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【東証グロース:265A】「情報・通信業」
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企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りです。なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、経営理念「音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献する」を掲げ、キーボードレスの新しい社会を自ら創造することをビジョンとし、事業を展開しております。2014年8月、産総研による「産総研技術移転ベンチャー」の認定を受けたことを契機に、「音」に着目した専門的な研究・開発をスタートし、その成果を革新的なサービスとして社会に提供していくことを目指してまいりました。また、近年画像認識や自動運転などを中心に人工知能(AI)の活用が広がりを見せており、当社では、「音」への人工知能(AI)の活用も顧客の経営課題を解決するためには重要な技術であると考えており、当社プロダクトに活用するための音声のテキスト化、感情分析、異音検知の領域に関する研究・開発を続けております。
(2)経営環境
2024年の日本経済は緩やかな回復基調がつづいており、日本銀行では長らく続いたマイナス金利政策を解除するなど日本経済の正常化に向けた動きがみられます。一方で、物価上昇や、ウクライナやイスラエル情勢の緊迫化や世界経済との金利差からの円安等により、依然として先行きの不透明な経済状況が続いております。
このような中、当社の属する国内のAI市場環境は、株式会社富士キメラ総研の試算によると、2021年度は1兆1,609億円、2027年度は1兆9,787億円と予測されております。(出典:株式会社富士キメラ総研「2022年人工知能ビジネス総調査」)また、当社は主にコールセンター向けの製品として「Voice Contact」および「Terry」を提供しておりますが、コールセンターサービス市場とコンタクトセンターソリューション市場を合わせた市場規模(事業者売上高ベース)は2022年度に1兆6,406億円、2025年度には1兆6,505億円と予測されております。(出典:株式会社矢野経済研究所「コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査(2023年)」)
また、内閣府が提唱する我が国が目指す未来社会の姿「Society 5.0」(※1)の実現に向け、多様な人・機械・技術が国境を越えてつながる社会の具体化が必要となり、そのためには各企業においてDXの推進が必要不可欠であると当社では考えております。DX推進の重要な技術として、画像情報を活用するAI技術が必要となることは言うまでもありませんが、画像だけではなく当社が強みを持つ「音」の情報をデータとして取得し有効活用することも重要になると考えており当社技術の活用ができると考えております。例えば、お客様との電話のやり取りなど、デジタルデータ化されていないデータ分析は人手による属人的な分析にとどまっており、当社技術を活用することにより、人手によらずデジタルデータ化、分析が可能となります。また、経済産業省が提唱する「Connected Industries」(※2)で掲げる重点5分野においてもその実現のため、今後官民で取組が進められております。当社の持つ音の技術は「Connected Industries」の取り組みとも親和性が高いと認識しており、過去の取組みとしてスマートライフ、プラント・インフラ保守、ものづくり・ロボティクス、自動走行・モビリティサービスの4分野において、実証実験や社会実装に向けた研究・開発についてNEDOによる研究開発プロジェクトの採択をうけ、複数の事業会社と連携して推進してきました。
このように、人間の代替となる、又は人間以上の能力を発揮しうる人工知能が期待されるなか、生成AIも登場しておりますが、“音声認識”や“異音検知”や”データ解析”、つまり人の「耳(認識、認知)」+「脳(予測、最適化)」の代替は、未だ技術的発展途上にあると当社では考えており、当社はこの分野で他社に追随を許さないポジションの確立を目指しております。
(3)経営戦略
当社では「AI×音」サイエンス事業として、「Society 5.0」に必要不可欠なDX推進の支援としてAIソリューション事業及び「Connected Industries」の実現に向けて必要な音をデータとして活用するためのAIプロダクト事業を実施しております。AIプロダクト事業は、広範な顧客層に対して汎用的に利用できる製品として、「Voice Contact」、「Terry」、「ZMEETING」、「FAST-D」を提供しております。AIソリューション事業は特定の顧客経営課題を分析し、生成AIを活用した課題解決やDX化推進支援をプロジェクトベースで提供しております。また、リモートワーク普及などによる働くスタイルの変化や生成AIの登場により、「AI×音」を使った経営課題解決の提案機会も増加しており、例えばリモート会議における議事録作成の課題をうけ当社ではZMEETINGの提供を開始するなどしております。さらに、コールセンターにおけるオペレータのリモートワーク実現の一助として、クレームとして発せられる強い語調や言葉を自動検知し、遠隔地から上席によるサポートを受ける仕組みの提供があげられます。また、生成AI等が登場し今後もAI市場拡大が進むと考えておりますが、その中でも当社が今後も継続的に成長を続けるためには、当社独自の研究開発型ビジネスプロセスを推進し社会課題の解決が可能な新たなAIプロダクトを継続的に市場提供していくことが重要であると認識しております。
