日本精線
【東証プライム:5659】「鉄鋼」
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企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
ステンレス鋼線並びに金属繊維(ナスロン®)を主力製品とする当社グループは、長年にわたり培ってきた技術力と新しい分野への挑戦により、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献することを経営の基本理念としております。
産業構造が環境・エネルギーのクリーン化、デジタル化へと進むなか、ステンレス分野への期待はさらに高まり、「より細く、より強く、より精密な」方向が求められています。ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これらの期待に適応すべく『Micro & Fine Technology』をスローガンに掲げ、次世代素材、技術開発をこれからもリードし続けてまいります。
また、株主並びにお客様など、内外の関係先からの信頼と期待に応えるため、常に市場の変化に迅速に対応できる柔軟な経営体制の構築を通じて、安定した収益基盤の維持・拡大を図るべく事業活動を展開してまいります。
(2)中長期的な経営戦略及び目標とする指標
当社グループは2024年4月より『中期経営計画(NSG26)』(最終年度2027年3月期、NSG : Nippon Seisen Sustainable Growth)をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、資本コストや株価を意識した経営を推進してまいります。NSG26の検討にあたっては、高齢化社会や技術イノベーション、地球環境保護などの環境変化を想定し長期的な視点で2035年の「ありたい姿」を設定し、それを起点にNSG26として取り組むべき基本方針を策定しました。NSG26の経営目標として連結売上高500億円、連結経常利益52億円、連結ROE8%以上、連結配当性向50%程度などに加え、2030年CO2排出量削減目標▲30%(2013年度比)を引き続き掲げESG経営を推進しています。なお、NSG26の基本方針については、後述(5)中期経営計画(NSG26)の基本方針に記載しております。
※2025年3月期よりCO2排出量の算定方法を変更しております。それに伴い、公表済の2024年3月期実績を変更後の算定方式による削減率に修正いたしております。
高機能・独自製品とは、当社グループで独自開発した技術を用いることなどにより実現可能となったシェアナンバーワンやオンリーワンの製品群となります。高機能・独自製品は、お客様の製品に高い付加価値をもたらす役割を担っています。
《高機能・独自製品の一例》
製品名 | 説明 |
ばね用材 | 「ステンレス鋼線」とは、ステンレス鋼線材に二次加工を施し、表面性状、線径、機械的特性などの精度の高い機能を付加し、それを保証したワイヤーの総称をいい、ばね・ねじ・金網などに加工されます。 当社のばね用材については、高強度や高耐熱、超非磁性などのお客様のニーズに応じ、線ぐせや光沢などを調整したオーダーメイド製品を提供しています。医療関連や精密電子機器、次世代の水素社会を支える素材となります。 |
極細線 | 線径100μm未満の製品を総称し、フィルター用途やスクリーン印刷用途に用いられています。細径化ニーズに対応してきた結果、現在9μmという単線としてはステンレス鋼線の極限の細さを実現しており、スクリーン印刷用途で用いられる極細線は、高精度・高細密が要求される太陽光発電パネルや電子部品の製造プロセスに欠かせない素材となります。 |
金属繊維(ナスロン®) | 当社が独自の技術で開発したステンレス鋼繊維であり、その線径は1~50μmと非常に細く柔軟性を有します。金属の性質を保持しながら有機繊維と同様にニット状やフェルト状などへの加工が可能となります。このナスロン®を用いた高機能メタルフィルターは、より高強度、より高耐熱で耐食性も優れており、フィルムや樹脂、炭素繊維などの製造の濾過プロセスで利用されています。 |
超精密ガスフィルター(NASclean®) | 金属繊維(ナスロン®)をもとに製作した薄層のメタルメンブレンフィルターであり、半導体・フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の生産過程に用いられるガスの濾過に用いられ、半導体製造装置などに組み込まれています。社会のデジタル化に伴いデータ処理の高速化と機器の低発熱化・省電力化が必要となり、カーボンニュートラルに向けたより高性能な半導体が必要となるに伴い、超精密ガスフィルター(NASclean®)に対する需要も高まっています。 |
(3)サステナビリティ経営
当社グループは、中期経営計画スローガン「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を基に、環境問題、人権尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などの重要な経営課題に対して計画的に取り組んでいます。
