アストロスケールホールディングス
【東証グロース:186A】「サービス業」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループのミッションは、軌道上サービスを通じて宇宙機の安全な航行を確保し、宇宙空間の持続的な利用を実現することにあります。このミッションの実現に向けて、当社グループは、技術開発、事業開発、さらには法規制作りへの働きかけなど、複数の課題解決に同時並行で取り組んでおります。当社グループは、高速道路におけるロードサービスのように、軌道上サービスを宇宙空間における定常的・恒久的な基盤インフラサービスとして確立し、成長著しい軌道上サービス分野において世界のリーダーとなることで、グローバルな収益機会の獲得を目指しています。
当社グループの事業は、技術開発を中核とするディープテック領域に属し、市場が未成熟な段階から立ち上げる市場創造型のビジネスであり、ミッションの性質に即したグローバル経営を特徴としております。草創期にある軌道上サービス市場において、当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねています。当社グループは、常に企業価値の継続的な向上を目指し、その目指す姿を見据えた経営を行っております。
(a) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、企業価値の継続的な向上を図るための客観的な指標として、①軌道上サービスミッションの受注状況並びに②ミッションごとの開発スケジュールの進捗管理を重視しております。
「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.3 開発・運用状況」に詳述の通り、当社グループは各国のオフィスを通じて多様な用途の軌道上サービスミッションをグローバルに受注しており、技術革新の加速と市場シェアの拡大が、当社グループのミッション実現への近道であると考えております。このため、①軌道上サービスミッションの受注状況を重視しています。具体的には、当社グループの将来収益を生み出し事業の推進・成長を支えるパイプラインの確保状況を測定するための「受注残総額」を重要な経営指標等として位置づけております。受注残総額の詳細については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 3 生産、受注及び販売の実績 b. 受注実績」をご参照ください。
また、「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.2 開発方針」に詳述の通り、当社グループは開発スケジュールに沿って、システムズエンジニアリングのⅤ字モデルにおける各審査を着実にクリアすることが、品質管理、事業の進捗及びプロジェクト収益の実現に直結すると考えており、②ミッションごとの開発スケジュールの進捗管理も重視しております。
(b) 当社グループの強み
当社グループの競争優位性は、以下の点にあります。
まず技術面においては、世界初となるデブリ除去実証衛星「ELSA-d」による宇宙実証及びデブリ観測衛星「ADRAS-J」の打上げに成功しております。当社は、2025年6月時点において、当社グループ以外に、非協力物体に対するRPO技術の宇宙実証に成功した競合事業者の存在を認識しておりません。当社グループは、軌道上サービスのコア技術であるRPO技術を自社開発し、当該技術に関する知的財産権を保有しております。コア技術を自社開発することで初めて、継続的な技術改善を行うことができると当社グループは考えております。
次に事業面では、日本、英国、米国、フランスといった宇宙産業の主要地域に拠点を構え、各地域において研究開発チームを組成し、契約を受注しております。当社グループのミッションの達成のためには、グローバルに同時並行で活動することが不可欠であり、当社グループ各社は、各地域において、豊富な経験に加え、政府機関や宇宙機関及び各地域の宇宙産業界等との広範なネットワークを兼ね備えた経営陣を擁し、各地域に根ざした企業として活動しております。
加えて、当社グループは、各国・各地域における宇宙政策や法規制づくり等の整備に関しても積極的に提言・関与しており、軌道上サービスの利用拡大を通じた当社グループのミッションの実現に取り組んでおります。また、それらの国・地域での取り組みを統括し、当社グループをグローバルに成長させるため、多様かつ多面的なバックグラウンドを有する経営陣及び取締役会を構成しております。
(2) 企業価値向上に向けた取り組み
(a) 企業価値の考え方
