三井住友トラストグループ
【東証プライム:8309】「銀行業」
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企業概要
(1) 会社の経営の基本方針
①当グループの原点
日本では明治時代以降に信託制度が導入され、1922年には「信託法」、「信託業法」が制定されました。これらにより、信託制度が確立され、本格的な発展期を迎えることとなりました。
1924年には「信託業法」に基づく日本最初の信託会社として三井信託株式会社が設立されております。1925年には住友信託株式会社が設立され、1962年には中央信託銀行株式会社が設立されております。これら信託会社・信託銀行が当グループの中核子会社たる三井住友信託銀行株式会社の母体となっており、「信託」が当グループの原点となっております。
当グループは、「信託」の受託者精神に立脚し、「信託」の力で各時代におけるお客さまのニーズや社会の要請に応じて、新たな価値創出に「挑戦」し、日本の発展に貢献する「開拓」の姿勢を、創業以来貫いてまいりました。
例えば、戦後の高度成長期には、重厚長大産業向けの設備投資資金ニーズに応える「貸付信託」を中心に、日本の経済成長を支えてきました。
1960年代からは、企業年金の制度設計・資産運用・資産管理を三位一体で提供する「年金信託」の受託者として、勤労者の充実した老後の生活を支援しております。
2000年以降は、「信託法」、「信託業法」の改正を契機に、時代に合った新たな商品・サービスの提供を通じて、社会課題に向き合っております。
当グループはまさに「信託」を原点とし、「信託」とともにその歴史を歩んでおり、今後もさらなる飛躍に向けて歩みを進めてまいります。
(三井住友信託銀行株式会社の主な変遷)
(三井住友信託銀行株式会社の信託財産残高推移)
(※)2012年3月期以前の信託財産残高については、三井住友信託銀行株式会社統合前の各社の信託財産残高を合算して算出しております。
②当グループの基本方針
当グループは、目指す企業グループ像を明確にするため、次のとおり存在意義(パーパス)、経営理念(ミッション)、目指す姿(ビジョン)、行動規範(バリュー)を定めております。
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| 存在意義(パーパス) |
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託された未来をひらく
~信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる~
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| 経営理念(ミッション) |
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全てのステークホルダーのWell-being向上に貢献してまいります。
・高度な専門性と総合力を駆使して、お客さまにとってトータルなソリューションを迅速に提供してまいります。
・信託の受託者精神に立脚した高い自己規律に基づく健全な経営を実践し、社会からの揺るぎない信頼を確立
してまいります。
・信託グループならではの多彩な機能を融合した新しいビジネスモデルで独自の価値を創出し、株主の期待
に応えてまいります。
・個々人の多様性と創造性が、組織の付加価値として存分に活かされ、働くことに夢と誇りとやりがいを持てる
職場を提供してまいります。
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| 目指す姿(ビジョン) |
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当グループは、信託の受託者精神に立脚し、高度な専門性と総合力を駆使して、銀行機能、資産運用・管理機能、
不動産機能を融合した新しいビジネスモデルで独自の価値を創出する、本邦最大かつ最高のステイタスを誇る
信託グループとして、グローバルに飛躍してまいります。
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| 行動規範(バリュー) |
