清水建設
【東証プライム:1803】「建設業」
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企業概要
当社グループの当連結会計年度における研究開発費は212億円であり、うち当社の研究開発費は203億円であります。研究開発活動は当社の技術研究所と建築総本部、土木総本部等の技術開発部署で行われており、その内容は主に当社建設事業に係るものであります。
当社は、建築・土木分野の生産性向上や品質確保のための新工法・新技術の研究開発はもとより、多様化する社会ニーズに対応するための新分野・先端技術分野や、さらに地球環境問題に寄与するための研究開発にも、幅広く積極的に取り組んでおります。技術研究所を中心とした研究開発活動は、基礎・応用研究から商品開発まで多岐にわたっており、異業種企業、公的研究機関、国内外の大学との技術交流、共同開発も積極的に推進しております。
研究開発の成果の一部は、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博という。)に展開しており、視覚障がい者向けナビゲーションロボット「AIスーツケース」の実証運用や、水産系廃棄物のホタテの貝殻を再利用し、当社の3Dプリンティング技術で製造したベンチ「HOTABENCH(ホタベンチ)」の展示を行っております。また、省スペース型の建築物向け水素エネルギーシステム「Hydro Q-BiC Lite」によるパビリオンへの水素エネルギーの供給も行っております。
その他、研究開発の成果として、今年度も日本建築学会、土木学会、日本コンクリート工学会、空気調和・衛生工学会をはじめ、さまざまな学協会からの賞を受賞しております。
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は次のとおりであります。
(1)建築・土木に関する技術開発
建築・土木分野における品質・安全性の向上、生産性の向上、環境負荷軽減に向けた多角的な研究開発を進めております。
①外装デザインの自由度を飛躍的に向上させる3次元自由曲面ガラスファサードを初実装
技術研究所本館エントランスのガラスファサードに、自由曲面の「3Dガラススクリーン構法」を採用しました。この構法は、近年の建築ファサードデザインの複雑化を踏まえていち早く研究開発に着手し、実現したものです。化学強化ガラスを使い、従来必要だったリブガラスを排除しました。形状そのものが剛性を担保し、ガラスファサードデザインの自由度を飛躍的に向上させ、耐震・耐風圧性や施工性の課題もクリアしました。設計にはコンピュテーショナルデザインを活用し、最適なパターンを選定しました。最大300mmの起伏(凹凸)を持つガラスファサードは国内初です。今後は各種大規模施設のエントランスや商業施設のファサード等への展開を目指し、提案を進めていきます。
②材料噴射型3Dプリンティング技術を実工事に初適用し有筋構造部材をオンサイト施工
プリント材料を圧縮空気でロボットアーム先端のノズルから噴射するモバイルプリンタと自動材料製造装置を開発し、実工事に初めて適用して有筋構造部材の現場施工を実施しました。鉄筋の外周から材料を噴射する新技術により、従来困難だった有筋構造部材の直接施工が可能となり、従来工法より工期を約4割短縮しました。また、本技術による造形体は、鉄筋コンクリート部材と同等以上の構造耐力と靱性を有し、鉄筋コンクリート構造物より木製型枠の使用量を削減可能で、環境負荷低減にも寄与します。今後は、造形精度や複雑形状への対応強化に加え、既設構造物の補修や災害時の応急復旧への応用も視野に開発を続ける方針です。
③設計の初期段階から施設のデザイン検討、人流・音響の性能評価を同時実施可能なシステムを開発