一般に、企業価値とは、企業が生み出すキャッシュ・フローを、割引率(将来の価値を現在の価値に換算する際の利率)とキャッシュ・フローの成長率との差で除したものとして算出されます。この計算式において、分子であるキャッシュ・フローの最大化を図り、分母にあたる割引率は、キャッシュ・フローを損なうリスク(割引率)を低減させることで安定性を高め、さらにキャッシュ・フローの成長率を向上させることが、企業価値の最大化に寄与すると考えられています。
このような考え方を踏まえ、当社グループが捉える企業価値向上の要因は、以下の式によって表すことができます。
当社グループは、企業価値を持続的な価値創造の原動力と位置付けております。具体的には、(1)財務価値、(2)無形資産から創出される将来価値、そして(3)当社グループの存在の不可欠性に基づく総合的な価値を当社グループの企業価値の主要な構成要素と考えております。
上記(2)における当社グループの無形資産とは、特許群や営業秘密といった知的資産、当社グループのブランド、国際的な会議体や各国の政府、宇宙機関、宇宙関連企業、アカデミアなどとのネットワーク、さらに世界5カ国に亘るグローバルな経営管理プロセスなどを指します。
また、上記(3)における当社グループの存在の不可欠性とは、宇宙の持続的開発がグローバルアジェンダになる中、当社グループの技術開発の進展状況、顧客との取り組み、軌道上ミッションにおけるベストプラクティスや法規制づくりに関する考え方や知見が、多くの場面で参照され、また必要とされていることを意味します。
このように、宇宙の持続的開発に不可欠な存在としての立ち位置を維持することは、当社グループが最先端の情報を取得・発信し、様々なステークホルダーとの信頼関係を醸成し、ひいては市場におけるリーダーとしての地位を確立することに貢献すると考えております。
(b) 着実なキャッシュ・フローの創出
当社グループは、技術開発型かつ市場創造型の企業として、これまで投資活動によるキャッシュ・アウトフローが先行しており、営業活動によるキャッシュ・フローも赤字の状態にあります。こうした状況を踏まえ、当社グループではフリー・キャッシュ・フローの創出に向けて、戦略的なKPIと財務的なKPIを設定しております。
定性的な観点では、世界に先駆けて実証したコアRPO技術を活用し、ビジネスセグメントの拡充と各サービスの事業化を推進することが重要であると考えております。そのため、当社グループは、まず4つの軌道上サービスについて、最短で2028年4月期までに顧客との契約に基づく宇宙空間でのミッションを完了することで、サービスの提供事例と提供価値を証明することを目指しております。また同時に、軌道上ミッションの機会をより多く獲得することで、技術の革新と成熟化を加速させ、コスト削減を図り、市場において先行的にシェアを獲得することを目指しております。当社グループは、2025年4月期以降、各国拠点において複数のミッションを同時に開発するフェーズへと段階的に移行しつつあり、最短で2030年には、各種軌道上サービスがあたりまえと認識されるようになることを目指しております。
財務的なKPIとしては、損益計算書(PL)面では売上総利益の黒字化、営業利益の黒字化に向けて、キャッシュ・フロー(CF)面ではフリー・キャッシュ・フローの黒字化に向けて取り組んでまいります。貸借対照表(BS)面では、仕入債務回転期間や売上債権回転期間の最適化に加え、設計・開発から製造工程までを常に見直し、バランスシートが過度に膨まないよう事業活動を遂行してまいります。
当社グループが開発する軌道上サービスにおいては、現在、各ミッションに係る顧客からのサービス仕様に関する要求がそれぞれ異なっております。そのため、現段階でサービサーの設計において汎用性を追求すると、当社グループのソリューションは重厚超大になりコストが増大する可能性があります。したがって、当社グループでは、安全性や品質を一定に保ち、また、可能な範囲で共通化を進めながらも、まずは個別ミッションにおける顧客の要求の最適化を優先しております。コスト最適化のためには、まずコストの透明化が重要であると考えており、ヒト・モノ・カネ・情報を集約し適切に分配し活用することを実現するべく、2023年4月期よりERP(Enterprise Resource Planning)システムの導入を検討し、2025年4月期中より運用を開始いたしました。中長期的には、各拠点間ですべての技術を共有・共通化することには、各国間の輸出管理規制等の法令遵守の観点から制約があるものの、可能な範囲で汎用的な設計への進化を図ってまいります。
また、技術戦略及び技術ロードマップについては、CTOを中心に常に見直しを行っており、当社グループの技術が各国で成熟化していく過程において、常に最適なコスト構造を追求し、フリー・キャッシュ・フローの創出につなげてまいります。
(c) 資本コスト(WACC)の低減
