かんぽ生命保険
【東証プライム:7181】「保険業」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社が掲げる経営理念には、お客さまによりそい、一人ひとりの人生を守り続けていくために、全社員一丸となって歩んでいくという、当社の決意が込められております。この経営理念を実現するため、当社が目指していく具体的な姿を経営方針として制定しております。
(経営理念)
いつでもそばにいる。どこにいても支える。すべての人生を、守り続けたい。
(経営方針)
かんぽ生命保険は、お客さまから選ばれる真に日本一の保険会社を目指します。
① お客さま一人ひとりの人生によりそい、分かりやすい商品と質の高いサービスを提供します。
② お客さまにより良いサービスを提供するため、お客さまと接する社員が力を発揮する態勢を整備します。
③ 社員一人ひとりが成長でき、明るく生き生きと活躍できる環境をつくります。
④ コーポレート・ガバナンスの確立による健全な経営を行い、常に新しい価値を創造することで、持続的な成長を生み出します。
⑤ 健康促進、環境保護、地域と社会の発展に積極的に貢献します。
⑥ すべてのステークホルダーと密接なコミュニケーションを図ります。
(2) 経営環境
2024年度の日本経済は、個人消費に一部足踏みが見られるも、引き続き堅調なインバウンド需要等を受けたサービス業をはじめ、好調な企業業績を背景に緩やかに回復しました。米国経済は、底堅い雇用環境や好調な個人消費に支えられ堅調に推移するも、関税政策によるインフレ懸念の高まりから足元で個人消費に減速感が見られました。欧州経済は、政治の不透明感が残るも、消費者物価の低下による家計の回復を背景に個人消費に回復が見られましたが、ドイツを中心に製造業の不振が続き、回復ペースが鈍化しました。
こうした経済状況の中、運用環境は以下のようになりました。
国内長期金利は、賃上げや物価上昇を背景とした日本銀行の金融政策正常化期待を受けて、7月には1.1%台と12年ぶりの高水準まで上昇して推移しました。7月末には日本銀行が政策金利を0.25%へ引き上げたものの、米国の失業率上昇等による景気後退懸念により低下し、9月まで横ばいで推移しました。その後は、日本銀行の金融政策正常化期待を受けて再び上昇し、1月には0.5%へ政策金利の引き上げが発表され、3月末は1.5%程度となりました。
日経平均株価は、米国景気の底堅さや日本経済の脱デフレ期待、日本企業のガバナンス改革への期待等から上昇し、7月には42,000円台となり史上最高値を更新しました。その後は米景気悪化懸念により下落後急反発するも、日本銀行の金融政策正常化による日本経済への影響や米新政権による政策の不透明感等から概ねレンジで推移し、3月末は米国の関税政策による景気悪化懸念から下落し35,000円台となりました。
ドル円は、米国中央銀行の高い政策金利の据え置き姿勢を背景にドル高円安が進行し、7月には160円台まで上昇しました。その後は米景気悪化懸念や米国中央銀行における利下げが開始されたことで9月には140円台までドル安円高基調となりましたが、緩やかな利下げペースが見通される中で再びドル高円安となり、12月には158円台となりました。その後は日本銀行による利上げ観測等からドル安円高となり、3月末は149円台となりました。
また、近年、生命保険業界を取り巻く経営環境は大きく変化しております。
少子高齢化の進展や単身世帯の増加に伴い伝統的な死亡保障へのニーズが縮小する一方、社会保障制度に対する不安感や自助努力意識の高まりから、医療・介護等の第三分野商品に対するニーズの拡大が見られ、今後もこの傾向は継続するものと考えられます。さらに、自然災害、資源価格の高騰、為替の変動等、先行きが読めない不確実な状況が続くとともに、コロナ禍を経たライフスタイルの変化や、生成AIの急速な広まり等による社会のデジタル化の進展等、社会全体が大きく変化している現在、万が一の保障に備えるお客さまの自助努力を支援し、安心を提供するという生命保険事業の社会的役割はより一層重要性を増しております。当社としても、時代とともに加速するお客さまの価値観やライフスタイルの変化・多様化に合わせて最適なサービスを提供できるよう、引き続きお客さま本位の業務運営の推進・定着に取り組んでおります。
販売チャネルにつきましては、従来からの営業職員チャネルや銀行を中心とした金融機関の窓口販売チャネル等の対面チャネルに加え、デジタル技術の活用により非対面・非接触での保険サービスを提供する取り組みが進んでおります。