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当グループの役職員は、パーパスを実践するため、以下の6つの行動規範を遵守してまいります。
お客さま本位の徹底 -信義誠実-
私たちは、最善至高の信義誠実と信用を重んじ確実を旨とする精神をもって、お客さまの安心と満足のために
行動してまいります。
社会への貢献 -奉仕開拓-
私たちは、奉仕と創意工夫による開拓の精神をもって、社会に貢献してまいります。
組織能力の発揮 -信頼創造-
私たちは、信託への熱意を共有する多様な人材の切磋琢磨と弛まぬ自己変革で、相互信頼と創造性にあふれる
組織の力を発揮してまいります。
個の確立 -自助自律-
私たちは、自助自律の精神と高い当事者意識をもって、責務を全うしてまいります。
法令等の厳格な遵守
私たちは、あらゆる法令やルールを厳格に遵守し、社会規範にもとることのない企業活動を推進してまいります。
反社会的勢力への毅然とした対応
私たちは、市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力に対して、毅然とした姿勢を貫いてまいります。
(2) 金融経済環境
当連結会計年度の金融経済環境を見ますと、国内経済は、賃上げの動きが広がる一方、食料品を中心に物価が上振れし、弱い回復ペースに留まりました。海外では、米国経済が個人消費に牽引され堅調に推移し、欧州経済も製造業に弱さが見られながらも利下げが追い風となり回復基調を示しました。中国経済は不動産市場の低迷が長引き、内需が低調に推移しました。こうした中、2025年1月以降は、米国でトランプ大統領が就任し関税政策の中身が明らかになるにつれ、グローバル経済の下振れリスクが高まりました。
金融市場では、日本の10年国債利回りは、米国の雇用減速懸念による米国金利の低下につれて下振れる局面もありましたが、日本銀行が利上げを継続する姿勢を示す中で上昇を続け、2025年3月には1.5%前後まで上昇しました。ドル円レートは、2024年4月から円安基調で推移し、夏頃から日米金利差の縮小で円高基調に転じた後、10月以降はトランプ公約によるインフレリスクが意識される中で再び円安圧力が強まり、2025年3月には150円前後となりました。日経平均株価は、2024年7月~8月にかけて大きな振れを伴いながらも、10月以降は概ね38,000円台で推移しましたが、2025年3月末にかけて米国の関税引き上げの公表が相次ぐにつれ再び下振れし、年度末には35,000円台で着地しました。
(3) 事業の経過
2024年4月15日、当グループは創業100年を迎えました。信託の受託者精神に立脚し、各時代におけるお客さまのニーズや社会の要請に対し、「信託の力」で新たな価値の創出に果敢に「挑戦」し、我が国の発展に貢献する「開拓」の姿勢は、創業以来、いつの時代も変わりません。
中期経営計画の2年目となる2024年度は、社会課題解決と市場の創出・拡大への貢献を示すAssets Under Fiduciary(以下、「AUF」という。)を軸とした成長戦略を「実行・実践・実現」するために、以下の重点テーマに基づいた取り組みを進めました。
(2024年度経営計画の3つのテーマ) 1.アドバイザリ・資産運用・資産管理機能(好循環加速の駆動力)の強化 2.フィデューシャリーの高度化 3.生産性・採算性の向上(DXの推進、インフレへの対応) |
1.アドバイザリ・資産運用・資産管理機能の強化
我が国の金融・社会課題は、3,000兆円を超えると言われる個人の資産や企業の内部留保が、投資や消費に回らず停滞してきたことです。
当グループは資金・資産・資本の好循環の実現による成長を目指しています。投資家が有望な事業に投資し、株価の上昇や配当といった投資の果実を得ることで、国民の資産形成に繋がり、ひいては企業業績の向上による新たな投資や雇用の拡大という一連の好循環が起こり、経済全体が持続的に成長します。信託会社を起源とする当グループは、不動産関連業務、銀行業務と、機能を拡張する中で、投資家、事業者それぞれの想いに直接触れ、双方のニーズを結びつけてきました。そこで培った当グループの強みであるアドバイザリ(意思決定支援)・資産運用・資産管理機能に一層の磨きをかけ、AUFを1年間で約580兆円から約640兆円に拡大いたしました。
