日本空港ビルデング
【東証プライム:9706】「不動産業」
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企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは、国内航空輸送網の拠点である羽田空港における旅客ターミナル等を建設、管理・運営する企業として、「公共性と企業性の調和」を経営の基本理念としております。
この基本理念の下、今後とも、旅客ターミナルにおける絶対安全の確立、お客様本位の旅客ターミナル運営、安定的かつ効率的な旅客ターミナル運営に努めることにより確実に社会的責任を果たしてまいります。
また、グループ全体の継続的な企業価値の向上を図るため、戦略的かつ適切な投資の実行及び投資管理によるさらなる旅客ターミナルの利便性、快適性及び機能性の向上や顧客ニーズの高度化・多様化に的確に対応するとともに、航空会社、空港利用者、取引先、株主等関係者への適切な還元を心がけることを経営の基本方針としております。
経営戦略では、サステナビリティを戦略推進の中核と位置づけ、「サステナビリティ基本方針」のもと、持続可能な社会の実現及び持続的な当社グループの成長を追求します。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、2022年度から2025年度に係る中期経営計画において、以下の目標指標を定めております。
[連結当期純利益]
計画最終年度の2025年度において、2021年3月の増資による希薄化を考慮し、1株当たり利益で、前中計の2020年度目標を上回る収益力を確保する。
[コスト削減策]
コロナ禍におけるターミナル運営の抜本的な見直し等によりコストのリバウンドを抑制し、効率性・生産性向上の目標として、前中計の2020年度営業利益目標250億円の1割相当をコスト削減により創出する。
[ROA(EBITDA)]
旅客ターミナルや駐車場を保有し、施設整備をしながら事業展開する特性を踏まえ、引き続きSKYTRAX TOP10空港の最新の平均値を参考値としつつ、前中計を上回ることを設定。
[自己資本比率]
コロナ禍で低下したが、引き続き、格付(A+)の維持と財務基盤の早期安定化を図ることとして、40%以上の回復を目指す。
[配当性向]
株主に対する利益還元を重要課題と位置付け、大規模投資等を考慮し内部留保を確保すると同時に安定した配当を継続することを基本方針として、自己資本の蓄積と経営成績に基づく株主還元を重視する観点から「配当性向」を指標とし、配当性向30%以上を目途とする。
[SKYTRAX評価順位]
World's Best Airports TOP3を獲得するとともに、より一層の高品質・高効率なオペレーションを目指す。
各指標及び目標値は以下のとおりです。
分類 | 指標 | 2025年度目標値 |
収益性(総合) | 連結当期純利益 | 200億円以上 |
収益性 | コスト削減策 | 25億円 |
効率性 | ROA(EBITDA) | 12%以上 |
安定性 | 自己資本比率 | 40%台への回復を目指す |
株主還元 | 配当性向 | 30%以上 |
空港評価 | SKYTRAX評価順位 | World's Best Airports TOP3 |
現中期経営計画では、計画最終年度の2025年度に内際ともに旅客数がコロナ前の計画水準に回復することを想定していましたが、外部環境の変化等により、2025年度の旅客数は計画策定時の想定を下回る見通しです。また、物価上昇に伴い人件費や各種費用が増加しています。一方で、設備投資や費用増を反映して2025年4月より国内線施設利用料を改定したことに加え、好調な商品売上高や、商業エリアのリニューアル、事務室誘致により家賃収入などでも増収を図り、2025年度の当期純利益は、目標の200億円を上回る245億円を予想しています。資本コスト経営については、当社の株主資本コストは6~8%と試算しており、ROEは2023年度 12.1%(※)、2024年度 15.5%(※)と、継続的に上回っております。今後も、ROEの向上と株主資本コストの低減に全社一体となって取り組み、エクイティスプレッドの確保を図ります。次期中期経営計画においては、資本収益性を評価する指標及び目標設定を行うとともに、最適資本構成を検討し、資本コスト経営を強化してまいります。
※子会社の繰延税金資産計上に伴い連結当期純利益が増加したことによる、一過性の影響を含みます
(3) 経営環境・対処すべき課題等
羽田空港におきましては、首都圏空港の機能強化として2020年3月に国際線の発着枠が約1.4倍に拡大され、当社グループでは発着枠拡大に対応する施設整備を実施しました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で減退した航空需要は段階的に回復し、当連結会計年度末時点で羽田空港の旅客数は、発着枠拡大後の計画値の9割超まで回復しております。
当社グループにおいては、利益成長を牽引してきた羽田国際線事業において、国際線旅客数の増加余地が限られる中で、ターミナルの拡張や物価上昇に伴う運営コストの増加を吸収しながら、持続的に利益成長を実現することが、今後の課題と認識しています。また、訪日外国人の旅行消費額は過去最高を更新し、国内旅行も堅調に推移していますが、中国経済の低迷、米国における通商政策の動向、為替変動などが、今後の消費動向に与える影響に注視が必要な状況です。
