三菱製鋼
【東証プライム:5632】「鉄鋼」
へ投稿
企業概要
当社グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営環境及び対処すべき課題
<当社の経営戦略と課題認識>
当社グループは「企業価値向上」と「持続的成長」に向けて、以下のとおり「2030年のありたい姿」を掲げるとともに、その実現に向けた次なる飛躍への助走として2023~2025年度を対象とした「2023中期経営計画」を推進しております。
(2030年のありたい姿)
(「2023中期経営計画」)
しかしながら、当社のPBRは依然として1倍を下回る状況が長期にわたり続いております。その主な要因として、資本コストを上回る収益を安定的に確保できていない点が挙げられます。収益力は一時期に比べ改善傾向にあるものの、資本コストは依然として高い水準にあり、「業績のボラティリティの高さ」や「当社が掲げる成長戦略の不確実性」が課題として残されていると認識しております。
これに対し持続的な成長を実現するためには、戦略事業の育成等により、景気や需要動向に大きく左右される収益構造からの脱却と、将来の需要構造の変化にも対応可能な事業ポートフォリオへの転換が必要不可欠です。
また事業環境が急速に変化し複雑化する中で想定外のさまざまなリスクが顕在化しており、これらのリスクに対し柔軟に対応できるレジリエンスの高い組織づくりも求められます。
さらに、株主・投資家の皆様との対話や情報開示を通じて、経営の透明性を高め認識ギャップを解消し、資本コストの低減を進めることも重要な課題の一つです。
これらの課題に対し、企業価値向上に向けて「2023中期経営計画」で取り組んでいる各施策の進捗は以下の通りです。
<「2023中期経営計画」の進捗>
「①稼ぐ力の強化」
戦略事業拡大および財務基盤強化の原資とすべく、基盤事業の稼ぐ力の強化を進めています。
基盤事業のマージン維持・拡大に加えて、資本効率を意識した経営の実現に向けROICを導入して事業別にROICと市場成長率を分析し、低採算事業は撤退を含めた抜本的な対策を講じることで、事業ポートフォリオの最適化を進めております。
具体的には、これまでの2年間でマージン改善による損益分岐点の引き下げが進み、足元需要環境が厳しい中でも、着実に利益を生み出すことができています。また、海外事業を中心に構造改革を進めており、成長分野へのリソース集中を進め、当社の成長をさらに加速させていきます。
「②戦略事業の育成」
「環境対応」「海外事業」「EVシフト」をキーワードとして、市場成長率及び高い収益性が期待できる以下の5つの事業と新規事業を戦略事業に定め、2030年に向けて売上比率を現状の30%から50%に拡大することを掲げております。
損益の改善が進んだ海外鋼材事業や大型案件の量産を開始した精密部品事業等、一部では既に成果が出ており、その他の事業についても、今後の市場拡大に向け、拡販や能力増強に向けた設備投資等を行っております。また、新規事業創出に向けては外部の専門家のサポートも受けた社内研修プログラムを実施しており、新規事業を生み出す人材の育成や社内風土の醸成を進めています。さらに戦略事業へのリソース集中を進め、「人材確保」・「育成」の両面で人材ポートフォリオ最適化に向けた取り組みに着手しています。今後は、これらの取り組みを着実に進めるとともに、進捗を開示していくことで、成長に対する蓋然性を高めてまいります。
「③人材への投資」
当社の持続的成長には社員一人ひとりが持つ力を伸ばし、会社の強みとしていく人的資本の活用が不可欠と認識しており、「人材への投資」を重点課題として取り組んでいます。過去最高水準の賃金改善や製造現場の作業環境改善、「健康経営優良法人」の認定取得等の取り組みに加え、人事評価等の制度面の見直しにも着手しています。
また、経営層が直接従業員の意見を聴くタウンホールミーティングを継続的に開催しているほか、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、取り組みに対する成果のモニタリング・評価を行っています。調査で明らかになった課題に対しては、改善に向けた取り組みを進めるとともに「フォーカスサーベイ」を実施して、その進捗をフォローしています。
こうした取り組みを重ねることで、当社の成長を支える「人を活かす」組織づくりを進めてまいります。
「④サステナビリティ経営」
環境負荷低減に対する社会の要請が強まる中で、特にCO2排出量が多い鉄鋼業を営む当社は、カーボンニュートラルも重要課題と認識しています。削減目標に対しては、CO2フリー電力への切り替え等により概ね計画通り進捗しており、引き続き2030年度総排出量50%減(2013年度比)に向け取り組みを進めてまいります。
