鹿島建設
【東証プライム:1812】「建設業」
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企業概要
当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、様々な要素により異なる結果となる可能性がある。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、経営理念として「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」ことを掲げ、さらに、企業経営の根幹を成す安全衛生・環境・品質に関する基本方針として「関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムを確立・改善することにより、生産活動を効率的に推進するとともに、顧客や社会からの信頼に応える。」ことを定めている。
こうした方針に基づく取組みを通して、より高い収益力と企業価値の向上を目指すとともに、社業の永続的発展により株主、顧客をはじめ広く関係者の負託に応え、将来に亘りより豊かな社会の実現に貢献していく。
(2) ビジョン
当社グループを取り巻く経営環境は、近年、変化のスピードが加速している。
こうした経営環境において、当社グループが持続的に成長するためには、多様な人材を呼び込み、外部リソースと連携しながら価値を共創することが重要と考えている。この認識のもと、当社グループが目指す方向性を広くグループ内外と共有するため、ビジョンを定めている。
ビジョンは、目指す方向性を文章で表現した「ステートメント」とそれを実現するうえで「大切にしたい価値観」から構成されており、過去に対する敬意と未来への挑戦という2つの意を込めている。また、大切にしたい価値観は、当社グループを木に見立て、いかに大きく成長させるかという視点に基づいている。
(3) 鹿島グループのマテリアリティ
当社グループは、SDGsをはじめとした社会課題と事業活動の関連を確認・整理したうえで、社会・環境への影響度が大きく、かつ当社グループの企業価値向上や事業継続における重要度が高い課題を抽出し、7つのマテリアリティを特定している。マテリアリティに取り組むことを通じて、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指していく。
(4) 経営環境
当連結会計年度における世界経済は、インフレの鎮静化や政策金利引き下げの動きが次第に拡がり、地域差はあるものの景気は全体として安定的に推移した。我が国経済については、物価や金利が上昇する局面が続いたものの、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要が支えとなり、緩やかな回復基調が継続した。
国内建設市場においては、公共投資が底堅く推移し、企業の設備投資は増加傾向が継続した。建設コストに関しては、資機材価格が総じて高い水準にとどまり、労務費も繁忙により一部の地域・職種において上昇が見られた。
今後の世界経済においては、各国・地域の通商・金融政策や地政学的リスクにより、景気の先行きに不確実性の高まりが見られる。さらに、人的資本が一段と重要視され、環境面では循環型経済への対応が求められるなど、社会の要請や顧客のニーズには変化が続くことが見込まれる。こうした様々な変化や課題を確実に捉え、確かな技術力をベースとしたソリューション、そして新たな価値を提供していくことが、持続的な成長を実現するために重要であると考えている。
建設市場では、国内、海外ともに堅実な建設需要が当面は継続すると見通している。特にインフラ老朽化対策やデジタル化に関連した投資は、中長期的な拡大が期待される。一方、建設コストの上昇には依然として留意が必要であり、旺盛な需要に応えられる施工体制を整えることが大きな課題となっている。コスト管理の徹底とともに、建設業従事者の処遇改善や生産性向上などによりサプライチェーンも含めた施工力の強化を図ることが一層求められている。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
<「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」の推進>
このような経営環境の中、当連結会計年度を開始年度とする新たな中期経営計画を策定した。中核である国内建設事業、不動産開発事業、海外事業の更なる強化を進めるとともに、技術立社としてバリューチェーンの拡充やR&D、イノベーション推進により新たな価値を創出し、社会や顧客とともに未来を開拓していく計画としている。
① ありたい姿
中期経営計画の策定にあたり、経営理念や受け継いできた企業風土、価値観などを「ありたい姿」として具体化している。当社グループの基盤である人と技術をつなぎ合わせ、顧客、さらにその先にある社会に貢献することを目指していく。
② 成長戦略の取り組み状況
「ありたい姿」を念頭に置きつつ経営環境などを踏まえ、成長戦略は、1)国内建設事業を深める、2)成長領域を伸ばす、3)技術立社として新たな価値を創る、4)サステナビリティを4つの柱としている。
1)国内建設事業を深める
当社グループの提案力や設計・エンジニアリング力を結集し、生産施設や再開発事業などの重点分野において、大型工事を着実に受注している。また、生産性を高める新工法や自動化施工技術などの開発、進化により、顧客の求める工期、品質を実現する施工力強化を図っている。加えて、個々の人材が持つ知識やノウハウを体系的にデジタル化する取り組みは、業務効率や技術水準の向上に効果を発揮し始め、多様な人材が多様な働き方で活躍できる魅力ある現場づくりに寄与している。
