東宝 【東証プライム:9602】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
その経営理念は、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義(パーパス)とし、「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観(バリュー)とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念(モットー)としております。
これらの理念に基づき、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
(2)「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」について
当社グループは2022年4月に、創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」と、3カ年の具体的な施策である「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定いたしました。今後とも、本経営戦略に基づく様々な施策を展開して、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでまいります。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.長期ビジョン 2032
(1) コーポレート・スローガン
(2) 3つの重要ポイント
① 成長に向けた「投資」を促進 ②「人材」の確保・育成に注力 ③ アニメ事業を「第4の柱」に
(3) 成長戦略の4つのキーワード
① 企画&IP ② アニメーション ③ デジタル ④ 海外
「企画&IP」をあらゆる価値の源泉として、その中でも「アニメーション」を成長ドライバーにし、「デジタル」の力で時間・空間・言語を超え、「海外」での飛躍的成長を実現すべく、果敢に挑戦していく
(4) 目指す姿(2032年の財務イメージ)
営業利益 750億円~1000億円
ROE 8%~10%程度
(5) 事業ポートフォリオの方向性
既存事業の3本柱である映画事業、演劇事業、不動産事業に加え、「アニメ事業」を第4の柱とする
2.中期経営計画 2025
3.人材と組織/サステナビリティの方針
(1) 人材と組織の戦略
基本方針
成長戦略の推進役となる多様で優秀な外部人材の採用を強化するとともに、よりクリエイティブな組織に進化すべく人材育成と働く環境の整備を推進していく
具体的施策
キャリア採用の拡大・強化、エキスパート社員制度の拡充
多様なキャリアパスと成長支援、公正な評価と成果に報いる処遇
エンゲージメントを高める以下の環境整備の推進
・朗らか健康経営
・TOHO WORK STYLE
・ダイバーシティ&インクルージョン
・オフィス改革
(2) サステナビリティの方針
基本方針
東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します
4つの重要課題
朗らかに ① 誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境をつくります
清く ② 地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します
正しく ③ 人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します
美しく ④ 豊かな映画・演劇文化を創造し、次世代への継承に努めます
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、景気はゆるやかに持ち直しの動きが見られるものの、ウクライナ情勢の長期化や急激な円安によるエネルギー・原材料価格の上昇、慢性的な人手不足など、先行き不透明な状況が続いております。しかしながら、長きにわたり当社グループの事業活動に大きな影響を与えた新型コロナウイルス感染症については、感染症法上の位置づけが本年5月8日より「5類」に引き下げられたことから、人々の動きが活発化し、娯楽・レジャーに関連する消費マインドの改善が大いに期待される状況です。これらのポスト・コロナに向けた世の中の動きは、集客型のエンタテインメントを主軸に展開している当社グループの映画事業、演劇事業にとっては確実に追い風になるものと認識しています。
そのような情勢下で、当社グループの2023年2月期の通期業績は、主力の映画事業において、興行収入140億円を超すメガヒットとなった新海誠監督最新作「すずめの戸締まり」が業績を牽引したほか、洋画でも「トップガン マーヴェリック」が興行収入130億円以上を記録する大ヒットとなるなど、ウィズコロナの中でも好調な成績を収めることができました。また、アニメを中心とした映像事業においては、「SPY×FAMILY」等のTOHO animationレーベルの強力タイトルが人気を博し、国内外の動画配信等の収入が伸長しました。演劇事業では、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響で一部公演の中止を余儀なくされたものの、東宝創立90周年作品として初の舞台化となった「千と千尋の神隠し」等、帝国劇場を中心に全席完売となる公演も多く、根強いファン層に支えられ堅調に推移しました。不動産事業では、コロナ禍の影響が軽減され全国に保有する不動産物件が堅調に稼働したほか、道路事業も非常に好調な成績を収めました。これらにより通期の営業利益は448億円となり、コロナ禍直前の2020年2月期の過去最高益(528億円)と比較し、8割を超える水準まで回復を果たすことができました。