①アドバイザリの強化
お客さまのライフプランや資産・負債の全体像を把握したうえで、適切な資産配分の提案から商品提供までをシームレスに行い、お客さまの最善の利益に繋がる意思決定支援(アドバイザリ)に注力いたしました。
個人のお客さまには、2024年10月から、新型金銭信託<フューチャートラスト>の取扱いを開始しました。本商品は、受託した財産を、グリーンな社会の実現などの社会課題解決を実現するプロジェクトや企業に長期資金として供給するものです。お客さまのリスク許容度に応じた最適なポートフォリオの提案・提供を通じた新たな投資需要の創造を推進しています。
法人のお客さまには、2024年4月から、三井住友信託銀行とERMグループが共同で設立したERM SuMi TRUSTコンサルティング株式会社にて、気候変動対応の支援を開始しました。ERMグループの技術知見を含むグローバルな専門知識と、三井住友信託銀行の金融インフラ機能を組み合わせ、実践的かつ国際競争力を意識したコンサルティングやソリューションの提供に注力しています。加えて、国内最大級のコーポレートガバナンスに関する実態調査に基づく経営課題の可視化など、当グループ全体の機能を活用し、お客さまの企業価値の向上及び社会課題の解決に貢献する取り組みを進めました。
②資産運用・資産管理機能の強化
資産運用領域では、三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社(以下、「三井住友トラスト・アセットマネジメント」という。)、日興アセットマネジメント株式会社(※1 以下、「日興アセットマネジメント」という。)、三井住友信託銀行を中心に、グループ各社が個性を発揮し、お客さまのリスク許容度に応じたリターンの提供に尽力しました。
三井住友トラスト・アセットマネジメントでは、投資信託において、パッシブ性の商品ながらも、優れた運用力で指数以上のリターンを狙う「SMT iPlus全世界株式」など、自社運用商品の開発に引き続き注力いたしました。2025年3月に発表された「モーニングスター・アワード2025」では同社の約20年のロングラン商品である「ニュー配当利回り株オープン《愛称:配当物語》」が優秀ファンド賞を受賞しました。また、ロンドン証券取引所グループが選定する「LSEG リッパー・ファンド・アワード・ジャパン2025」では、投資信託及び確定拠出年金の総合部門をダブル受賞するなど、同社の特徴・強みを評価いただきました。
日興アセットマネジメントでは、不動産、インフラ、非上場株式といったプライベートアセット運用の強化を進めています。強みであるグローバルネットワークを活用し、欧州をはじめグローバルに多様な資産クラスで付加価値の高い運用商品を有するフランスのTikehau Capitalと戦略的パートナーシップを締結いたしました。
三井住友信託銀行でも、長年に亘り機関投資家向けに提供してきたプライベートアセット領域の更なる強化に努めました。国内のインフラストラクチャー領域を専門に投資助言を行うジャパン・エクステンシブ・インフラストラクチャー株式会社が三井住友信託銀行と協働して組成した第一号ファンドは、日本を代表する機関投資家のお客さまから想定を上回る総額330億円の出資をいただきました。また、当グループが特に強みとするゲートキーパー機能(※2)を、三井住友トラスト・インベストメント株式会社へ統合し、運用機能を強化する方針です。6兆円規模の資産運用残高を有するプライベートアセット運用会社として、海外投資家や個人投資家へのサービス拡張を図りながら、アジア最大級の地位を確立していきます。
資産管理領域では、AI等の新技術による業務の効率化・標準化を図り、プライベートアセットなど新たな資産の取扱いや、お客さまのニーズに応じたレポート作成などで、高付加価値を発揮しています。2025年3月には、運用会社向けのミドル・バックオフィス業務を中心に幅広いITソリューションを提供する株式会社大和証券グループ本社及び株式会社大和総研(以下、株式会社大和証券グループ本社と合わせて「大和証券グループ」という。)と業務提携いたしました。本邦独自のビジネス慣行や参入障壁に対して、大和証券グループとデータ共有基盤を構築し、投資信託の基準価額一元化を含め、業界全体のプロセス刷新と発展を目指します。
