小林製薬
【東証プライム:4967】「化学」
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企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針および経営環境
(経営方針)
当社紅麹関連製品に関して、健康被害にあわれたお客様をはじめ、株主の皆様、当社を取り巻くすべてのご関係の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心より深くお詫び申し上げます。健康被害にあわれたお客様への補償について真摯に対応し、再発防止に向けた取り組みを進めることで、信頼回復に努めてまいります。
当社は、2023年2月14日に2025年12月期を最終年度とする中期経営計画を公表し、これを実現すべく様々な施策に取り組んでまいりました。しかしながら、紅麹関連製品の回収事案(以下「本件事案」といいます)の発生により、2024年12月期の連結業績は2023年2月14日に公表した中期経営計画において想定した前提条件からの乖離が大きく、中期経営計画で定めた業績数値、戦略課題/KPIについて、新たな状況を加味して設定すべきと判断したことから、中期経営計画を取り下げることといたしました。新たな経営方針は、現在議論中であり、適切なタイミングにて公表する予定でございます。
(経営環境)
当社グループをとりまく経営環境は、新型コロナウイルス感染症の落ち着きに伴って多くの国で経済活動が再開し、国・地域を越えた移動も増加傾向になる中、原材料価格の高騰やエネルギーコスト上昇に伴う消費低迷の懸念、地政学リスクの高まりなど、先行き不透明な状況が続きました。
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
現在、健康被害にあわれたお客様および損害を受けられた企業様への補償について誠心誠意対応するとともに、原因の究明や再発防止に向けた取り組みを進めております。
補償の状況
当社は、本件事案の発生直後から、当社の紅麹関連製品を摂取されたお客様がご自身の健康状態の確認のために医療機関をご受診して頂くようお願いをし、その初診料・検査費用等のお支払いをするとともに、製品の摂取と症状との間に相応の関連性があると疑われるお客様に対して、暫定的に医療費等の実費のお支払いを進めてまいりました。その後、被害にあわれたお客様への補償対応を着実に進めるべく、2024年7月1日付で本件事案の補償を専門に取扱う「補償対応本部」を設置し、健康被害への補償の方針を定めて、同年8月19日からは医療費・交通費に加えて、慰謝料、休業補償、後遺障害による逸失利益の補償も本格的に開始しています。
また、当社の紅麹原料又は紅麹原料を使用した製品を取り扱っている企業様においては、同年3月25日より、お客様の健康被害が拡大することを防ぐための予防的措置として自主回収をお願いしており、その回収に要した費用等に関する補償の受付も進めております。
再発防止策の策定及び進捗状況
本件事案の発生直後から、見出された課題についてはこれを解決するべく随時対応しておりましたが、2024年9月17日付当社ニュースリリース「再発防止策の策定に関するお知らせ」にてお知らせしましたとおり、事実検証委員会による調査報告書を通じて提言された内容を踏まえ、①品質・安全に関する意識改革と体制強化、②コーポレート・ガバナンスの抜本的改革、③全員が一丸となって創り直す新小林製薬、を3本の柱とする再発防止策を取締役会にて決議し、公表いたしました。
改めまして、再発防止策の概要につきまして、以下に3本柱に沿って記載いたします。
再発防止策の概要(3本柱)
①品質・安全に関する意識改革と体制強化
・「品質・安全ファースト」を徹底して当社の役職員の品質・安全に関する意識改革を図る
・品質・安全責任部署の役割と責任を明確にし、品質保証体制とマネジメント体制を強化する
②コーポレート・ガバナンスの抜本的改革
・新小林製薬の経営を監督する取締役会構成を刷新する
・ステークホルダーの皆様からの信頼回復と、新小林製薬の実現を目的として、正しいことを正しく行う会社となるための体制の確立を図る
③全員が一丸となって創り直す新小林製薬
・リスク感度を高め、新たな価値を作り出す力を高めるため、当社が抱える同質性を排除し、多様性を確保する施策を実行する
・全役職員が力を合わせて一丸となり、新しい小林製薬を創り直す
当社としては、これまでにいただいた社外からの厳しいご指摘も踏まえ、再発防止策の具体化を検討し、また、実施済みの再発防止策についても不断に見直しを行う必要があると考えております。加えて、二度と本件事案のような事態を起こさぬよう、今後も誠実かつ着実に再発防止策を実施し、「品質・安全ファースト」の風土を体現した企業となるべく、歩みを進める所存でございます。
