富士フイルムホールディングス
【東証プライム:4901】「化学」
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企業概要
当社グループは、写真事業等で培った材料化学、光学、解析、画像等の幅広い基盤技術のもと、機能性材料、ファインケミカル、エレクトロニクス、メカトロニクス、生産プロセス等の技術領域で多様なコア技術を有しています。現在、様々な分野でビジネスを展開している当社グループでは、これらの基盤技術とコア技術を融合した商品設計によって、重点事業分野への研究開発を進める一方、将来を担う新規事業の創出も進めています。
バイオ医薬品の開発・製造受託会社であるFUJIFILM Diosynth Biotechnologiesはデンマーク拠点の20,000リットルタンク6基の第1次設備増強工事を完了し、稼働を開始しました。同拠点で進行中の第2次投資ではさらに8基の増強を行い、2026年の稼働を予定しています。これにより同拠点は、既存設備を含め抗体医薬品の原薬製造能力は合計20基、欧州最大のCDMO拠点となる見込み※1です。さらに米国ノースカロライナでは、20,000リットルの動物細胞培養タンク16基を有する新拠点の建設を進めています。第1次投資の8基は2025年、第2次の8基は2028年に稼働予定です。また、デンマーク・ノースカロライナの両拠点には、製剤設備も新たに導入し、バイオ医薬品の原薬製造から充填・最終製剤化まで一貫して受託できる体制を構築します。
また、当社は2027年3月までの3年間で、半導体材料事業の成長投資として設備投資及びR&Dに合計1,700億円を投じる予定です。この投資により、グローバルなサプライチェーンをさらに強化し、拡大する先端半導体材料の需要に応えてまいります。その取組みとして、半導体材料事業の中核会社である富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ㈱が、静岡と大分にある2つの開発・生産拠点において、先端半導体材料の開発・生産・品質評価の設備を増強します。静岡拠点では、極端紫外線(EUV)向けフォトレジスト※2をはじめとする先端レジストや、Wave Control Mosaic(ウエイブ コントロール モザイク)™※3の開発・生産・品質評価機能を強化するために約130億円を投資し、新棟を建設します。新棟内にクリーンルームを設置するとともに、最新鋭の検査装置等を導入し、開発のスピードアップとともに生産能力の拡大、品質評価体制の拡充をさらに進めていきます。また、大分拠点では約70億円を投資し、半導体製造プロセスの基幹材料であるポストCMPクリーナー※4の生産設備や検査装置を導入することで、生産能力を約4割拡大します。このほか、熊本拠点では約20億円を投じ、銅配線用を含めたCMPスラリーの生産能力を約3割拡大します。当社は、半導体製造の研磨工程で使われる材料として、CMPスラリーのほか、ポストCMPクリーナーを提供しています。連続する工程で使用される2つの材料を組み合わせて提案できる強みを生かして顧客が抱える課題を解決していきます。上記のほか、当社はエレクトロニクス製造業界大手のTata Electronics Private Limitedとインドでの半導体材料の生産体制及びサプライチェーンの構築に向けた提携に関する基本合意書を締結しました。今後大きな成長が見込まれるインド半導体関連市場の需要を取り込むことで半導体材料事業の成長をさらに加速させるとともに、同国における強固な半導体材料エコシステムの構築に寄与していきます。
当社グループでは、富士フイルム㈱、富士フイルムビジネスイノベーション㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。
当連結会計年度における研究開発費の総額は163,399百万円(前年度比4.0%増)、売上高比5.1%となりました。各セグメントに配賦していない汎用性の高い上記基盤技術の強化、新規事業創出のための基礎研究費は9,105百万円です。
当連結会計年度の研究開発の主な成果は次のとおりであります。
※1 2024年11月5日現在。当社調べ。
※2 半導体製造の工程で、回路パターンの描画を行う際にウエハー上に塗布する材料。
※3 広範囲な波長の電磁波(光)をコントロールする機能性材料群の総称。デジタルカメラやスマートフォンに用い
られる CMOSセンサー等のイメージセンサーのカラーフィルターを製造するための着色感光材料を含む。
※4 CMPスラリー(硬さの異なる配線や絶縁膜が混在する半導体表面を均一に平坦化する研磨剤)による研磨後に、
金属表面を保護しながら、粒子、微量金属及び有機残留物を洗浄するクリーナー。
(1)ヘルスケア セグメント