製造業である当社では、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減といった社会的な責務を意識しており、その中でも、事業活動に伴うCO2排出削減の目標(2030年目標30%削減(2013年度比)、2050年目標:カーボンニュートラル)を設定し持続可能な社会の実現を目指しています。また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。
また、当社グループは、ビジネス規範に対するコンプライアンス教育の徹底、健康・安全や生産性向上など働きやすい環境の整備、多能工化やスキルマトリクス評価による人的資本の質の向上など、人的資本への投資を通じて持続的成長の基盤を培っています。知的財産の活用・拡張に対しても、伸線加工や金属繊維ナスロン®などのコア技術を活かした新たな高機能・独自製品の創出のほか、水素関連などのサステナビリティ成長分野に対する中長期視点での研究開発の推進に取り組んでいます。
当社グループは、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動に係るリスク及び収益機会が当社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、リスクと機会を特定するとともに、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。また、投資家等とのエンゲージメントにも資するよう、TCFDが推奨する開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を含め、同提言に沿った情報開示を当社ウェブサイトにて行っています。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「統合報告書2024」(27頁から28頁)をご参照ください。「統合報告書2024」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/ir/library/integrated-report/)に掲載しております。
(4)コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実
当社グループは、東証市場区分再編に際しプライム市場を選択し、プライム市場上場企業に求められる改訂CGコードのフルコンプライに向け、2022年1月25日に大同特殊鋼株式会社の形式支配力基準による連結子会社となり、同社関係者の役員派遣の制約が外れました。2022年度は、独立社外取締役3名体制(うち女性取締役は1名)として独立社外取締役の選任割合を増やしガバナンス体制の強化を実現しました。さらに、大同特殊鋼株式会社を親会社とする当社では、独立社外取締役及び独立社外監査役全員を構成員とする特別委員会を設置し、支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引行為について審議・検討を行う体制を導入しました。当社は、2025年6月27日開催予定の第95期定時株主総会の議案(決議事項)として、「取締役7名選任の件」を提案しており、当該議案が承認可決されると、独立社外取締役4名体制(うち女性取締役は2名)となり、独立社外取締役が過半数となる予定です。
また、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」にて気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重などサステナビリティ課題への取組みを組織的に推進しており、2024年度は「CDP気候変動質問書」に3年連続で「B」評価を取得し「水セキュリティ質問書」は「B」(前年度はB-)の評価を受けました。また、2024年から「統合報告書」を発刊し、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。2023年9月には「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定しコンプライアンス強化を展開しました。
(注)
CDPとは企業や自治体を対象とした世界的な環境情報開示システムを運営する国際環境非営利団体。CDPは2003年以来、世界の主要企業を対象に、温室効果ガスの排出や気候変動による事業リスク・機会などの情報開示を求める質問書を年1回送付し、その回答をもとに企業の気候変動問題への対応を「A」から「D-」の8段階で評価しています。
(5)中期経営計画(NSG26)の基本方針
中期経営計画(NSG26)では、従来の日本精線リニューアル計画(NSR)で培った経営リソースや事業計画を承継するとともに、企業価値のさらなる創造を目指すために以下の4つの基本方針を掲げています。
