企業兼大株主清水建設東証プライム:1803】「建設業 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループの当連結会計年度における研究開発費は178億円であり、うち当社の研究開発費は169億円であります。研究開発活動は当社の技術研究所と建築総本部、土木総本部等の技術開発部署で行われており、その内容は主に当社建設事業に係るものであります。

 当社は、建築・土木分野の生産性向上や品質確保のための新工法・新技術の研究開発はもとより、多様化する社会ニーズに対応するための新分野・先端技術分野や、さらに地球環境問題に寄与するための研究開発にも、幅広く積極的に取り組んでおります。技術研究所を中心とした研究開発活動は、基礎・応用研究から商品開発まで多岐にわたっており、異業種企業、公的研究機関、国内外の大学との技術交流、共同開発も積極的に推進しております。

 これら研究開発の成果として、今年度も土木学会技術賞、日本コンクリート工学会賞(技術賞)、日本オープンイノベーション大賞国土交通大臣賞をはじめさまざまな学協会からの賞を受賞しております。

 当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は次のとおりであります。

(1)カーボンニュートラル関連技術

①「バイオ炭コンクリート」を開発、実工事に初適用

 木質バイオマスを炭化した「バイオ炭」をコンクリートに混入した環境配慮型コンクリート、「バイオ炭コンクリート」を開発し、神奈川県山北町区域で施工中の新東名高速道路川西工事の仮舗装に初適用しました。本技術は、成長過程で大気中のCO₂を吸収した木材の炭化物を利用し、コンクリート内部に炭素を固定するもので、バイオ炭混入量1kgあたり2.3kgの  CO₂を固定化できるものです。今回の工事では、普通コンクリートを用いた施工に対して、排出されるCO₂を99%(6.7トン)削減しました。「バイオ炭コンクリート」は、施工性に優れ、強度性能も普通コンクリートと遜色ありません。今後は、「バイオ炭コンクリート」の適用拡大や、J-クレジット制度での認証取得など、脱炭素社会の実現に向けた取組みを進めていきます。

②カーボンニュートラルに対応した地盤改良工法を開発

 施工に起因するCO₂排出量を実質ゼロにする「脱炭素型地盤改良工法」を㈱東洋スタビと共同で開発しました。本工法は、改良対象地盤に溶融スラグとバイオ炭を使用することで、既存工法と比較してセメント系固化材の使用量を60%、コストを30%削減できます。セメント系固化材製造時に排出されるCO₂と、同量のCO₂をバイオ炭が吸収・固定化するため、CO₂排出量が実質ゼロとなる、施工のカーボンニュートラル化を実現しました。

③CO₂を吸収しコンクリートの長寿命化を実現する含浸剤「DACコート」を開発

 既設のコンクリート構造物に塗布するだけで、大気からのCO₂吸収を促進するCO₂固定化技術「DAC(Direct Air Capture)コート」を国立大学法人北海道大学と共同で開発しました。「DACコート」を塗布したコンクリート構造物は、塗布しないものと比較して、CO₂吸収量が1.5倍以上に増大します。含浸剤の主材となるアミン化合物は、CO₂の吸収性能に加え、防食性能も有しているため、鉄筋の腐食を抑制し、鉄筋コンクリートの長寿命化にも寄与します。

④施工時CO₂排出量をタイムリーに可視化する技術を開発

 建設現場で発生するCO₂排出量を、月単位で自動算出・可視化する「施工時CO₂排出モニタリングシステム」を開発し、国内の全現場での本格運用を開始しました。本システムは、施工時のカーボンニュートラル実現に向けた取組みの一環で、各現場の様々な管理システムからCO₂排出量の算出根拠となるデータを自動取得し、月単位のCO₂排出量実績として導出します。各現場で取り組む、CO₂排出削減施策のタイムリーな効果検証に寄与します。