資本コストの低減は、事業の不確実性を抑え、持続的な成長を支える体制を整えることと同義であると当社グループは認識しております。当社グループでは、単一のミッションや地域への集中を避け、ISSA、LEX、ADR、EOLといった複数のサービスを複数地域にわたって展開しており、本書提出日現在、9件の顧客ミッションに取り組んでおります。今後も複数のミッションを受注し、パイプラインのさらなる分散を進めることで、事業全体の不確実性の低減を図ってまいります。
また、当社グループは、事業面での進捗に加え、社会的にも持続可能な企業であることを目指し、ESGの観点を常に意識した経営に取り組んでおります。
(i) 環境(E:Environment)
当社グループの事業は、宇宙環境の持続利用や宇宙技術・データの活用を通じて、地球社会の持続的開発に資するものであり、「E」は当社グループの中心的なテーマとなっております。
(ii) 社会(S:Social)
当社グループは、企業価値を高める行動が豊かな社会の実現につながると考えており、その観点から、従業員のダイバーシティの確保や労働環境の改善に日々取り組んでおります。2025年4月末時点において、当社グループの従業員は35カ国以上の国籍で構成されており、女性比率(28%)やエンジニア比率(73%)は先端技術企業としては高い水準を維持しております。
(iii) ガバナンス(G:Governance)
当社グループは、健全な経営を行うための管理体制を重視しており、取締役会は国籍・性別・専門的背景において多様性に富み、卓越した経歴を有するメンバーによって構成されています。2025年4月末時点において、社内取締役と社外取締役の比率は3対3です。
当社グループのESGに関する取り組みについては、下記「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」もご参照ください。
これらの取り組みを前提としつつ、当社グループは資本コストや財務の安定性に十分配慮しながら、負債(Debt)と資本(Equity)の最適な構成についても検討を進めております。
(d) 事業の成長の維持・促進
当社グループでは、事業の成長の維持・促進とは、中長期的な価値創造のための基盤を築くことであると考えております。当社グループは、事業の成長に向けて、保有するコアRPO技術を以下のように活用してまいります。
短中期的には、世界各国で増加しつつある軌道上サービスの事業機会を獲得し、ミッションを成功に導くことが、当社グループの成長の促進に繋がります。そのためには、世界の主要国に事業拠点及び研究開発チームを保有する必要がありますが、2023年に新たにフランス子会社を設立したことで、宇宙産業における主要国・地域を網羅できる体制が整いました。現在、当社グループは宇宙産業における世界の主要地域である日本、英国、米国、フランスに拠点を有し、各地域で研究開発チームを組成し、契約を受注しております。特に、直近では防衛関連需要が急速に高まっており、日本、英国、米国においてそれぞれ防衛関連のミッション契約を受注しております。当社グループは、非防衛の政府機関からの需要の伸びに加え、防衛関連需要を軌道上サービスの成長ドライバーと考えており、引き続き米国をはじめとする各国の政府機関・防衛機関との間で、軌道上サービスの提供に関する積極的な協議を継続してまいります。当社グループ各社は、各地域において豊富な経験を有する経営陣を擁し、政府機関・宇宙機関・宇宙産業界との広範なネットワークを活かし、地域に根ざした企業として活動しております。なお、案件獲得には1件につき1〜5年程度の期間を要するため、常に将来の顧客ニーズを見据えた営業活動を展開しております。
中長期的には、政府機関からの需要を契機として民間需要の創出・取り込みを図ることが、事業成長の促進に繋がると考えております。EOLサービス及びLEXサービスに関して潜在的な民間需要が存在しており、中長期的に民間事業者向けのLEXサービスが立ち上がり、その後、EOLサービスが立ち上がると想定しております。LEXについては、サービサーがクライアント衛星を捕獲したまま軌道変更や軌道維持を支援する方法に加え、捕獲後に燃料補給を行い離脱する方法についても、主要国において研究が進められており、当社グループは燃料補給ミッション2件について契約済又は選定済です。EOLについては、打上げ前の衛星へのドッキングプレート装着に関する契約を着実に受注しておりますが、さらなる契約獲得に向けて、衛星運用者や衛星メーカーとの議論を継続しております。当社グループでは、LEXサービサーがクライアント衛星の燃料補給口に対応できるように、また、EOLのサービサーがドッキングプレートに接近・捕獲できるように、エコシステム構築に尽力してまいります。さらに、軌道上サービスに対応した衛星バスの他企業への提供についても検討を進めております。
長期的には、RPO技術を活用した新たなビジネスセグメント、すなわち衛星やその部品の再利用・交換、製造・修理といったサービス市場の創出を目指し、技術ロードマップの策定と技術開発に取り組んでまいります。