さらに環境意識の高まりを事業機会と捉え、再生可能エネルギーやサーキュラーエコノミーの分野等、社会全体の環境負荷低減に貢献する製品の開発・販売を進めることで、お客様のニーズにも応えつつ社会課題の解決に貢献してまいります。
また、事業環境が急速に変化し複雑化する中で、グループ経営のレジリエンスをさらに高めるために、2025年4月1日付で組織体制の見直しを行いました。リスクマネジメント機能の拡充を行い、サプライチェーンまで含めた人権の尊重、安全・品質保証やハラスメント対策を含むコンプライアンス遵守、サイバーセキュリティ対策といったあらゆるリスクへ適切に対処してまいります。また、取締役会における議論の活性化や役員報酬制度の見直し等も行い、持続的成長の基盤となるガバナンスの高度化も進めています。
これらの取り組みを進めることで、2030年のあるべき姿を実現し、当社の持続的成長と企業価値の向上を図ってまいります。
(2)各事業における重点施策
[特殊鋼鋼材事業]
国内及びインドネシア海外事業において、引き続き厳しい需要環境が続いていますが、特に海外鋼材事業では製造効率向上によるコスト改善が進み、厳しい環境下においても、安定した利益を確保できる体質への転換が進んでおります。また中長期的な東南アジアの鋼材需要拡大を想定し、能力増強投資を段階的に実施しておりますが、今後の投資計画については、需要動向を踏まえ慎重に判断する方針です。
一方、基盤事業である国内鋼材事業については、需要動向に左右されるボラティリティの高い状況が続いております。中長期的にも国内市場は縮小が想定されることから、工場DX化による要員合理化等のコストダウンを進めると共に、エネルギー関連等、新たな販路拡大を進め、基盤事業としての稼ぐ力を強化してまいります。
また、お客様をはじめステークホルダーからの要請が高まっているカーボンニュートラルについても大きな課題の一つです。当社のCO2排出量の大部分は国内鋼材事業が占めることから、室蘭製作所におけるCO2フリー電力活用の前倒しを行うこと等により、2030年度の全社目標を50%削減まで引き上げました。目標達成に向け着実に取り組みを進めていくとともに、海外事業においても、電炉を活用したカーボンニュートラル鋼製造を含め、検討を進めてまいります。
[ばね事業]
戦略事業の一つである精密ばね事業の大型案件の量産が開始され、収益に貢献しております。足元の受注動向を踏まえ追加で生産設備増強投資も決定し、さらなる収益増を見込んでおります。
一方で、基盤事業である乗用車向けばね事業の業績が低迷しており、戦略事業への依存度が高まっています。EV化の進展による需要構造の変化にも対応しながら、拠点ごとに課題を洗い出し、製品ポートフォリオの見直しや販売先の多様化等を含めさまざまな観点から改善の余地を検討してまいります。
長らく損失計上が続いていた北米子会社においては、生産性改善が進展しているものの、新たに米国関税政策のリスクが浮上し、柔軟な対応が必要となっています。一方で、お客様における米国内での調達ニーズの高まりも期待できることから、当社グループの米国拠点を活用した需要獲得も積極的に図ってまいります。
また、2026年3月期では、前期のドイツばね事業に続き追加の構造改革を計画しています。設備増強を進めるインド拠点や将来的に第2の生産拠点の検討も行っている商用車用板ばね等の戦略事業の育成と併せて、事業ポートフォリオの最適化を進めてまいります。
[素形材事業]
タイ子会社で生産している精密鋳造品では、インフレや為替変動によるコスト増の影響を受けており、売価転嫁に取り組んでおります。
また自動車内燃機関向け偏重からの脱却を図るべく、戦略事業の一つである特殊合金粉末の技術開発の進展と拡販を進めております。足元は中国・台湾におけるスマートフォン等のデジタル機器向け需要の減少影響を受けましたが、特に重点分野と位置付ける軟磁性粉末については、新鋼種の量産開始を予定しており、来年度からの増産を見据え、能力増強投資を実施しています。今後の受注拡大に向け、新たな販路獲得による拡販や顧客の新製品開発にマッチした高性能粉末製品の開発を進めてまいります。
[機器装置事業]
足元の受注状況は好調であり、引き続き環境課題の解決等をテーマに事業拡大を図ってまいります。また足元では防護装備品の受注が増加しており、防衛予算増額に伴い、今後も需要増が期待されます。
さらに戦略事業の一つである洋上風力発電関連機器向けでは、設備導入を進めていたベンディングロールが稼働し、同分野の製品大型化ニーズに応えられる体制が整いました。「製品大型化への対応」は当社グループの強みであり、国内有数の生産設備体制を活かして、次期中計期間中で本格化するプロジェクト案件の受注に向け、生産準備やマーケティング等を進めてまいります。
- 検索
- 業種別業績ランキング