大成建設
【東証プライム:1801】「建設業」
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企業概要
当社グループは、[TAISEI VISION 2030]達成計画の「経営の基本方針(3)技術開発」において、取り組むべき技術領域を4つの領域「社会・環境問題(カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブ・労働環境等)」、「社会基盤強化(自然災害、インフラ)」、「地方創生(まちづくり・インフラ)」、「フロンティア対応(ビジネスモデル)」に特定し、これらに取り組むための視点・アプローチとして、「個別プロジェクトへの対応」、「生産性向上・生産プロセス革新への対応」、「建設周辺・新規事業への対応」、「将来課題の探索と革新的な取り組み」を定め、経営資源を戦略的に投入しております。
当連結会計年度における研究開発費は195億円であります。このうち、主な研究開発事例とその成果は次のとおりであります。
(土木事業)
(1) 建設重機・機械の自動化に関する技術開発を促進
施工の無人化・省力化による生産性及び安全性を向上させるべく、以下のような成果をあげております。
・自動運転リジッドダンプ「T-iROBO® Rigid Dump」と施工管理支援システム「T-iDigital® Field」の連携により、自動運転リジッドダンプ2台と、遠隔操作油圧ショベル1台を対象に、オペレーター2名による自動運転と遠隔操縦を実現しました。また、建設機械の制御等の取得データをデジタルツイン技術に展開することで、バーチャル空間において自動化建設機械の協調運転を検証しました。
・SLAM技術を活用した位置情報取得技術「T-iDraw Map®」をタイヤ式の工事用車両に装備し、実大のトンネル実験施設及びトンネル建設現場で検証した結果、GNSSを利用できない坑内や地下においても実用速度である時速20kmでの自動運転が可能であることを実証しました。
引き続き燃費改善や施工時CO2排出量削減による環境負荷低減を目指し、建設機械における自動運転技術の更なる進化を目指してまいります。
(2) 最小限の車線規制で作業が可能な道路床版取替技術を確立
車両進行方向となる橋軸方向の床版接合を効率化する施工法として開発した「Head-barジョイント®」を、橋軸直角方向においても使用できるようにしました。従来工法では、幅員方向の継ぎ目へのプレストレス(圧縮力)の導入に加え、接合部への重層な配筋が必要となる課題がありましたが、一車線ごとに効率よく短工期で床版を取り替えることが可能となりました。
引き続き道路インフラリニューアルとしての貢献性が高い床版取替技術の適用と進化を目指してまいります。
(3) 山岳トンネル工事の省人化・自動化に関する技術開発を推進
山岳トンネル工事を対象に、生産プロセスDXやICT活用による技術開発を進め、以下のような成果をあげております。
・発破掘削を震源とする長距離地質探査法「T-BEP®(=Taisei Blast Excavation Prospecting)」の受振器とその設置方法や信号を送る通信方法を改良し、簡便かつ効率的な計測装置の設置・測定作業を実施可能としました。
・トンネル坑内の掘削出来形3次元計測システム「T-ファストスキャン®」を開発しました。本システムの適用により、従来の3Dレーザースキャナーを用いた方法と比較し、計測時間を最大87%削減することが可能となりました。
・3D-LiDARを用いてコンクリート吹付け厚を定量的に計測、可視化して一括管理するシステム「T-ショットマーカー® アーチ」を、これまでのトンネルの切羽の鏡面(トンネル正面)に加えて、アーチ面にも適用することが可能となりました。
引き続き山岳トンネルでの作業効率や安全性の向上に資する取り組みを進めてまいります。
(4) コンクリートダム施工に用いるコンクリート打継面評価技術を開発
コンクリート打設した表面の弱く薄い層を削り取った表面処理状況の確認方法として、タブレット端末のカメラで撮影した画像とAI技術を活用する評価技術を開発しました。本技術の適用により、構造物の施工品質を左右するコンクリート打継面の処理の度合いが、定量的かつリアルタイムにタブレット端末で確認でき、品質管理の高度化や省力化を図ることが可能となります。
引き続きダム工事における生産プロセス改革としてのDX化に関する取り組みを進めてまいります。
(5) 連結子会社における研究開発の主なもの
