、並びに操業中の洋上石油生産設備で大量に生産される随伴ガスなどの現金化ソリューションでもあります。また、当連結会計年度では、海洋石油・ガス開発分野において、低炭素化・脱炭素化に代表されるSDGs達成に向けたソリューションへのニーズの高まりを受け、当社グループは、社会と顧客の課題に応えるべく、以下2点に取り組んできました。

1. 浮体式海洋石油生産・貯蔵・出荷設備上で効率的に高濃度CO2を分離し、海底への再注入を目指す、CO2を分離回収するゼオライト膜の経済性検討(既存別技術との比較)を実施しています。

2. 洋上生産設備の遠隔・無人操業の実現に向けて、遠隔で操業状況を監視するシステムのパイロット運用を実施し、自動化・省力化・遠隔操作に関連するデジタルテクノロジーの運用方法の検討を進めています。

 低炭素・脱炭素化分野

 温室効果ガス排出量削減に向けた取組みとして、当社ではCO2フリー燃料の導入促進やカーボンリサイクル、及びEMS(エネルギーマネジメントシステム)の観点で研究開発を行っています。

CO2フリー燃料としてCO2フリーアンモニアが国内で着目されており、2020年代半ばの日本でのCO2フリーアンモニアの商業実装に向けた検討が進められています。当社グループは、2014~2018年度に実施した内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のエネルギーキャリアプロジェクトの成果を活用し、再生可能エネルギーや化石資源からのCO2フリーアンモニアの製造・供給の社会実装を目指して、様々な案件のフィージビリティスタディに参画するとともに、CO2フリーアンモニアのより効率的な製造方法やコストダウンに向けた研究開発を行っています。特に変動する再生可能エネルギー由来のCO2フリーアンモニア製造について、従来にはないダイナミックな変動型アンモニア合成システムを開発しています。

再生可能エネルギー由来の水素を利用したグリーンケミカルの普及に際しては、天候・時刻・季節によって変動する再生可能エネルギーを利用し、いかにして安定的・効率的にケミカルを製造するかが課題になります。その課題解決のためには、統合制御システムの開発が必須となります。

当社グループは、福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で製造される水素利用を想定したアンモニア製造プラントの基本設計や、統合制御システムの要件定義を行ってきました。当連結会計年度には、この統合制御システムを組み込んだ再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造技術の実証プラントを福島県浪江町に建設することが決まり、技術実証に向けて大きく進展しました。当社グループは、本実証プロジェクトを通じて、再生可能エネルギー由来の水素を原料とするグリーンアンモニア製造技術の確立を引き続き目指していきます。

 資源循環分野

 中期経営計画「BSP2025」において、ケミカルリサイクルを注力分野の一つと位置づけており、ガス化(EUPガス化ケミカルリサイクル)、油化、モノマー化(廃繊維リサイクル)を含め、幅広いプロセス技術を通じてケミカルリサイクルを推進し、循環型社会の構築に貢献していくことを目指しています。

 廃プラスチックのケミカルリサイクルは、リサイクルが困難な異種素材や不純物を含むプラスチックを分解し、様々な化学物質に再生することが可能であり、リサイクル率の大幅な向上をもたらす技術として期待されています。

 当社グループは、荏原環境プラント株式会社とUBE株式会社からEUP(Ebara Ube Process)に関する技術供与、株式会社レゾナック・ホールディングスから量産化技術の供与と運転支援を受け、廃プラスチックのリサイクル推進に向けて、①廃プラスチックのガス化設備並びにガス化設備から製造される合成ガスを用いた化学品製造設備の提案、②廃プラスチックを原料とする水素製造装置の提案、及び③廃プラスチックリサイクルを実現するためのバリューチェーン構築を行っています。このEUPは、2003年より稼働を続けているガス化設備で、世界で唯一の長期商業運転実績を有する極めて信頼性が高いプロセスです。さらにEUPでは混合プラスチックや不純物を含むプラスチックの活用が可能となります。2022年度から岩谷産業株式会社、豊田通商株式会社と共同で国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業にて、都市部における廃プラスチックガス化リサイクルによる地域低炭素水素モデル構築に向けた調査を実施し、その調査結果として、3社は、廃プラスチックガス化設備を活用した低炭素水素製造に関して、愛知県名古屋港近郊での協業を検討する基本合意書を締結するにいたりました。今回の基本合意書の締結により、早期に基本設計業務を開始し、2020年代中頃での水素製造開始を目標として取り組んでいます。廃プラスチックの活用並びに地産地消水素の製造により水素社会の実現にも貢献してまいります。

