大林組
【東証プライム:1802】「建設業」
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企業概要
当社グループは、社会及び顧客の多様なニーズに応えるため、環境保全、エネルギー対策等の社会に貢献する技術や、生産性向上、品質確保、コストダウン等に資する工法や技術のほか、事業領域の拡大を図るための技術開発など多岐にわたる分野の研究開発活動を実施している。
また、研究開発活動の幅を広げ、効率化を図るため、国内外の大学、公的研究機関、異業種企業との技術交流、共同開発も積極的に推進している。
当社グループの当連結会計年度における研究開発に要した費用の総額は163億円であり、主な研究開発成果は次のとおりである。
なお、当社は研究開発活動を国内建築、海外建築、国内土木、海外土木、不動産及びその他の各セグメントには区分していない。
(1) 当社
① 施工計画から品質管理までを自動化する「統合施工管理システム」の実証施工に成功
新丸山ダム建設工事の盛土工事において、当社が開発した「統合施工管理システム」により、複数建機の自動・自律運転による盛土施工と計測ロボットを使った品質管理を行う実証施工に成功し、生産性の向上を確認した。
統合施工管理システムは、施工計画を自動作成する建設マネジメントシステム(CMS:Construction Management System)、盛土の品質管理を自動化するAtlasX®(アトラスエックス)、建機フリートマネジメントシステム(※)、品質管理のデータ共有を行う現場ダッシュボードから構成される。
本実証施工での1日当たりの盛土施工量は、土木工事積算基準の同種の建機を使用した場合の標準施工量260㎥を上回る285㎥を達成し、盛り土量50万㎥の施工では、施工管理者の施工計画業務を約88%削減可能な試算結果となった。
※ 建機フリートマネジメントシステム:作業内容を入力・指示することで、複数台の建設機械が連動して協調運転するよう制御するシステム。
② 木材を利用した鋼管柱の耐火被覆工法「O・Mega Wood X(オメガウッドエクス)コラム®」を開発し、90分耐火の大臣認定を取得
木材を利用した鋼管柱の耐火被覆工法「O・Mega Wood Xコラム」を開発し、90分耐火構造の国土交通大臣認定を取得した。
鉄骨造の耐火建築物において柱・梁を木質化する場合、従来は鉄骨にロックウール吹付などの耐火被覆を施していたが、耐火被覆材を木材に置き換えていくことが可能となれば、2050年のカーボンニュートラルに向け、木材利用のさらなる促進が期待できる。
本工法では、中高層建築で使用頻度の高い角形鋼管にヒノキやスギのCLT・集成材を被覆し、その内側に強化石こうボードによる耐火層を設けることで、木材使用量を増やしながら耐火性を確保している。耐火被覆ユニットは工場で製作し現場で簡単に取り付けられるため施工時間を短縮でき、解体も容易であるため木材のリユースやリサイクルも可能である。また、従来のロックウール吹付工法と同等のコストで、約5倍のCO2固定化効果を期待できる。今回、90分耐火の大臣認定を取得したことにより、建物の最上階から9層分の範囲で同工法を鋼管柱に適用することが可能となった。
③ 高精度な計測が可能なAI配筋自動検査システムを開発
鉄筋コンクリート工事における配筋検査を省力化する配筋自動検査システムを開発した。
配筋検査は、適切に鉄筋が施工されているかを設計図面と照合し、品質に問題がないか確認する重要な検査であるが、事前準備から検査後の報告書作成まで多大な時間を要することに加え、施工管理者の知識と経験が必要となる。検査不具合やミスがあった場合にその後の工事に大きく影響を及ぼすことから、高い精度を保ったうえで自動化及び省力化が求められていた。
本システムは、配筋を動画撮影するステレオカメラ(※)を搭載した検査パッケージ、計算用サーバー、タブレット端末で構成されている。ステレオカメラで配筋を動画撮影し、切り出した画像データと計算用サーバーで生成した点群データを基に、鉄筋径・間隔(ピッチ)をAIによって自動計測する。計測結果は、タブレット端末に表示されるWebアプリ上でBIMに入力された設計情報と照合し、最終的に施工管理者が設計通りの配筋がされているかの合否判定を行う。また、BIMデータを使用するため、検査前データ作成を簡略化でき、検査結果は帳票として自動作成されるため検査報告書が容易に作成できる。
本システムによって熟練度によらない効率的な検査が可能となり、配筋検査業務にかかる延べ作業時間は現在使用している専用検査システムより、約36%の縮減を実現した。
