大黒屋ホールディングス
【東証スタンダード:6993】「小売業」
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企業概要
当社グループの基本方針は粗利益率及び在庫回転率の最大化を目的とし、市場環境に応じて適正在庫を管理し、適正価格で販売することにより限界収益の極大化を図ることにあります。その中にあって、中古ブランド品の流通は越境ECをはじめ全世界的規模で拡大し、当社グループが展望していたとおり、中古ブランド品事業の物品はその物流がグローバルに展開しております。
かかる状況下、当社グループのビジネスモデルはCtoBの商品買取を基本とし、さらにBtoCの商品販売を展開することにより、一般顧客より高く買取り、その都度市場状況を判断し、在庫リスクを極小化しつつ、在庫回転率を最大化することで商品リスクを回避して顧客に商品を提供してきております。また、不況期に強い安定的な収入が期待できる質屋業を併営しており、併設している質料収入及び上記適正在庫管理、収益管理に努めております。 当連結会計年度における世界経済は、インフレ鎮静化の影響や労働市場の安定により、全体的に底堅い成長を維持してきました。米国が堅調な消費に支えられ比較的高い成長を維持した一方、欧州はエネルギーコストやウクライナ情勢の影響で成長が鈍化、中国経済は不動産市況と内需の弱さから回復が遅れ、グローバルなサプライチェーンにも影響を与えました。米国・トランプ政権の誕生で、ウクライナ紛争やガザ紛争は終息の気配が見えつつありますが、一方で関税政策が世界を揺るがせており、目を離すことができない状況です。
我が国の経済は、個人消費の増加を背景に緩やかな回復が続き、2025年3月に発表された2024年年次の実質GDP成長率は+0.1%となりました。実質賃金は、1年を通しては物価高に追いつけない状況でしたが、春闘での賃上げ率は 5%を超える見込みであり、改善が期待されるところ、日経平均株価は、7月に42,000円台になるなど、2024年度は堅調な1年でした。国内外の資産効果もあり、ブランド品の需要が百貨店を中心に回復してきているところです。実際に、百貨店における2024年度年間の売上は5兆7,697億円で前年度比4.6%増となっております。中でも免税売上に関しては、約6,717億円で前年比72.8%を記録しており、大黒屋においてもインバウンド需要の拡大は追い風となっております。
当社グループを取り巻く古物売買業界の事業環境はSDGs推進によるリユース意識の高まりや円安による物価高により需要の拡大が見込まれております。また、コロナ禍から世界経済が正常化したことや3年前の120円台から2割ほど円安が進んでいる歴史的な円安の状況を踏まえ、インバウンド復活がピーク時の2019年レベルを超える状況となっております。特に、円安は、当連結会計年度の月平均152.64円(前年度の月平均144.54円、5.6%円安)であり、当社の売上高の半数近くを占めるインバウンドの購入者のドルベースでの購入価額が安くなっており、買取・販売が増加しつつあります。当社グループでは、買取・販売の増加が見込まれることに伴い、今後の新たな収益機会に備えた体制を整え、攻めの経営を行ってまいります。
当連結会計年度は、当社連結子会社である株式会社大黒屋(以下「大黒屋」という。)がこれまで長年培ってきた AIとDXを用いた先進的な技術を世に送り出したキックオフの年度となりました。大黒屋は、AIダイナミックプライシング技術及びデータ補正技術を独自に開発し、LINEヤフー株式会社(以下「LINEヤフー」という。)及び株式会社メルカリ(以下「メルカリ」という。)との業務提携を推進しております。大黒屋が構築したこれらの技術基盤をAPI接続し、提携先の業務に沿って提供することで、買取・販売のプロセスを効率化し、透明性と利便性を飛躍的に向上させるものであり、提携企業との連携をさらに深化させる要因となっております。
今後の当社グループの連結収益の改善並びに経営基盤の強化を図るために対処すべき課題とその対処方針は以下のとおりであります。
<優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題>
①AIを活用した未来の買取システム等の時代を先取りする技術の駆使
<技術基盤構築の背景・競争優位性>
●背景