■当連結会計年度における成果、取り組み事例 ・「株式会社コーセー南アルプス工場新築工事(山梨県)」等の大型工事を含め、生産施設分野において3,000億円以上の工事を受注 ・先端半導体工場「Rapidus IIM-1建設計画(北海道)」の施工が、2026年3月期の竣工に向け順調に進捗 ・特許技術「スマート床版更新(SDR)システム」を適用し、高速道路更新工事の大幅な工期短縮を実現 ・山岳トンネル掘削作業の自動化・遠隔化を実現する自動化施工システム「A4CSEL(クワッドアクセル)for Tunnel」が完成 |
2)成長領域を伸ばす
建設技術・ノウハウを活かした不動産開発事業を、当社グループの強みとして、国内・海外において積極的に展開している。海外では投資と売却による回収のサイクルが確立しつつあり、地域ごとの市場動向を見極めながら収益力強化を図っている。国内では、適時の物件売却を進めるとともに、将来の利益成長につながる優良プロジェクトへの投資を着実に進めている。
また、米国において、安定的な需要が見込まれる医療・教育分野に強みを持つ建設会社を買収するなど、M&Aや外部パートナーとの連携によるバリューチェーンの拡充を推進している。
■当連結会計年度における成果、取り組み事例 ・海外の流通倉庫開発事業において、米国にて16件、欧州にて3件を売却 ・開発事業主、設計施工会社の両面から参画する「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業(東京都)」が着工 ・国内で開発・設計・施工を一貫して担う「KALOC(カロック)」ブランドの物流施設2件が竣工 ・医療・教育分野に強みを持つ米国の建設会社ロジャーズ・ビルダーズ社を買収 |
3)技術立社として新たな価値を創る
日本国内の技術研究所やシンガポールの研究開発拠点「The GEAR」では、政府機関・大学・スタートアップなどの外部パートナーと協働し、社会の要請に応える実践的な研究を進めている。また、技術マーケティングに取り組み、鹿島グループの保有技術を必要とする顧客を探索し、新たな収益源の開拓を図っている。
■当連結会計年度における成果、取り組み事例 ・製造過程でCO2を吸収するコンクリート「CO2-SUICOM」のCO2固定の実績を環境省が算定し、国連に報告。大型プレキャストコンクリート製品の開発などにより、普及・展開を促進 ・英国サウサンプトン大学と共同開発した立体音響技術「OPSODIS(オプソーディス)」を搭載した小型スピーカーを開発し、クラウドファンディングで販売開始 ・自律飛行ドローンとデジタル技術を活用した森林管理サービス「Forest Asset」の提供を開始し、鹿島グループ社有林を含め13件を受託 ・シンガポールに当社技術のマーケティングを担う新会社「The GEAR by Kajima Pte Ltd」を設立 |
4)サステナビリティ
「鹿島環境ビジョン2050plus」に基づき、脱炭素、資源循環、自然再興の取り組みを推進している。社会や顧客と協力して、環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指している。
当期から建設業に適用された時間外労働上限規制に対しては、継続的に推進してきた働き方改革等により、時間外労働は大幅に減少している。社員のエンゲージメントを高める取り組みや重層下請構造改革の推進等により、成長・変革を担う人材の確保・育成と持続可能なサプライチェーンの維持・強化を図っている。
また、社会や顧客から信頼される企業グループであり続けるために、サプライチェーン全体でコンプライアンスや人権の尊重を徹底している。
■当連結会計年度における成果、取り組み事例 ・2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)会場の舗装(約3,300㎡)に、NEDO※事業の一環として製造過程でCO2を吸収するコンクリートを活用し、約9.7トンのCO2をコンクリートに固定 ・燃料の脱炭素化に向け、バイオディーゼル燃料を混合した軽油の使用を拡大 ・総合職女性採用比率を2029年3月期までに30%以上とするなどの新たなDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)に関する目標を設定 ・当社社員に対して実施したエンゲージメントサーベイの結果は、前回調査から向上 |
<利益成長の加速と財務戦略の更新>
① 現状分析・評価
中期経営計画(2024~2026)において、企業価値・市場評価の向上を目指した財務戦略を策定した。取締役会では、複数回にわたり、資本コストを踏まえ、事業ごとの資本収益性を確認、評価している。加えて、市場評価を把握し、IR活動の実績を確認した上で、成長投資や株主還元などの財務戦略を検証している。
初年度となる当連結会計年度は、目標を上回る利益を確保しており、2026年3月期についても、親会社株主に帰属する当期純利益は過去最高益となる1,300億円を目指している。
当社グループの株主資本コストは、7~8%程度と認識している。当連結会計年度のROEは10.2%となり、2026年3月期以降も継続して10%を上回る水準を確保できると見通している。当連結会計年度の実績、2026年3月期の経営目標ともに、株主資本コストを十分に上回る資本収益性を確保していることを確認している。
また、当連結会計年度の業績予想の修正と増配を公表した2025年2月以降、当社の株価は上昇しており、タイムリーな業績予想の開示と業績向上に伴う機動的な株主還元の実施が、株式市場において評価されたと認識している。
② 経営目標の達成状況
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| 中期経営計画(2024~2026)経営目標 | ||
経営目標 | 2025年3月期 実績 | 2026年3月期 予想 |
| 2025年3月期 | 2027年3月期 | 2031年3月期 |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,258億円 | 1,300億円 | 1,050億円 | 1,300億円 以上 | 1,500億円 以上 | |