当社グループは、2022年4月に発表した「中期経営計画 2025」において、2023年2月期から2025年2月期の3カ年を「コロナ禍からの回復と次なる飛躍的成長への基盤固めの期間」と位置付けましたが、その初年度である2023年2月期は、グループ各事業それぞれに着実な回復を見せ、概ね計画通り推移したものと考えております。
以下、セグメント別に現在の経営環境等に対する認識について簡潔な説明を記します。
[映画事業]
映画業界においては、2022年(自然暦)には、邦画のアニメ作品に興行収入100億円を超える大ヒット作が複数あったことに加え、洋画ハリウッド大作の健闘もあり、年間の全国興行収入は2,131億円(前年比31.6%増)、映画入場者数は1億5,200万人(同32.4%増)となり、過去最高となったコロナ禍直前の2019年には及ばないものの、それ以前の5年間の平均的な興行収入の9割程度まで回復した1年となりました。
映画営業事業においては、東宝㈱において、年間を通じアニメを含めた邦画作品のラインナップを安定的に配給し、そのシェアは2022年において約30%を占め、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持しています。また、コロナ禍の影響がより深刻であった米国ハリウッドの映画産業にも復調傾向が見られ、2022年には「トップガン マーヴェリック」という洋画の大ヒットも生まれました。その結果、当社グループとして、東宝㈱で邦画、東宝東和㈱等で洋画の興行力のあるコンテンツを、国内で継続的に提供できる体制が確立できていると考えています。
一方で、コロナ禍を経て近年、公開される作品の興行力に大きな差が見られるようになっており、いわゆる作品の“優勝劣敗”を左右するコンテンツ力とマーケティング力の強化が大きな課題となっています。また、コロナ禍において動画配信プラットフォーム各社が急速に会員数を増やしたことは、当社作品の二次利用等の機会創出につながる反面、それら配信プラットフォーマーが日本国内において自ら作品製作に乗り出すことにより、映画等の製作における影響力を強めていく懸念があります。
映画興行事業においては、コロナ禍における休業や営業時間の短縮、座席販売の制限等の影響がなくなり、通常の営業活動が実施できる状況となりました。今後も興行力のある作品の本数拡大や、ファミリー層やシニア層等の幅広い動員の回復によって、興行収入はさらに伸長する可能性があると認識しています。一方で、コロナ禍を経て邦画と洋画の構成比は変化しており、大ヒットする作品とそうでない作品との差も大きくなる傾向が見られるなど、お客様の作品選択に変化が生じていることには注視していく必要があります。そのような状況下にあって、TOHOシネマズ㈱は全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、2022年においてスクリーンシェアでは約18%、興行収入のシェアは約26%と業界トップを維持しており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。ただし、エネルギー価格や人件費等のコスト上昇傾向が映画館の収支構造に与える影響については、留意していく必要があると認識しています。
映像事業においては、当社グループが「映画・演劇・不動産」に加えて「第4の柱」と位置づけているアニメ事業が着実な成長を見せております。当社のアニメーションレーベル「TOHO animation」は10周年の節目を迎え、「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」「SPY×FAMILY」といったTOHO animationレーベルのシリーズ作品が大きな話題となり、国内外の動画配信、商品化ライセンス、パッケージ販売等の幅広いビジネスを展開することによって、当社グループの業績全体を大きく押し上げています。また、㈱東宝ステラの運営するECサイト「TOHO animation STORE」では、アニメ関連グッズの売上の伸長が見られています。以上のように、多くの熱心なファン層に支えられ、アニメ関連事業は今後も中・長期的に国内外の市場成長が期待できるものと認識しており、当社グループの成長ドライバーとして経営資源を集中し、多面的・重層的・長期的なビジネス展開に注力していくこととしています。
また、TOHOスタジオ㈱では、映画・映像制作及びスタジオ事業の一体化を図り、外資系動画配信プラットフォームのスタジオ賃貸を誘致するなど、順調に稼働しました。また、㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、コロナ禍において中断していたテーマパークにおける展示物の製作業務や音楽ライブイベントが復活したことで、美術製作・舞台製作における受注の回復傾向が顕著に見られます。
[演劇事業]
演劇事業では、新型コロナウイルス感染症が収束に向かう中にあっても、出演者・スタッフの感染に伴い一部公演を中止せざるを得ないリスクが継続しています。しかしながら、3年にわたるコロナ禍を経て、事業継続体制に関するノウハウの蓄積が進んでおり、公演中止のリスクについては大幅に低減が図られています。一方で当社の提供する演劇公演は熱心なファン層に支えられており、多数の公演において動員の回復傾向が顕著に見られます。さらに「千と千尋の神隠し」「キングダム」等、人気アニメや映画の舞台化などの新作を提供することで、新しい観客層の拡大が可能になるものと考えております。また、コロナ禍において積極的な活用が始まった演劇公演の動画配信については、演劇事業の収益源の多様化につながる機会と認識しています。また、東宝芸能㈱では、所属俳優がCM・TV・映画出演等で順調に稼働しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業では、新型コロナウイルス感染症の影響はほぼ脱しておりますが、不動産市況全体では、東京都心地区のオフィス空室率が6%台と高い数値で推移しており、平均賃料についても低下傾向が見られます。一方で、好立地が多い当社グループの賃貸用不動産の空室率は1.0%と低い水準で推移しており、平均賃料も比較的底堅い状況にあります。しかしながら、エネルギー価格や租税公課などの上昇傾向が不動産賃貸事業の利益率に与える影響については、注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、今後も当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めてまいります。