大黒屋は、ブランド品の買取・販売、質屋業に加え、事業の高度化を目的に、過去 7~8年にわたりデータベースの正規化に取り組んできました。その成果として、長年の査定 業務で蓄積したデータを基に、 AIによるダイナミックプライシング技術を開発し、査定プロセスの高度な自動化を実現しています。
●大黒屋が開発したAIシステムの概要
従来は熟練の鑑定士が市場動向や商品の状態を踏まえて価格を判断していましたが、大黒屋では、その知見をAIに学習させ、機械学習アルゴリズムと組み合わせることで、瞬時に適正価格を算出できる仕組みを構築しました。ブランド名やモデル名に加え、年代・状態・付属品の有無など20項目以上の属性情報を整理し、画像データや取引履歴、過去の顧客実績と組み合わせて分析することで、高精度な価格提示が可能となっています。また、記載情報や画像のばらつきに対しても、独自のAIがデータ補正を行い、常に一貫性のある価格を提示でき、リアルタイムで市場価格の変動にも対応できる体制を整えています。「⑴事業の状況、①事業の経過及びその成果、「(1) 技術基盤構築の背景・競争優位性」で記述したとおり、大黒屋の中古ブランド品という専門領域において、大黒屋が構築したスペシフィックドメインAIは、他社が容易に再現できない持続的な競合優位性の源泉です。LINEヤフー社との「おてがるナンデモ買取」における、LINE公式アカウント上のLLMを組み込んだ大黒屋独自のAIチャットボット及びメルカリとの「買取リクエスト」における、進化したAI自動買取システムといった時代を先取りする技術を不断に進化・発展させてまいります。
●AIにより大量の商品処理が可能に
AIにより、様々な業務オペレーションの効率化を実現しております。従来アナログで行っていた査定業務の作業時間の短縮が可能となり、オペレーションを大幅に改善(作業時間を50%以上削減)することができます。また、メルカリとの業務提携においては、将来的に、一日あたり10万件の買取オファーを自動実行することを見込んでおり、人的リソースの制限を受けることなく事業の拡大も可能となっております。
●AI企業としてのポジショニング
中古ブランド品という専門領域において、大黒屋が構築したスペシフィックドメインAIは、他社が容易に再現できない持続的な競合優位性の源泉です。こちらを軸として、自社のDX化はもちろんのこと、中古ブランド品を取り扱ったことのない企業に対しても、システム・オペレーションを提供することにより、日本全体で資産の可視化・価値の最適化を通じて、当社のAI企業としてのポジショニングを確立してまいります。
②異業種との業務提携
<LINEヤフーとの業務提携>
大黒屋とLINEヤフーは、業務提携契約に基づき、2024年7月1日より「おてがるブランド買取」(現在は「おてがるナンデモ買取」)サービスを開始しました。以下が本取組の内容と競合優位性であります。
●誰もが即時に資産価値を把握・買取申込ができる仕組みを構築
大黒屋のAIダイナミックプライシング技術を活用し、LINEヤフーのプラットフォームを通じてユーザーが手軽に所持品の査定・買取を申し込める仕組みを大黒屋が構築いたしました。本取組は、大黒屋のAIダイナミックプライシング技術及びLINE公式アカウント上のLLMを組み込んだ大黒屋独自のAIチャットボットを活用し、LINE・実店舗を通じてユーザーが手軽にブランド品の査定・買取を申し込めるサービスとなっております。AI査定システムにより、ユーザーは数秒以内に市場価格に基づいた買取金額のレンジを確認でき、査定結果を迅速に提示できる環境を整備しております。また、AIチャットボットの導入により、査定から買取手続きに関する問い合わせを自動化することで、ユーザーの利便性が向上したことにより、今まで買取を行ったことがなかった顧客の需要喚起も見込めるものと期待しております。
●価格の透明性・公平性を担保するビジネスモデル
本取組は、買取からYahoo!オークションまでを一気通貫でつないだシステムを構築したことで実現し、大黒屋が責任をもって、落札価格に応じた還元を行うことで、価格の透明性・公平性を担保するビジネスモデルを設計いたしました。
●おてがるナンデモ買取のユーザー数は17万名弱(3/31時点)
上記システムの構築及び過去の大黒屋店舗における買取・販売実績により、本取組は現在、買取方法を拡大し「おてがるナンデモ買取」の概念実証を実施しており、ユーザー数も17万名弱まで達し、AI自動査定サービスを搭載したLINEアカウントとしては国内最大級規模まで成長し、引続きLINEヤフーとの共同マーケティングを進めております。
