ZenmuTech
【東証:338A】「情報・通信業」
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企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の項目であると認識しております。また、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「安心・安全な情報の利活用で世界を変える」ことを目的として、事業に取り組んでおります。
そのビジョンとして、
・当社のソリューションを通して、安全な情報社会の一翼を担う。
・情報の利活用により、潜在価値の発掘・新たな価値の創造に貢献する。
を基本方針に、情報セキュリティ事業を展開してまいります。
(2) 経営環境
ビッグデータやAIの発展により有用なデータが蓄積されるようになり、企業間でデータを活用し、製品・サービスの改善や労働生産性の向上、新たな市場の出現等が期待されています。しかし、そのデータは、サイバー攻撃による広範囲に影響をもたらす情報漏洩、従業員がPC等のデバイスを外部に持ち出すことによる過失や内部不正による漏洩及び紛失、ハッキング、改ざん等のリスクにさらされており、データにアクセスするエンドポイントデバイスやモバイルデバイスに対するセキュリティソリューションの需要が高まっております。このような現状を踏まえ、世界のエンドポイントセキュリティ市場規模は、2023年から2030年にかけて 年平均成長率 7.4%で拡大し、2030年には288億米ドルに達すると予測されています。(注1)
さらに、主力ソリューションである「ZENMU Virtual Drive」は、情報漏洩対策のソリューションとして位置付けることが可能であり、類似の目的として利用される仮想デスクトップソリューションの市場規模は2024年の予測では834万ユーザー程度と推定されており、新型コロナウイルス感染症の流行を背景にしたリモートワークの導入または拡大を検討する企業からの需要により2027年まで緩やかな成長が見込まれており(注2)、価格差や利便性を強みとした置き換え提案、またはオフライン対応やローカルデータ保護としての同時利用による共存により、同市場のユーザー数の獲得による成長が見込まれます。なお、当社の売上高の推移は以下のようになっております。
今後は特に、「ZENMU Virtual Drive」を中心とした秘密分散ビジネスが順調に伸長していくものと予想しております。当社の秘密分散技術によるソリューションは、PC等のデバイスにあるデータをセキュアに保護し、上記の仮想デスクトップソリューションに対して導入費用およびランニングコストの両方において低コストかつ秘密分散技術の利用によりデータの通信量が小さく、ネットワーク環境に左右されずに作業スピードを維持することができることに優位性があると考えており、セキュリティ対策とコスト、業務効率の両立を重視する顧客に対して最適なソリューションの提供に努めていく方針であります。
<事業別売上高の推移>
| 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
秘密分散ビジネス(千円) | 180,526 | 376,727 | 511,858 |
秘密計算ビジネス(千円) | 15,855 | 50,280 | 120,000 |
その他(千円) | 35,900 | 13,783 | 17,083 |
合計 | 232,282 | 440,791 | 648,942 |
また、後述の秘密計算技術につきましては、海外市場(特に米国市場)は既に活況を呈しており、秘密計算「Confidential computing」の世界市場の規模は2024年に160-180億ドル、2026年に520-540億ドルと推定されるなど拡大することが予想され、「Confidential computing」の中でも当社が採用する「Multi-party computing」においても、次の図のように2024年から2026年にかけて高い成長が見込まれており、2026年には30億ドルの市場になると推定されております。(注3)
このような環境のもと、グローバルなマーケットを見出すため、米国の大規模なスタートアップ展示会への出展を行い、大手シンクタンクとの共創によりソリューションを適用できる領域をリサーチするなど、事業化に向けて取組んでまいります。