また、軌道上サービスに必要なRPO技術以外の周辺技術についても、当該技術が当社グループの企業価値向上に資すると判断した場合には、自社開発に加え、M&Aによる獲得も視野に入れてまいります。AI技術については、すでにシミュレーション、契約書作成、マーケティング等に活用しておりますが、RPO技術への応用に関する研究も開始しております。さらに、後述のような世界的な法規制づくりへの積極的な参画も、当社グループの市場規模拡大及び事業成長の維持・促進に寄与すると考えております。
(3) 経営環境及び対処すべき課題
当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねているものの、軌道上サービス市場は草創期にあり、当社グループを取り巻く環境には引き続き高い不確実性が存在しております。また、宇宙事業は、研究開発から顧客開拓、衛星の設計・開発、打上げ、運用等に至るまで、長期間を要する特性を有しています。
一方で、宇宙環境問題の深刻化と宇宙空間の持続利用に対する社会的な認識は、2020年以降急速に高まりを見せています。2023年5月には、G7外務大臣会合、科学技術大臣会合、そしてG7広島サミットにおいてデブリ問題が取り上げられ、公式声明(コミュニケ)において、宇宙の持続利用が喫緊の課題であること、及びデブリの低減(これ以上増加させないこと)並びに改善の必要性が明記されました。さらに、2024年6月のG7プーリア・サミットのコミュニケでは、宇宙の持続可能性に関する基準及び規制の策定に向けた取り組みが明記され、デブリ低減に向けてより踏み込んだ内容が示されました。また、2024年9月に開催された国際本部の未来サミットにおいて、「未来のための協定(Pact for the Future)」が全193か国の加盟国が参加する国連総会において全会一致で決議されました。協定の行動目標56番に、宇宙の探査と利用に関する国際協力を強化することが規定されており、具体的には、宇宙の安全で持続可能な利用は、SDGsの達成において重要な役割を果たすとし、スペースデブリや宇宙交通管理等に関する新たな枠組みについて、国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS:United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)で議論すること、関係する民間セクターを含め利害関係者が宇宙の安全性と持続可能性の向上に関する政府間プロセスに貢献できるように関与を求めること等が決定されました。
このように、宇宙の持続利用は、主要先進国のみならず世界における重要課題の一つとして認識されるようになり、各国において具体的な行動が求められる段階に至っております。
こうした状況を受け、軌道上サービス市場の拡大を見越した企業による参入表明が世界各地で相次いでおりますが、当社グループはその中にあって、先駆的な技術開発企業としてのポジションを確立してまいりました。競争環境が今後さらに激化することが予想される中、技術開発の推進、事業化の加速、関連法規制の整備への働きかけ、そして安定的なキャッシュ・フローの創出をいかに継続していくかが、当社グループにとって極めて重要な課題であると認識しております。
これらの課題に対処し、中長期的な持続的成長の実現のため、当社グループは以下の通り取り組んでおります。
■技術開発
軌道上サービスに使用される衛星の開発、打上げ及び運用は、極めて複雑なプロセスを伴います。開発の過程では、地上において宇宙環境を模擬的に再現した各種試験を実施した上で宇宙空間へ打ち上げますが、宇宙空間において衛星に予期せぬ故障が発生し、システム全体に影響を及ぼすことでミッションの成否に関わるリスクが生じる可能性があります。さらに、コストやスケジュールに関する制約、政府等による許認可制度や公募内容などの条件も加わり、先進的な技術開発を進めることは非常に困難な課題となっております。
このような状況を踏まえ、当社グループでは、開発段階に応じた審査体制の整備、品質・信頼性に関する管理基準等の策定、開発工程の文書化の徹底など、再現性があり、かつ改善可能な開発手法を採用しております。
当社グループが必要とする技術のうち、非協力物体へのRPO技術を含むコア技術については、自社設計・自社開発を行っており、継続的な技術向上が可能な体制を構築しています。これにより、非協力物体へのRPO技術等を活用した軌道上サービスという新たな選択肢を衛星オペレーターに提供してまいります。
また、自社技術の優位性を確保するため、当社グループでは長期的な技術ロードマップを定期的に更新し、様々な事業機会を通じて技術的優位性を継続的に維持できるよう、研究開発体制の強化及び知的財産ポートフォリオの充実を図ってまいります。