⑤見積データから将来のCO₂排出量を自動算出するプラットフォームを開発

 精算見積データから、施工時に生じるCO₂排出量を自動算出できるCO₂排出量算出プラットフォーム「SCAT (SHIMZ Carbon Assessment Tool)」を㈱ゴーレムと共同開発しました。「SCAT」は見積項目別にCO₂排出量を算出・積算し、発注者にCO₂排出量評価データとして提供します。「SCAT」は日本建築学会の指針に準拠した上で、独自の方式にも対応可能で、建物ごとのCO₂排出量データベースに基づく設計ノウハウ蓄積や比較提案が可能となります。本システム導入によって、今後の施工段階でのCO₂排出量算出が容易になり、低炭素建築物の設計提案が可能となります。

⑥低コスト・グリーン水素製造実証プラントが完成

 大分県玖珠郡九重町において、低コスト・グリーン水素製造技術を適用したプラントの実証運転を行いました。本プラントは環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」で、当社が委託し建設しました。また、低コスト・グリーン水素製造技術は㈲市川事務所、エネサイクル㈱、大日機械工業㈱、㈱ハイドロネクストと共同開発した技術で、地熱と木材などのバイオマス資源を活用することで水素製造時のCO₂排出量と製造コストを抑えることができます。今後は、実証運転を通じて得られたノウハウを活用し、中小地熱発電所に併設する水素製造実用プラントの自社開発に取り組む予定です。

⑦産学連携共創プロジェクト「みどりの機能建材研究開発プラットフォーム」を設立

 東京理科大学研究推進機構総合研究院との共創プロジェクト「みどりの機能建材研究開発プラットフォーム」を開始しました。このプロジェクトでは、非構造部材のCO₂排出量を評価・可視化するシステムの構築や、環境性能と機能性が高度に両立する材料・工法の研究開発を進め、建築業界の環境配慮への取組みをリードします。また、省資源化や資源循環の促進を目的とした内外装材の高機能・高性能化の研究開発も行い、ネイチャーポジティブへの貢献を目指します。

※ネイチャーポジティブ:生物多様性を含めた自然資本を回復させること。

(2)働き方改革に資する技術

①配筋検査システム「写らく」を製品化し、レンタルを開始

 3眼カメラ配筋検査システム「写らく(しゃらく)」を ㈱カナモト、シャープ㈱と共同で製品化し、2023年4月下旬からレンタルを開始しました。「写らく」は、本体に搭載された3つのカメラで同時撮影した画像を使い、約5秒で検査結果と検査帳票が作成され、配筋検査の所要時間を約75%短縮できます。現場の天候条件やネットワーク環境の有無などの制約を受けず、高い耐環境性能とユーザビリティを実現し、2022年度「第4回 日本オープンイノベーション大賞」で『国土交通大臣賞』を受賞しました。「写らく」の国内建設現場へのレンタル開始を皮切りに、作業効率向上による省人化・省力化を通じ、サプライチェーンを含めた、建設現場における働き方改革を支援していきます。

②コンクリートの凝結時間制御技術「ACF工法」を建築構造床に初適用

 デンカ㈱と共同開発したコンクリートの凝結時間制御技術「ACF(Advanced Concrete Finish)工法」を、建築構造床の施工に初適用しました。本工法は、粉末状の混和材を生コン車で混合し、コンクリートの凝結を促進させます。これにより、次の作業への移行が、通常工法と比較して3時間程度短縮できます。今後は、「ACF工法」を積極的に展開し、作業従事者の働き方改革、仕上げ面のコンクリート品質の向上につなげていきます。

③コンクリート表層の凝結遅延効果が長時間持続する打継ぎ面処理剤を開発

 コンクリートの打継ぎ面処理剤「シーカ®ルガゾール-919UR」を日本シーカ㈱と共同で開発しました。この処理剤は、打継ぎ面に形成される脆弱層(レイタンス)の凝結を72時間にわたり抑制します。これにより、従前はコンクリート打設の翌日に行う必要があったレイタンスの除去作業を3日後まで延長できます。土日閉所の建設現場で金曜日にコンクリートを打設した場合でも、休日を挟んでの打継ぎ処理が可能となり、働き方改革へ大きく貢献します。