(※1)2025年9月1日付で、アモーヴァ・アセットマネジメント株式会社に商号変更いたします。
(※2)ゲートキーパー機能:主に、信託契約等に基づく運用業務の一環として、数多くの国内外ファンドから投資家にとって最適な商品を選定し、モニタリング、レポーティング等の機能を提供するもの
2.フィデューシャリーの高度化
当グループの使命は、お客さまの想いや時代の変化を捉え、受託者責任のもと、お客さまから託された財産を最良執行し、適切なリターンをお客さまに届けることです。そのためには、グループの役員・社員一人ひとりの高い自己規律や内発的動機に基づくフィデューシャリーの高度化が必須です。
主要な信託業務の一つである資産運用・資産管理領域では、運用商品を組成するグループ運用会社と販売会社である三井住友信託銀行の連携を強化し、商品組成時に想定したお客さまのリスク許容度に応じた販売管理体制やモニタリングの堅確化など、実務における枠組みの整備を進め、業界の議論をリードいたしました。
年々複雑化し、常に高度化が求められる規制対応やサイバー攻撃対策は、体制整備やシナリオ分析等により、困難な状況にも確りと立ち向かう盤石な経営基盤の高度化に努めています。
サービス品質やお客さまの利便性向上に関しては、三井住友信託銀行において、オンライン・コンサルティングプラザの拡充や、ユニバーサルデザインを活用した帳票類の簡素化に取り組みました。コールセンターではデジタル技術を活用した対応を進めるなど、スピードと精度を向上しています。お客さまのニーズをより速く・深く把握し、お客さま本位の業務運営の徹底に繋げます。
また、社員の声に確りと耳を傾け、会社と社員の双方向のコミュニケーションを活性化させると同時に、研修等を通じて一人ひとりの倫理観・コンプライアンス意識を強化し、オープンな組織創りや健全な企業風土の醸成に、不断に取り組んでまいります。
3.生産性・採算性の向上
人口減少やインフレが加速する中、当グループが持続的に成長し、ステークホルダーのWell-being向上に貢献するため、時代に適合したAI活用やDXによる生産性や採算性の向上にも積極的に取り組みました。当社のデジタル戦略子会社であるTrust Base株式会社で先進的な技術知見を獲得しながら、三井住友信託銀行では住宅ローンの申し込み手続きのWeb化や、年金規約の新旧対照表の自動作成を実装するなど、新たな技術の活用を積み重ねています。ITインフラの抜本的な強化に向けては、三井住友信託銀行が三井住友トラスト・システム&サービス株式会社を統合する方針のもと、ITソリューションの方針策定から実装まで一気通貫で担う体制構築を進めています。グループ内で不足する先進技術の知見とビジネスへの応用が必要な領域については、当該能力を高いレベルで有する株式会社野村総合研究所との合弁会社であるトラストITコンサルティング株式会社を設立しました。
また、社内のインフラ整備を進め、社員の居住地域を問わない適材適所による配置で組織力を向上しています。技術革新に伴い、当グループの行動や価値観を柔軟に変え、未来適合を加速します。
加えて、当グループの一層の企業価値向上と経営資源の最適配分に向け、事業ポートフォリオの強化を進めました。2025年1月には、三井住友信託銀行が、子会社である東京証券代行株式会社及び日本証券代行株式会社を吸収合併しました。経営資源の集約により、サービス品質向上やデジタル化をより一層推進いたします。
不動産担保融資専門の金融会社である三井住友トラスト・ローン&ファイナンス株式会社(※3)は、地域金融グループとしてお客さま層との親和性が高い株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループとの共同事業としました。商品・サービスの付加価値をこれまで以上に高め、効率的・持続的な成長と発展を目指します。