不動産保守・管理事業においては、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱がコロナ禍の影響を乗り越え、厳しい競争環境の中でも受注を回復させております。
なお、道路事業、不動産保守・管理事業の両事業においては、人手不足やインフレによる賃金上昇の影響について、注視していく必要があります。
[その他事業]
その他事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共榮企業㈱が、コロナ禍にあっても屋外スポーツというメリットを活かし利用者数を伸ばしました。一方、飲食店舗・劇場売店等を運営するTOHOリテール㈱は、外食需要の厳しい落ち込みが長期に渡り、2021年8月をもって直営飲食事業から撤退しましたが、その後、演劇事業のグッズ販売等が好調で業績を回復しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、経営目標の達成状況を判断するための指標として「営業利益」を最も重視しております。
創立100周年を迎える2032年をターゲットとした「長期ビジョン 2032」においては、営業利益750億~1000億円の企業集団への成長を目指すとしております。なお、その際のROEのイメージを8%~10%程度とし、利益だけでなく資本効率を意識した経営を行ってまいります。
「中期経営計画 2025」では、営業利益において過去最高益(528億円)の更新に挑戦するとしています。また、本期間においては、コロナ禍からの回復を見極めつつ、次の「成長」を実現すべく「投資」を重視し、成長投資の金額として3カ年合計で1100億円程度を見込むとしております。その他の数値目標では、株主還元として年間40円の配当をベースに配当性向30%以上、かつ機動的な自己株式取得の実施、資本効率の指標としてROE8%以上を掲げております。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループを取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染症の影響からようやく脱する可能性を見込める状況にある一方で、新型コロナウイルス感染症がもたらした行動様式の変容、ウクライナ情勢の長期化を受けた世界経済の混乱、世界的なインフレ局面における物価高や人材不足など、様々な影響が懸念され先行きの見通しは不透明感を増しております。
このような不確実性の高い状況下において、当社グループは2022年4月、創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」と、当初3カ年の具体的な施策である「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定・公表し、これまで以上に長期的な視点に立って、さらなる成長と企業価値向上を目指した一歩を踏み出しております。
「長期ビジョン 2032」においては、「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」という新たなコーポレート・スローガンのもと、成長に向けた「投資」を推進すること、「人材」の確保・育成に注力すること、アニメ事業を「第4の柱」とすることを、3つの重要ポイントとし、さらに「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」の4つを成長戦略のキーワードとして掲げております。
長期ビジョンの初年度となる2023年2月期は、エンタテインメント関連各事業のさらなる連携強化を図るべく、映画事業、アニメ事業、演劇事業の各本部制への移行と、それら各本部を統括する「エンタテインメントユニット」を創設、また、成長戦略を担うアニメ事業の強化を目的としてアニメ本部の下に「TOHO animation」を、当社グループ全体のデジタル戦略推進を目的として「TOHO Digital Lab.」をそれぞれ新設するほか、不動産事業の不動産本部への移行、管理本部のコーポレート本部への名称変更もあわせて、コンテンツの企画開発やIP創出、海外やデジタルも意識した多面的展開による収益最大化を目指す体制を整えました。今後はこれらの体制を十分に機能させることで、飛躍的な成長ストーリーを実現するべく、具体的な施策を着実に推進してまいります。
「中期経営計画 2025」においては、2025年までの期間を「コロナ禍からの回復と次なる飛躍的成長への基盤固めの期間」と位置づけ、「成長投資」に注力しつつ、営業利益、株主還元、ROE等の数値目標についても、各事業が個別事業戦略における取り組みを具体的に実行することで実現してまいります。
「人材と組織の戦略」においては、成長の推進役となる多様な人材の採用を強化するとともに、よりクリエイティブな組織に進化すべく人材育成と働く環境の整備を推進しております。「サステナビリティ」においては、「エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します」を基本方針として、当社グループならではの課題と目標を明確にして取り組んでまいります。
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