新日本科学
【東証プライム:2395】「サービス業」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在(2025年3月31日)において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、次の使命を掲げております。
「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する事を絶対的な使命とします。」
当社グループは、この使命の実現に向け、医薬品開発分野におきまして、網羅的に非臨床試験と臨床試験を受託できる研究機関として事業基盤の確立を図ってまいりました。半世紀を超えて長年培った研究実績や豊富な経験を活かして、最新の設備と確かな技術であらゆる疾患分野における医薬品開発のサポートを実施しております。
一方、科学技術の進展により、医薬品の開発環境は大きく変化します。このような新しい環境の変化にも迅速に対応し、世界に通用するビジネスモデルを構築して、当社の理念を共有でき優れた発想や卓越した才能を持つバイオベンチャーなどと共存共栄を図っていくTR事業にも積極的に取り組んでまいります。
社会貢献と企業価値の極大化を経営の基本方針として、株主、顧客、取引先、従業員等すべてのステークホルダーの期待に応えるべく努力を重ねてまいります。
(2)目標とする経営指標
当社グループは、企業価値を向上させるため、各事業の創出する利益を極大化することを重視し、営業利益、経常利益の増大および利益率の改善を経営目標にしています。また資本収益性の指標についてはROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を重視し、取締役会での報告事項としております。さらに、資本コストを意識した経営を実践すべく、資本コストを上回るROEとROICの維持・向上を図るとともに、財務健全性の維持と株主還元のバランスの最適化に努めています。2025年3月期の業績をもとにした資本コストは4.8%と試算しております。β値は直近5年間の週次データをもとに0.94と算出しています、2025年3月期のROE13.3%、ROIC10.4%は、いずれも資本コストを上回っています。
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社は2022年10月に「統合報告書」を発行し、その中で当社の展望として「2028Vision」を掲げ、2028年度の財務KPI(目標)として「売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%、配当性向30~40%」としました。さらに2023年11月発行の「統合報告書2023」において、重視する資本収益性の指標としてROEとROICを加え、2028年度の財務KPIとして、「ROE10%以上」「ROIC10%以上」を設定しました。これは現在の基幹事業であるCRO事業が引き続き業績をけん引するという考えを基に作成しております。具体的には、第1の成長エンジンである実験用NHPを用いた非臨床事業、第2の成長エンジンである新日本科学PPDで実施している国際共同治験(Global Study)の受託による臨床事業の2つのエンジンが引き続き収益をけん引することを前提としていますが、中長期的には当社が独自に開発したSMARTによる経鼻医薬品が第3の成長エンジンになるように注力してまいります。簡単に真似のできないビジネスモデルによる成長エンジンを拡大および増加させることで持続的成長を推進する経営戦略を進めてまいります。
(4)経営環境
医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化ならびに規制当局への対応簡素化を期待してCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)へのアウトソーシング(外部委託)の動きが引き続き活発化しております。加えて核酸医薬、次世代抗体医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療などの新規創薬モダリティ(治療手段)の研究開発が本格化してきています。当社はこれら新しいタイプの治療薬の開発で需要が高まっている実験用NHPにCROで世界唯一、自社グループ内における繁殖・供給体制を構築できている強みを持ち、実験用NHPにおける豊富な実績と知見をもとに、顧客の開発パートナーとして開発戦略に最適な非臨床試験をパッケージで提案、試験受託できることがグローバルベースでの高い評価につながっています。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
こうした中で、当社グループが対処すべき課題は次のとおりです。
① CRO事業の更なる強化
医薬品業界では、国内、海外問わず、ワクチン開発、治療薬開発が急速に進んでおります。また、昨今の医薬品開発において、低分子医薬から抗体医薬・核酸医薬、さらに再生医療・遺伝子治療へと創薬モダリティの多様化に伴う医薬品開発難度の上昇に起因する医薬品の研究開発費増加が進み、迅速かつ質の高いCROへのアウトソーシングのニーズが高まっております。こうした中、次のような観点からCRO事業の強化を図ってまいります。