AIプロダクトのうち、主にコールセンター向けプロダクトである「Voice Contact」および「Terry」についてはコールセンター事業者等に導入実績があり、今後も新規ユーザー獲得に向け、VOC分析機能によるデータ分析や生成AIを活用した要約の自動作成によるオペレータの業務負荷低減等の機能開発と、これら機能を活用した事例紹介も活用しつつ、コールセンターを持つ顧客企業さまへの直接販売に加え、コールセンターBPOサービスを展開する企業さまと協業し、サービス展開の強化を図ります。
異音検知プロダクトについては、「すべての機器に聴覚を与える(異音検知)」の実現を目指し、周波数や音量のかい離の程度などの音の特徴量分析結果から異常(外れ値、異常値)を発見することで、経験豊富な熟練者のスキルに依存せず、音を使った品質診断やサービス展開、ノウハウの伝承の可能性など、事業会社との実証実験をこれまで数多く取り組んでいます。当社では、音データの収集・分析、AIアルゴリズム開発、システム実装まで一気通貫のソリューション構築を目指し、AIモデルの作成や外れ値検知等の異音検知アルゴリズム、異音の原因を特定する分類アルゴリズム等が行える機能が使用できる異音検知プロダクト「FAST-D」の開発を行っております。また、FAST-Dほど多くの機能が必要なく、FAST-Dをベースに必要な機能のみを切りだし機械や設備の予防保守や予知保全に必要な機能に絞ったアプリケーションとして使用可能な「FAST-Dモニタリングエディション」の開発提供を行っております。当社では、今後も鉄道、製造業、電力、不動産管理等の企業と開発を進めその知見を蓄えつつ、業界横断的に活用できる異音検知プロダクトとしての機能開発を実施してまいります。
AIソリューション事業については、現在は出資先等からの紹介や当社への問い合わせから個別の経営課題の解決に対する提案を行い、その課題解決プロジェクトを実施しておりますが、今後はこれまでの課題解決の事例の紹介や展示会出展等のプロモーションを行い見込み顧客の獲得を進めたいと考えております。また、課題解決の事例を用いて同一業界内の他の企業にも同様のプロジェクトを提案し、新たな共創プロジェクトを獲得も進めたいと考えております。また既存の顧客に関しては、個別の課題解決プロジェクトを推進する中で両社の業務理解度や、信頼関係が向上すれば、顧客の別の課題をいただく機会も増えると考えております。個別の課題が当社AIプロダクトの導入で解決できる場合にはAIプロダクトの提案を行うことでクロスセルの拡大にもつなげたいと考えております。
当社では当事業年度末現在で4つのプロダクトを提供しておりますが、今後もさらに多くのプロダクトを提供したいと考えております。そのためには当社の既存プロダクトを生み出した独自の研究開発型ビジネスプロセスの推進が必要だと考えております。まず、当社では、音に関する研究課題のうち数年以内に新規プロダクトにつながる課題を当社で選定し、研究開発を進めることを計画しております(R&D初期フェーズ)。また、AIソリューション事業における顧客の課題解決のためのプロジェクトを実施するとともに多くの顧客が解決したい課題を集めてまいります(R&Dプロジェクトフェーズ)。2024年度は既存取引先との共創により66件の新規プロジェクトを積上げ、その後はプロジェクト事例の業界横展開などにより、新規取引先とのプロジェクトの積上げ加速・拡大を行うことを計画しております。
R&Dプロジェクトフェーズで集めた課題を、コンサルティングメンバー、技術メンバー、マーケティングメンバーによる社内クロスファンクショナルチームにより分析し多くの顧客で必要となるプロダクトを検討し、R&Dプロジェクトフェーズで生み出された技術をパッケージ化して新規プロダクト開発を進めたいと考えております。当事業年度末現在は4プロダクトですが中期的には倍の8つのプロダクトを提供し、既存顧客内のクロスセル推進に加えて新規顧客の拡大も推進してまいります。この活動により当社は収益の安定成長基盤確立を目指すことを計画しております。
当社は、今後の持続的な成長を見据え、サステナビリティ経営として事業活動を通じた社会課題の解決に今後取り組んでいきたいと考えております。SDGs(※3)をはじめとした社会課題と事業活動の関連を確認し、以下の通り整理しました。これらの課題に取り組むことにより、社会とともに持続的に成長し信頼される企業を目指してまいります。
1.事業活動を通じた社会貢献
当社の特徴である音声・音響の可視化を実現するソリューション技術等の提供による先端テクノロジー普及の支援を通した社会貢献により、以下の目標達成に向け課題解決に取り組みます。
(8.働きがいも経済成長も)
(9.産業と技術革新の基盤をつくろう)
2.上場企業としてのガバナンス体制の強化
コンプライアンスの徹底や、積極的な情報開示を通した企業統治により、以下の目標達成に向け課題解決に取り組みます。
(8.働きがいも経済成長も)
(16.平和と公正をすべての人に)