a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化
b.生産基盤強化と生産性向上
c.水素回収技術の深化
d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)
a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化
従来より注力してきた高機能・独自製品に関する機能能力を高めるとともに技術力向上のための設備投資・開発投資に注力していきます。また、需要増大が見込まれるサステナビリティ成長分野向け製品の生産能力の上方弾力を確保するための増産投資も計画的かつ機動的に展開していきます。こうした取り組みを通じて圧倒的な競争力を備え、競合他社が追随できない領域を目指していきます。具体的なアイテムとしては、極細線、極細ばね用材、超精密ガスフィルターの開発深化を展開していきます。また、サステナビリティ成長分野として、①再生可能エネルギー ②医療 ③IoT/AI ④自動車CASE を取り上げ、これらの分野で求められる要求特性の高度化に対応するため、当社の「Micro & Fine Technology」を駆使した製品で社会に貢献していきます。
カーボンニュートラルによる気候変動対策と安定的なエネルギー需給構造を考えるうえで再生可能エネルギーは欠かせない重要テーマとなっています。太陽光発電や風力発電、水素エネルギーなどを支える部材・素材や製造プロセスに不可欠な製品を提供しており、エネルギー効率のさらなる向上を図っていきます。スクリーン印刷に用いられる極細線の細径化は太陽光発電パネルの発電効率の向上に寄与するため、量産化が始まった線径9μmに続き、線径8μmも量産できる体制を整えていきます。
高齢化及び少子化の進行により経済成長や社会保障制度、医療人材不足などの医療分野の社会的な課題を認識しています。治療により生じる身体の損傷を極力抑えQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるとともに健康寿命を延ばし医療体制の維持に貢献できる素材を開発深化させていきます。具体的にはカテーテルガイドワイヤーやインシュリン自己注射器用ばねの素材提供を通じて貢献していきます。
目覚ましいAIやIoTの技術革新は、業務効率化や省人化など第4次産業革命を惹き起こすと期待されています。膨大な計算量やセンシング技術などを支える半導体やデジタルデバイスの製造プロセスにおいて超精密ガスフィルターは不可欠な位置づけとなっており、機能向上と供給能力アップを続けていきます。また、半導体検査装置に組み込まれる超高強度の極細ばね用材の提供を通じてデジタル社会のイノベーションに貢献していきます。
カーボンニュートラル、高齢者ドライバーによる交通事故の増加、地方で増加する交通弱者などの課題解決アプローチとして自動車CASEが注目されています。自動車のIoT、自動運転、電動化の技術プラットフォームの革新に必要となる素材の開発・提供を通じて、社会的な課題解決に貢献していきます。
b.生産基盤強化と生産性向上
当社グループでは従来より①高機能・独自製品の機能能力増強 ②新商品・独自製品開発 ③生産基盤強化を中心に設備投資を展開してきましたが、NSG26においては、将来起こりうる少子化影響による人材不足に対応するための設備の省人化や自動化、さらなる極細線の細径化や受注拡大に対応した能力増強、ワールドワイドの拡販を意識した海外拠点の機能拡大などに対応するための設備投資に注力していきます。
具体的には、カーボンニュートラルの潮流もあり、太陽光発電パネル製造に必要な極細線の需要拡大を見込んでいます。細径化が進み、11μmから9μmの量産化を実現し、中期経営計画では8μmの量産化を目指しています。こうした環境を踏まえて極細線の能力増強投資を推進していきます。また、省力化投資や自動化を通じて生産性アップを推進するとともに、女性やシニアが活躍できる労働環境整備による労働力確保、作業の安全性やエネルギー効率の向上、環境負荷低減につなげていきます。さらに、IoTの活用によって生産現場に限らず、販売や管理の効率性や品質管理の高度化を推進していきます。THAI SEISEN CO.,LTD.、耐素龍精密濾機(常熟)有限公司、大同不銹鋼(大連)有限公司は、生産及び販売における海外展開の拠点として重要な位置づけを担っています。日系企業の海外展開のニーズに止まらず、グローバルニッチな素材を海外企業にも提供するため、さまざまな連携を図っていきます。
また、製造業である当社はエネルギー使用が不可欠であり、カーボンニュートラルに向けた取り組みは社会的な責務として認識しています。エネルギーの使用効率向上、漏れや放熱などのロス低減、排熱再利用などの省エネ投資やプロセス見直しを継続的に推進しSDGsに貢献していきます。
c.水素回収技術の深化