なお、本書提出日現在における当社グループの技術開発に関する取り組みについては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 3 研究開発の状況」に記載しております。
■事業開発
政府機関・宇宙機関からの事業機会を獲得するためには、宇宙産業における世界の主要地域に拠点を保有すること、並びに各拠点がそれぞれの国・地域の政府機関・宇宙機関及び宇宙業界と密接な関係を築き、関係性を深めていくことが必要です。
本書提出日現在における事業上の取り組みについては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 2.3 4つの軌道上サービス、3.3 開発・運用状況」に記載しております。
宇宙業界では、政府機関・宇宙機関、民間事業者のいずれも、数年から数十年単位で政策や事業計画を策定しています。当社グループは、ISSA、LEX、ADR、EOLといった各種サービスに関し、中長期的な視点から潜在顧客との議論を重ね、コア技術であるRPO技術に対する顧客ニーズやサービス提供のタイミングについて理解に努めてまいります。
草創期にある軌道上サービス市場において、当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねています。当社グループは、獲得した事業機会を確実に遂行し、提供価値をグローバルに具現化することで更なる需要を喚起し、事業の加速を図ってまいります。さらに、後述のような法規制づくり等に関する議論にもリソースを配分し、グローバルな貢献を通じて軌道上サービスの活性化と、当社グループのミッションである宇宙の持続利用の早期実現に取り組んでまいります。
■法規制作りへの働きかけ
デブリ除去に必要な環境整備としての「法規制作り」は、2つの観点に分類することが可能です。当社グループでは、ひとつを「制度構築」、すなわち「宇宙の持続利用に資するような、各国の宇宙法政策及び二国間・多国間等の国際的な協調関係に基づく枠組みづくり」と定義し、もうひとつを「標準化」、すなわち「宇宙の持続利用に資するような、宇宙機の設計や運用に関する基準づくり」と定義しております。
それぞれの観点に基づき、当社グループは以下のとおり取り組みを進めております。
a. 制度構築について
制度構築とは、各国においてデブリ増加への対応やデブリ除去を促進・実現するための国内法規制等を整備することに加えて、長期的には各国間の国際的な連携・協調を通じて、デブリ除去がグローバルに実施される体制を構築することを目指しております。
例えば、各国は強制力を伴う国内法規制により、ミッション許可等の制度(米国では、衛星運用事業者に付与される周波数ライセンスの管理も含む)を通じて、デブリ増加を抑制するための措置を事業者に要求することができます。また、各国は、行動計画の策定等の政策を通じて、自国由来のデブリの低減・除去を推進することも可能です。
デブリ低減に関する議論は、2000年代以降、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)やUN COPUOSなどの国際機関において進められてきましたが、米国、欧州、日本などの各国では、さらなる措置に関する議論が活発化しており、当社グループも可能な限りこれらの議論に参画しております。
米国では、深刻化するデブリ問題を受けて、米国連邦通信委員会(FCC)が2004年に策定した周波数の許可に際して考慮されるデブリ低減ガイドラインの見直しに関するパブリックコメントを募集しました。これに対し、当社グループは米国企業7社をとりまとめ、2019年2月に計8社共同でコメントを提出しました。このコメントは米国内の関係者の間で広く参照され、2020年4月に公表された新たなFCCの立法案公告においても、当社グループの共同コメントが言及されています。その後、FCCは、同ガイドラインを見直し、2022年9月には、いわゆる「25年ルール」(高度2,000km以下の軌道を周回する衛星の場合、運用終了から25年以内に大気圏に突入するような設計にする旨のガイドライン)を「5年」に短縮する命令を発出し、2024年9月に発効しました。さらに、2024年1月には、軌道上サービス認可の枠組みに関する立法案公告の草案が発出されました。
欧州では、宇宙機関の宇宙活動に関するイニシアティブとして、ESAが2022年に「Zero Debris Approach」を公表し、2030年までに地球軌道及び月軌道におけるデブリの生成を停止することを目標に掲げました。これに基づき、ESAは2023年11月に、デブリ低減に関する要求を定めた技術ガイドラインである「ESA Space Debris Mitigation Requirements」を見直し・公表するとともに、民間事業者等40団体と共同で「ゼロ・デブリ憲章」を策定・公表しました。同憲章では、2030年までにデブリ生成ゼロを実現するための基本原則や目標値などが定められています。