このような中、当社グループは中期経営計画「To Be a World Best Airport 2025~人にも環境にもやさしい先進的空港2030に向けて~」において、2030年に目指す姿から2025年度の目標を設定し、サステナビリティを戦略推進の中核として、空港事業の成長、再成長土台の確立、収益基盤の拡大、経営基盤の強化に取り組んでおります。
ターミナル運営においては、2030年の訪日外客数6,000万人の政府目標に向けた空港インフラ機能強化の一環として、第2ターミナル北側サテライトと本館との接続施設を本年3月に供用開始しました。北側サテライトと本館間のバス移動が不要になり、国内線固定搭乗橋を3か所(5スポット)新設したことで、ターミナル南側で行っていた国内線と国際線を時間帯で切り替えるスイング運用を終了し、国際線専用での運用としました。さらに、2026年度に完成予定の第1ターミナル北側サテライトでは、建物のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減を図るとともに、ZEB Orientedの認証を取得し、空港脱炭素化の推進に寄与してまいります。
(ZEBはNet Zero Energy Buildingの略称で、ZEB Orientedは快適なターミナル施設の環境を実現しながら、年間の一次エネルギー消費量を30%以上低減する建物)
また、航空会社や東京空港交通株式会社と連携して昨年4月に導入したランプバス配車システム「RBAS(アルバス)」をはじめ、空港全体の最適化を目指す「トータル・エアポート・マネジメント」を、関係各所と一体となって実現していきます。
物価上昇に伴いターミナルの維持管理運営コストは上昇していますが、ロボット等の技術活用やオペレーションの見直しを継続して、生産性の向上を図ります。その上で、コストや設備投資額の上昇をサービス価格へ適切に反映することに加え、広告やラウンジなどの収益力を強化して、高品質と利益向上の両立を目指します。
営業面では、インバウンドの増加により免税店の売上が好調ですが、為替等の市況の変化により、足元では購買動向に変化が見られます。円高進行や中国経済の減速により、ラグジュアリー商品の売上は減少傾向にありますが、為替や景気の影響が比較的小さい総合免税店において売上利益の確保に努めています。引き続き、免税エリアの店舗リニューアルや、RFIDの導入及びレイアウト変更等の混雑対策を実施し、旅客当たりの単価向上に向けた施策を推進します。さらに、消費動向の変容に対応すべく、羽田空港公式アプリに導入した「HANEDAポイント」等により、One to Oneマーケティングを強化し、顧客ニーズの発掘に取り組みます。
また、旅客に依存しない収益の獲得に向けて、基幹システム開発等の整備を進めてきたEC事業の収益拡大を図るほか、本年1月に開始した羽田空港車両における連絡車のEV化サービスなど、羽田の価値・ネットワークや空港運営ノウハウを活用した、新しい事業の研究・開拓を推進します。
これらを支える経営基盤として、人的資本への投資を進め、待遇改善に加えて、専門職制度や副業・兼業制度を導入するなど、多様な人財が活躍するための環境を整備しています。また、インナーブランディング活動“プラスワンプロモーション”を通じて、自ら考え挑戦する企業風土を構築してまいります。財務面では、コロナ禍で傷んだ財務基盤の強化に努めてまいりました。2025年度はハイブリッドローンへの対応も含めて、多様な資金調達手段を検討いたします。DX分野では、空港内の人流などのあらゆる情報を集約してデータベース化するべく、機能設計や機器の導入を進めました。これらを活用して、空港内機能及びサービスの高度化やデータドリブン経営を推進します。
企業価値の向上については、羽田空港の航空便数が発着枠の上限に近づく中で、収益性や資本効率の向上に全社一体で取り組み、次期中期経営計画において成長戦略を具体化してお示しします。また、利益還元では、当社株主による政策保有株縮減に伴う株式需給悪化懸念に対応するための自己株式の取得等も含めて、資本政策と併せて株主還元方針を検討してまいります。
今後も当社グループは、空港法に基づく羽田空港の旅客ターミナルを建設、管理・運営する空港機能施設事業者としての責務を果たすべく、国土交通省や航空会社をはじめとする関係者と連携し、コロナ禍での学びを活かしつつ、グループ一丸となって旅客ターミナルの利便性・快適性及び機能性の向上を目指し、顧客第一主義と絶対安全の確立に努めます。そして、2030年の訪日外客数6,000万人の政府目標に向けて拡大する訪日需要を捉えて収益性を向上し、絶え間ない羽田空港の価値創造と航空輸送の発展に貢献することにより、企業価値の向上を図ってまいります
(4) 当社子会社の取引先事業者の選定等に関する再発防止に向けた取組み