当社におきましては、創業以来、養老保険・終身保険を中心とした簡易で小口な商品を、全国津々浦々の郵便局を通じて、家庭市場を中心に多くのお客さまにご提供するという独自のビジネスモデルを展開してまいりました。商品・チャネル・顧客基盤といったこれらの特徴は、他社にはない当社の大きな強みである一方、時代や環境の変化に適応したビジネスモデルの転換を図る必要性を認識しております。かかる課題認識を踏まえた当社の成長戦略の詳細は、下記「(4) 経営戦略及び対処すべき課題」に記載のとおりであります。
2024年度において、当社の代理店である郵便局において、お客さまから事前に同意をいただかないまま、非公開金融情報※を保険募集を目的とした来局のご案内に不適切に利用した事案(以下「非公開金融情報の不適切利用事案」といいます。)を確認いたしました。また、2024年1月に販売を開始した一時払終身保険に関して、販売に係る保険業法上の認可を取得する前にお客さまへ勧誘を行っていた事案を確認いたしました。
両事案について、同様の事案が発生することがないよう再発防止策を策定しており、当社を含む日本郵政グループは、グループの総力を結集し再発防止に努めてまいります。詳細については、下記「(4) 経営戦略及び対処すべき課題」に記載のとおりであります。
※ 非公開金融情報とは、お客さま対応等の中で知った、お客さまの金融取引や資産に関する、通常、本人しか知りえない情報(口座残高や引落情報、保有ファンドの状況等)のことです。
(3) 目標とする経営指標
当社は、下記「(4) 経営戦略及び対処すべき課題」に記載のとおり、2024年5月に中期経営計画(以下「中計」といいます。)の見直しを公表しており、同時に、目標とする経営指標についても一部見直しを行っております。見直し後の主要な経営指標は次のとおりであります。
見直し後の中計においても、当社グループは、お客さまのご評価を主要目標として設定し、「お客さま満足度※1」や「ネットプロモータースコア(NPS®※2)」の向上を目指してまいります。一方、経営基盤を維持していくためのストックベースの目標として設定していた「保有契約件数(個人保険)」については、下記「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (3) 目標とする経営指標の達成状況等」に記載のとおり、保有契約件数が減少傾向にあることを踏まえ、目標件数の見直しを行っております。
また、財務目標として設定していた「連結当期純利益」に替えて、新契約の初年度に係る標準責任準備金負担による影響及びのれん償却による影響を調整した「修正利益※3」及びこれを踏まえた「修正ROE※4」を新たに設定しております。このほか、財務目標として「1株当たり配当額」及び「EV成長率」を引き続き設定しております。
なお、主要目標の達成状況については、下記「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (3) 目標とする経営指標の達成状況等」に記載のとおりであります。
※1 お客さま満足度を5段階評価として、上位2段階に相当する「満足」「やや満足」として回答いただいた合計割合です。
※2 NPS®とは、Net Promoter Scoreの略語であり、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems,Inc.)の登録商標です。
※3 修正利益とは、新契約の初年度に係る標準責任準備金負担による影響及びのれん償却による影響を調整するための当社独自の指標であり、連結当期純利益に「責任準備金の調整額(税引後)」及びのれん償却額を加算したものです。責任準備金の調整額とは、当該事業年度の新契約に係る標準責任準備金の繰入額から保険料計算に用いる基礎率により計算した責任準備金の繰入額を控除した金額です。
※4 修正ROEとは、修正利益を連結株主資本(期中平均)からのれん未償却残高(期中平均)を控除したもので除して算出しております。
(4) 経営戦略及び対処すべき課題
(適正な業務運営・法令遵守等に関して)