(注)1.IDC Japan㈱ 国内クライアント仮想化市場予測、2023年~2027年
2.Grand View Research, Inc.「エンドポイントセキュリティの市場規模、シェア、動向分析レポート:コンポーネント別、展開別、組織別、用途別、地域別、セグメント予測、2023年~2030年」
3.CONFIDENTIAL COMPUTING CONSORTIUM「Common Terminology for Confidential Computing」
(3) 中長期的な経営戦略
データの「保護」からデータの「活用」へ
デバイスに残されているローカルデータの保護は当社の秘密分散ソリューションで保護することが可能となりますが、今後、5G(第5世代移動通信システム)により通信環境が飛躍的に伸びることが期待される中で、クラウドストレージ上に保存されるデータの保護に移行していくことが予想されます。当社は、このような情勢にも対応すべく製品開発に注力し、さらに、保護された膨大なデータの利活用を促進し、新しい価値を創造することができるよう秘密計算技術の向上に努めてまいります。
各ソリューションの事業戦略は次のとおりです。
■秘密分散ソリューション「ZENMU」シリーズ
当社の事業の柱である、秘密分散ソリューションにつきましては、下記の活動を推進してまいります。
①ZENMU Virtual Drive
主力ソリューションである「ZENMU Virtual Drive」に関しましては、一部企業に出社回帰の動きがみられるもののコロナ禍により拡大したリモートワークが定着しており、オフィス出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークが主流となり、引き続きPCの持ち出しとその際のセキュリティ需要は根強いものと見込んでおります。
このような市場環境に対して、VDI導入済企業や導入検討中の企業に対して引き続き価格差や利便性を強みとした置き換え提案をおこなうほか、VDIを利用しているもののPC内に一部保存されるローカルデータ保護を目的に、VDI利用企業を顧客にもつ販売代理店と連携しVDIの追加オプションとして「ZENMU Virtual Drive」の機能制限版を提案することで数年ごとのPCおよびセキュリティ見直しのタイミングに限らない導入機会の創出を目指しております。
②ZENMU Engine
秘密分散技術の活用領域の拡大に関しましては、スマートウォッチなどのウエアラブル端末や監視カメラ、ドローン等のIoT機器が普及していくことに伴い、コンピュータネットワーク末端にあるエンドポイントデバイスのデータの保護、転送中のデータ保護が重要になっていくことが予想されます。市場予測を踏まえ、「ZENMU Engine」の提供による秘密分散技術を組み込んだOEM商品の多様な可能性を検討しているフェーズにあります。以下が、その適用例となります。
これら適用例のうち、無人航空機(ドローン)分野では2022年からドローン技術をもったパートナーとともに秘密分散技術ソリューションをドローンや移動型ロボットに搭載する技術「インテグリティ・ドローン」の技術検証の段階に入っております。
産業領域や物流領域において、有翼型・マルチコプター型の無人航空機であるドローンの活用の用途が広がり、災害時の情報収集等に警察・消防でもドローンや自律移動型ロボットの導入が推進されています。
(注)警視庁「国家公安委員会・警察庁防災業務計画」第1-2 多様な情報収集手段の整備
しかしながら、ドローン、ロボットの機体には自律移動用のプログラムや、飛行経路の情報、撮影したデータ等の機密情報を多数含んでおり、予期せぬ落下等の事故による情報漏洩のリスクがあります。
このような場合にも当社の秘密分散技術を組み込むことで、ドローンのデータを瞬時に無意味化することができます。
今後も「インテグリティ・ドローン」の事業化を、パートナーとともに着実に実現し、多分野にわたる活用領域の拡大を進めてまいります。
また、監視カメラ市場においては労働人口の減少にともない、管理センターなどから有人監視するのではなく、画像解析AI等と組み合わせたいわゆる「AI監視カメラ」の導入が拡大しております。一方でAI監視カメラの設置拡大にともない、プライバシーなども含む録画データの保管、転送過程でのセキュリティ上の懸念やデータ量の増加による通信、保管コストなどの課題も発生しており、当社の秘密分散技術によるデータ保護やデータを任意のサイズや個数に分割可能なAONT方式の特色は通信および保管時のコスト削減などにも貢献可能であることから、AI監視カメラや画像解析技術を持つ企業などを対象に同分野でのOEMパートナーの開拓を進めております。