●小売事業者・中古ブランド品市場の変革の可能性
基本的なシステムを提供・オペレーション業務を引き受け、LINEヤフーと共同で事業を行うことにより、今まで手動で行ってきた査定業務が、AIによる自動化が可能となったことで、中古ブランド品業界に未進出の企業が即時に業界進出できるようになるという市場変革の可能性を有しております。LINEヤフーとの業務提携につきましては、引続き「おてがるナンデモ買取」での概念実証)・共同マーケティングを実施していきます。
<メルカリとの業務提携>
大黒屋の技術力の証明として、大黒屋はメルカリとの間でも業務提携を行い、その共同施策として、メルカリアプリ内の新サービスとして、「買取リクエスト」を2024年12月19日より提供しました。以下が本取組の内容と競合優位性であります。
●「買取リクエスト」の仕組み
メルカリのプラットフォームとAPI接続した上で、大黒屋のAIダイナミックプライシングシステム及びデータ補正技術を拡張し、査定から買取までをシームレスに連携させた仕組みを構築しております。
●AIによる査定によるUX改善・オペレーション効率化(作業時間を50%以上削減)
AIによる査定は、メルカリ上に出品された商品データをリアルタイムで大黒屋が分析し、最新の市場価格に基づい
た買取価格を提示するものであり、従来の査定・買取プロセスに比べ、換金のスピード及び利便性が大幅に向上します。また、大黒屋のオペレーションにおいても、アナログでの査定業務の作業時間の短縮が可能となり、オペレーションを大幅に改善(作業時間を50%以上削減)することができます。
●AI査定による商品の処理能力(最大一日あたり10万件の買取オファーを実施)
今後は、メルカリ上に出品されるブランド品データを100万件/日自動抽出し、AIによる自動BID(入札)システムを導入し、AIトレーニングデータの収集・価格補正を進め、査定精度を向上させ、大量の査定を即時に行うシステム
(10万件/日の買取オファー)へと進化させてまいります。さらに、属性情報の最適化を通じて、より精度の高い査定価格の提示を実現し、メルカリの売り手にとって魅力的な買取サービスを提供していきます。
③相場変動への適時対応、適正価格での在庫保有
当社グループを取り巻く古物売買業界の事業環境は、コロナ禍後、中国を除いたインバウンド客は円安の状況を受けて、過去最高になっております。また、コロナCOVID-19下のリベンジ消費、歴史的円安とそれに伴う値上げラッシュ、トランプ関税が世界を揺るがす等、相場の不安定さは次期も続くと考えられます。かかる状況下、大黒屋では、CtoBの商品買取を基本とし、更にBtoCの商品販売を展開する際に、相場変動への適時対応やシステム内に構築された価格データを駆使して一般顧客より高く買取り、他の顧客に安く販売するというビジネスモデルを展開しております。特にバッグにおいては在庫回転期間が30日以内で推移しています。かかる状況を踏まえ、引き続き、相場の状況を注視しながら余剰在庫を削減し、適正価格による在庫の確保を進めてまいります。
④質屋事業の強化
コロナ禍において、庶民金融である質屋業が個人の逼迫した資金ニーズを賄うものとして改めて再認識されました。大黒屋では創業以来76年で培った「質の大黒屋」としてのノウハウを活用して、顧客ニーズに応えるべく値付・真贋のできる店舗スタッフを育成・強化するとともに、来店できない顧客には訪問質預りで対応する等顧客の要望に応えてまいりました。質屋業界最大手として今後も更に一層庶民金融の一翼を担ってまいります。
⑤電機事業の事業構造改革の実施
電機事業については、生産体制の更なる効率化や製品の統廃合や在庫管理の強化により製造原価の逓減を進め、利益率が向上してまいりました。
今後も引き続きお取引先に理解を得ながら不採算製品の削減や在庫圧縮を徹底するとともに製造間接費の更なる削減を実施してまいります。
⑥キャッシュ・フロー重視の経営と経営基盤の拡充
質屋、古物売買業の強化、電機事業の抜本的な事業構造改革及び本社経費の削減等により、営業利益拡大を図るとともに事業リスクを逓減させ投資の回収を図り、キャッシュ・フローを重視した経営を進めてまいります。
⑦次期の見通し