ピーエス・コンストラクション㈱は、全国で進められている高速道路リニューアルプロジェクトにおける大規模修繕工事として、プレストレストコンクリート橋のグラウト充填不良の対策に以前から取り組んでおり、他社に先駆けてグラウト再注入工法であるリパッシブ工法を開発しております。本工法では非常に狭いシース内の空げきに対する注入方法を確立し、亜硝酸リチウム水溶液を使用した鋼材の腐食対策も可能としており、これまでに全国で多数の施工実績があります。これから本格化する大規模修繕工事に対する顧客ニーズに合わせ、更なる改良として2024年度には低コストタイプを開発しました。
また、塩害による劣化が進む西湘バイパス大規模修繕工事では、現在、同社独自の脱塩工法にて施工を行っております。今後も顧客ニーズに応えるべく、技術開発を進めてまいります。
(建築事業)
(1) 屋内外ワイヤレス給電技術の実証を開始
建物内外を走行する汎用小型車両や自律走行ロボットに無線で電力を供給できるワイヤレス給電床「T-iPower® Floor」を当社技術センター内に設置し、技術実証を開始しました。本実証を2026年まで継続することで課題を抽出し、屋内外で稼働中の自律走行ロボットへのワイヤレス給電技術の実用化に向けた研究開発に取り組んでまいります。
(2) AIを用いた技術開発を推進
「生産プロセスのDX」、「サービス&ソリューションのDX」の一環として、AIを用いた建築分野の技術開発において、以下のような成果をあげております。
・生成AIと検索システムを融合し、建築施工に関する専門的な質問に対して正確な回答を迅速に提供できる「建築施工技術探索システム」を開発しました。本システムでは、利用者が専用アプリを介して入力した質問事項に対し、生成AIがシステム上で回答するとともに、建築施工技術に関する質問と回答から得られる専門知識やノウハウをデータベース化します。蓄積されたデータを基に、関係者間で的確かつ効率的に情報・知識を共有し、施工技術の確実な継承を行います。
・360度カメラと画像認識AIを用いて建設現場の施工状況や資機材の所在などを確認できる「工事進捗確認システム」を機能拡張し、建設現場での本格的な運用を開始しました。壁・天井・床の内装工事など16種類の工種の進捗状況及び24種類の資機材の所在をAIが判断して図面化でき、現場確認業務にかかる時間を削減するなど建設工事のDX推進及び生産性向上につながる様々な効果を実証しました。
・現実空間を仮想空間上に再現するデジタルツイン技術を活用し、2つの空間内のあらゆる情報をリアルタイムに相互連携させることができるデジタルツインバースシステム「T-TwinVerse」を開発しました。石見銀山地区(島根県大田市)をモデルに、生成AIを用いてどこからでも様々な情報を自由に登録・参照できるシステムを構築し、地方創生の取り組みとして産官学民の協働による実証実験を開始しました。
引き続き最新のAI技術を取り込みながら、生産性向上や地域創生に役立つ技術の開発を推進してまいります。
(3) 木質建築の取り組みを推進
木質建築における技術開発において、以下のような成果をあげております。
・「木質建築」について、木材の使用量や構造の特徴、環境保全への貢献度などを独自指標でまとめ、6タイプ7種類からなるプロダクトマトリクスを構築の上、都市部向け木質建築の標準的な形態を分かりやすく示したコンセプトモデルを作成しました。木質建築に対する建築計画段階での関係者間認識の相違や捉え方のばらつきが解消され、カーボンニュートラルの実現やウェルビーイングの向上に資する木質建築の普及促進に繋がることが期待できます。
・木質耐火技術「T-WOOD® TAIKA」の1時間耐火木質柱・梁として、一般的なものに比べ大幅に軽量化した耐火材を部分利用することを特徴とした方式を開発し、大臣認定を取得しました。軽量化のために巻付けロックウールを採用し、柱・梁本体に接着剤を使わずにビス等で固定することが特徴であり、施工時の作業負担を軽減することができ、解体・分別や木材リサイクルを容易に行うことが可能となります。
・小径木材では困難であったロングスパン構造と、小径木材の交換を容易に行うことができる設計法の適用により構造合理化と長寿命化を実現した木造人道橋を、当社技術センターに建設しました。建築用建材として一般に流通する小径木材の用途を大きく拡大し、木構造の採用増加に繋がることから、森林資源の利用促進に貢献してまいります。