以下、上記の3本柱それぞれについて、現在実施または検討している再発防止策の概要を説明します。
①品質・安全に関する意識改革と体制強化
本項目における活動の概要は図表①のとおりです。これまでの主な活動としては、まず、全社員教育や経営幹部と現場従業員との双方向の対話の増加を通じて、「品質・安全ファースト」の意識改革を推進してまいりました。次に、品質・安全責任部署の役割と責任の明確化を図り、より専門性を発揮できる品質管理体制とするべく、2025年1月1日付で関連する組織再編を行いました。また、工場のマネジメント体制の強化に加え、製造部門及び研究開発部門との連携を加速させ、ものづくりの協働体制及びガバナンス体制の強化を進めております。
今後は、ものづくりの現場の力を強化し、品質マネジメント体制を再構築していくとともに、品質管理基準や製品検査等の精緻化も図ってまいります。
図表①
1 | 品質・安全に関する意識改革と体制強化 | |
(1) | 意識改革:「品質・安全ファースト」 | |
(1)-ア | 品質・安全に関する教育・研修 | |
| 品質・安全に関する教育・研修の全役職員向け実施 | |
(1)-イ | 品質・安全に関する代表取締役社長メッセージの発信 | |
| 代表取締役社長が旗手となっての定期的なメッセージ発信 | |
(1)-ウ | 従業員との対話の機会の増加 | |
| 経営幹部と品質・安全の維持・管理に従事する従業員との定期的対話 | |
(1)-エ | 「品質・安全ファースト」を最重要視した事業計画の策定 | |
| 事業計画への「品質・安全ファースト」の組み込み | |
中期経営計画への品質・安全に関する施策の中軸的配置 | ||
品質・安全性向上に必要な投資を行える環境整備 | ||
必要な事業の選択と当該事業へのリソースの集中 | ||
(2) | 体制強化①:品質保証体制 | |
(2)-ア | 責任部署の明確化 | |
| 信頼性保証本部の役割の明確化 | |
(2)-イ | 品質管理体制の改善 | |
| 第1線の専門性強化 | 機能別本部制への移行 |
品質管理部署の品質管理専任化 | ||
人事ローテーションの見直し | ||
第1線と第2線の双方向的連携の強化 | 品質関連の組織の整理 | |
品質関連の会議体の整理 | ||
(2)-ウ | 専門部署の新設 | |
| 製品の開発・製造関連法規を専門的に扱う部署の新設 | |
(3) | 体制強化②:マネジメント体制 | |
(3)-ア | 工場のガバナンス体制の充実 | |
(3)-ア-(ア) | 品質マネジメント部および第三者による定期監査 | |
| 製造本部による工場の定期監査の実施 | 品質総点検(自主点検)※経口製品、肌に触れる製品 |
社内定期監査の実施 | ||
第三者機関によるチェックの仕組みの構築 | 第三者機関による工場の監査の実施 | |
第三者機関による定期的な監査の継続 | ||
(3)-ア-(イ、ウ) | 「ものづくり推進室」の新設 | |
| 工場の統括機能の強化(ものづくり推進室の新設) 製造本部と工場の連携/コミュニケーション強化 | |
(3)-ア-(エ) | 統括的な衛生管理基準の策定 | |
| 経口製品群(医薬品以外)での衛生管理基準の策定 | |
肌に触れる製品群(医薬品以外)での衛生管理基準の策定 | ||
全製品カテゴリーでの衛生管理基準の策定 | ||
(3)-イ | 関連ルールの整備 | |
| 製品カテゴリーに応じた法令・各種ガイドラインの一元化 | |
品質保証方針の浸透の徹底 | ||
製造・研究・品質部門の品質活動同期化 | ものづくり品質行動方針の明文化 | |
(3)-ウ | 業務フローの見直し | |
(3)-ウ-(ア) | 開発部門と工場の協働 | |
| 「量産化見直し会議」の定期開催 | |
開発部門と製造本部の部門横断的な品質強化チームの立ち上げ | ||
(3)-ウ-(イ) | 新規技術領域における製造管理・維持管理等の向上 | |
| 新規技術領域への進出や事業拡大時におけるPMIプロセスの再考 | |
取得事業に関わる人材の育成・外部専門家の意見聴取体制の構築 | ||
取得事業に係る継続生産開始後における製造管理・品質維持管理体制の強化 | ||
(3)-ウ-(ウ) | 製品検査の強化 | |
| 製品特性に応じた複数検査・特定成分以外の成分混入の検出手順の検討・導入 | |
(3)-エ | 人事評価制度の刷新 | |
| 品質・安全に貢献する活動を評価対象とすることを軸とした人事制度の改定 |
②コーポレート・ガバナンスの抜本的改革