枚方工場内に整備した「MCHからの水素回収、貯蔵、分離精製一体型の小型プラント」により実証実験を推進し、商用化を展望した改良を重ねていきます。具体的には、安全を最優先とした設計、水素回収の高効率、長期耐久性、エネルギーロスの極小化など、連続運転により装置性能における信頼性の検証を進めていきます。実験により分離精製された水素は、熱処理炉の雰囲気ガスとして社内利用して実用化に向けたアプローチを確認していきます。
また、アンモニアからの水素回収に関する技術についても研究開発を加速させていきます。MCHとアンモニアという既存インフラの流用が可能な2つの水素キャリアに対するアプローチを展開することで、水素の事業化の選択肢を広げていきます。水素キャリアをタンクローリー輸送し、過疎地域や郊外の工場や発電設備などにおいてオンサイトの小型プラントで水素を消費するような利用シーンを想定しています。
今後の水素社会においては、燃料電池自動車や発電のために水素を燃焼させるほかに、半導体や液晶ディスプレイの製造プロセスの雰囲気ガスとして利用するなど、水素の多様な用途活用の可能性があります。当社が保有する金属フィルター加工技術、並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールを用いることによって、超高純度の水素を精製することができます。当社が培ってきた技術を複合的に組み合わせるとともに外部リソースとの連携によって、将来の事業の柱となるよう努めていきます。
d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)
環境(E)については、2030年度に2013年度比でCO2排出量を30%削減、2050年度にはカーボンニュートラルを目指すため、排熱回収や断熱化などを行いエネルギーの使用効率向上を図るとともに、電気炉への更新投資によって都市ガス使用量を削減していきます。また、既に導入済のCO2フリー電力の使用拡大についても状況に応じて進めていきます。さらに、サプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減と情報開示の充実についても積極的に取り組んでいきます。そのほか、化学物質の管理強化や廃棄物量の低減やリサイクルの推進、水資源の保全などを行うことにより、サーキュラーエコノミーへの移行を推進していきます。
社会(S)については、人的資本経営に注力していきます。経営理念や2035年のありたい姿の実現には「成長し続ける組織の構築」が必要不可欠と考え、変革を実現する人材の育成と多様な人材・多様な働き方の確保をキーワードに人的資本の充実に向けた施策を推進していきます。体系的な教育研修の実施、女性活躍推進を中心としたダイバーシティ&インクルージョン、ワークライフバランスの推進、人権の尊重、ワークエンゲージメントの強化、健康経営の推進の各項目それぞれにKPIを設定し、一層充実した人的資本経営に取り組んいきます。
ガバナンス(G)については、ステークホルダーとのコミュニケーション強化を図るために経営トップによる決算説明会や工場見学会を開催するなど、SR・IRの拡充を通じて市場から適正な評価を得られるよう努めていきます。また、サステナビリティ経営の推進や、コーポレート・ガバナンスのレベルアップとコンプライアンスの充実、CDPスコアなどの非財務情報も含めた情報開示の充実など、ステークホルダーに対して経営の透明性を確保することで、期待株主資本コストの抑制に努めていきます。研究開発部門の将来投資や非財務戦略投資を積極的に行い持続的成長の基盤の整備にも注力し、ROEや資本コストを意識し資本収益性の維持・向上を図りPBR1倍以上の維持・向上を目指していきます。NSG26においては連結配当性向50%程度とし、株主還元も強化していきます。
※2024年度よりCO2排出量の算定方法を変更しております。それに伴い、公表済の2023年度以前の実績及び2030年度の目標値を変更後の算定方式による排出量に修正いたしております。また、2024年度の排出量は第三者検証前の数値となります。
(6)中期経営計画(NSG26)の進捗状況
中期経営計画(NSG26)の基本方針に則り、初年度となる2024年度の各施策を着実に実施・展開しました。
a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化
ステンレス鋼線部門においては、太陽光発電パネルの高効率化に伴い、その製造プロセスで使用されるスクリーン印刷向け極細線の細径化が加速する中、従来の11μmに加え9μmについても量産対応しその要求にお応えしており、更には8μmの製造技術確立に向け注力いたしております。またインシュリン自己注射器に使用されるニッケル鍍金ばね材増産のための設備投資をTHAI SEISEN CO.,LTD.にて継続的に実施するなど、グローバル拠点の機能拡充も進めております。