④原子力発電所建屋の設計業務を効率化する設計業務統合システムを開発

 原子力発電所建屋の構造設計業務の効率化に向け、BIMをベースとする設計業務統合システム「NuDIS-BIM(Nuclear Design Integration System on BIM)」を開発しました。設計の上流段階から本システムを適用することで、データ入力やチェックなどに関わる手間と時間を削減でき、設計期間の短縮が可能となります。今後は、「NuDIS-BIM」の機能を拡充し、施工・維持管理業務への適用を図り、作業時間の削減に貢献します。

⑤病院施設の設計業務を効率化する放射線遮蔽設計アプリを開発

 高エネルギー放射線医療施設設計時に必要な放射線の遮蔽性能評価を、一般の設計者でも簡易に行えるアプリ「SC-HoRS(SC-Hospital Radiation Shielding)」を開発しました。本アプリは独自の簡易式自動計算機能を有し、これまでは専門家による複雑で高度な計算が必要であった放射線の遮蔽性能評価が、一般の設計者でも短時間で可能となります。今後は「SC-HoRS」を武器に、需要増加が見込まれる放射線医療施設の建設受注拡大を目指します。

(3)建物の品質管理およびリスク管理技術

①改良地盤の施工品質を30分で判定できる強度判定技術「C-QUIC」を開発

 地盤改良工事における施工後の改良地盤の強度を、早期に判定する品質検査技術「C-QUIC」を開発しました。この技術は、改良地盤内の固化材が適正量かどうかを30分程度で判定できるため、改良地盤の固化を待たず施工の良否を確認でき、地盤改良工事の品質確保と合理化を促進できます。今後は、技術の外販に向けた準備を進め、品質管理技術として広く展開していきます。

②指定確認検査機関が行う中間・完了検査をDX化、リモート検査の有効性を検証

 建築確認で利用したBIMデータから構築したAR画像と、リアルタイム映像伝送技術を活用したリモート検査システムを㈱積木製作と共同で開発し、システムの有効性を(一財)日本建築センター(BCJ)と検証しました。このシステムは、建築確認申請業務を効率化するもので、躯体を対象とする中間検査と仕上げや設備機器を対象とする完了検査を、3次元データを用いてリモートで行うことができます。BCJが、本システムにより当社設計施工の三愛会総合病院の検査を実施し、従来検査の代替法となると評価しました。今後は、本システムの活用を指定確認検査機関に提案し、設計の工事監理や施工管理業務のDX化を推進していきます。

③有機フッ素化合物(PFAS)汚染水の浄化技術を開発

 人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS)を含む汚染水を効率的に浄化する技術を開発しました。本技術は、泡沫分離処理装置を用いた水処理技術で、沖縄県内で実施したPFAS汚染水の浄化実証試験で有用性を確認しました。今後は、PFASを含む泡消火剤が広範囲に散布された可能性のある基地施設や、PFASを製造・使用していた事業所等の土壌・地下水浄化事業への展開を目指します。

④美術館・博物館の早期供用を実現する新たなソリューションを構築

 文化財に影響を与えるコンクリートから放散されるアンモニアの濃度を、確実かつ早期に低減させる手法を構築しました。本ソリューションは、アンモニアの「発生抑制」「除去」「濃度管理」の各技術を組み合わせた対策メニューを、施設ニーズに応じて提供します。この手法を適用することにより、これまでアンモニア濃度を低減させるために必要であった竣工後の“枯らし期間”を設ける必要がなく、美術館・博物館等の施設の早期供用を実現できます。今後、美術館・博物館等の建設計画のリスク管理ソリューション技術として提案活動を進めていきます。

⑤「Deco-BIM(デコビム)」で合理的な解体計画を提案

 原子力発電所の廃止措置(廃炉)エンジニアリングの効率化と、トータルコストの削減が可能な、業務代替支援システム「Deco-BIM」を開発しました。「Deco-BIM」は、2次元の図面や資料をベースにした従来の解体計画と比較し、1/5程度の時間で同レベルの検討が可能なため、同時間で複数の計画を立案・評価できます。今後、電力事業者に対して「Deco-BIM」を活用した合理的な解体計画を提案し、廃止措置の計画・検討段階からのプロジェクト参画を目指します。