本項目における活動の概要は図表②のとおりです。これまでの主な活動としては、当社の現状を鑑み、あるべき取締役会構成の見直しを行い、社内外から様々な知見を有する人材を選定し、本株主総会で取締役候補者として株主の皆様にお諮りしております。また執行体制としては、専門性を高め意思決定の質とスピードを向上させる目的で、執行会議体の見直しを行っております。
併せて、危機管理体制強化の観点から、有事の対応組織及びリスク情報のエスカレーション体制を強化いたしました。
今後は、新しい取締役会のもと、監査役との連携をさらに強化して内部統制や品質管理の監督を充実させてまいります。
図表②
2 | コーポレート・ガバナンスの抜本的改革 | |
(1) | 創業家依存経営からの脱却 | |
| 代表取締役会長・社長の辞任 | |
社外取締役が過半数を占める取締役会による監督機能の更なる強化 | ||
(2) | 機関設計の再検証 | |
| 指名委員会等設置会社等への移行の検討 | |
取締役会構成の刷新・社外取締役増員、取締役会長外部招聘による監督機能強化 | ||
(3) | 取締役会による監督強化 | |
(3)-ア | 社外取締役による監督の強化 | |
| 取締役会の運営の見直し | 取締役会議長体制の変更 |
取締役会アジェンダの見直し | ||
社外取締役と監査役間の情報共有の仕組みの充実 | ||
社外取締役の任期ルールの制定 | ||
(3)-イ | 取締役会と執行サイドの連携強化(定例会議の新設等) | |
| 取締役会への適時適切な情報提供の仕組み作り | 取締役会と執行サイドの連携強化 |
リスク情報のエスカレーション体制の構築 | ||
(3)-ウ | 監査役への適時の情報共有 | |
| 監査役会と取締役会・執行サイドのコミュニケーションの促進 | |
(4) | 執行部の会議体の見直し(グループ執行審議会:GOMの廃止等) | |
| 会議体の再構成 | 経営執行会議の新設(執行の意思決定機関の明確化) |
グループ協議会の新設(多様な意見の収集) | ||
各種専門委員会の新設(専門協議強化/第三者視点採用) | ||
(5) | 危機管理体制の整備 | |
(5)-ア | 代表取締役社長を責任者とする対応体制 | |
| 専門性をもって迅速に意思決定を行う仕組み構築(品質安全専門委員会・品質安全緊急会議の設置) | |
(5)-イ | 有事を想定したリスクマネジメント | |
| 組織再編によるリスクマネジメント部門と取締役会事務局の連携強化 | |
平時におけるリスクマネジメント体制の構築 | ||
(5)-ウ | 有事の際の社内情報共有体制 | |
| 有事におけるリスク情報のエスカレーションフローの再整備 | |
取締役会にエスカレーションすべきリスク情報の考え方の策定 | ||
(6) | リスク・コンプライアンス体制の強化 | |
(6)-ア | ガバナンス推進会議の再整理 | |
| リスク・コンプライアンス専門委員会の設置 | |
(6)-イ | 誠実さを行動準則とした組織運営 | |
| インテグリティ経営の推進 | インテグリティ経営推進の専門部署の新設 |
役員向けインテグリティ研修実施 | ||
インテグリティ経営の風土の醸成 | ||
(7) | 対外的なコミュニケーション・情報発信の改善 | |
| 専門性を高めた組織編成による社内・対外コミュニケーションの活性化 | |
(8) | 品質・安全を最優先とした事業運営 | |
| 事業ポートフォリオ戦略の再構築・やめるべきことの決定(事業の選択とリソースの集中) | |
SKU数の削減の検討 ※SKUとは、Stock Keeping Unit(商品最小単位)を指します | ||
必要な人員や予算等のリソースの再分配 |
③全員が一丸となって創り直す新小林製薬
本項目における活動の概要は図表③のとおりです。まずは、専門性と多様性を重視した人材の確保や配置、育成に向けた人事制度改革に着手しております。次に、今後の当社のあるべき姿と、それを実行できる組織風土の構築を目指した全社横断のプロジェクトを発足いたしました。
また、本件事案を公表した3月22日を「品質・安全の日」とし、本件事案を決して風化させることなく、全員が一丸となって新たな小林製薬を創り直してまいります。
図表③
3 | 全員が一丸となって創り直す「新小林製薬」 |
| 専門性と多様性を重視した人材の確保・配置・育成 |
組織風土の見直し(組織風土改革プロジェクトの推進) | |
本件事案を風化させない取り組みの継続 3月22日(本件事案公表日)を「品質・安全の日」と制定 |
中長期の成長に向けた取り組み