※ ステレオカメラ:二つのレンズで立体写真を撮影し、奥行き情報を記録。動画撮影で視点を動かし、隠れた物体を検知可能。
④ 国内初、建物解体後の鉄骨およびコンクリート製の構造部材を新築建物へリユース
建物解体後、通常、溶解や破砕され新たな建材としてリサイクルされる鉄骨やコンクリート製の構造部材を、新築建物の構造体にリユースする国内初の取組みを自社技術研究所(東京都清瀬市)内の実験棟オープンラボ3新築工事で行っている 。
建物の構造体をリユースする取組みは、これまでコンバージョンやリノベーション、耐震改修などでは実績があり、CO2排出量の削減効果が検証されているが、それらの手法は柱・梁の位置や形状を大きく変えないことが前提となるため、設計上の制約があることが課題となっていた。
本工事では、解体する実験棟の柱・梁・ブレースなど全種別の鉄骨部材及び基礎・基礎梁・小梁・床など全種別のコンクリート製構造部材を、新築建物に合わせて切断や加工を行ったうえで新実験棟の構造体としてリユースした。
解体後の鉄骨やコンクリートの部材を、新築建物の構造体としてリユースするのは日本国内では例を見ない取組みである。本手法により、リユースする場所を限定せずスパンも変更可能なため、より自由度が高い、構造部材の有効活用が実現した。
また、本工事では、新築建物の構造部材のうち鉄骨57%、コンクリート33%で、解体建物のリユース材を使用することにより、新たに全ての資材を調達する場合に比べ、約49%(65.8t-CO2)のCO2排出量削減を見込んでいる。
⑤ 植林用苗木の安定供給を可能とする人工光と自然光のハイブリッド型の苗木生産システムを開発
植林用苗木の安定供給を可能とする人工光と自然光を組み合わせた「ハイブリッド型苗木生産システム」を開発した。
当社は、木造木質化建築をはじめとした木材の利用推進と、森林資源の持続的な循環利用に取り組んでいるが、川上にあたる「植林・育林」では、従来の自然光による育成(露地栽培)は苗木の出荷までに最長2年程度を要し、季節や天候などが成長速度に影響を与えることから、安定供給が難しいことが課題となっていた。
本システムは、季節や出荷時期に応じて、育成に必要な光、温度・湿度、培地への潅水などの育成環境を制御できる人工光による育成期間と、自然光による育成期間を最適に組み合わせ運用するものであり、いずれかのみで育成した場合よりコストの抑制や出荷までの期間の短縮が可能となる。
2024年6月から鳥取県日野郡日南町にパイロットプラントを設置、主に周辺地域の林業事業者向けにカラマツの苗木生産を開始しており、本パイロットプラントでは年間約1万本の苗木の供給を予定している。この苗木1万本を植林し適切に育林した場合、50年後には約1,000㎥の木材供給と、約1,120tのCO2吸収・蓄積効果が見込まれる。
⑥ 建物計画の初期段階でCO2排出量削減効果とコストを比較検証できる「カーボンデザイナー E-CO BUILDER®」を開発
省エネ技術によるCO2排出量削減効果とコストを比較検証できるシステム「カーボンデザイナー E-CO BUILDER」を開発した。
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、建築物の建設時と運用時のCO2削減が求められる中、早期段階に投資効果を検討したいという顧客のニーズが年々高まっている。しかし、カーボンニュートラルに向けた投資とその効果は、現状では建築物の詳細な仕様が決まらないと把握できないため、計画初期段階の意思決定が困難であるという課題がある。
本システムでは、建築物の幅・奥行き・階数を指定し、建築・設備仕様を設定することで、基準ビルに対しての省エネ効果やCO2排出量の削減効果、コストの変動が算出される。建築・設備仕様は詳細に設定可能であり、各種の仕様の設定を変更すると、瞬時にそのシミュレーション結果が算出され、さまざまなパターンでの検討が可能になることで、顧客の事業計画に基づいた迅速な方針決定を支援することができる。
⑦ 火薬装填作業を遠隔化・自動化する「自動火薬装填システム」を開発しトンネル切羽発破に成功
遠隔で力触覚を再現する技術(リアルハプティクス(※))を応用し、山岳トンネルの掘削面(切羽)での火薬装填作業を遠隔化・自動化する「自動火薬装填システム」を、慶應義塾大学と共同で開発し、トンネル切羽発破に成功した。
山岳トンネル工事における切羽直下での火薬の装填・結線作業においては、火薬や雷管などの危険性が高い材料や細かい脚線を取り扱うことから、手作業での繊細な力加減や手指の感覚が必要とされており、作業の安全性確保と生産性向上の両立が課題となっていた。