このような取り組みを進める一方で、2024年10月に三井住友信託銀行の元社員が、業務上知りえた情報を利用し自己の利益を図る目的でインサイダー取引を行っていたと疑われる事態が判明し、2025年3月に元社員は、金融商品取引法違反で起訴されております。多くのお客さまや株主をはじめとする関係者の皆さまに多大なご迷惑・ご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。高い倫理性と自己規律を要求される当グループは、調査委員会による調査結果と提言を真摯に受け止め、類似事案の再発を防止すべく、様々な機会を活用し、社員一人ひとりの倫理やコンプライアンス遵守に対する意識の醸成を徹底し、信頼回復に全力をあげて取り組んでまいります。
(※3)2025年4月1日付で、株式会社L&Fアセットファイナンスに商号変更しております。
(4) 中長期的な会社の経営戦略及び対処すべき課題
2025年度は、現中期経営計画の総仕上げと、次期中期経営計画への橋渡しとなる期間です。2030年のありたい姿(※4)の実現に向け、2025年度は、(1)将来の利益成長とROE向上を見据えたプライベートアセット戦略等の成長領域への注力、(2)ステークホルダーとの長期信任関係の構築、の2点を重点テーマとし、積み上げた利益・資本を活用した質の高い成長を目指します。
(※4)2030年のありたい姿
(定量)ROE:中長期10%以上、純利益:3,000億円以上、AUF800兆円
(定性)1.フィデューシャリーとしてステークホルダーから信頼される存在、2.将来世代も包摂する全ての人のWell-being向上に貢献、3.資金・資産・資本の好循環を促す社会インフラ
<テーマ1>プライベートアセット戦略等の成長領域への注力
当グループの企業価値向上に向けて、資金・資産・資本の好循環による「利益成長」と、適切な「経費戦略」及び「資本政策」を一体で取り組んでまいります。
企業等の資金需要と投資家の運用ニーズの双方に対して、直接ソリューションを提供している強みを活かし、多様で良質なアセットを国内外のお客さまに適切なリターンとして提供する取り組みに引き続き注力します。特に、未成熟な国内のプライベートアセット市場の先駆者となることが収益期待に直結すると考えています。三井住友信託銀行では、プライベートアセットの性質を持つ新型金銭信託<フューチャートラスト>に加え、投資家のお客さまの期待・選好を起点に、適切なリターンをより一層提供できるような商品組成に取り組みます。
ジャパン・エクステンシブ・インフラストラクチャー株式会社では、本邦の脱炭素や地域経済の活性化・持続的発展などに資する社会インフラ事業や企業に投資する第二号ファンドを立ち上げる予定です。当グループが有するリレーションを最大限活用し、幅広く展開してまいります。
海外のプライベートアセットに関しては、日興アセットマネジメントとTikehau Capitalが、シンガポールで合弁会社を設立し、同社のプライベートデットやプライベートエクイティ領域の知見を活かしてアジア市場への展開を進めます。また、米国のGCM Grosvenor Inc.との業務提携では、当グループ自身による海外プライベートアセットの運用力獲得を目指します。
与信業務では、投資家目線も考慮したプロジェクトファイナンスやクレジット投資などに引き続き注力し、多様なお客さまのニーズに応えます。また、社会的価値と経済的価値の両立を企図したインパクト投資では上場に繋がる事例も出てきています。適切なリスク管理のもと、直接投資を行う案件を中心に実績を積み上げ、お客さまの最善の利益に資する投資機会の創出を追求してまいります。
環境変化に伴い増加傾向にある経費は、商品・サービスの価格適正化とあわせ、AI活用やDXを積極的に推進し、採算性向上と費用抑制に取り組みます。収益成長を支える資産運用ビジネス等の成長領域や、信託グループらしい付加価値を創出する領域に、資源や人員を積極的に投下します。
資本の効率活用の観点からは、未来に適合する事業ポートフォリオへの転換を引き続き図ります。持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて、インオーガニック戦略を視野に入れた資本の入れ替え等を推進し、当グループ全体の成長を加速してまいります。政策保有株式に関しては、取引先の法人のお客さまとの深度ある対話を進め、2029年3月末の純資産対比時価20%未満の達成に向けて売却を加速します。成長投資や業務改革、利益構成の転換を進め、政策保有株式の売却益がなくとも大きな果実を生み出す仕組みを高度化し、安定的にROE10%以上を目指します。