現在は、上記の再発防止策を推し進めつつ、新小林製薬に向けたアクションプランとして、①構造改革の推進、②成長回帰に向けた開発基本方針、を定め進捗させてまいります。
①構造改革の推進
a. ポートフォリオマネジメント経営の推進
これまでの事業拡大を最優先とした経営により、限られたリソースを多数の事業に対して配分しなければならず、投資が分散されてしまう実態がありました。その結果、品質への投資といった事業拡大への寄与が見えにくい事項への投資が劣後する状況が顕在化してきていました。中長期の事業成長を実現するためには、中核領域と変革領域を整理し、外部環境の変化に柔軟に対応しながら、ポートフォリオを変えていくことが不可欠です。そこで、ポートフォリオマネジメント経営を積極的に推進してまいります。
今後、ポートフォリオマネジメント経営を通じてカテゴリーごとにメリハリをつけた戦略とすることで、製品構成も再編していきます。この取り組みにより、収益構造を回復し、粗利率の向上を図ってまいります。
短期的なアクションとしてはSKU数の最適化、広告効率の改善が急務であると考え、下記のとおり実践してまいります。
1)SKU数の最適化
・生産性の向上、製品品質の向上、利益率改善を目的として、SKU数25%の削減をターゲットとする
・今後の当社のビジネスモデルとして適切なSKU数を見極める
2)広告効率の改善
・Web広告へシフトすることで各ブランドのユーザー層(ターゲット)への訴求力を強める
(広告を再開した後に実行)
・2割程度の広告効果の改善を目標に、ブランドごと、媒体ごとの広告投資を最適化させる
b. 不採算事業の見直し
固定費の軽量化だけでなく、人的資本の活用を含む品質・安全投資のリソースの拡充を目的に、不採算事業の整理も視野に入れた抜本的な経営改革を実践してまいります。
②成長回帰に向けた開発基本方針
a. 新製品開発
お客様にリピートされる確かな品質と機能にこだわった新製品開発を推し進めてまいります。加えて、新製品販売後もお客様目線での改良と製品コミュニケーションを徹底することで、お客様の生活に根づき、5年を越えて愛される、なくてはならない製品として価値を高めていくことを目指します。
b. 海外事業成長
今後も海外事業を成長の柱として位置付け、グローバルブランドを定めて、引き続き投資を拡充させてまいります。一方、今後は限られたリソースを効率よく資本循環させるため、成長国を見極めた上で各地域の戦略を明確にし(例えば、東南アジアでは、タイ、マレーシアに続く成長国へ積極的に展開)、メリハリをつけた投資により期待されるリターンを最大化させていく方針とします。
c. 新規事業への布石
新規事業の進め方を再考するべく、当期より既存事業と切り離した組織として、「新規事業準備室」を設けています。今後は、当社の戦うべき新規事業領域を定め、リソースを集約して推し進めてまいります。
以上の取り組みにより、およそ3年後には本件事案発生前の利益水準に戻したいと考えております。
▶ 業績目標
業績予想の前提
国内の広告は第2四半期から再開する前提となっております。
インバウンド需要は前年並みの想定で織り込んでおります。
品質・人材への投資も強化してまいります。
将来の需要増や事業拡大に対応すべく、国内外の大型設備投資(新棟投資)を実施していきます。
原材料価格やエネルギーコストなど、様々なものが値上がりしていますが、今後も高止まりが続くと見込んでおります。
| 2024年12月期 | 2025年12月期 | ||
金額 | 金額 | 対前期 増減率 | 売上高 利益率 | |
売上高 | 1,656億円 | 1,710億円 | 3.3% | - |
営業利益 | 248億円 | 140億円 | △43.7% | 8.2% |
経常利益 | 268億円 | 153億円 | △43.0% | 8.9% |
親会社株主に 帰属する 当期純利益 | 100億円 | 105億円 | 4.3% | 6.1% |
EBITDA(※) | 328億円 | 228億円 | △30.5% | 13.3% |
EPS | 135.42円 | 141.25円 | 4.3% | - |
ROE | 4.8% | 5.0% | - | - |
配当 | 102円 (中間43円、期末59円) | 104円 (中間44円、期末60円) | - | - |
国内事業売上高 | 1,199億円 | 1,200億円 | 0.1% | - |
国際事業売上高 | 451億円 | 505億円 | 11.8% | - |
※ EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却額
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