 プラスチックのケミカルリサイクル技術の一つに油化技術があり、当社グループは、10年間の運転実績を有する国内大型商用装置をベースに、廃プラスチックの油化ケミカルリサイクルに関する自社ライセンス(Pyro-BlueTM)の開発・提供を推進しています。当社グループの油化技術は、他の油化プロセスでは事前除去する必要があるPVC(塩化ビニル)やPET(ポリエステル)を含む混入プラスチックの処理が可能です。顧客が処理したい廃プラスチックを試験的に処理し、サンプル油を提供できるベンチ装置も完成しました。今後、処理できるプラスチックの種類拡大、装置の大型化による経済性向上、効率化等を進め、プラスチックの資源循環社会の実現に貢献していきます。

 繊維産業においては、製造工程における大量のCO2排出や衣類の大量廃棄が課題となっています。使用済繊維製品の利用は、現状、熱利用を目的とする「サーマルリカバリー」や別の製品原料とする「マテリアルリサイクル」が一般的ですが、「ケミカルリサイクル」は繊維製品を再び繊維の原料へ化学分解することにより、繊維 to 繊維のリサイクルができる画期的な方法です。

PET(ポリエステル)は、繊維製品だけではなく、ボトルをはじめ、フィルムや食品トレーなど多くの製品に使用されています。当社グループが提供するケミカルリサイクル技術は、着色されたポリエステルから染料や不純物を除去できるため、添加物、付着物等の影響によりメカニカルリサイクルできないポリエステル製品の受け皿としても機能するため、製品を限定せず素材としてのポリエステル全体の資源循環を目指すことが可能な技術です。本技術のライセンスを提供する目的として「株式会社RePEaT(リピート)」を設立しました。

2050年のカーボンニュートラルに向けて、航空分野における脱炭素化として、「空のカーボンニュートラル」の機運が高まっています。中・大型機に対しては、機体の軽量化、効率化もほぼ限界と言われています。そして、空のカーボンニュートラル達成のためには、実質的にはSAF(Sustainable Aviation Fuel, 持続可能な航空燃料)が切り札とも言われており、その利用拡大は急務となっています。当社グループは使用済食用油を原料としたSAF製造体制の確立とバリューチェーンを構築していくことを目指しています。具体的には、国内初の国産SAF大規模生産に向けて「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」を設立し、2025年に年間3万キロリットルのSAFの国内供給を目指します。個人や自治体、企業がSAFの原料となる使用済食用油の提供を通じて、国内における資源循環の促進に直接参加ができる場として「Fry to Fly Project」を開始しました。今後とも、国内において脱炭素化に向けた資源循環の促進に積極的に参加できる機会の創出、これらの活動を通じて、市民・自治体、企業の行動変容につなげていくことを目指しています。

 今後も自動車・交通需要の増加に伴い、タイヤ需要の増加が見込まれています。将来、資源の枯渇やCO2排出量の増加による気候変動などの問題に直面する可能性が指摘されている中、今後もより持続可能な形でタイヤを提供し続ける必要があります。当社グループは、関係する企業とバイオマス由来の原料(エタノール)を使用してタイヤの原料となるブタジエンを製造するプロセス開発に取り組み中です。当社グループは、競合技術より「タイヤ原料のブタジエン選択率が高い」独自の触媒を保有しています。今後、関係する企業と2023年までに実証試験を終了し、技術を確立し、持続可能な社会実現への貢献を目指します。

 バイオ分野

CO2削減やサステナビリティなどの観点から、バイオマスを原料とする化学品や燃料の社会的需要が高まっています。当社グループでは、CO2の削減効果が高く、かつ食料と競合しない非可食バイオマス原料を効率的にバイオエタノールやバイオプラスチック等の原料に転換するための技術開発を進めています。バイオマス原料の変換技術としては、バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)や木質資源(木材やパルプ等)を効率よく糖に変換するための前処理技術の開発、及びこれらの糖に含まれる発酵阻害物質を除去するための糖精製技術の開発に注力しております。現在は石油から製造されている1,3-ブタジエン(主にタイヤの原料となる製品)をバイオマス由来のエタノールから製造する技術の開発を化学会社と共同で進めています。

 日本は、国土の約7割を森林が占めています。その森林の未利用バイオマスを化石燃料の代替原料として活用する「グリーンリファイナリー」の機運が高まっています。森林の未利用バイオマスは、化石燃料と同じ炭素と水素を持っているため、森林の未利用バイオマスを化石燃料の代替として利用できれば、製品の炭素を固定することになり、再生可能な取組みとなります。「バイオリファイナリー」実現のために、具体的なプロセス選定(急速熱分解)のみならず、川上(森林)から川下(製造)までのプレーヤーインテグレーション&バリューチェーン構築が進みつつあります。当社グループは、今まで培ってきたプロセスエンジニアリング力を活かして、「森林×化学」で化石燃料に頼らない暮らし、つまり、脱化石燃料社会の実現を引き続き目指していきます。