金属繊維部門においては、より低圧損かつ高い濾過精度を有する超精密ガスフィルター(NASclean®)の新製品開発と拡販に注力しています。具体的には、近年半導体デバイスの微細化が進み、そのデバイス製造時に使用されるガスが蒸気圧の低いガス種に代わってきており、装置ライン全体の圧力損失を抑えるべくガスフィルターにも低圧損が求められています。この要求に対応すべく、超低圧損かつ高濾過精度を有したフィルターを開発し顧客に提案・評価いただいており、今後の更なる半導体デバイス微細化に対応してまいります。また、樹脂用のナスロン®フィルターにおいては、濾過時の樹脂の滞留低減を目指しフィルター構造や濾材を改良した新製品を顧客で評価いただいており、今後の高機能フィルムの品質向上に対応してまいります。
b.生産基盤強化と生産性向上
ステンレス鋼線部門においては、生産基盤強化として極細線の細径化及び需要拡大などに対応する製造工場の増築を先行して行うことを決定いたしました。また、海外向けで需要拡大が見込まれる細物ばね材の増産に向けた伸線機の増設などを実施しております。
金属繊維部門においては、半導体やデジタルデバイスの製造プロセスで使用される超精密ガスフィルター(NASclean®)需要の上方弾力に備えるため、製造工場やその周辺の整備に着手しました。
将来起こりうる少子化影響による人材不足に対応するための省人化・自動化投資につきましては、ナスロン®フィルターの再生洗浄工程での作業のロボット化や識別照合工程でのAIカメラ導入検討など継続的に進めております。カーボンニュートラルに向けた省エネ投資についても、放熱ロスの低減や排熱再利用などを進め、効率的なエネルギー利用を推進しております。
また、THAI SEISEN CO.,LTD.においては、生産基盤となる生産管理システムの導入に着手しております。受注から出荷までをトータルでカバーした効率的なオペレーションの実現により、生産計画・管理の精度向上と識別管理の強化を図ってまいります。
c.水素回収技術の深化
枚方工場内に整備した、MCH(メチルシクロヘキサン)からの水素貯蔵回収モジュールにより回収した水素を熱処理炉の雰囲気ガスとして利用する事とし、連続運転による実証実験に向けた装置改造や安全面での整備を進めております。この実証実験により、安全を最優先にしながら水素の回収効率や触媒の耐久性、プロセス内でのエネルギーロスなどを確認し、装置の信頼性とコスト検証を進めてまいります。
アンモニアからの水素回収技術についても継続して開発を推進しており、小型アンモニアクラッキング装置(アンモニアに熱を加えて水素と窒素に分解し、触媒に反応させて水素を取り出す装置)の実用化に向け、エンジニアリング企業や電力会社などとの共同検討を行っております。
また、当社が保有する金属フィルター加工技術並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールは、超高純度水素精製の更なる流量拡大に向け、モジュールの製作・評価と市場展開を進めております。
これまで当社が培ってきた技術を複合的に組み合わせるとともに外部リソースとの連携によって商用化を目指し、将来の事業の柱となるよう注力します。
d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)
環境(E)については、2030年度に2013年度比でCO2排出量を30%削減、2050年度にはカーボンニュートラルを目指しており、2024年度(第三者検証前)は29%の削減となりました。目標達成に向け、引き続きエネルギーの使用効率向上や電気炉への更新による都市ガス使用量の削減などに取り組みます。また、海外3工場においてもCO2削減に向けたロードマップを策定し、グループ全体としてカーボンニュートラルを推進しています。
サプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減と情報開示の充実については、CDP気候変動質問書の評価B(前年度と変わらず)、同水セキュリティ質問書の評価B(前年度B-)となっており、更なるスコアアップに向け課題解決に取り組みます。
社会(S)については、健康経営推進の成果として「健康経営銘柄」に初めて選定されるとともに、「健康経営優良法人」には6年連続で認定、今年度は上位500法人である「ホワイト500」にも初めて認定されました。また、リニューアルした教育体系に沿った研修の実施、女性活躍推進、人権の尊重、ワークエンゲージメント強化などにより、人的資本経営の強化に引き続き取り組みます。
ガバナンス(G)については、ステークホルダーとのコミュニケーション強化を図るために経営トップによる決算説明会や工場見学会を開催しております。また、コーポレート・ガバナンスのレベルアップに向け取締役会の実効性評価、政策保有株式の縮減などに取り組むとともに、親会社との取引については独立社外取締役及び独立社外監査役が出席する特別委員会でのチェックを強化し、少数株主の利益保護を図っております。ROEや資本コストを意識し資本収益性の維持・向上を図りPBR1倍以上の維持・向上を今後も目指していきます。NSG26では連結配当性向50%程度としており、2024年度は52.8%となる予定です。
e.目標とする経営指標
当社グループは、NSG26において以下の指標を経営目標として設定しております。初年度の結果は下表のとおりとなります。引き続きこれらを重要指標とし、企業価値の向上に努めてまいります。