企画・基本設計の高度化を図るデジタルプラットフォーム「Shimz DDE」に、3Dモデルの中で数万人の群集行動を評価・可視化できる「Pedex」と、コンサートホールや劇場などの反射音や残響等の音響性能を評価・可視化できる「Audix」を追加しました。両システムは、専門家でなくても一目で性能を把握できる視覚的な出力を提供でき、すでに複数の設計施工物件で信頼性も検証済みです。1日足らずで数千パターンの性能を評価し、最適案を選択することができます。従来、設計案が固まった時点で専門家に依頼していた人流・音響の性能評価を、不確定要素が多い設計の初期段階で、設計者が自らデザイン検討と同時に実行することが可能になりました。今後、両システムを活用し、最適な人流・音響性能を備えた施設の設計・提案力の高度化を図ります。
④画像解析AIでトンネル坑内の作業状況を自動判定し関係者にリアルタイム通知
山岳トンネル工事の施工管理を効率化するため、これまで把握が難しかったトンネル内の作業状況をAIで自動判定し、リアルタイムで関係者に通知する「AIサイクル自動判定システム」を開発しました。AIがネットワークカメラの映像を解析して作業内容を即時に判断し、チャットツールを通じて現場全体に情報共有します。これにより、経験や勘に頼っていた工程調整の精度が向上し、不要な待機時間を大幅に削減できます。実際の工事現場への試験導入では、職員の待機時間を約40%削減するなど、現場の生産性向上に大きく貢献しております。
その他、建築・土木に関する技術開発の主な成果は以下のとおりです。
⑤超高層ビル建設を効率化する国内最高の速度と最大積載量を備えた工事用エレベータを開発・実用化
⑥GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球測位衛星システム)によりクレーンのブームの位置と向きをリアルタイムで検出し、衝突事故を防ぐ衝突危険警報システム「クレーンアシスト」を開発・実用化
⑦最大3トンの天井工事用ステージ足場をそのまま移設可能な電動台車を開発し、天井工事の効率化と作業負担の軽減を実現
⑧杉板型枠に塗布することで美しい木目調コンクリートの仕上がりと良好な施工性、型枠再利用を実現する「超撥水剤」の外販を開始
⑨高速道路高架橋の支承交換工事において、重量約1~2tの支承を水平移動できる装置で狭あいな橋桁下での支承交換作業を大幅に効率化し、作業員の安全性向上と負担軽減を実現
⑩高速道路高架橋の床版のはく離撤去と新設を1台の自走式装置で安全に効率よく行う「グラビングエレクター工法」を開発
⑪穿孔のパターン・順序の修正計算を瞬時に行い山岳トンネルの発破掘削を効率化する、穿孔差し角自動制御システム「ブラストマスタII」を開発
⑫Starlink活用によるトンネル建設現場の通信エリア化と3D点群データのリアルタイム伝送を実現し、現場の定期巡回・施工管理にかかる時間を大幅に短縮
⑬従来比2.8倍のコンクリート運搬が可能な密閉・吊下げ構造のベルトコンベヤ「SCプレミアムベルコン」を開発し、ダム工事を大幅に効率化
⑭大型風車施工の工期を大幅に短縮する国内最大の移動式タワークレーンを開発し、国内最大の陸上風力発電所に適用
⑮腰をかがめず足元の鉄筋を結束できる「鉄筋結束アシスト装置」を開発し、作業者の身体的負担軽減と作業効率向上を実現
(2)脱炭素・資源循環・自然共生社会の実現に資する技術開発
脱炭素、資源循環、自然共生により持続可能な社会を実現するため、多方面にわたる研究開発を行っております。
①バイオ炭を活用した環境配慮型施工技術「SUSMICS」シリーズの拡充と第三者機関によるCO₂排出量の定量評価・検証を実施
CO₂固定効果のあるバイオ炭を活用した環境配慮型施工技術「SUSMICS」シリーズを開発し、CO₂排出削減に取り組んでおります。新たに「SUSMICS-S」を開発し、流動化処理土にバイオ炭を混ぜることで、セメント使用時のCO₂排出削減と施工品質の向上を実現し、約8tのCO₂固定効果を達成しました。「SUSMICS-S」の大きな特徴は、既存の流動化処理土製造設備で容易に製造可能な点です。広範な現場での適用が期待され、今後は、山留めソイルセメント壁や建物基礎下の地盤改良などにも適用領域を拡大していく予定です。そのほか、日本道路㈱と共同でバイオ炭を添加した環境配慮型アスファルト「SUSMICS-A(日本道路㈱での呼称は「バイオ炭アスコン」)」も開発・製品化しております。