ROE | 10.2% | - | 10%を上回る水準 |
③ 今後の取組み
こうした利益成長が加速している状況を踏まえ、企業価値・市場評価の更なる向上を図るため、財務戦略を更新した。引き続き、成長に向けた施策と投資を実行するとともに、株主還元の充実を図っていく。また、株式市場からの信頼と評価を得るために、今後も経営方針や業績見込みについてのタイムリーな情報開示と投資家・市場との対話を強化していく。
④ 財務戦略更新のポイント
成長投資 | ・人的資本への投資やAI・デジタル関連の技術開発、国内外の不動産開発事業における投資と回収のサイクル加速により、一層の利益成長を目指す。 ・3年間の投資総額は計画比700億円増額。開発資産売却による回収は400億円増加。 ・ROEは10%を上回る水準を継続。 |
資本構成 | ・政策保有株式は、『2027年3月期末までに連結純資産の20%未満』としていた目標を、当連結会計年度末時点で達成。2026年3月期以降も継続的に縮減を進め、3年間の売却額は、計画比200億円程度の増加を目指す。 ・D/Eレシオの目安は0.7倍程度を継続。 |
株主還元 | ・配当性向40%を目安に、利益成長に連動した配当金の引き上げを目指す。 ・資本効率向上と株主還元充実のための自己株式取得を継続。当面は、政策保有株式の売却実績をベースとして機動的に実施。2026年3月期は200億円の自己株式取得を予定。(当連結会計年度の政策保有株式売却額は203億円) ・3年間の株主還元総額を計画比300億円程度拡充。 |
ガバナンス | ・2026年3月期から役員報酬の評価指標にROEを採用。 ・経営方針や業績見込みについてのタイムリーな情報開示と投資家・市場との対話の強化を継続。 |
⑤ 投資計画
投資計画を更新し、3年間の投資総額は700億円増加の1兆2,700億円、ネット投資額は300億円増加の5,400億円を計画している。デジタル投資は100億円増加させ、建設DXを推進する。AI技術の適用範囲拡大、自動化施工技術の進化、バリューチェーンにおけるデータ連携などにより、安全性・品質・生産性の向上と競争力の強化を図る。また、デジタル人材の育成を加速していく。国内・海外の開発事業に関しては、投資が為替変動影響を含め海外で600億円増加する一方で、売却による回収も400億円増加するため、ネット投資額は200億円増加する見通しである。
当連結会計年度のネット投資額は1,820億円となり、計画の概ね3分の1程度の進捗となった。
| 中期経営計画(2024~2026) |
| 2025年3月期 投資実績 | ||
策定時 | 今回更新 | 増減 |
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R&D投資 | 600億円 | 600億円 | - |
| 210億円 |
デジタル投資 | 500億円 | 600億円 | +100億円 |
| 170億円 |
戦略的投資枠 | 800億円 | 800億円 | - |
| 80億円 |
業務用不動産などへの | 600億円 | 600億円 | - |
| 170億円 |
国内開発事業 (売却による回収) (ネット投資額) | 3,200億円 (1,700億円) (1,500億円) | 3,200億円 (1,500億円) (1,700億円) | - (△200億円) (+200億円) |
| 1,190億円 (390億円) (800億円) |
海外開発事業 (売却による回収) (ネット投資額) | 6,300億円 (5,200億円) (1,100億円) | 6,900億円 (5,800億円) (1,100億円) | +600億円 (+600億円) (-) |
| 1,620億円 (1,230億円) (390億円) |
投資総額 (ネット投資額) | 1兆2,000億円 (5,100億円) | 1兆2,700億円 (5,400億円) | +700億円 (+300億円) |
| 3,440億円 (1,820億円) |
(6) 目標とする経営指標
2026年3月期の国内建設事業は、協力会社・技能者を含めた堅実な施工体制を構築することにより、高い水準の売上高を維持するとともに、建設コスト上昇への的確な対応や生産性向上を推進し、売上総利益率の向上を目指す。国内開発事業では、これまでの投資の成果が着実に現れており、複数の販売物件を売却することを計画している。海外事業については、リスク対策の徹底と時機を捉えた事業展開により、建設、開発の両事業における収益力向上を図る。各国・地域の通商政策による2026年3月期の業績への大きな影響はないと見ているが、景気動向を慎重に見極める必要があると考えている。なお、為替レートは1米ドル145円を想定している。
このような国内外の状況を勘案し、2026年3月期の業績は5期連続の増収増益を予想し、2025年5月14日に下記のとおり公表している。
| 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 親会社株主に |
2026年3月期 連結業績予想(百万円) | 2,950,000 | 159,000 | 166,000 | 130,000 |
また、中期経営計画(2024~2026)における経営目標として、国内建設事業における着実な利益成長と、成長領域である不動産開発事業、海外事業の収益拡大、バリューチェーン拡充により、ROE10%以上の継続と、2027年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益1,300億円以上、2031年3月期の1,500億円以上を掲げている。2026年3月期に、1年前倒しで1,300億円の達成を予想した上で、2027年3月期以降も利益成長を継続し、1,500億円以上の早期達成を目指す。
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