サービス拡充という観点からは、ワクチン並びに感染症治療薬開発にCROとして参画するとともに、従来型の安全性試験に加え、候補化合物選定のための創薬スクリーニングから臨床試験に至るまで一貫して開発に必要な試験を受託することで、開発者側の視点に立ったより付加価値の高いサービスを提供することを目指します。東南アジアでの当社グループ施設の実験用NHP繁殖体制を強化すると共に、国内でも十分な規模の繁殖体制を確立させ、輸入リスクの軽減と品質向上を目指しております。
また、上述した創薬モダリティの多様化が進む中、新規安全性評価システム(New Approach Methodologies: NAMs)として期待されているMPS(Microphysiological System:生体模倣システム)の受託のための専用実験室も設置し、国内CROとして初めて受託サービスを開始しております。今後も常に業界の動きにいち早く対応した幅広いサービスを提供してまいります。
オペレーションの観点からは、作業工程におけるロボット化や自動化等のDX推進による内部業務プロセスの見直しと改善を進め、新たな時間的価値創出を目指すGENJIプロジェクトと名付けた社内活動などによる業務革新、コストの削減、試験の早期開始などに努めるとともに、年々需要が高まっている新規創薬モダリティ医薬品開発に不可欠な実験用NHPのサプライチェーンマネジメントについても、日本・中国・カンボジアのグループ関連施設における検疫・繁殖・育成能力をそれぞれ増強することにより、リスク分散を図りつつ今後の事業成長に必要な品質の高い実験動物を安定的に確保できる体制を構築していきます。また、非臨床事業の大型受注に対応できる体制構築を主目的として2022年12月に建設着手した鹿児島本社敷地内での新社屋・研究棟の建設は、計画通り2024年5月末に竣工、本格的に稼働を始めました。NHPを使用する実験室の増設も進めております。
人財育成という観点からは、若手研究員を中心にサイエンスレベル向上に注力してまいります。顧客に対してより効果的で効率的な試験を提示できる提案型CROを目指しており、国内外の複数の学会において研究成果の発表及び論文発表を行っております。
② 第3の収益エンジンとしてのTR事業の推進
TR事業では、当社グループの医薬品開発における機能、経験とネットワークに、独自の知的財産に基づく基盤技術を加えることで、創薬型の医薬品開発事業へとパラダイムシフトするという戦略に基づき、次の複数のプロジェクトに取り組んでまいります。
当社のTR事業が有する経鼻投与基盤技術(SMART:Simple MucoAdhesive Release Technology)の応用性評価を行うためのフィージビリティ試験や応用領域の拡大を図るための拡張技術研究に基づいて、経鼻吸収による全身作用を企図した複数の候補化合物の新規事業化をこれまで進めてまいりました。併せて、高い噴射性能と利便性を併せ持つ、独自の経鼻投与デバイスも開発し、さらなる改良を重ねております。未充足医薬品市場を確実に捉え、SMARTのフィージビリティ試験を繰り返すことによって、経鼻吸収による全身作用を企図した候補化合物について絞り込みを行った結果、経鼻神経変性疾患レスキュー薬を臨床開発段階へと進展させました。現在、その開発は、本剤の開発権をライセンスアウトした連結子会社のSNLD社が引き継いでおり、2024年1月に臨床第2相前期試験における患者様への投薬を完了しました。また、更なる利便性向上を企図した、TR-012001の改良開発品(TRN501)についても2024年8月に臨床第1相試験における日本人健康成人への投薬を完了し、データ解析と総括報告書の作成を進めており、国内外での学会発表を計画しています。
また、連結子会社のSatsuma社では、当社からライセンスを受け米国で開発した経鼻片頭痛薬「Atzumi™」(開発コード:STS101)が2025年4月30日(米国時間)にFDAの販売承認を取得しました。現在Satsuma社は、SMARTを応用した製品第一号としての上市を目指し、パートナー候補企業と契約締結に向けた活動を進めております。
さらに、経鼻ワクチンに関する研究については、呼吸器感染症の流行を抑制し得る新規経鼻ワクチンを世界に先駆けて開発することを目的として、2023年1月に近畿大学生物理工学部と共同研究契約を締結し、さら同年4月には近畿大学名誉教授・医学部客員教授の宮澤正顯(まさあき)氏をトップに擁し当社TR事業本部 経鼻粘膜ワクチン研究開発センターを立ち上げました。経鼻ワクチンの研究においては、ワクチンの効果を高めるためのアジュバント製剤に関する研究にも取り組んでおり、今後、その研究開発を推進するために、ワクチン開発会社や研究機関との更なる連携体制構築を目指してまいります。まず製剤研究とデバイスの改良をベースに非臨床POCの取得にのぞみ、事業化を目的とした早期の臨床試験入りを目指してまいります。
一方、Gemseki事業では、これまで推進してきたグローバルな創薬シーズ・技術のライセンス仲介事業を推進すると共に、同社を無限責任組合員としたファンドによる投資事業を活発化しております。当社との事業シナジー創出に向けた検討を進めるとともに、国内外の顧客に対し、当社グループが保有する豊富な創薬経験とグローバルネットワークを活用した開発支援サービスを幅広く提供してまいります。