2024年度において、当社の代理店である郵便局において、非公開金融情報の不適切利用事案を確認いたしました。本事案を踏まえ、2025年4月、代理店の監督を一元的に行う部署の新設や業務執行部門とは独立したコンプライアンス部門の権限強化等を行うことで委託元としてのガバナンス態勢を強化しております。加えて、グループを挙げてお客さまからの非公開金融情報等の利用に係る同意の取得促進と、同意を得た非公開金融情報等を適切に活用するシステム構築に取り組んでおります。また、グループで連携して郵便局の活動に関する客観的データ等を活用したモニタリングに取り組むほか、当社では現地における直接の実態把握も強化しながら、引き続き代理店である日本郵便株式会社を教育・指導してまいります。
また、2024年1月に販売を開始した一時払終身保険に関して、販売に係る保険業法上の認可を取得する前にお客さまへ勧誘を行っていた事案を確認いたしました。これを踏まえ、当社では、認可を取得する前段階における社員への情報伝達の内容等を見直すほか、適切な業務運行等に関する社員への継続的な教育を行うとともに、その理解や履行状況の実態把握に一層取り組む等、実行態勢を強化しながら法令遵守を徹底してまいります。
両事案について、今回の事態に至った責任を重く受け止め、当社では、関係役員の報酬の減額を実施いたしました。同様の事案が発生することがないよう、当社を含む日本郵政グループは、グループの総力を結集し再発防止に努めてまいります。
(中期経営計画)
当社はこれまで、多くのお客さまへ保険という安心をお届けし、保険金等のお支払いを通じてお客さまの人生をお守りすることで、社会へ貢献してまいりました。
こうした当社の価値を提供し続けていくため、2021年5月に公表した2025年度までの中計について、お客さま本位の業務運営の徹底等の基本方針を維持しながら、内外環境の変化や計画の進捗を踏まえ、2024年5月に見直しを行いました。
引き続き「お客さまから信頼され、選ばれ続けることで、お客さまの人生を保険の力でお守りする」という当社の社会的使命を果たすべく、見直し後の中計の取り組みを進めてまいります。
特に、中計最終年度となる2025年度は、全ての活動をお客さま起点に進化させるとともに、お客さまサービス向上に関するこれまでの取り組みを定着・発展させることで、あらゆる場面でお客さまに安心をお届けし続ける活動の展開に注力してまいります。加えて、安心を支える強靭な経営基盤の確立に取り組むことで、「お客さまの人生を通して安心をお届けする」という当社の価値をお客さまへ提供し続けてまいります。
① 成長戦略
ア.ライフステージ/世代を超えたつながりによるお客さまの維持・拡大
当社は、お客さま本位の業務運営をさらに発展させるため、「保険のプロ」としての使命感のもと、お客さまへの商品提案からアフターフォロー、請求手続き等のあらゆる場面で、お客さまに安心をお届けし続ける活動を一体的に展開してまいります。
a.専門知識に基づく最適なご提案
当社では、お客さまとの長期安定的な関係を築きながら、様々な世代のお客さまの課題を把握し、解決策としての保障をご提案できるよう、教育体制を強化しながら営業社員のスキル向上に取り組んでまいります。
b.多様なニーズに対応した商品
当社は、あらゆる世代のお客さまの多様なニーズにお応えすべく、金利上昇等の外部環境の変化を捉えた既存商品の魅力向上と、お客さまのライフサイクル全体で安心を提供できるような商品領域の拡充に取り組んでまいります。
c.“ALLかんぽ”でのアフターフォロー
当社は、お客さまのご自宅への訪問等による対面のサポートに加え、デジタル技術を活用した非対面のサポートを組み合わせながら、当社の全てのお客さまとの信頼関係を一層構築してまいります。加えて、保障の見直しや継続の必要性が高いお客さまには優先的に対面でサポートすることで、お客さまにとって必要となる保障を継続いただきながら、確実に保険金をお支払いしてまいります。
d.お客さまに寄り添った手続き体験の提供
当社では、各種手続きにおけるお客さまの負担軽減や利便性向上を果たすべく、デジタルを活かした手続きを一層拡充し、お客さまサービスのさらなる向上に取り組んでまいります。
※ かんぽデジタル手続きシステムとは、対面でのご請求時に紙を使わずに端末で受け付けるシステムのことです。
e.マネジメント手法の進化
当社は、営業社員に対して、保険募集実績だけでなくアフターフォロー等も含めたお客さま本位の活動全般を定量的に評価する制度を導入し、社員の成長度合いを見える化・評価して成長を促進しながら、お客さまサービスの向上に取り組んでまいりました。この制度をさらに発展させ、当社の各拠点の活動全般と成長度合いも定量的に見える化・評価することで、社員と組織双方の成長を一層促進し、上記a~dの活動を着実に推進してまいります。