環境配慮型コンクリート「SUSMICS-C」については、施工実績に基づくCO₂排出量の定量評価を実施し、第三者機関による確認も得ております。当社はこれらの技術の適用拡大を進め、建設業界の脱炭素化と持続可能な社会実現に貢献します。
②再生可能エネルギーで水素を製造・貯蔵・利用可能な建築物向け水素エネルギーシステム「Hydro Q-BiC」シリーズを拡充
太陽光発電による再生可能エネルギーで水素を製造、貯蔵、利用し、CO₂排出削減とエネルギーの地産地消を実現することが可能で、都市部への展開を進めております。中核技術の「水素吸蔵合金タンク」は、常温・低中圧で水素を安全に貯蔵可能なため都市部に設置でき、かつ、コスト削減と効率向上を実現しております。また、省スペース型システム「Hydro Q-BiC Lite」を開発し、水素製造から利用までを1台のコンテナで完結することを可能にしました。設置工事の簡素化とコスト低減も実現し、大阪・関西万博のパビリオンに採用されました。このほか、「Hydro Q-BiC Storage」は、外部から搬入された水素の効率的な貯蔵・供給が可能です。これらの水素の製造、貯蔵、供給を一体的に担うシステムにより、再生可能エネルギー設備の設置が難しい都市部における熱供給の脱炭素化に貢献します。
その他、脱炭素・資源循環・自然共生社会の実現に向けた技術開発の主な成果は以下のとおりです。
③「温故創新の森 NOVARE」で、エネルギー損失とCO₂排出を抑えた再エネ電力の利用や非常時の電源確保が可能な直流配電システムを実証
④ジオポリマーコンクリートで産業副産物の最大使用率96%(重量比)を実現し、コストとCO₂排出量を削減
⑤セメントの約80%を高炉スラグ微粉末に置換した環境配慮型コンクリートを共同開発し、製造時のCO₂排出量を約8割削減
⑥プラットフォーム「Civil-CO₂」により膨大な資機材とCO₂排出原単位の情報参照を自動化し、土木工事のCO₂排出量の算出業務を大幅に省力化
⑦超高層ビルの解体現場から排出される廃板ガラスをさまざまな製品にリサイクルし、従来の廃棄処理と比べCO₂排出量を削減
⑧建設現場から排出された廃プラスチックのマテリアルリサイクルを開始し、100%リサイクル材由来のカラーコーンを作成・利用開始
⑨米国内で当社独自技術による実汚染土壌の浄化試験に成功し、有機フッ素化合物(PFAS)含有量の約99%を従来と比べ低コストで除去
⑩従来浄化が困難だった汽水・海水環境下の土壌・地下水を、低コスト・低CO₂排出量で浄化可能な微生物であるデハロゲニモナス属細菌を発見し、単離することに成功
(3)デジタルサービスに関する技術開発
デジタルゼネコンとして先端デジタル技術を活かした各種サービスにも力を入れております。
①デジタル技術により首里城正殿復元整備工事の現場や大本山永平寺のデジタルツインを構築
首里城正殿復元整備工事において、360°カメラで撮影した施工記録データを加工してデジタルツインを構築し、今しか見られない復元工事の現場をバーチャルツアーできるようにしました。また、曹洞宗の大本山永平寺と共同で、3次元点群測量により重要文化財19棟の精緻なデジタルツインを作成し、歴史的建造物をその骨組から彫刻等の細部に至るまで、ありのままの姿でデジタル空間上に保存することを可能にしました。伽藍内全棟、大小100余棟についても、当社開発アプリ「デジトリ360」を使ったデジタル空間とオンライン参拝するための各コンテンツを、先行して製作しております。このような、歴史的建造物を合理的な費用と工期で確実に後世に残す取組みを、今後各方面に提案していきます。
その他、デジタルサービスに関する技術開発の主な成果は以下のとおりです。
②3次元仮想空間上の固定資産管理台帳「Shimz One BIM+(プラス)」で固定資産の所在確認や維持保全情報の入力等の棚卸し業務を大幅に効率化
③医療施設DXシステム「eye MIRU」で建物設備の稼働状況やヒト位置データを電子カルテや会計情報と連携し外来診療業務を効率化
④各種デジタルサービスを導入してビル運営の生産性向上や利用者の利便性向上を目指すDX実証実験を開始
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