(4)デジタルゼネコン関連技術

①バーチャル空間で施設計画「Growing Factory」を提案

 工場建設向けの新たなエンジニアリングサービス「Growing Factory(グローイングファクトリー)」の提案活動を開始しました。設計段階から工場のモデルをバーチャル空間内に構築(デジタルツイン)し、そのモデルを使って工場内の製品や設備機器の動きを事前検証することで、短時間で最適な施設計画を導出します。工場稼働後は、各種システムと連携することでデジタルツインを継続的に活用し、運用データと設計データを比較検証することで運用改善を図るなど、「時代の変化に適応し、10年後も成長し続ける工場」の具現化をサポートします。

②複数ロボット連携による新たな地方創生モデルの実証を開始

 加賀市医療センターにおいて、ブルーイノベーション㈱、オムロン ソーシアルソリューションズ㈱と共同で、病院設備と複数ロボットを連携させた清掃・案内・配送等の実証導入を実施しました。これは加賀市および3社が共同で内閣府から受託した「スーパーシティ構想の実現に向けた先端的サービスの開発・構築等に関する実証調査業務」として実施したものです。建物施設とモビリティやロボット、多彩なデータ連携による先端的サービスの開発・展開を通して、人々の生活の質の向上やスーパーシティをはじめとした「新しいまちづくり」、さらには「新たな地方創生モデルの実現」に向けた取組みを進めていきます。

③建設3Dプリント材料「構造用ラクツム」が大臣認証を取得

 建設3Dプリンティング用に独自開発した繊維補強セメント複合材料「ラクツム」を、粗骨材を混練したコンクリート材に改良し、東京コンクリート㈱と共同で大臣認定を取得しました。これにより、従来は建物躯体の埋設型枠や非構造部材として活用していた3Dプリンティングが、構造部材にも適用できるようになり、建築分野での3Dプリンティング施工の適用範囲が大きく広がります。当社は、大臣認定を取得したこの「構造用ラクツム」を、東京都江東区で建設中の自社施設「潮見イノベーションセンター(仮称)」における構造部材の一部に適用する予定です。

④建設3Dプリンタ「Shimz Robo-Printer」を新規開発

 施工場所で実大構造物を直接“印刷”できるガントリー型のオンサイト建設3Dプリンタ「Shimz Robo-Printer」を開発し、「潮見イノベーションセンター(仮称)」で実証施工を行いました。適用対象は研修施設の壁状柱で、「ラクツム」を「Shimz Robo-Printer」で積層し、外装部材を兼ねる3次元曲面形状の埋設型枠を造形しました。「Shimz Robo-Printer」を活用したオンサイトプリンティングにより、部材の運搬費用削減や施工の省力化・省人化が期待されます。

⑤半乾式耐火被覆吹付ロボット「Robo-Spray」の施工性能を確認

 6軸のロボットアームを駆使して、被覆材を万遍なく吹き付ける半乾式耐火被覆吹付ロボット「Robo-Spray」を開発しました。当社が東京都港区で施工中の虎ノ門・麻布台再開発プロジェクトのA街区タワーで、プロトタイプの施工性能を確認しました。今後は、「Robo-Spray」の台車に電動走行機能を付加し、生産性を一層向上させる予定です。また、反復・苦渋作業を代替する建設ロボットの開発・導入を継続し、省人化や現場の労働環境改善を図ります。

⑥建物管理業務をDX化

 建物のデジタル取扱説明書「デジトリ360(Digi-Tori360)」を開発しました。360˚カメラで撮影した建物内各所の画像データと、関連する建築・設備・電気などの取扱説明書や製作図面、建築仕上図、竣工図などのデータが連動した、デジタルな取扱説明書です。既存建物の取扱説明書をデジタル化し、改修履歴や設備の更新履歴をデータとしてアーカイブ化することが可能で、建物の保全記録としての活用も見込まれます。