今年度は、株式会社カネカ、株式会社バッカス・バイオイノベーション、株式会社島津製作所と共同で国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」に共同提案し、採択されました。このプロジェクトは日本政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」におけるカーボンリサイクルの実現に貢献するものです。4社がこれまで培ってきた知見や技術を結集し、化石資源に依存しない循環型バイオものづくり技術の実現を目指してまいります。

 ライフサイエンス・ヘルスケア分野

 医薬品業界では、これまでの低分子合成医薬品に加え中分子合成医薬品、バイオ医薬品を主体とする高分子医薬品、再生医療等製品の開発が増加傾向であり、製造が複雑な医薬品や活性の強い医薬品が増え、付加価値の高い医薬品が開発されています。これに対し、当社グループは、合成医薬品製造に関して、高薬理活性物質の製造に適応するための新たな封じ込め技術の確立と高度な封じ込め測定手法を含めた技術強化、中分子医薬品製造に関しては独自製造設備の更なる展開、医薬品業界の注目度が高まっている連続生産に関しては知財戦略を含めた製造技術の開発など、多角的に技術開発を進めています。バイオ医薬品製造に関しては、マイクロバブル発生技術に高性能撹拌技術を付加したバイオリアクター開発、大量培養に向けたスケールアップ技術開発、製造DXシステム開発、連続生産に向けた技術開発等を進めています。再生医療等製品に関しては、再生医療関連施設の多くの建設実績を踏まえ、効率的な細胞・組織培養環境基準の構築、及び関連要素技術の高度化を進めています。固形製剤、無菌製剤製造工場ではロボット活用による無人(塵)化の実現、スマート工場化の開発を進めています。このような研究開発活動の成果として、当社グループが建設するプラント・施設への導入事例も増えており、当社グループの技術差別化につながっています。

さらに、病院分野では、カンボジアでの病院経営、日本国内でのPFI事業における病院運営で得た医療、経営、運営の知見をもとに施設設計との融合を図るとともに、ICTの活用により利便性、効率性を高め、より高い機能性とホスピタリティを持つ病院づくりを進めています。また、病院と地域を情報ネットワークで結び、住民が安心して生活できる病院を核にしたまちづくり「ヘルスケアシティ」の構築を目指した取組みを始めています。

 原子力分野

 当社グループは、原子力発電所及び再処理工場の廃止措置に係わるプロジェクトマネジメントのサービス提供と廃棄物処理関連技術の開発を進めています。このうち、原子力発電所の廃止措置について、発電所内に貯蔵されている放射線量の高い使用済イオン交換樹脂を安全、かつ安定的に貯蔵するための分解技術の実用化に目処が得られつつあります。また、分解されたイオン交換樹脂を含む、多種・多様な放射性廃棄物への適用を目指し、閉じ込め性能の高い固型化技術の開発を進めています。さらに、再処理工場を含む様々な原子力施設の廃止措置を対象に、長期間にわたる廃止措置プロジェクトを安全、かつ効率的に実施するためのマネジメント支援システムを開発中です。

 国内外で注目されている小型モジュール炉(SMR)をはじめとする次世代原子炉技術については、水素や再生可能エネルギーと並び、脱炭素社会の実現への貢献が期待できること、NuScale Power, LLC(ニュースケール社)の技術が他のSMR技術に先駆けて、2020年8月に米国初の設計認証を取得し、米国原子力規制委員会によりその安全面が認められ、商業化に最も近いSMR技術であることから、SMRプラントのEPC事業への進出を目指し、当社グループは2021年3月に米国の特別目的会社を通じてニュースケール社に出資しました。さらに2022年4月には株式会社国際協力銀行(JBIC)が出資し、日本政府としてニュースケールSMRの実現を後押ししています。現在、米国アイダホ国立研究所敷地内に米国初のニュースケールSMR実証プラントを建設するCarbon Free Power Projectが始まっており、2029年の運転開始に向けて米国フルア社/ニュースケール社等が建設運転一括許可申請(COLA)とEPC準備業務を実施中です。当社グループは、2022年度からフルア社の設計部門とプロジェクト管理部門組織への当社エンジニア人員の派遣を開始しています。

 当社グループは、SMRの将来的な市場拡大に加えて、SMRが中長期的には海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトを受注・遂行していくことを視野に入れ活動していくほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備、海水淡水化設備とのインテグレーションも検討していく予定です。