■秘密計算ソリューション
①データ利活用の現状
今日のビジネス社会では異なる複数の企業同士が相互補完的に共存・共栄していく仕組みである「エコシステム」を構築することで、新たな製品やサービスの創出を可能にしています。
同様に、「データエコシステム」は、多様な産業の企業が、自社データと外部データ、自社データと自社グループ内のデータ等を掛け合わせ、新たなビジネスモデルを創出すべくデータを価値あるものにしてゆく取り組みです。デジタルマーケットの変革のなかで、顧客とのエンゲージメントの最適化を図るデータ利活用の需要は高くなることが予想され、データの自由な流通をさらに高め、マーケットが求めるインサイトを発見し、革新的なビジネスモデルやサービスの開発による付加価値の向上、プロセス改善等をもたらすことが期待されています。
このように、データの利活用への関心が高まる一方で、実際に組織間で機密性の高いデータを共同利用する場合、結果やインシデントに対し誰が責任を持つかといったデータの扱いに関するポリシーの確立や、個人データを含むプライバシーの保護とセキュリティの双方を担保することが高い障壁となっております。
②機密性の高いデータを暗号化されたまま解析
当社は、秘密分散技術を活用した秘密計算技術について、産業技術総合研究所との共同研究により、秘密計算ソリューション「QueryAhead」の開発を行ってまいりました。
秘密計算技術の仕組みは以下のようになります。
データをPCやサーバー上に保存する際や転送する際には秘密分散技術によりデータを暗号化された情報に分散します。この場合、データの無意味化により誰も読み取ることができず、安全が確保されています。
一方で、実際にそのデータを処理する際には、従来は元のデータに復号(復元)する必要がありました。復号されたデータは、誰にでも読むことのできる状態となることから、情報漏洩などのおそれがあります。
次の図は秘密計算の仕組みをイメージしたものですが、秘密計算技術では暗号化されたデータを復号することなく秘匿化したまま処理することが可能となります。
③秘密計算技術の今後
秘密計算技術により、個々の企業や研究機関が所有し、情報漏洩や改ざんリスクのおそれがあるため外部に出すことのできなかった機密データや、個人情報などを秘匿したまま加工・分析することが可能となり、データのセキュリティを担保しつつ、データの利活用が活発になることが期待されております。複数の企業の持つデータを結合・活用してデータ解析を行うことで、産業の活性化や新たなビジネス機会の創出および価値の創造が期待されています。
例えば、医療分野では、個人情報を含んでいるDNA情報や疾病情報などを各医療機関、製薬会社等とデータを秘匿化したまま共有、分析することで、より最適な創薬や医療サービスが提供できる可能性があります。
当社では、秘密計算を適用できる分野やアプリケーションを検証している段階にあり、秘密計算の適用領域として、「金融」「製造・物流などのサプライチェーン」「材料開発」「ヘルスケア」分野を主なターゲットと定めております。
当社では、複数の企業と秘密計算の早期事業化に向けて、以下のプロセスで取り組んでまいります。
a.秘密計算の適用により有効な用途となりうるかを検証し、試作を開発
b.実現可能であるか、目的の効果を得られるかなどを確認する概念実証の実施
c.実際の秘密計算ソリューションの開発
まずは材料開発および製造業への適用検討を図っています。これらの領域では、AI技術などを活用して膨大な時間を必要とする材料開発の高速化やコスト削減に取り組んでいる一方、AIを用いてより精度の高い実験シミュレーションを行うためには大量の実験データをAIに学習させることが必要であり、同一の製品やサービスを研究開発する企業が連携して秘密計算を適用し、お互いに他社の実験データを見ることはできない状況で各社が保有するデータを共有・分析し、それぞれの企業が単独に持つデータからの分析では得られないより価値の高い分析成果を創出し、開発期間の短縮や試作などのコストを削減し業界としての競争力を高めることが可能になります。