③ SDGs/ESGへの取組みを通した非財務価値の向上
当社は「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」の理念のもと、企業の持続的成長にサステナビリティ推進の取組みが重要であると強く認識し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
当社グループ全体のサステナビリティの取組みを中長期的な視野で体系的に拡充し推進させていく目的から、当社取締役会の任意の諮問機関として「SDGs委員会」を設置し、毎月開催しています。SDGs委員会は独立社外取締役を委員長として、サステナビリティに関する重要な案件について審議・策定しています。取締役会ではSDGs委員会からの報告を基に、サステナビリティに関する基本方針や重要事項を決定の上、社内で取組みに関する監督が適切に図られるよう体制を整えています。
持続的な企業価値の向上に向けて、事業を通じた「社会課題の解決」及び「経営基盤の強化」の視点から、7つのマテリアリティを特定しています。マテリアリティの特定にあたっては、当社の将来ありたい姿を踏まえて、社会課題及び社会からの要請に対する、当社へのリスク・機会を検討の上、抽出しました。そのうえで、マテリアリティごとに非財務KPIを設定し非財務価値向上に取り組んでいます(https://ssl4.eir-parts.net/doc/2395/ir_material5/243035/00.pdf)。
| マテリアリティ | 主な機会 | 主なリスク |
社会課題の解決 | 創薬と医療技術向上の支援 (医薬品アクセスの向上) | ・新たな創薬モダリティの開発加速による非臨床試験の需要増加 ・製薬企業のCROへのアウトソーシング化の加速 | ・顧客ニーズへの対応力不足による信用力の低下 ・次世代の非臨床試験技術への対応の遅れによる競争力の低下 |
健康な人生の提供 (ウェルビーイングな暮らし) | ・超高齢化社会に伴う社会保障費増加による健康寿命の延伸、未病ニーズの拡大 ・リアルワールドデータ(RWD)の利活用による新規市場の獲得 | ・ウェルネスプログラムにおける消費者ニーズ とのミスマッチ ・RWDの利活用システムの開発・整備や制度変更への対応の遅れによる市場獲得の失敗 | |
美しい地球環境の保全 | ・カーボンニュートラル実現に寄与する地熱発電(再生可能エネルギー)の事業機会の拡大 ・異常気象に適応できる事業体制の強化 | ・気候災害の激甚化による被害の発生 ・環境規制強化による対応費用の増加 | |
経営基盤の強化 | 働く楽しさを実感できる 組織づくり | ・優秀な人材の獲得の機会 ・働きがいのある職場環境の整備を通じた社員の生産性、モチベーションの向上 | ・人材獲得競争激化によるコストの増加 ・職場環境の整備不足による優秀な人材の流出、生産性・モチベーションの低下 |
DX/RPA*推進による ビジネスの進化 | ・業務生産性、顧客とのコミュニケーション レベルの向上 ・単純作業から解放された社員のモチベーションの向上 | ・DX対応失敗又は遅れによる競争力の低下 ・ニッチなニーズ対応に伴う費用の増加 | |
ステークホルダー エンゲージメントの向上 | ・ステークホルダーとの関係強化による新規事業機会の獲得、信用度の向上 ・持続可能な調達体制の構築による災害時等に おけるレジリエンス(回復力)の向上 | ・事業活動、サプライチェーンの広域化による、モニタリングコストの増加 ・事業環境の変化に適切に対応出来ない場合に 発生する事業遅延や信用力の低下 | |
企業理念を実現する ガバナンスの構築 | ・強固なガバナンス体制を確立することによる 安定的な事業基盤の構築 ・ESGを中心とした社外評価の向上 | ・内部統制の脆弱性による事業継続リスクの 発生、予期せぬ損失の発生 ・コンプライアンス違反による企業信頼度低下 | |
*Robotic Process Automationの略。ソフトウェアロボットやAIを活用し、人が行っていた定型的な業務を自動化すること |
④ 優秀な人材の確保と育成
当社グループの事業継続及び拡大にあたっては、各分野における専門的な知識・技能を有する技術系研究員等の人材を多数確保する必要があります。また、クラウド化、AIなどのデジタル技術の発展やオンライン化によるビッグデータの獲得・活用など、IT技術が急速に浸透している中、変化する経営環境に適応するためのマネジメント能力を備えた人材を必要としています。当社グループの競争力を強化する上で最も強く求められるのは、顧客から高く評価される質の高いサービスの提供であり、これを実現するためには優秀な人材の確保とレベルアップが必要であります。
こうした人材の確保や教育研修のために、当社では新卒採用を強化し、社内教育機関の「SNBLアカデミー」を中心として、職種、職位に応じた研修を最重要課題として取り組んでおります。また、女性が社員の過半数を占める当社では、女性活躍に注力しており、産休・育休からの復帰も100%の状況となる中、引き続き女性の管理職登用数の増加に努めてまいります。
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