メディカルシステム事業では、CTやMRI等で撮影された医用画像に対して放射線科医が作成する読影レポートを構造化する、富士フイルム独自の自然言語処理※5技術「読影レポート構造化AI」を開発しました。今回、放射線科医の専門知識に基づき書かれた読影レポートを構造化することで、医師特有の言い回しや医学専門用語を含む読影レポートを効率的にデータベース化し活用することが可能になります。今後、当社は、この「読影レポート構造化AI」を用いて、より高度な画像診断支援機能の開発を加速させます。また、装置開口部70cmの大口径で液体ヘリウムを全く使わない完全ゼロヘリウムを実現したワイドボア1.5テスラ超電導MRIシステム「ECHELON Synergy ZeroHelium(エシェロン シナジー ゼロヘリウム)」※6を2025年6月に発売しました。安定稼働に貢献する高い可用性や自由度の高い設置性といったゼロヘリウムによる特長に加え、AI技術※7を活用して開発した機能により検査ワークフローの効率化を実現し、病院経営をサポートします。このほか、当社とアストラゼネカ㈱は、切除不能なステージIII非小細胞肺がんに対する化学放射線療法の過去症例を検索できる医療情報システムを共同で開発しました。本システムは、医師がCT画像を入力し腫瘍の位置や検索条件を指定すると、データベースから腫瘍の中心の相対位置が近い過去症例を検索し、医師が参照したい症例の放射線治療計画の情報を表示して、医師による放射線治療計画の作成をサポートします。
コンシューマーヘルスケア事業では、紫外線の中で最も長い波長をもつ最長波UVAがシミ・くすみを引き起こす一因であることを解明しました。また、血糖値のコントロールに効果があるとされる生薬成分「オオバナサルスベリ葉エキス」に、最長波UVAが皮膚に当たることにより皮膚中で増加するシミ・くすみ関連因子「GDF-15」の発現を有意に抑制する効果を発見しました。今後、これらの研究成果を化粧品の開発に応用していきます。
ライフサイエンス事業では、富士フイルム和光純薬㈱にて、in vitro※8で発熱性物質を検出するMAT法※9用試薬キット「LumiMAT™(ルミマット) Pyrogen(パイロジェン) Detection(ディテクション)Kit(キット)(以下、「LumiMAT™」と記載します。)」及び、カブトガニ血液抽出成分を使用しないエンドトキシン測定用組換えLAL試薬※10「PYROSTAR™(パイロスター) Neo+(ネオプラス)」を2024年7月に発売しました。欧州では、ウサギ発熱性物質試験が2026年までに欧州薬局方から削除されることが決まっており、LumiMAT™は、その代替試験法として開発されたMAT法用の試薬キットになります。また、PYROSTAR™ Neo+は汎用のエンドトキシン測定装置に対応し、医薬品や医療機器の承認申請における安全性評価のみならず、医薬品の原材料検査や医薬品製造用水の水質管理等、幅広い品質管理の用途で使用できます。
本部門の研究開発費は、60,698百万円となりました。
※5 人間がコミュニケーションで使う自然言語を、コンピュータが人と同じように利用するための技術。
※6 「ECHELON Synergy」にZeroHelium磁石を搭載した液体ヘリウムを一切使わないMRIシステムの呼称。
※7 AI技術のひとつであるDeep Learningを用いて開発した。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することは
ない。
※8 培養容器等の中でヒトや動物の細胞や組織を用いて行う試験。
※9 Monocyte Activation Test(単球活性化試験)の略。ヒト単球系細胞が発熱性物質により活性化され、炎症性
サイトカイン等を産生することを利用して、発熱性物質を検出する試験法。
※10 Limulus Amebocyte Lysateの略。カブトガニ血球抽出物から調製したエンドトキシン測定用試薬。
(2)エレクトロニクス セグメント
半導体材料事業では、先端半導体の製造プロセスに用いられるネガ型の極端紫外線(EUV)※11向けフォトレジスト(以下、「EUVレジスト」と記載します。)及び現像液(以下、「EUV現像液」と記載します。)を発売しました。当社は、現在広く普及しているネガ型レジストの現像工程であるNTIプロセス※12を世界で初めて開発・実用化し、ArF露光※13を用いた半導体の微細化をリードしてきました。今回、EUV向けに進化させたNTIプロセスに対応するEUVレジストとEUV現像液を組み合わせて提供することで、回路パターンの形成プロセスを最適化し、さらなる微細化に貢献します。
AF事業では、富士フイルム和光純薬㈱にて、機能性ポリマーに分解性能を付与することで、紙おむつの再生・再利用における課題に貢献する酸化分解性架橋剤「WOD-001」を開発しました。「WOD-001」は、独自の分子設計技術により、機能性ポリマーに分解性能を付与する架橋剤※14です。次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の一般的な酸化剤で高吸収性ポリマーを低粘度の溶液へと迅速に分解し、高吸収性ポリマーの分解スピードを従来比3倍以上※15に高めます。さらに、水のみならず、有機溶剤にも溶けることから、アクリル系ポリマー等の機能性ポリマーに分解性能を付与することも可能です。建材用アクリル系接着剤等の材料として用いられることで、建築物の解体や、金属とプラスチック等の異種材料でつくられた建材の分別・回収を容易にすることが期待できます。
本部門の研究開発費は、25,760百万円となりました。
※11 極端紫外線を用い、10ナノメートルより微細な世代に必要とされる最先端リソグラフィ技術。
※12 Negative Tone Imaging プロセス。露光後に感光しなかった部分を現像液で除去して回路を作るネガ型の現像工