 洋上風力発電分野

 国内の洋上風力発電は、現在進行中の港湾区域に続いて一般海域の促進区域におけるプロジェクトが動き出しています。今後、国内の洋上風力発電は毎年複数案件が継続的に開発される見通しであり、当社グループも主力EPCプレーヤーを目指し、事業性検討や基本設計など早い段階から関与しながら将来のEPC受注と遂行を目指しています。最近では電力ケーブルの最適設計技術を確立しました。また、今後特に成長が期待されている浮体式洋上風力分野に関しては、これまで既に浮体式実証設備の撤去実証事業や今後の事業開発に関するフィージビリティスタディ、浮体の要素技術の検討などに取り組んできており、継続して技術力・競争力の強化を図りながら、プロジェクト全体の最適化を目指して取り組んでまいります。

 知財・無形資産に関する活動

 当社グループでは、パーパス(存在意義)である「Enhancing planetary health」の実現を目指し、事業戦略・開発戦略・知財戦略の3つを連携させることで、深化・探索領域の技術開発と事業化を推進しています。

 コア技術領域となるEPC(設計・調達・建設)事業では、設計やプロジェクトマネジメントのデジタル化、建設工法最適化等の受注競争力向上に役立つ知財・無形資産の確保に注力するとともに、各種技術契約を重要視し、円滑なビジネスパートナリングに努めています。

 また、将来の成長エンジンとなる成長事業領域では、ケミカルリサイクル等の資源循環技術、ブルー水素・燃料アンモニア等の新エネルギー分野でのビジネス創出を支援すべく、ノウハウ・特許・商標等の知財ミックスによる保護に取り組んでいます。

 さらに、2040年ビジョンにおける5つの注力分野及びDX等の分野における特許出願比率を段階的に増やしていく計画です。

 特に重要な技術開発テーマでは、技術開発から事業化までを複数のステージに分けてステージ移行時にゲート審査を実施するとともに、知財戦略のPDCAサイクルを用いて必要なアクションをモニタリングしています。

 なお、当事業での研究開発費は2,648百万円です。

② 機能材製造事業

 石油精製分野

 石油精製企業は、新型コロナ禍からの経済回復による燃料需要増加への供給対応と、カーボンニュートラルに向けたエネルギーシフトに対応する製油所の事業変革、両面からの対応が求められています。当社グループは、石油精製分野において、これら顧客のニーズ変化に対応する触媒及び触媒素材開発に取り組んでいます。FCC触媒は顧客ニーズを取り込んだ改良型触媒で海外大型案件の継続採用や国内採用を果たしました。また、今後拡大が期待されるケミカルリファイナリー用に開発したFCC触媒は、海外で石化型FCC装置にトライアル採用が決定しました。水素化処理触媒は海外石油会社と共同開発した水素化分解触媒が、海外石油会社で採用され良好な実績を上げており、今後同社での採用拡大が期待されています。

 水素化分解触媒に用いられるゼオライトや無定形シリカアルミナ材は、当社グループの触媒開発技術を活用して開発された触媒素材であり、これら触媒素材は石油精製分野だけでなくケミカル分野にも広く展開が期待されています。触媒素材販売拡大に向けてゼオライト生産設備の生産能力を増強し、製品種の拡大や用途開拓に取り組んでいます。

 石油化学分野

 ケミカル分野は汎用樹脂原料の需要低迷により、ケミカル製品種の見直しや事業再編の動きが活発化する一方、競争力のある、高効率なプロセスや高機能ケミカル製品への転換が進められています。また循環型社会の実現に向けたCO2・ケミカルリサイクルやバイオマス由来原料、生分解性プラスチックへの原料転換の検討が進められています。当社グループにおいては、顧客の高効率プロセスニーズに対応するケミカル触媒や吸着剤開発に取り組んでいます。今後拡大が期待される水素化触媒の開発のため、実機プロセスを模擬したラボ反応評価設備の導入と、反応生成物の構造解析を行うための分析装置を導入しました。それらの分析結果を機械学習ソフトにより解析しながら、製品開発の迅速化にも取り組んでいます。

 今後ケミカルリサイクルプロセスでも必要とされる、炭化水素中の塩素を高効率で除去可能な新規の塩素吸着剤の開発を完了し、実証段階に入っています。さらに塩素除去に加え硫黄除去、酸素除去等のケミカルリサイクル前処理材の開発にも取り組んでいます。今後も新たなニーズに対応する触媒や吸着剤の拡充を図っていきます。