・柔らかく自在に曲げ・ねじることができる新しい木質材料「やわらかい木」を用いて独創的なデザインの提供が可能な木質網代(あじろ)構法「T-WOOD® Goo-nyaize」を開発しました。これまで普及が道半ばであった「やわらかい木」の利用促進と価値向上につながり、木造化や内装木質化の推進に寄与することが期待できます。
また、森林資源の維持や再生にも積極的に取り組んでおり、企業やNPO法人等との自然環境保全活動等について積極的に連携しております。
引き続き木質建築の普及・促進に寄与する技術開発と木質資源の循環利用に関する取り組みを推進してまいります。
(4) 音対策の取り組みを推進
完成後の建築物で露呈することのある音の問題に関する技術開発において、以下のような成果をあげております。
・建物の外壁面における強風時の風騒音リスクを可視化し、騒音対策が必要な領域を特定できる技術「TSounds®-Wind」を開発しました。外装付属部材について風洞実験で計測された騒音データと建物周辺の風速・風向などの風シミュレーションデータを連携させて、騒音発生リスク箇所を3Dモデル上に色分けして表示することが可能で、建物外装計画の最適化を実現しております。
・部屋の壁などに用いる建築部材の遮音性能を、数値解析により低コストかつ短時間で高精度に予測するシステム「TSounds®-Lab」を開発しました。遮音性能が不明な新しい壁部材等の使用に際し、従来の実大実験による評価手法と比較してコストと時間を低減でき、部材や構造の選定に向けた設計検討の大幅な合理化が可能となります。
引き続き居住者、執務者等へ快適な建物空間を提供する音対策技術の開発を推進してまいります。
(5) ZEB関連技術の取り組みを推進
省エネやカーボンニュートラルへの貢献性が高いZEB関連の技術開発において、以下のような成果をあげております。
・再生可能エネルギーの最適な利用計画の立案と最大限の活用を図ることができる再生可能エネルギー需給一体型管理システム「T-Green BEMS® RE Optimizer」を開発しました。大成ユーレック川越工場において、再エネで得られた電力の自家消費・蓄電・水素変換・電力自己託送を組み合わせた最適利用について実証を開始しました。
・既存建築物改修後の省エネ性能を設計前の段階で評価し、リニューアルによるZEB化の可能性を短期間で診断できるツール「ZEBリノベ@診断」を開発し、建築物リニューアルの初期診断業務での運用を開始しました。個々の建築物の特性に応じた最適な省エネ改修項目を短期間で選定して改修後の省エネ性能を事前に把握し、改修工事によるランニングコストやCO2排出量の削減効果を迅速に推定してZEB化の可能性を判断することが可能となります。
・埼玉県幸手市に建設中の当社グループ次世代技術研究所研究管理棟において、建築物省エネルギー性能表示制度(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)における最高位と『ZEB』認証を取得しました。建物運用時の一次エネルギー消費量が設計段階において実質ゼロであることを第三者認証により確認し、同施設において国内初となる「ゼロカーボンビル(ZCB)」の実現を目指してまいります。
引き続きZEB化に寄与する技術開発や有効性の実証、ZEB化計画の導入判断の支援に資する技術を開発してまいります。
(土木事業・建築事業共通)
(1) 環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」シリーズの技術開発を推進
当社の特化技術T-eConcrete®の実績や知見を活かした取り組みとして、以下のような成果をあげております。
・地盤改良工事に用いる固化改良材に「T-eConcrete®」の技術を応用し、セメント使用量をゼロとし、CO2排出量を大幅に削減できる「T-eCon®/地盤改良材」を実用化しました。
・構造物を安定させるために地盤内にアンカーを固定する際に用いるグラウト材に「T-eConcrete®」の技術を応用し、製造時のCO2排出量を大幅に削減できる「T-eCon®/アンカーグラウト」を開発しました。
・シールド工事でインバート(歩床コンクリート)の一部に石炭ガス化スラグ細骨材を有効活用した「T-eConcrete®/セメント・ゼロ型」を、国内で初めて採用しました。「T-eConcrete®/セメント・ゼロ型」の材料の“砂として”石炭ガス化スラグ細骨材を利用するもので、コンクリート構成材料における再生資源の利用割合を増やしました。