また、自社のサプライチェーンを持つ企業のグループ全体に秘密計算を適用し、製造工程のデータとその製造工程に材料・部品等を供給するサプライヤー企業群のデータを共有、分析することで各工程の生産効率や物流効率に関する分析等を行い、工程改善を行うことでコスト削減により競争力を向上させることが考えられます。
現在、当社では秘密計算適用に各企業と連携して取り組んでおり、早期実用化に向けた検証を進めてまいります。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社では、経営方針として掲げる「安全な情報社会の一翼を担う」という点から、より多くの方に当社製品を使って頂きたいと考えており、当社製品の利用者数を客観的に表すサブスクリプション契約と保守契約の合計値(ライセンス数)を重視しております。
ライセンス数の増加に伴い、経営上の最重要課題であり、今後の収益の蓄積となる「ZENMU Virtual Drive 」の売上成長の実現が可能になると認識しております。
下記のグラフにあります通り、実績ベースでライセンス数は順調に伸長しております。
なお、当社の受注環境は、顧客のシステム等の設備投資予算に影響を受けており、その中でも、特に顧客の決算月が集中する3月及び当社の決算月である12月に偏る傾向があります。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①販売代理店戦略による「ZENMU Virtual Drive」の拡販と収益基盤の拡大
官公庁や地方自治体、個人・小規模事業者など、新型コロナウイルス感染症の流行を背景にリモートワークの導入または拡大を検討する企業からの需要は持続するものと考え、販売代理店に対してインセンティブ等の販売動機を向上させる販売強化策を図ると共に、継続的な機能強化を行い製品の利便性や優位性の向上を図ってまいります。サブスクリプション契約を中心とした新規の利用拡大と、既存顧客の継続的な利用を維持することで、ストック型収益の向上により収益基盤を強化してまいります。
②秘密分散ビジネスでのアライアンスの拡大による収益の源泉の多様化
PCのデータ保護以外の分野でも秘密分散技術の活用のポテンシャルは幅広くあり、「ZENMU Engine」を用いたソリューションによるセキュリティ強化や利便性の向上などの付加価値向上、差別化を提案し、新たなアライアンスパートナーの拡大に努める予定です。今後の成長が期待されるドローンや監視カメラなどの分野でデータの保管や通信時における秘密分散技術の活用について、アライアンスパートナーとともに事業化に向けた具体的な検討を開始しております。
③秘密計算を主軸とした新規事業の開拓
当社が研究開発を行っている秘密計算ソリューション「QueryAhead」の事業化を進め、将来の収益の柱となる新規事業を開拓することで、事業領域の拡大を目指します。情報セキュリティ市場は海外のシェアが大きいため、今後は米国等への海外展開も見据え、事業化へ向けて積極的な投資をおこなってまいります。
④サービスの継続的な維持・向上
当社のサービスはインターネットに依存して提供されている状況にあり、顧客に安定的なサービスを提供するためにパフォーマンスを維持・向上することが、CX(カスタマーエクスペリエンス)を高めるためにも重要であることを認識しております。また、顧客のニーズに即時に対応できるよう技術開発を進めるとともに、適切なサポート人員を確保することによりカスタマーサービスを充実させ、品質を管理する体制を構築してまいります。
⑤優秀な人材の確保・育成
技術革新が続く情報セキュリティ業界において、上記の施策を実現し当社が継続的に成長していく為には高い専門性を持った優秀な人材の確保と教育が重要な課題であると認識しております。そのため、従業員が能力を最大限発揮できる体制を構築し、社内におけるノウハウの共有や教育訓練等を実施し、秘密分散ビジネス、秘密計算ビジネスの両方で優秀な技術者と営業担当者の採用と育成に努めてまいります。
⑥内部管理体制の強化
当社は成長段階にあり、業務運営の効率化やリスク管理のための内部管理体制の強化が重要な課題であると考えております。そのために必要な組織体制の整備を推進し、経営の公正性・透明性を確保するため、より強固な内部管理体制の構築に取り組んでまいります。
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