<テーマ2>ステークホルダーとの長期信任関係の構築
持続的な企業価値向上に向けた期待に対しては、AUF拡大による成長戦略が業務純益やROEの向上に繋がるという、当グループが描く成長ストーリーを明確に示すことで、将来世代を含めた全てのステークホルダーとの長期信任関係を構築してまいります。
多様なステークホルダーから信任されるには、当グループの価値の源泉である役員・社員一人ひとりのフィデューシャリーの高度化が不可欠です。受託者精神のもと、高い自己規律や内発的動機により、常にお客さま本位の姿勢で「託された未来をひらく」ことに努めます。
サステナブルな社会の実現を目指す姿勢は不変です。外部環境の潮流を見極めながら、インターナルカーボンプライシング(※5)の整備や人権マネジメントの体制の高度化などを柔軟に推進します。開示物の品質向上や、サステナビリティ開示基準の適用に向けた態勢整備も、実現してまいります。
人的資本の観点では、多様な人材が活躍できるよう、処遇改善を含めた人事制度の拡充、自律的なキャリア形成支援等を推進します。個の力を高める取り組みを充実させ、自ら挑戦し成長する組織力の向上を図ることで、お客さまや社会から信じて託され、想いを実現するフィデューシャリー(受認者)として、お客さまや社会の期待を上回る水準まで業務品質を高度化いたします。
また、投資家、株主の皆さまには、開示の高度化を図りつつ、より建設的な対話を行うことで、当グループが提供する価値を共有いただけるよう一層注力してまいります。
(※5)インターナルカーボンプライシング:脱炭素経営に向けて、企業が内部で独自に設定・使用する炭素価格
世界情勢は紛争や分断の様相も色濃く、特に米国の政権交代を契機に、不確実性が増しています。その中においても、信任と誠実を根本とする信託の精神は変わりません。リスクを取って未来づくりに挑戦し、価値を創出する事業者を資金面からサポートし、投資家には良質なリターンを届ける役割も、過去・現在・未来と一貫しています。世の中の動きを受け止めながらも、流されることなく、信託グループらしいビジネスを強力に推進し、豊かな未来づくりに挑戦し続けます。
報告セグメントにおける主な事業内容は、以下のとおりであります。
(個人事業)
人生100年時代における個人のお客さまのさまざまなニーズに対し、資産の形成・運用から管理・承継に至るまで、信託グループならではの商品・サービスを提供しています。お客さま一人ひとりとの長きにわたる信頼関係をもとに、資産に関する悩み、不安、ありたい姿を丁寧におうかがいし、豊かで安心できる未来の実現をサポートします。
(法人事業)
各種ファイナンス、証券代行業務に加え、ESG関連のコンサルティングなど、多様なステークホルダーとの接点や幅広い商品提供力を活かし、お客さまの企業価値向上に繋がるトータルソリューションを提供しています。他事業やグループ会社・外部提携会社まで含めた、専門的かつ多彩なソリューション提供を通じ、経済的価値と社会的価値の創出を両立し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
(投資家事業)
多様な投資家のお客さまに対し、意思決定をサポートする高品質なコンサルティングを通じ、資産運用・資産管理サービスを提供しています。また、他事業やグループ会社等の多彩で専門性の高い機能と有機的に連携し、社会課題解決の中で生じる資金需要に着目した新たな価値ある投資機会を創出すること等を通じて、お客さまの経営課題や社会課題の解決に貢献しています。
(不動産事業)
法人のお客さまの経営課題解決及び個人のお客さまの資産形成・管理のために、高い専門性と総合力により付加価値を提供し、お客さまのベストパートナーを目指します。また、多様な情報・データに裏打ちされた不動産の目利き力や堅確な事務を通じた安心・安全の提供により、社会インフラとして不動産市場の成長を力強く後押し、投資家及び自らの成果獲得に繋げます。