程。
※13 ArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザー光(波長193ナノメートル)を用いる露光手法で、現在最も普及してい
る先端リソグラフィ技術。
※14 ポリマー鎖間に架橋(化学結合)を形成する機能性材料。紙おむつの原料である高吸水性ポリマー等の機能性
ポリマーの材料として使用されている。
※15 当社品との比較において。
(3)ビジネスイノベーション セグメント
ビジネスソリューション事業では、AI技術を活用したクラウド型マーケティングプラットフォームである「Revoria Cloud Marketing」や、企業が保有するデータを利用し、自社の業務に最適化されたAIモデルを自動で作成するクラウド型データ分析サービスである「FUJIFILM IWpro Intelligent Assistantオプション」の提供を開始しました。
オフィスソリューション事業では、リユース率最大84%※16の再生機「ApeosPort-VII C R」シリーズを2024年7月より、新しいA3デジタルカラー複合機「Apeos」シリーズ3機種※17、10商品を2024年10月より発売しています。当社は、これらの新製品やサービスによる、幅広いビジネスの場面での効率化や持続可能性への貢献を通じ、DX推進と環境保全への取組みを行っています。
グラフィックコミュニケーション事業では、ミドルレンジモデルのプロダクションプリンターとして「Revoria Press EC2100S」「Revoria Press SC285S」を2025年1月より国内外で発売しています。特徴としては、CMYK(一般的なカラー)に加え、特殊トナー(クリア、ピンク、カスタムレッド、ゴールド、シルバー、ホワイト)を用い、一度の作業で5色の印刷が可能です。また、高速ロール紙カラーインクジェットプリンター「Jet Press 2160CFG」の受注も2025年1月より開始しました。水性顔料インクと高精細な画質を両立しているのが特徴です。
今後も、ビジネスイノベーションパートナーとしてお客様のビジネス変革をリードしていきます。
本部門の研究開発費は、54,507百万円となりました。
※16 重量比。設計上の最大値。
※17 「Apeos C7071」シリーズ:フラッグシップモデル。「Apeos C3067」「Apeos C3061」シリーズ:中小企業向け
コンパクトモデル。「Super EA-Ecoトナー」から約15℃低い定着温度を実現した新トナーを採用。
(4)イメージング セグメント
コンシューマーイメージング事業では、instax™“チェキ”シリーズに4モデルを追加しました。「instax mini LiPlay(インスタックス ミニ リプレイ)™」をリニューアルし、USB Type-C充電用端子を採用し、専用アプリでファームウェアバージョンアップを可能とする等、使いやすさを向上させて2024年7月に発売しました。また、レバー操作のセルフタイマーでグループショットを手軽に撮影できる「instax WIDE 400(インスタックス ワイド フォーハンドレッド)™」を2024年7月に、立体的なARエフェクトやコラージュプリントで撮影・プリント体験を盛り上げるスマホプリンター“チェキ”「instax mini Link 3(インスタックス ミニ リンク スリー)™」を2024年9月に、instax™ “チェキ”シリーズ最多のエフェクトを搭載し「想像を超える一枚」を生み出すハイブリッドインスタントカメラの最上位モデル「instax WIDE Evo(インスタックスワイドエヴォ)™」を2025年2月に発売しました。当社は今後も、“撮ったその場で、すぐにプリントが楽しめる”インスタントフォトシステムinstax™の世界を広げていきます。
プロフェッショナルイメージング事業では、独自の色再現技術による卓越した画質と小型軽量を実現する「Xシリーズ」の最新モデルとして、ミラーレスデジタルカメラ「FUJIFILM X-T50」を2024年6月に、また同月に35mm判の約1.7倍となるラージフォーマットセンサー※18を搭載した「GFXシリーズ」で最軽量の「FUJIFILM GFX100SⅡ」を、シリーズ初のレンズ一体型の「FUJIFILM GFX100RF」を2025年4月に発売しました。このほか、シネマライクな映像表現と放送用レンズの操作性を両立した放送用ズームレンズ「Duvoシリーズ」から、初の広角ズームレンズとなる「FUJINON HZK14-100mm」を2024年9月に発売しました。上記社初の映像制作用カメラ「FUJIFILM GFX ETERNA(エテルナ)」を開発しており、2025年中の発売を目指します。ラージフォーマットセンサーを生かした階調豊かで立体的な映像表現や、大量の撮影データの高速処理、自由度の高いポストプロダクションで、映像制作に新たな価値を提供していきます。
本部門の研究開発費は、13,329百万円となりました。
※18 対角線の長さが55mm(横43.8mm×縦32.9mm)で、35mm判の約1.7倍の面積を持つイメージセンサー。
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