これらの取り組みにより、常にお客さまのための活動・サービス提供を行うことで、お客さま満足度を向上させながら、お客さま数の維持・拡大につなげてまいります。
イ.持続的な「強い会社」へ
a.資産運用
当社は、引き続き、ERM※1の枠組みの下、ALM※2運用を基本として運用収益の向上を目指し、市場環境の変化を捉えた追加収益の獲得や、他社との連携等を通じた運用態勢や人材ポートフォリオの高度化に取り組んでまいります。
また、サステナブル投資※3については、社会課題解決に向けたインパクト投資や産学連携を中核に、かんぽ生命らしい“あたたかさ”の感じられる投資を推進してまいります。
※1 ERMとは、Enterprise Risk Managementの略語で、会社が直面するリスクに関して、潜在的に重要なリスクを含めて総体的に捉え、会社全体の自己資本などと比較・対照することによって、事業全体として行うリスク管理のことです。
※2 ALMとは、Asset Liability Managementの略語で、資産負債の総合管理のことです。
※3 サステナブル投資とは、サステナビリティ(持続可能性)の諸要素を考慮した投資行動を指します。
b.生産性向上
当社では、引き続きデジタル技術を活用することで、お客さまサービスを向上させるとともに、生産性向上を実現し、これにより生じた経営資源を当社の強化領域にシフトすることで、ビジネスモデルの変革等のDXを推進してまいります。
また、これまでの企画業務における生成AIの活用に加え、営業社員によるお客さまサポート業務においても活用する等、全社的なAIやデータ活用にも取り組んでまいります。
※ バックオフィス業務とは、お手続き後の書類確認、保険の引受審査や保険金等の支払可否の判定等の事務処理を行う後方支援部門(サービスセンター)における業務を指します。デジタル化の推進により、請求書等がデータ送信され、郵便物の受入れや受け入れた書類のデータ化を不要としているほか、書類確認や引受審査等を自動化することで、業務量を削減しております。
c.収益源の多様化
当社は、大和証券グループ、KKR & Co.Inc(以下「KKR」といいます。)、及びその子会社のGlobal Atlantic Financial Group(以下「GA」といいます。)との提携等、国内外の提携関係を発展させるとともに、中長期的な成長に資する新たな領域を広く探索することで、さらなる収益獲得に取り組んでまいります。
② サステナビリティ経営
当社は、自らの社会的使命を果たす事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで、当社の持続的な成長とSDGsの実現を目指してまいります。
こうした目的を果たすためには、健全な経営基盤が欠かせないものと認識しております。この認識のもと、コーポレートガバナンスの強化や企業風土改革・人的資本経営の推進に引き続き取り組んでまいります。
特に、コーポレートガバナンスの強化について、上記「(適正な業務運営・法令遵守等に関して)」に記載したとおり、法令遵守等の課題を克服すべく、ガバナンス態勢の強化に取り組んでまいります。
※ フロントラインとは、お客さま対応を行う営業部門等のことです。
また、社員一人ひとりが自信と誇りをもって働く企業を目指し、企業風土改革・人的資本経営を推進してまいります。
このほか、段階的な適用が予定されている新たなサステナビリティ情報の開示基準等を踏まえた適切な情報開示を進めてまいります。
このように、各種取組を推進することで、高い外部評価の継続的な獲得にもつなげてまいります。
③ 資本効率を意識した経営
当社では、引き続き、ERMに基づき、財務の健全性を確保しつつ、資本収益性を向上させ、修正利益を原資とした安定的な株主還元を図ることで、持続的な成長や中長期的な企業価値の向上を実現してまいります。これに向けて、株主・投資家との対話等を踏まえながら資本コストや株価を意識した経営に取り組むことで、市場評価の改善を図ってまいります。
※ ESRとは、Economic Solvency Ratioの略語で、財務健全性指標の一つである「経済価値ベースのソルベンシー比率」のことです。
上記の取り組み等を通して、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーの皆さまのご期待に沿えるよう、持続的な企業価値の向上を目指してまいります。
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