⑦AIを活用したクリーン空調最適制御システムを開発

 清浄空気を最適化するAIを活用したクリーン空調制御システムを開発しました。センサーが捉えた室内環境の変化に応じて、AIがファンフィルターユニット(FFU)の動作をエリア単位で制御することで、必要最小限のエネルギーで要求水準を満たす清浄環境を維持できます。今後は、このAI空調制御システムをクリーンルーム施設の新設・改修計画に広く展開していきます。

⑧建物の音響性能をリアルタイムに予測・評価するシミュレーションツールを開発

 初期設計段階の3次元CADデータから、建物の音響性能をリアルタイムに予測・評価できる音響シミュレーションツールを開発しました。操作に音響の専門知識は必要なく、設計者は専門家の知見に頼らず、計画案の音環境の良否を迅速に把握できます。今後は、本ツールの機能を拡張し、音響評価が必要な施設へ積極的に活用していきます。

⑨ビッグデータと量子コンピュータによる交通・防災・観光プラットフォームの開発に着手

 交通最適化、地域活性化、都市防災の高度化等の都市課題を総合的に解決することを目的とした、データ分析プラットフォームの開発を、㈱グルーヴノーツ、㈱GEOTRAと共同で開始しました。位置情報などのビッグデータと、先端テクノロジーによるシミュレーション技術を掛け合わせたプラットフォームで、データ分析は国・自治体のオープンデータや学識者の助言を取り入れます。産官学の連携を進め、全国の自治体と連携したまちづくりに活用していきます。

(5)i-Construction技術

①3次元地質モデルの逐次更新システム「SG-ReGrid」を開発

 施工検討に用いる3次元地質モデルを、施工中に取得した前方探査データを反映した最新モデルに簡易にアップデートできるシステム「SG-ReGrid(Sequential 3D Geological information system using ReGrid of voxel model)」を開発しました。本システムにより、切羽前方で予測される地質分布を逐次可視化でき、対策工事の検討をタイムリーに行うことが可能となります。

②山岳トンネル工事のロックボルト打設を完全機械化

 ロックボルトの遠隔打設装置(ボルティングユニット)を2基装備した「2ブームロックボルト打設専用機」による遠隔施工システムを古河ロックドリル㈱と共同開発し、当社が富山県南砺市で施工中の東海北陸自動車道真木トンネル工事に実証導入しました。穿孔からモルタル充填、ロックボルト挿入に至る一連の打設作業を完全機械化し、災害リスクの高い切羽直下での人力作業を排除したことで、安全性の確保や施工の省人化に効果があることを確認しました。今後、山岳トンネル工事の標準技術として広く展開していきます。

③掘削具合の可視化技術「SP-MAPS」をトンネル切羽に適用

 発破掘削後、設計断面に対する掘削の過不足情報をプロジェクションマッピングで可視化するシステム「切羽版SP-MAPS」を開発し、当社が愛知県新城市で施工した三遠南信自動車三遠道路2号トンネル工事と東海北陸自動車道真木トンネル工事に適用しました。本システムにより、掘削状況を確認する作業員を切羽直下に立ち入らせる必要がなくなり、工事の安全性が飛躍的に向上します。また、掘削面に照射された画像から掘削すべき個所と掘削量を、重機オペレーターが正確に把握できるようになり、作業効率・作業精度が向上しました。

④「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を開発

 ワイヤーソーによる床版水平切断作業を高速化し、精度を向上させる「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を開発しました。この工法は、既設高速道路の大規模更新工事において、合成桁のコンクリート床版取替工事に用いるもので、高性能ワイヤーソーとレール上を移動する走行台車を組み合わせた切断装置です。切断精度の向上と作業工程の簡略化により、本工法を適用した切断作業時間の短縮効果は、従来工法との比較で約45%と見込まれます。

⑤「床版クールカット工法」を開発

 既設高速道路の合成桁コンクリート床版撤去プロセスを効率化する床版切断技術「床版クールカット工法」を開発しました。本工法は、既開発のワイヤーソー切断装置「基礎躯体クールカット」を用いて、コンクリート床版と鋼桁の接合部を床版上から橋軸直角方向に水平切断します。床版撤去に伴う作業プロセスの見直しが可能となり、約20%の生産性向上効果が見込まれます。