本システムは、リアルハプティクスにより力触覚が伝わることで、切羽から離れた安全な場所から、あたかも切羽で直接手作業を行っているかのように直感的な火薬の装填作業が行える。今回の実証実験は、本システムを長野県下伊那郡にあるトンネル工事現場(国土交通省中部地方整備局令和4年度三遠南信6号トンネル工事)に適用し、大型重機に搭載した装填ロボットを、切羽から30m地点と、切羽から320m離れたトンネル外で操作して、火薬の装填、発破を行った。
※ リアルハプティクス:現物との接触情報を双方向で伝送し、力触覚を再現する技術。
⑧ 擁壁工事に3Dプリンターを活用したプレキャスト部材を適用
新丸山ダム建設工事において、仮設の工事用管理施設の擁壁に規格品と建設用3Dプリンターで製作したプレキャスト部材を適用する擁壁工事のフルプレキャスト化を、日本ヒューム㈱と共同で実現した。
プレキャスト工法は、規格化された製品を多く適用する場合、量産化によるコスト削減もあり有効である一方、特殊な形状の場合、専用の型枠製作に時間とコストがかかることから効果的でない。そのため、特殊形状の部分には建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設することが多く、生産性に課題があった。
今回、当社がこれまで蓄積してきた建設用3Dプリンター技術を活用して特殊形状のプレキャスト部材の製造を行うことで、従来の専用の鋼製型枠を製作する方法と比べ約30%の作業工程の短縮と約5%のコスト削減を実現するとともに、建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設した場合と比べて、現場施工に係る日数を約20日から1.5日として約90%の工期短縮を実現した。
⑨ 特定のメーカーや機種に依存せず、後付けで簡易に導入可能なホイールローダ用の自動運転装置を開発
特定のメーカーや機種を選ばず後付けが可能で、作業員の熟練度に関係なく簡単に動作設定が可能、かつ、帳票機能により積み込みや投入数量なども管理できるホイールローダ用の自動運転装置を開発した。
ショベルカーやダンプトラックなどの建設機械は、建設業のみならず農業、採石業、製造業などでも使用されており、各産業において労働者不足や長時間労働をはじめとする労働環境の改善などの課題を抱えている。
本自動運転装置は自動運転システム、3D-LiDAR(※)や傾斜計などの各種センサー、自動運転制御盤、レバー制御装置で構成されており、すくい込み、運搬、積み込み、投入など自動運転に必要な作業設定は、遠隔で安全な場所から行うことができる。
ホイールローダは各作業場所の位置を認識し、運搬物の形状から効率よくすくい込みができる位置を、各種センサーで、機体の挙動・位置を把握しながら自動的に判断し、作業位置まで走行する。その後は事前に設定した経路で運搬し、積み込みや投入作業を行う。
すくい込み位置と積み込みや投入位置が固定された環境であれば昼夜に関係なく運用が可能であり、採石業やその他施設などでの活用も期待できる。
当社のグループ会社である大林神栖バイオマス発電所で実証試験を行い、本発電所の1日の安定稼働に必要な135トンの燃料を約2時間半で集積場所から燃料投入口まで運搬・投入することに成功した。
※ 3D-LiDAR:レーザー光を使って対象物までの距離を正確に測定し、遠方や周囲の状況をリアルタイムで立体的な点群データとして認識するセンサー。
(2) 大林道路㈱
アスファルトプラント運営業務の効率化を可能とするスマートマニュファクチャリングツールを開発し運用を開始
アスファルトプラント運営業務の効率化を目的とし、業務のデジタル化(DX)や製造設備の自動化に特化したスマートマニュファクチャリングツールを、田中鉄工㈱と開発した。
本ツールは受注管理や配車管理、出荷管理などの各システムを連携させる仕組みであり、大林道路九州支店大分センターアスコンに先行導入した。本ツールの導入によって工場内の各システムの一元管理が可能となり、作業効率の向上や無人化に繋がった。本アスコン内で導入されている世界初の再生骨材貯蔵サイロにおいては、本ツールによってプラント本体への供給ルートも自動化・設備化されたことから、ホイールローダの稼働の必要性がなくなり、燃料費のコストダウンやCO2排出量の削減も実現した。
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