エア・ウォーター
【東証プライム:4088】「化学」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループの経営理念は、次のとおりであります。
「創業者精神を持って、空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」
当社グループの事業の原点は、社名に冠した「空気」と「水」であり、このかけがえのない地球の資源を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献していくことが当社グループの使命であります。当社グループは、この経営理念の下、目まぐるしく変化を続ける経営環境の中でグループの総合力を発揮し、社会の発展に役立つ多種多様な製品・サービスを提供する企業であり続けることを目指しております。
(2) 前中期経営計画の振り返り
当社は、2030年度に目指す姿として「terrAWell30」を定め、当社グループが有する多様な事業領域と、気候変動や超高齢化といった社会課題を踏まえた2つの成長軸である「地球環境」と「ウェルネス」に沿って、事業活動を通じた社会課題の解決に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を図ってまいりました。前中期経営計画「terrAWell30 1st stage」では2010年からグループ全社を挙げて取り組んできた「売上収益1兆円」を2022年度に達成し、新たな企業ステージに立ちました。グループ経営資源の最適化によってシナジーを創出し、成長領域である海外およびデジタル・半導体関連事業の拡大とともに国内事業の収益力強化を図り、社会課題解決に貢献する新事業の創出を推し進めた結果、1st stageにおける売上収益、営業利益の年平均成長率(CAGR)はそれぞれ6.6%、4.9%と着実に伸長しました。
| 中期経営計画「terrAWell 30 1st stage」 | |||
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | 2024年度 | |
実績 | 実績 | 計画 (注)3 | 実績 | |
売上収益(億円) | 10,049 | 10,245 | 11,000 | 10,759 |
営業利益(億円) | 621 | 683 | 780 | 752 |
営業利益率(%) | 6.2 | 6.7 | 7.1 | 7.0 |
親会社の所有者に | 401 | 444 | 500 | 491 |
海外売上収益比率(%) | 9.3 | 10.9 | - | 11.3 |
ROE(%) (注)1 | 9.7 | 9.7 | 10.0 | 9.8 |
ROⅠC(%) (注)2 | 5.6 | 5.4 | - | 5.5 |
親会社所有者 | 39.4 | 40.0 | 39.8 | 41.4 |
ネットD/Eレシオ | 0.75 | 0.77 | 0.81 | 0.72 |
(注) 1 親会社所有者帰属持分当期利益率
(親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分(期首期末平均))
2 投下資本利益率=(営業利益×(1-税率))÷(資本合計+有利子負債)(期首期末平均)
3 2024年5月9日公表の通期業績予想
(3) 「terrAWell30 2nd stage」の位置づけ
2025年度を起点とする新中期経営計画「terrAWell30 2nd stage」においては、売上収益1兆円に向けた「規模の拡大」から「収益性の追求」へと経営をシフトしていきます。既存事業を徹底的に見直し、生み出した経営資源を効率的に成長事業へ投資するとともに、低成長・低収益事業を中心に改善・合理化を実践し、事業ポートフォリオを変革していきます。3rd stage(2028~2030年度)での「持続的成長への進化」につなげ、2030年に向けて時価総額1兆円規模(現状の2倍水準)を目指してまいります。詳細につきましては、当社WEBサイトをご参照ください。
https://www.awi.co.jp/ja/ir/management/plan.html
(4)経営環境、経営方針及び対処すべき課題
世界経済は、米国の関税政策動向を中心に不確実性が高く、景気後退、金融市場への影響などが懸念されます。一方で我が国経済においても経済影響への不透明感があるものの、所得環境の改善が継続することに伴う個人消費も底堅く推移する見込みであること、またデジタルや脱炭素、サプライチェーンの強化を中心とした設備投資が堅調に推移する見通しです。
このような事業環境のもと、当社グループは、「terrAWell30 2nd stage」にて掲げる下記の5つの経営方針のもと、さらなる成長を目指してまいります。