英国では、2023年6月にチャールズ国王が、宇宙の持続可能性を促進するための枠組みとして「アストラ・カルタ(宇宙大憲章)」を公表しました。
さらに、国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)は、2023年11月の無線通信総会において、デブリ除去を含む軌道上サービスなどの新技術を考慮し、低軌道上の衛星に対する「安全かつ効率的な軌道離脱および/または廃棄の戦略と方法論に関するガイダンス」の研究を行うことを決議しました(決議ITU-R 74)。
また、先述の2023年のG7広島サミット及び2024年G7プーリア・サミットのコミュニケや、2024年に国連総会において決議された「未来のための協定(Pact for the Future)」のように、宇宙空間の持続利用に対する社会的な認識は世界レベルに拡大しております。
このように、世界の主要国及び国際的な団体において、宇宙の持続利用に向けた対応は、提案・検討の段階から実施の段階へと移行しつつあります。
b. 標準化について
衛星の設計や運用に関する国際的な標準化の議論は、衝突回避能力、運用終了時の廃棄処理、無害化、デブリ低減、打上げサービスの選択、デブリ除去サービス、サイバーセキュリティ、RPO実施時の安全性確保や情報の共有など、多岐にわたるテーマを対象としています。これらの事項については、国際団体、政府機関、NPOなど、様々な場で議論が進められております。
当社グループは、先端技術を保有する企業として、標準化を最重要課題の一つと位置付け、積極的に取り組んでおります。日本、米国、英国、フランスにグローバルなポリシーチームを配置し、標準化に関する主要な会議体に参加するとともに、一部の会議体ではリーダーシップを執るなど、独自のポジションを築いております。また、各国の宇宙機関や主要国の政策決定者・担当省庁とも緊密に連携し、世界各国の議論動向を踏まえた整合性の確保に貢献するとともに、当社グループのミッションにも先進的に反映させることで、業界全体のベストプラクティスの形成に寄与してまいります。
当社グループが積極的に関与している標準化に関する会議体の一つに、Consortium for Execution of Rendezvous and Servicing Operations (以下「CONFERS」)があります。本会議体は、米国国防総省の国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、以下「DARPA」)がシードマネーを提供して設立された業界団体です(現在はDARPAからの資金的援助を受けずに運営されています)。CONFERSは、RPOに関する自主的なコンセンサスに基づくベストプラクティスを策定しており、ISOなどの標準化団体によって、軌道上サービスに関するこれらのベストプラクティスが採用されることが期待されています。当社グループは、CONFERSの設立初期から主要メンバーとして参画しており、現在はExecutive Memberとして活動しております。
■許認可等への対応
当社グループは、必要な許認可の取得を行い、適用される各国の法令を遵守するよう努めております。
一般的に、衛星の運用に関しては、衛星を運用する事業主体が所在する国の当局が求める技術・安全性などの要件を満たすことで、当該当局から運用の許可を得ることができます。これを「ミッション許可」と呼びます。ELSA-dでは英国宇宙庁(UKSA)から、ADRAS-Jでは内閣府から、それぞれミッション許可を取得しました。衛星の物体登録については、ELSA-d及びADRAS-Jともに日本が登録国となっております。
衛星との通信に使用する周波数の利用についても、ITUの規定に基づき、各国の法令に従って必要な手続きが定められています。日本の場合、電波法に基づき、他国の地上無線局に有害な干渉を与えない(または他国から干渉を受けない)ようにするため、総務省を通じて国際周波数調整を行った上で、総務大臣への申請により無線免許を取得します。また、衛星の運用に必要な地上局(人工衛星との通信を行うために地上に設置するアンテナやデータ送受信装置等)の使用については、地上局が所在する国ごとに必要な許可を取得する必要があります。当社グループは、ELSA-d及びADRAS-Jの運用に関して、日本、米国、カナダをはじめとする複数の国から必要な許可を取得しております。その他にも、輸出管理に関する許可や危険物輸送等に係る許可の取得など、必要な手続きを適切に実施しております。
今後実施予定のISSA、LEX、ADR、EOLといった各ミッションにおいても、上記のような許認可の取得が必要となります。