次期におきましては、引続きインバウンド客数は増加すると考えており、中国以外の訪日客も含めて、大黒屋の利用を促すよう努めてまいります。また、この状況を踏まえながら、資金調達に努め、在庫量の増を図ってまいります。
大黒屋とLINEヤフーとの業務提携につきましては、「おてがるナンデモ買取」の概念実証を着実に進めてきており、引続きLINEヤフーとの共同マーケティングを実施していきます。価格の透明性・公平性を担保するビジネスモデルとして設計したため、査定業務をAIによる自動化を可能としたことから、中古ブランド品業界に未進出の企業が即時に業界進出できるよう、その環境整備と働きかけを行ってまいりたいと考えております。
メルカリとの業務提携につきましては、「買取リクエスト」での、1万件/1日の買取オファーを出せる進化したAI自動買取システムにより、次期においては、買取約1,350百万円、売上約1,500百万円を見込んでおります。
提携事業の進捗や新株予約権の行使(約2,100百万円の調達予定)が進み、資金が大黒屋に還元されること等により、落ち込んだ在庫水準をコロナ前の水準に戻すことを目指します。具体的には、2018年3月期においては約36億の在庫があり、商品の平均単価は現在約1.36倍となっていることから、現在では約50億の在庫処理キャパシティを保有していると考えており、約50億の在庫の水準まで積み増すことを最優先目標としております。これを達成することによって、メルカリとの業務提携の1,500百万円分を含め、2026年3月期に、売上高約17,107百万円を達成できる見込みと考えております。
以上の具体的戦術を含め、大黒屋は、今後AIダイナミックプライシング技術の更なる高度化を図り、大量の商品を扱うことを可能にするリスク管理の強化及び需給変動(volatility)に対応できる価格調整機能を強化してきました。さらに、プラットフォーマー・提携企業との取組を通して、大黒屋が蓄積した買取・販売データを活用し、より精度の高いデジタルマーケティング及び顧客管理を実現する仕組みを構築してまいります。購買履歴や市場動向の分析を通じて、パーソナライズされた査定価格の提示や、最適なタイミングでの再販機会の提供を行うことで、ユーザー体験の向上を図ります。
大黒屋のAI技術を最大限に活かし、LINEヤフー及びメルカリとの提携を更に進化・深化させ、持続的な成長を目指してまいります。また、LINEヤフーやメルカリのようなプラットフォーマーや実店舗を保有する企業と、大黒屋が開発してきた技術とを融合し、提携企業が持つブランドの信頼性と当社開発のAI及びダイナミックプライシングモデルを活用したビジネスモデルによる価格の透明性をもって、古物売買業界の改革を進めていくとともに、これまでの大黒屋店舗や大黒屋自身のECに依存せずに、短期間での買取ルート拡大を目指してまいります。現実の店舗を有する他の企業と協業することにより、大黒屋の査定、鑑定、買取のERPをAPIで提供することで、既存小売とネット事業との融合を進めていきます。
今後、DX及び企業の資産効率の追求は重要な課題だと認識しており、大黒屋が買取事業を他の企業に付与することで、既存店舗の売り場面積当たり利益と顧客の流れが強化される付加価値を産み出すフローをつくることができ、他の企業のROA及びROEを強化していくことができるものと確信しております。
また、大黒屋はこれまで在庫水準に関わらず安定した在庫回転率を維持してきた実績があります。そのため、増加した在庫に対しても過去の平均回転期間(2.4か月)を基に収益貢献が期待され、EBITDAの向上につながると考えています。
以上の状況を踏まえ、次期の2026年3月期(2025年4月1日~2026年3月31日)は次のとおり見込んでおります。
2026年3月期連結業績見通し(2025年4月1日~2026年3月31日)
〔連結〕 (単位:百万円)
| 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 親会社株主に帰属する 当期(中間)純利益 |
中間期 | 7,284 | 199 | 76 | △89 |
通期 | 17,107 | 879 | 655 | 148 |
本資料に掲載されている業績見通し等の将来に関する記述は、当社が現在入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。
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