当社は持続可能な成長と企業価値の向上を達成するために、以下の課題について取り組みを推進してまいります。
(成長領域及び収益力の磨き上げ)
産業ガス、医療ガスなどの高収益事業から創出したキャッシュは、インド・北米の産業ガス事業や、半導体関連分野、カーボンニュートラル分野(グリーン産業ガス、バイオメタン、液化水素プラントなど)の当社の成長事業へ重点的に配分します。併せて、低成長・低収益の事業の効率化を目指すことにより、収益力の強化に取り組みます。
(バランスシートのスリム化による資金創出)
適正在庫管理やキャッシュコンバージョンサイクルの改善をはじめとした運転資本効率の向上に取り組むとともに、政策保有株式や不動産・遊休資産の売却を推進することによりバランスシートをスリム化し、資金効率の最大化を図ります。
(社会課題解決への貢献)
当社の中長期的な注力テーマである「カーボンニュートラル」と「アグリ」領域で、社会課題解決に向けた新たな事業の創出を目指します。カーボンニュートラル領域については、カーボンニュートラル達成のために、自社の温室効果ガス(GHG)排出量を減らす「責務」を果たすことと、製品・事業を通じて社会のGHG排出削減に「貢献」することの両面から取り組みを推進しています。特に、社会のGHG排出削減に「貢献」することは、当社にとって大きなビジネスチャンスであり、当社独自の攻めの取り組みと言えます。今後、拡大する脱炭素市場に対し、産業ガス事業で培った水素やCO2回収をはじめとするGHG排出を削減する商材や技術・ノウハウを組み合わせることにより、市場の先駆者になることを目指して取り組んでまいります。アグリ領域については、日本の農業は、食料安全保障や食料自給率の問題に加えて、異常気象により本州の作物が育ちにくくなっていることや、高齢化による農業の担い手不足といった課題があります。また、インフレや円安などによる物価上昇なども含めて、食料事情は刻一刻と変化をしております。当社は、契約農家からの直接購入や、収穫などの農作業を機械化して代行するアグリサポート事業を伸ばし、一大農産地である北海道での調達力を強化しています。また、アグリ関連の資本業務提携先との連携強化とともに、当社独自のガスを用いた鮮度保持技術、食品加工技術を磨くことで、今後、さらに深刻になるであろう食の課題に対応しつつ、事業としても成長させていきます。
(新規事業創出に向けた研究開発体制の刷新)
当社は、新規事業の創出等を目的として、2025年4月1日付にて、3つの研究開発部門を新設いたしました。
○海水技術研究所
海水からの有価物回収技術、淡水化システム、および海水成分を利用した機能性素材等それぞれの研究を通じて、カーボンニュートラルや資源循環型社会の実現に貢献します。
○再生医療研究所
幹細胞を用いた再生医療(歯髄再生治療)技術確立のための細胞培養関連技術及び細胞バンク関連技術の研究により、先進的な再生医療技術及び神経系の新たな治療法等の発展に貢献します。
○ガス技術研究所
当社の競争力の源泉であるガス基幹技術を深化させるとともに、医療や食品分野等へのさらなる応用を研究し、新たなガスアプリケーションの可能性を追求します。
(人的資本投資の強化)
グローバル人材、エンジニアの育成に資する人的資本投資を強化するほか、優秀な若手層の早期抜擢や女性管理職比率の向上に継続して努め、グループの成長を牽引する次世代経営人材の育成に注力します。また、人材確保の難易度が高まる中、従業員のエンゲージメント向上のための施策、環境整備が急務です。優秀な人材の確保に向けて、中長期的な賃金政策に基づくグループ全体の賃上げを行うほか、AI・DX領域を中心にリスキリングを促進し、従業員全体のスキルの底上げを図ります。
(AI・DXの活用)
経営・事業・業務など、あらゆる分野においてAIとDXを活用することにより、営業効率向上、運転資本効率向上、生産効率向上に取り組みます。また、会計情報等の様々なデータを共通データ基盤に統合し、的確な経営判断と実行に活かす仕組みを構築します。
(株主還元の一層の充実)
当社は、継続的な企業価値の向上を図るべく経営基盤の強化を進めていくと同時に、株主の皆様への利益還元を経営の最重要課題の一つとして位置付けております。その一層の充実を図ることを目的として、原則として減配しない「累進配当」の導入及び配当性向については、親会社の所有者に帰属する当期利益の35%を基準とし(現行は30%)、業績に見合った安定的な配当を行うといった剰余金の配当等の決定に関する方針を変更することといたしました。
なお、対処すべき課題を踏まえた各セグメントの取り組みは、次のとおりであります。
(デジタル&インダストリー)