さらに、当社グループは、RPO技術が先進的な技術であることを踏まえ、ミッションの目的や運用の透明性を確保するため、自主的な取り組みも行っております。ELSA-dやADRAS-Jのミッションの目的・内容については、国際的な学会等での発表や論文提出に加え、展示会、講演会、SNS、メディアなどを通じた広報活動を通じて開示しているほか、政府関係者などに対しても必要な説明を行っております。加えて、両衛星にはレトロリフレクター(レーザ反射を有する機構)を搭載しており、地上から軌道上での位置を詳らかに把握できるよう配慮されています。
また、当社グループは、衛星とデブリとの衝突可能性のリスク評価及び衝突回避のため、世界の主要なSSA(Space Situational Awareness:宇宙状況把握)プロバイダーと契約を締結しております。
保険の組成については、顧客との責任分担のあり方や保険料の相場などを踏まえて、ミッションごとに適切に対応してまいります。例えば、ELSA-dは自社資金によるミッションであり、打上げ失敗に備えた打上げ保険、ミッション失敗に備えたミッション保険及び軌道上で第三者に損害を与えた場合に備えた第三者賠償責任保険に加入しました。ADRAS-Jでは、軌道上での第三者賠償責任保険にのみ加入しております。
なお、宇宙条約第6条では、非政府団体(企業、研究機関など)による宇宙活動であっても、「自国の宇宙活動」については当該国が国際的な責任を負うことが定められており、また、宇宙活動に起因する損害についての国際的な責任については、損害責任条約が具体的な定めを設けております。特定のミッションについて複数の国が関係する場合に、条約上は複数の打上げ国間で連帯して責任を負うこととされていますが、その具体的な責任分担のあり方などについては十分な国家実行がなく民間事業主体の責任のあり方(当該国と民間事業主体との関係や、民間事業者間での責任分担)についても現時点では不明確な点が多く残されています。
このため、当社グループでは、保険の組成を通じてこれらのリスクを事前に低減しておりますが、保険に加入している場合であっても、ミッション遂行に際して予期せぬ損害賠償責任を将来的に負う可能性があることを認識しております。
■資金調達
当社グループは、多額の先行投資と長期の開発期間を要する人工衛星及び宇宙機器の研究開発に従事していることから、2020年4月期以降、フリー・キャッシュ・フローの赤字が継続しております。今後も、軌道上サービスを目的とした人工衛星の開発を加速するとともに、多種多様な軌道上サービスの需要に対応するための技術適用の拡大を図るため、先行投資を継続する必要があり、資金調達を行っていく必要があります。
このため、当社は資金調達手段の確保・拡充に向けて、2024年6月に東京証券取引所グロース市場に株式上場し、6月から7月にかけて20,070百万円を調達いたしました。その後、2025年3月に株式会社りそな銀行とのコミットメントラインにより3,000百万円を調達し、2025年5月には、上場時には見られなかった防衛関連需要の顕在化や民間向け寿命延長サービスの急速な関心の高まりを背景とした事業機会の確実な獲得と競争優位性の向上のため、海外募集による新株式の発行により10,985百万円を調達いたしました。
今後はこれまでに調達した資金で実施した投資を基に事業進捗を更に加速し、早期の損益分岐及びフリー・キャッシュ・フロー黒字化を目指してまいります。借入金の借り換えを除き、現時点で資金調達は計画しておりませんが、今後魅力的な投資機会が生じた場合、必要に応じて機動的な調達を可能とすべく、引き続き資金調達手段の多様化を図ってまいります。
■人材獲得
当社グループは、軌道上サービスに必要な先進技術の研究開発、衛星の設計から製造・試験に至る衛星製造プロセス、さらには衛星の運用までを自社で一貫して行っております。そのため、今後の人工衛星の開発や技術適用の拡大に伴い、複数の開発ラインを同時に進行させるためには、適切な人材の確保が不可欠です。
具体的には、株式上場等を通じて当社グループの知名度を高め、新卒・中途を問わず積極的な採用活動を推進してまいります。また、長期的な雇用の安定を図るため、社内における教育・研修体制を充実させ、人材の育成にも注力してまいります。
■安定的なキャッシュ・フローの創出
当社グループは、先端的なRPO技術等を活用した軌道上サービス事業に特化し、これらの技術の多角的な展開・拡大を目指しております。これまでに構築してきた研究開発技術を最大限に活用し、対象となるデブリや運用中の衛星に対して、コストパフォーマンスに優れたソリューションを提供することで、安定的なキャッシュ・フローの創出を図ってまいります。
このように、当社グループは経営環境における課題を解決しつつ、デブリ除去を含む軌道上サービスを通じて安定的なキャッシュ・フローを確保し、それを背景とした規律ある成長投資と継続的な株主価値の向上の両立を目指してまいります。
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