当社は、当社子会社の取引先事業者の選定等に関して、当社が定めるコンプライアンス基本指針に照らして不適切な対応が行われていた事実が判明した事案について、2025年5月12日に国土交通省より行政指導にあたる厳重注意を受けました。株主の皆様やお客様をはじめとした関係者の皆様の信頼を取り戻すため、二度と同様の問題を繰り返さないよう、再発防止策の徹底に全力で取り組んでまいります。具体的には、2025年5月9日に公表しました調査報告書を踏まえた2025年6月12日付「再発防止策の策定及び取締役の処分に関するお知らせ」に記載のとおり、経営体制の刷新、最高経営責任者の後継者育成計画の策定及び指名プロセスの透明化及び指名諮問委員会の在り方の見直し、経営トップへの牽制機能の強化、組織風土の改革(法務・コンプライアンス室の設置)、経営改善委員会の設置、コーポレート・ガバナンス委員会の設置等といった各再発防止策について、速やかに検討・実行してまいります。
提出日時点における再発防止策の主な内容は、次のとおりであります。
①経営体制の刷新
・組織硬直化によるガバナンス不全を解消する観点から、経営トップを刷新する。
・執行への牽制とガバナンス強化の観点から、取締役会の過半数を社外取締役(監査等委員である取締役を含む)とする。
・経営責任の明確化やコーポレート・ガバナンス強化の観点から、相談役制度を廃止する。
・健全な経営体制構築の観点から、役付取締役を廃止する。
②最高経営責任者の後継者育成計画の策定及び指名プロセスの透明化及び指名諮問委員会の在り方の見直し
・評価・決定プロセスにおける公平性、客観性、透明性の強化を図る目的で、任意の指名・報酬諮問委員会の委員長を独立社外取締役から選任する。
・指名諮問委員会は、人財に関わる情報提供を受け、社外取締役主導で、最高経営責任者の後継者育成計画や社内役員の選定基準のあり方、指名プロセスの透明化についての議論が行える体制を整える。
③経営トップへの牽制機能の強化
・監査等委員会と内部監査部門との連携、内部統制部門、内部監査部門及び会計監査人等と定期的に情報収集・意見交換を行う等、継続的に監査の実効性と効率性を確保する目的で、常勤の監査等委員を新たに選任する。
・監査等委員会による監査の実効性を確保する目的で、「監査等委員会室」を新設し、監査室から監査等委員会事務局に関する所掌を移管する。
※監査等委員会の職務を補助する使用人は、人事異動及び評価等に関して業務執行者や監査等委員以外の取締役
から独立性を確保し、監査等委員会からの指示の下、必要な情報の収集権限を有する。
・グループ会社の非常勤監査役は監査等委員会室に籍を置き、関連情報の共有を図るとともに、業務に関する支援を受ける体制とする。
・内部統制システムにかかるグループ監査機能の実効性を強化する目的で、内部統制部門、内部監査部門の担当役員を選任する。
④組織風土の改革
・組織から独立したグループ全体のコンプライアンスを担う法務・コンプライアンス室を設置し、監査等委員会および利害関係のない(顧問弁護士事務所ではない)弁護士事務所(以下、「社外弁護士事務所」という。)と連携し、経営陣から独立した体制により適切な対応・解決に取り組む。
・従業員がコンプライアンスに関する重要事項を直接通報・相談できる、公益通報者保護法に対応した社内コンプライアンス通報窓口を、法務・コンプライアンス室に設置する。
・心理的安全性の観点から、安心して通報者が利用できる外部コンプライアンス通報窓口を、社外弁護士事務所に設置する。
・取締役及び執行役員のコンプライアンス事案に関しては、独立性の高い監査等委員である社外取締役へ直接通報できる仕組みを構築する。
・グループ全体の内部通報制度の運用状況について、監査等委員会に対して適時適切に報告を行う体制を整備する。
・グループ会社での法令や規程違反の発覚時に、迅速に当社取締役会や関係部門等に報告されるよう、報告体制を再構築する。
・通報受領後の事案処理プロセス(本人対応、弁護士連携等)の明確化と外部取引先が通報できる窓口の整備と周知を図る。
⑤経営改善委員会の設置
再発防止策を単なる形式的・一過性の“対外アピール”ではなく、実質的に機能する内部牽制と社会的信頼回復の原動力となる経営改善委員会を新設する。
・再発防止策の実効性の担保と推進役
実効性の多角的検証を行い、経営(社長)に対し意見表明を行う。
・継続的な経営状況の改善
経営状況の調査・分析に基づく具体的な対応策や、各部門からの諮問に対するスクリーニング結果について、経営(社長)に答申する。
・社員と経営との対話の機会創出及び信頼関係構築
同委員会は、社外取締役、社内取締役、執行役員及び社員で構成し、社員と経営との対話の機会や信頼関係構築の役割を担う。
⑥コーポレート・ガバナンス委員会の設置
健全で透明性の高いガバナンス体制構築に向け、指名・報酬に特化した現在の任意の委員会に加え、コーポレート・ガバナンスに関わる以下の事項を協議する任意の委員会を新設する。
・コーポレート・ガバナンス基本方針への適合性評価
コーポレート・ガバナンスの継続的な充実を図ることを目的に、独立社外取締役を中心とした構成員によりコーポレート・ガバナンス基本方針への適合状況を評価し、実効性を高めるための議論と、取締役会への提言を行う。
・取締役会の実効性の評価と改善
取締役会の実効性を評価し、指名・報酬諮問委員会と連携した対応策を議論し、取締役会への提言を行う。
⑦継続的なモニタリング
・監査等委員会は、各施策についての達成度・実効性・社員の納得度等について、定期レビューを行う。
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