エレクトロニクス分野は、デジタル・半導体の製造拠点の増強に対応した大型プラント投資や新規取引先の開拓によってガス需要を獲得すると同時に、特殊ケミカルやガス精製装置、関連工事といった半導体製造を支えるグループ商材・サービスを総合的に提供できる当社グループの強みを活かして、最先端ニーズから周辺分野まで幅広い需要に対応し事業拡大を図ります。
産業ガス分野では、鉄鋼・化学などの素材分野をはじめ国内の産業ガス需要が減少基調となる中、各種ガスの安定供給体制を構築するとともに、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメントを徹底するとともに、生産性の向上をはじめとした収益強化策に取り組みます。
(エネルギーソリューション)
低・脱炭素需要が高まる中、工業用向けエネルギー供給分野は、顧客に対して重油から液化天然ガス(LNG)への燃料転換を積極的に進めるとともに、輸送機器や供給設備の拡販に取り組みます。
社会のカーボンニュートラルの実現へ向け、2024年5月に家畜ふん尿由来のクリーンエネルギー「液化バイオメタン」の商用利用を開始しました。その他、垂直ソーラー発電システム「VERPA」の販売拡大、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」など、脱炭素ソリューションの社会実装化に注力していきます。北海道を中心とした家庭向けLPガス供給事業は、販売店の商権取得等による直販体制拡大、IoT技術を活用した配送の効率化など、収益力の強化に取り組みます。
(ヘルス&セーフティー)
医療用ガスの供給基盤を活かして、医療機関のニーズを把握し、医療機器の開発をするとともに、中長期の成長に向けては、健康寿命の延伸や在宅医療体制の構築といった社会的ニーズを踏まえ、人々の健康増進、リハビリによる予後の改善、在宅患者様のQOL(生活の質)向上につながる医療機器や介護用製品の開発体制を強化していきます。
医療分野では、SPD(病院物品物流管理)や病院向け滅菌受託といった医療現場のサポートに関して、低収益取引の見直し、更なる効率化を目指していきます。また、手術室の改修など病院設備工事においては、直接受注による収益力強化に取り組みます。
防災分野では、旺盛な需要が続くデータセンター向けガス消火設備工事の案件獲得による事業拡大を図ります。
コンシューマーヘルス分野では、グループリソースの最大化、サプライチェーン拡充など体制強化を進め、衛生材料、注射針の販売拡大、化粧品・エアゾール受託増により事業拡大や収益局強化に取り組みます。
(アグリ&フーズ)
持続可能な農業と食料安定供給システムの実現を目指し、スマート農業・鮮度保持関連の技術開発の強化や農産品の取扱量拡大に取り組んでいます。
当社の物流基盤を活かし、原料野菜の調達や青果流通・加工・販売におけるサプライチェーンプラットフォームの構築も進め、事業拡大を図っていきます。
また、フーズ分野においては、原料高影響を受け、価格マネジメントや、低採算取引の見直し、飲料製造の紙容器充填ライン増強による生産性向上などで収益性改善もすすめていきます。
(その他の事業)
グローバル&エンジニアリング事業は市場の拡大に伴う成長と高い収益性が見込めること、また既存事業とのシナジーによって新たな需要創出ができると判断した以下3つの事業分野を成長領域として事業拡大に取り組んでいます。インドの産業ガス分野については、政府による積極的なインフラ投資政策を背景に、鉄鋼をはじめとしたガス需要の拡大が見込まれます。オンサイト供給案件の新規獲得、自社液化ガス工場の稼働によるローリー・シリンダー事業の拡充を進めていきます。北米での産業ガス及び低温機器分野は、現地産業ガスディストリビューターの連携・M&Aを通じて事業展開エリアを拡大し、自社のオンサイトプラントを設置し、産業ガスの製造から販売まで一貫した事業インフラを構築してまいります。高出力無停電電源装置(高出力UPS)分野は、データセンターや半導体工場のBCPに不可欠な「バックアップ電源ソリューション」を提供しており、需要拡大を背景とした新規受注獲得による成長を目指します。
物流事業は2025年2月に「千葉低温センター」開設するなど低温物流ネットワークの拡充を図るなど、食品物流や一般貨物、協業による青果物等の荷扱量の増加により、事業拡大を図ります。
電力事業はFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により売電価格が保証されている一方、発電燃料となるPKS(パームヤシ殻)や木質ペレットなどは海外から輸入しており、為替を含むコスト変動が収益に影響を与えます。そのため、為替予約に取り組み、リスクを低減するとともに、荷揚港湾施設の運用改善などによりコストの低減を図っていきます。
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