(17.パートナーシップで目標を達成しよう)
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、サービスの競争力を維持し、財務活動を含めた全事業の業績を向上させていくことが重要であると認識していることから、主な財務活動上の経営指標として、売上高成長率及び経常利益率、ROE、自己資本比率を重視しております。また、事業活動の状況をみる指標としてAIプロダクト事業においては、アカウント数(顧客者数)とAIプロダクトに占める生成AI売上高比率を、AIソリューション事業においては、プロジェクト数を、事業全体としては、エンジニアの人数をKPIとしております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① パートナー企業との協業推進
当社は、2016年以降、様々な業界の大手事業会社と資本業務提携をしており、相互に経営資源とノウハウを補完し合うことにより事業展開を推進してまいりました。中長期的なビジョンに基づき、今後も各社との取り組みを適時・適切に進めていくとともに、常に変化する市場環境と多様化する顧客ニーズにスピード感をもって対処しながら、相互の企業価値の向上に努めてまいります。
② サービスの強化
当社は、「AI×音」に関するソリューションを研究開発型ビジネスプロセスにより研究開発、コンサルテーション・要件定義からプロダクト開発、運用保守までを当社で対応し、ユーザーの利用シーンに合わせた様々な機能を用意することにより、サービスの魅力が更に高まると考えております。新しいテクノロジーを取り入れつつ、対象領域をさらに広げ、競争優位なシステムの構築を図るため、社内開発体制強化や他社との業務提携などに積極的に取り組み、業務の標準化、社内システムの改善などを適宜進めてまいります。
③ テクノロジーの強化
当社の事業領域であるAI(人工知能)技術は、その利用可能性を期待され活発に研究開発が行なわれています。当社が事業を継続的に拡大していくには、様々な新技術に適時に対応していくことが必要であり、さらなる優秀な人材の確保及び研究開発への投資、ノウハウの共有や教育訓練などが不可欠であると考えております。優秀な人材を積極的に採用するとともに、研究開発への取り組みを継続的に実施し、開発体制の強化に努めてまいります。
④ 情報管理体制の強化
当社は、顧客企業へのサービス提供において、様々な音声データや顧客企業のユーザーに関する情報を取り扱う可能性があり、その情報管理を徹底することが信頼確保の観点から重要であると考えております。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格であるISO/IEC 27001の認証、個人情報の保護措置に関するプライバシーマークなどの外部認証を取得し、情報システム開発管理規程に基づく運用の実施、役職員への定期的な教育、物理的・技術的対策への必要経費の確保により、情報管理体制を強化してまいります。
⑤ 利益及びキャッシュ・フローの創出
当社は、AIを活用した先進的なサービス開発を目指し、研究開発等への先行投資を積極的に進めてまいりました。これにより第10期まで継続して営業損失を計上しておりました。第11期以降は先行投資の効果もあり売上高が増加してきており、営業黒字に転換しております。今後も継続的に成長を続けるために、当社独自の研究開発型ビジネスプロセスを推進し複数のAIプロダクトを継続的に市場提供していくことにより継続的な売上高の増加に努める一方で、開発工程の効率化や収支管理への取り組みにより、収益性の改善に努めてまいります。
⑥ 内部管理体制の強化
当社事業は未だ成長段階にあり、業務運営の効率化やリスク管理のための内部管理体制の強化が重要な課題であることを認識しております。引き続き、管理部門の整備を推進し、コーポレート・ガバナンスを充実していくことで、経営の公正性・透明性を確保し、リスク管理の徹底や業務の効率化を図ってまいります。
[用語解説]
※1.Society 5.0
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を指し、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されました。
※2.Connected Industries
2017年3月、経済産業省が「人・モノ・技術・組織などがつながることによる新たな価値創出が、日本の産業の目指すべき姿(コンセプト)である」として提唱した概念です。
※3.SDGs
世界(地球)には、紛争や貧困、不平等や環境など、様々な社会課題がありますが、その中でも2030年までに解決すべき重要な問題について、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」として17個の目標(テーマ)を国連が定めたもので、英語の頭文字をとって、SDGs(エスディージーズ)と呼んでいます。世界中の人々が協力して、目標の達成に取り組むことで、社会課題を解決し、世界中の人々が、誰一人取り残されることのない社会を目指すものです。「自分の幸福のためだけに頑張る」のではなく、「社会全体、世界全体の幸福に向かって協力する」ための目印となるものです。
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