※第三者検証前のCO2排出量を基とした数値。
(7)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①経営環境
2024年度の世界経済は、米国の政策動向に絡む不透明さの増大、不動産不況を抱える中国経済の減速懸念などの影響により不安定に推移しました。また、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢などの地政学リスクの解消が見通せないこともあり、景気の先行きの不透明感が大きくなっています。日本経済は緩やかな回復基調にあるものの、不安定な国際情勢の影響に加え、賃上げ以上に進む物価の上昇、幅広い業界での人手不足問題などが景気の先行きに影響する可能性があります。
中長期的な視点では、ステンレス鋼線の汎用品に対する需要が頭打ちとなるニューノーマル経済のリスクシナリオを想定しつつも、サステナブル成長分野に対する高機能・独自製品の需要の増大を見込んでいます。地球環境保護や人口減少、デジタル社会の進展に向けたイノベーションなど、当社を巡る経営環境は「リスク」と「ビジネス機会」の両面を包含しています。
②優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
今後については、米国の相互関税をはじめとする通商政策が世界経済に不確実性の高まりをもたらしており、世界経済の大きな下振れリスクと認識しております。また、地政学リスクの継続、中国の景気減速懸念、株式市場・為替・金利動向を発端とする景気の下振れリスクなど、多くのリスクシナリオを認識しています。
当社グループの主力製品であるステンレス鋼線は、中国や韓国のステンレス鋼線メーカーとの競争激化による収益低下などの懸念があり、同様に、金属繊維(ナスロン®)も化合繊維向けなどの一般汎用製品については競争が激しくなっております。
このような経営環境を踏まえ、当社グループは2024年度より2027年3月期を最終年度とする『第16次中期経営計画(NSG26)』をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、①サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化、②生産基盤強化と生産性向上、③水素回収技術の深化、④ESG経営(資本コストや株価を意識した経営)を基本方針として企業価値向上に努めてまいります。NSG26の経営目標としては連結経常利益52億円、連結売上高経常利益率(ROS)10%以上、連結総資産経常利益率(ROA)10%以上などに加え、2030年度CO2排出量30%削減(2013年度対比)目標を掲げております。
具体的には、ステンレス鋼線部門の販売面においては、再生可能エネルギー、医療、IоTなどのサステナビリティ成長分野に極細線、極細ばね用材、高強度ばね用材など当社グループの高機能・独自製品の拡販に努めてまいります。生産面においては、今後の需要増と細径化に対応した極細線の能力増強投資や将来起こりうる労働力不足に対応した省人化・自動化、クラウド化やAIなどのIоT活用を含めた生産基盤強化と生産性向上を図ります。また、THAI SEISEN CO.,LTD.や大同不銹鋼(大連)有限公司など海外生産拠点と一丸となった最適生産・販売体制を再構築してまいります。
金属繊維部門においては、今後さらに拡大が予想される半導体製造装置市場の需要拡大に応えて超精密ガスフィルター(NASclean®)の安定供給とともに新製品の開発・供給を行ってまいります。
水素ビジネスについては、MCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアからの水素回収技術をさらに深化させ、水素回収技術、貯蔵技術、分離精製技術を組合せた小型プラントの商用化に向けた取り組みを加速させていきます。
ESG経営としては、省エネ投資などの排出抑制を含めたサプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減を推進し、2050年のカーボンニュートラルを目指します。また、資本コストや株価を意識した経営にも注力し、ステークホルダーとのコミュニケーション強化や株主還元策の強化を図ります。働き方改革や人的資本経営への投資も積極的に行うとともにリスク管理やガバナンスの体制強化にも鋭意取り組んでまいります。
また、当社の自助努力では吸収困難な労務費、副資材費、物流費などの製造コストの増加を販売価格へ転嫁するとともに、サプライチェーンの柔軟性確保や適正在庫の運用を図るなど、状況に応じた取り組みを展開いたします。
以上の諸施策を確実に実行することにより、収益の一段の向上を図るとともに、事業のグローバル化推進や高度化・多様化する顧客ニーズへの対応、サステナブル社会への貢献を通じ、『さらなる企業価値の向上』にグループ一丸となって取り組んでまいります。
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