・ごみの処理過程で生成する溶融スラグと、アルミニウム製品製造時の副産物(水酸化アルミニウム)を積極的に活用した「T-eConcrete®」を開発し、従来のコンクリートと同等の強度と作業性を確保し、道路用建材のL型側溝を試作しました。
引き続きカーボンリサイクルに寄与する当社の注力技術として、T-eConcrete®の技術開発と応用展開を進めてまいります。
(2) エネルギー・水の利用に関する取り組み
自然災害に見舞われた際の避難施設運営やBCPに役立てられることが期待されるエネルギー・水利用技術に関して、以下のような取り組みを推進しました。
・大成ユーレック川越工場で製造した再生可能エネルギー由来のグリーン水素を、当社技術センターへ搬送し、燃料電池を用いて電力に変換し、施設間においてエネルギーを融通するBCP対策の実証を行いました。
・当社技術センターの「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」で使用する「水」について、1年間にわたり技術実証を行い、この度、国内初となる「LEED Zero Water」認証を取得しました。新築・既存建物での雨水利用・雑排水再利用により上水使用量削減を推進し、環境負荷を低減できる建物の提案に役立ててまいります。
引き続きエネルギー・水利用の削減・有効利用を図る技術を開発してまいります。
(3) 有機フッ素化合物(PFAS類)の対策技術を開発
有機フッ素化合物(PFAS類)に対応したバリア材を開発し、汚染物質を含む地下水を地中で浄化し拡散を防止できる透過性地下水浄化壁工法「マルチバリア®」に適用した効果を確認しました。本工法は揚水や水処理を必要とせず、PFAS類等で汚染された地下水を長期間にわたりメンテナンスフリーで拡散防止することができるため、低コストで飲料水源の保全や敷地外への汚染物質の拡散防止が可能となります。
今後、「マルチバリア®」の対象物質にPFAS類を加えるとともに、引き続き地下水環境の保全に貢献してまいります。
(4) リアルタイムに工事進捗を共有可能な歩掛記録アプリ「ワクロク®」を開発
建設工事全般に共通する「生産プロセスのDX」の一環として、施工管理業務支援システム「T-iDigital® Field」の機能を拡張し、ウェブ画面上でのボタン操作だけで、リアルタイムに工事進捗状況を共有できる歩掛記録アプリケーション「ワクロク®」を開発しました。目視での歩掛確認や手作業での記録・データ入力が削減され、日報、帳票作成が不要になり、情報共有のリアルタイム性、即時性が格段に向上しました。
引き続き「T-iDigital® Field」の基盤整備やアプリ開発を推進し、DX技術の導入による建設現場の変革を目指してまいります。
(5) 脱炭素社会・循環型社会実現に貢献する更なる取り組み
大阪・関西万博の会場整備参加サプライヤーとして、「T-eConcrete®/Carbon-Recycle」を使用した床仕上げ材をシグネチャーパビリオン「EARTH MART」に提供しました。また、海洋プラスチックをアップサイクル利用した外装材をEXPOアリーナ「物販棟」に適用しました。来訪された方々に当社のゼロカーボンやサーキュラーエコノミーに向けた取り組みについて広く知っていただき、様々な技術やサービスの提供により、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
また、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)と、「NIMS-大成建設 革新的環境材料開発センター」を設置しました。本センターでは、カーボンニュートラル及びサーキュラエコノミーを実現するために豊かな社会基盤を構築する革新的な機能性を持つ建設用材料を開発します。マテリアルズインフォマティクス※などを駆使して、脱炭素性、リサイクル性、リユース性に優れた新素材の基礎研究、基盤技術開発とその実用化に取り組みます。NIMSは、主として物質・材料に関する基礎研究と基盤技術開発を担い、当社は、主として材料の建築物への適用性検証と普及展開を担います。
※マテリアルズインフォマティクス:
データ科学と機械学習を駆使して、所望の新素材の探索と設計を加速することで様々な材料開発を促進させる手法。近年ではAI技術も駆使して、大量の材料データを解析し、材料の特性予測や設計最適化も行われている。
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