 環境保全分野・クリーンエネルギー分野

 環境保全・クリーンエネルギー分野では、カーボンニュートラルに向けた、CO2削減のためのバイオマス混焼及び専焼用の発電所向けに、排ガス中のアルカリ成分に耐性のある脱硝触媒の開発に取り組み、高い劣化抑制能を有する触媒を開発しました。現在、幾つかのバイオマス専焼発電所での実証試験を開始しており、早期の実商化及び拡販を目指しています。

 また、クリーンエネルギーとして期待されているアンモニアを、燃料として混焼させた時に排出される窒素酸化物を効率的に除去するための新規触媒の開発に着手しています。さらに、CO2回収・利用・貯蔵(CCUS)やクリーンな水素利活用等に使用される、新規材料の探索にも着手しました。

 生活関連・化粧品分野

 プラスチック眼鏡レンズはレンズ厚の薄肉化・軽量化のため高屈折率化傾向は継続して進行しています。大手眼鏡メーカーの高屈折レンズ用ハードコート膜に採用された高屈折率チタニアナノ粒子の需要も着実に増加しています。また、耐光性を大幅に向上させた開発品は大手メーカーで良好な評価結果を得られており、量産化検討段階に進捗しました。さらに、高屈折率酸化物ナノ粒子と短時間硬化マトリックスを組み合わせたハードコートラッカー材は、プロセスの低エネルギー化に寄与しうることに加えて顧客のプロセス短縮ニーズとマッチして採用評価が進んでいます。

 化粧品やサニタリー分野では、マイクロプラスチックビーズ代替としての独自の感触用シリカ材は既に一部の顧客に採用されていますが、スクラブ材や化粧品への採用検討が引き続き加速しています。それと並行して、シリカ素材以外のラインナップとして米澱粉粒子など植物由来のボタニカルな新商品開発にも顧客の期待が大きく寄せられ、環境と人に優しい化粧品材料開発に取り組んでいます。

 電子材料分野

 半導体関連製品の需要は中長期な成長が見込まれており、当社グループのシリコンやHDD基板用研磨砥粒において、次世代用の研磨面品質と研磨効率を両立した開発品の顧客評価は活発に進んでいます。このため、市場回復への備えや次期展開に向けて、シリカゾルの生産能力増強を進めています。また、新たに参入を目指しているCMP研磨用途では微細化・多層化に伴い多様化するニーズに対して独自の無機複合型研磨砥粒を中心に、純度や形状制御された砥粒でラインナップを揃え、顧客評価を進めています。

 光学フィルム用機能性光学材料では、有機ELテレビやQLEDテレビの高画質化のトレンドは変わらないと見込まれ、顧客による視認性向上のための反射防止フィルム用低屈折率粒子の採用検討が継続しています。当社グループは、多用途展開として車載用ディスプレイ向けにも低屈折粒子の開発を行うなど新用途開拓に取り組んでいます。

 新規開発材による用途開拓として、高速通信用低誘電率、高誘電率材料開発への取組みを継続しています。重要顧客を中心に活動しており商品化に向けた検討ステージが着実にステップアップしています。

 ファインセラミックス分野

 ハイブリッド車、電気自動車、太陽光発電、LEDなどの高出力化や省エネルギーを達成するために、パワー半導体の高性能化が進んでいますが、同時に絶縁放熱基板への要求が厳しくなってきています。その要求に応えるため、当社グループは国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同開発した独自の製造方法により世界最高レベルの放熱性・信頼性を持つ「高熱伝導窒化ケイ素基板」の開発並びに事業化を推進してきました。既に新量産工場を立ち上げ、製品の品質及び生産性向上を実現しながら、更なる高性能品開発にも取り組んでいます。

 通信分野においては、自動運転やIoTの普及に欠かせない5Gが本格導入され、今後、更なるデータ量の増大に向けたBeyond5Gなどの無線通信や光通信回線の大容量化・高速化が必須になります。当社グループは、最先端の無線通信技術、光通信技術に対応できる薄膜回路基板、単板コンデンサなどの性能・信頼性向上などの開発・製造・販売を行っています。

 今後成長が期待される再生医療分野においては、最先端の骨再生材料について国立大学法人東北大学などとの共同研究を継続しています。その他、当社グループ独自のセラミックス材料技術と高精度加工技術により、補助人工心臓用部品や「はやぶさ2」などの宇宙衛星用部品、次世代Liイオン2次電池や燃料電池用部材など、先端分野で使用される製品の開発や新材料の開発に大学や各研究機関などと連携して取り組んでいます。

 なお、当事業での研究開発費は3,070百万円です。

 また、総合エンジニアリング事業及び機能材製造事業に加え、その他の事業において46百万円の研究開発費を計上しております。

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