(マーケット事業)
金利・為替取引、投資助言などのマーケティング業務・マーケットメイク業務を担う「顧客サービス機能」、投資業務・財務マネージ業務を担う「市場機能」、「事務機能」を組み合わせ、マーケットボラティリティ(市場変動)マネージの専門家集団として、お客さまのバランスシート上の課題に対する最適なソリューションをご提供していきます。
(運用ビジネス)
三井住友トラスト・アセットマネジメントと日興アセットマネジメントを中心に、グループ全体でアジア最大級となる資産運用残高を有しています。年金運用で培った質の高い運用ソリューションやグローバルネットワークを活用した多様な商品提供など、グループ各社が持つ多彩な運用機能の提供を通じて、お客さまの長期・継続的な資産運用に貢献していきます。
(5) 目標とする経営指標
当グループは、2025年度の財務目標(KPI)として以下を設定しております。資産運用・資産管理を軸とした信託グループらしいビジネスモデルの推進により、2024年度は中期経営計画(2023年度から2025年度まで)に掲げた主要なKPIを1年前倒しで達成いたしました。中期経営計画最終年度である2025年度も、「2030年度までのありたい姿」として掲げるKPIとPBR1倍以上(≒時価総額3兆円以上)の早期達成に向けて引き続き取り組んでまいります。
| 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 2030年度まで |
自己資本ROE | 2.68% | 8.30% | 8%台後半 | 10%以上 |
実質業務粗利益 | 8,741億円 | 9,342億円 | 9,750億円 | 1兆円以上 |
実質業務純益 | 3,386億円 | 3,620億円 | 3,700億円 | 4,000億円以上 |
親会社株主純利益 | 791億円 | 2,576億円 | 2,800億円 | 3,000億円以上 |
AUF(残高) | 580兆円※ | 640兆円※ | 650兆円 | 800兆円 |
手数料収益比率 | 54.7% | 54.4% | 50%台前半 | 60%以上 |
経費率(OHR) | 61.3% | 61.2% | 62% | 50%台後半 |
普通株式等Tier1比率 (バーゼルⅢ最終化完全 実施ベース) | 10.2% | 10.6% | 10%台半ば | 安定的に 10%以上 |
※定義見直しによる増加分20兆円を含む。
(注)1.自己資本ROE:自己資本に対する当期純利益の比率。利益を稼ぐ効率性を示す指標であり、この比率が高いほど、自己資本を効率的に使って純利益を稼いでいることを示します。なお、2023年度(実績)の自己資本ROEについては、政策保有株式及び日本株ベア型の投資信託の損益影響を除くと、概ね親会社株主純利益の期初予想(2,000億円)を前提に算出したROEを上回る水準と試算。
2.実質業務粗利益:当社及び連結子会社の業務粗利益に持分法適用会社の損益(臨時要因を除いた持分割合考慮後の金額)等を反映した社内管理ベースの計数。
3.実質業務純益:経常利益から与信関係費用や株式等関係損益などの臨時的な要因の影響を控除したもので、実質的な銀行(及びグループ)の本業の収益を表す指標。
4.AUF(Assets Under Fiduciary):社会課題解決と市場の創出・拡大に貢献する取組の規模を示す指標。
5.手数料収益比率:実質業務粗利益に対する各種手数料収益(受託財産に係る信託報酬や不動産仲介手数料、投資信託の販売手数料等)の比率。この比率が高いほど、当グループが注力する手数料ビジネスが粗利益の獲得に貢献していることを示します。
6.経費率(OHR):実質業務粗利益に対する総経費の比率。利益を稼ぐ効率性を示す指標であり、この比率が低いほど、経費を効率的に使って粗利益を稼いでいることを示します。
7.普通株式等Tier1比率:資本金、資本剰余金及び利益剰余金など、自己資本の中でも中核的な資本に対するリスクの割合を表すもの。資本の十分性を示す規制指標であり、この比率が高いほど、リスクに対する備えが厚いことを示します。
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