⑥「SCプレミアムベルコン」を開発

 ダムコンクリートを打設場所へ最短ルートで運搬できる、密閉・吊下げ構造のベルトコンベヤ「SCプレミアムベルコン」を古河産機システムズ㈱と共同で開発しました。本設備は、袋状に丸めた搬送ベルトの中にコンクリートを包み込んで運搬することで、急傾斜の法面にも直線的な配置が可能となるため、運搬効率を最大化できます。今後は、運搬能力のさらなる向上を図り、2024年春頃を目途に、大型ダム現場での実運用を目指します。

⑦「超高精細映像転送システム」の有用性を確認

 ローカル5G(第5世代移動通信システム)とAI解析を組み合わせた「超高精細映像転送システム」の実証(総務省「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」)を西日本高速道路㈱、シャープ㈱と共同で実施しました。本システムは8Kカメラで撮影した超高精細映像を、ローカル5Gを介してクラウドへアップロードし、AI解析で自動抽出した人や建機にマーキング処理を行うもので、遠隔地での現場把握や超高精細映像を用いた詳細把握が可能となります。

⑧配筋施工図の3次元モデルを自動生成するプログラムを開発

 パラメトリックモデリングを活用して配筋施工図の3次元モデルを自動生成するプログラムを㈱GELと共同で開発しました。本プログラムは、これまで手作業で行われていた配筋施工図の3次元モデル化を、必要なパラメータを入力するだけで自動生成するもので、作業の省力化と正確性が大幅に向上します。当社JVがインドネシアで施工を進めているジャカルタMRT南北線2期工事CP202工区の地下鉄駅舎躯体に適用し、ユーザビリティの向上を図ります。

(6)安全・安心を提供する技術

①制振システム「BILMUS(ビルマス)」を開発

 大小の地震に対して絶大な制振効果を発揮し、超高層ビルのレジリエンス向上と経済設計を両立する制振システム「BILMUS」を開発し、芝浦プロジェクトS棟に採用しました。「BILMUS」は、超高層ビルの上層階と下層階が独立した構造で、互いの揺れを打ち消す方向に揺動することで、ビル自体が制振装置となり、絶大な制振効果を発揮します。また、従来の制振構造と比較し、制振装置の台数を大幅に削減できるため、有効面積の拡大・コスト削減につながります。今後は、「BILMUS」を積極的に提案し、安全で安心な超高層ビルを提供していきます。

②水害タイムライン防災計画を策定

 (独)地域医療機能推進機構 人吉医療センター、国立大学法人京都大学防災研究所と共同で、人吉医療センターの水害タイムライン防災計画を策定し、防災訓練によりその有効性を検証しました。訓練での評価結果をタイムライン防災計画に反映し、より実践的な防災計画を策定します。今後は全国の医療機関を対象に、防災計画の立案支援へ展開していきます。

③医療継続計画支援システムの有効性を検証

 「MCP(Medical Continuity Plan)支援システム」を熊本大学病院災害医療教育研究センターと、(独)地域医療機能推進機構 人吉医療センターと共同で開発しました。医療機関での災害時医療救護活動の高度化と効率化を目的として、必要な情報をリアルタイムに収集・可視化し、災害時に重要となる限られたリソースを適切に配分するための迅速かつ的確な判断を支援します。2022年10月に実施した(独)地域医療機能推進機構 人吉医療センターでの防災訓練で、システムの有効性を検証しました。今後はシステムの高度化を図り、他の医療機関に向けてシステムの提供を開始します。

④防災システム「慈雨(じう)」を開発

 文化的価値の高い伝統木造建築物などの火災リスクを低減する新たな防災システム「慈雨」を開発しました。カメラ画像から火災を認識するAIや消火装置を制御するIoTにより、火災を初期段階で発見し、火災発生エリアに集中的に放水することで、早期消火を実現します。「潮見イノベーションセンター(仮称)」内に再築する旧渋沢邸に初めて適用します。今後は、本システムを積極的に活用し、文化的価値の高い伝統建築をはじめとした木造建築物の維持・保全に寄与していきます。

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