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【東証スタンダード:2183】「サービス業」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2025年6月24日)において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは経営理念として「医薬品開発のあらゆる場面で常にプロフェッショナルとしての質を提供し、ステークホルダーである製薬会社、医療機関、患者ならびに株主、従業員の幸せを追求する。」を掲げています。これを実現するため、アンメット・メディカル・ニーズが高く、開発難易度の高いがん、中枢神経系、免疫疾患などの特定疾患領域に注力し、大手製薬会社と対等の立場で医薬品開発を実行・支援できる知識・技術・経験を有する、日本発のグローバルCROを目指しています。
(2)経営環境及び中期経営ビジョン
世界の医薬品市場は欧米を中心に拡大が続いており、これに伴いグローバルのCRO市場も拡大が見込まれています。当社グループの主要顧客である国内外の製薬会社は、新薬開発における投資効率を最大化するために、実質的な特許期間、すなわち後発品出現までの期間を最大化するため、国際共同治験を活用し、主要市場国における早期・同時発売を図っています。また、その生命線である新薬の創出のため、自社の研究所以外に大学等との共同研究による創薬研究や、グローバルでの企業統合または買収等により、開発候補品の充実を目指しています。この背景として、これまで主流であった低分子医薬品から抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療、細胞治療へと治療手段であるモダリティが多様化しており、新興バイオ医薬品企業が創薬主体として台頭しています。さらに、新薬のみならずデバイスやアプリなどによる新たな治療方法の開発を行うベンチャー企業も増加しています。
このような環境を踏まえ、当社グループでは、日本を含むアジア、米国及び欧州で国際共同治験を実施できる体制を整え、海外拠点を拡充することで国内同業他社との差別化を図り、CRO事業の拡大に努めています。また、医薬品が承認された後、製造販売後の臨床研究・調査の受託やマーケティング活動を支援する育薬事業と、創薬段階から薬事・開発戦略策定などのコンサルティング支援を行う創薬支援事業を立ち上げ、創薬段階から臨床開発、製造販売後まで一気通貫で医薬品のライフサイクルマネジメントを支援できる体制を整えています。医師・アカデミアが主導する臨床研究や、これから日本や海外に進出しようとする新興バイオテック企業に対しきめ細かいサービスを提供することで、すでに大口顧客を抱えリソースに制限のある大手グローバルCROとの差別化を図っています。今後さらなる成長を目指し、2022年に設定した中期経営ビジョンにおいて「日本発のグローバルCROとして、クライアントの戦略的パートナーに」なることを掲げ、以下の重点戦略領域に取り組んでいます。
① Business Focus
・臨床試験に関わる様々なサービスをグローバル・ワンストップで提供
・臨床試験計画段階と臨床試験のすべてのフェーズを対象とする
・がん・中枢神経系など開発難易度の高い疾患領域や新たな創薬モダリティを活用した新薬・治療法にも対応し高品質・スピーディーなサービスを提供
② Client Focus
・大手製薬企業から欧米の有望なバイオテックカンパニーまで幅広いクライアントと長期的かつ戦略的なパートナー関係を構築
・医療機関との良好な関係をベースに、臨床データの品質にコミットするとともに、スピード感・柔軟性をもって提案型のサービスを提供し、クライアント満足を追求する
③ Global Coverage
・医薬品の主要マーケット(日本、米国、欧州)を中心に、迅速な臨床データ収集のために幅広い国と地域をカバー
・あらゆる疾患の臨床データを、季節や地域性を問わず迅速に収集するために、南半球を含め戦略的にサービス提供エリアを拡大し、グローバルでのプレゼンスを高めていく
(3)経営指標
当社グループは、中長期的な事業成長と安定的な利益還元のバランスを図り、持続的に企業価値を向上させることを目指し、1株当たり当期純利益(注)を経営指標にしております。
(注)1株当たり当期純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益を発行済株式数(期中平均)で除した数値であり、株主価値を形成する重要な指標です。株式の評価指標の一つであるPER(株価収益率)の計算根拠の一つでもあり、PERが一定水準に収束すると、1株当たり当期純利益の向上は株価水準の向上に結び付き、結果として株主価値の向上に寄与するものとなります。
(4)事業上及び財務上の対処すべき課題
当社グループは、2025年3月期までをグローバル市場におけるさらなる成長に向けた基盤構築のフェーズと位置づけ、海外拠点網の拡充とグループ間の連携強化を推進するとともに、グローバル化を支えるコーポレートガバナンスの強化に取り組んできました。現在、製薬業界は、新興バイオ医薬品企業の台頭による創薬主体の変化、開発候補品をめぐる国際的な獲得競争の激化、ならびに日本国内における薬価等医療費抑制政策の進展など、様々な変化に直面しており、CROをめぐる事業環境もまた、急速に変化しています。こうした変化の激しい環境の中、当社グループは、来期を将来にわたる安定的な収益基盤確立のための転換期ととらえ、米国を中心とした更なる海外事業の拡大、必要な人材の確保・育成とテクノロジーへの投資を行い、以下の重点施策に取り組みます。
① グローバル営業戦略の強化
当社グループは従来、日系大手製薬会社からリピート受注を獲得することで事業を拡大してまいりましたが、積極的な海外進出に伴い、各地域の拠点が連携してグローバルでの情報収集・営業活動を強化することで欧米・アジアの海外企業からの受託が増加しています。特に、有望な開発パイプラインを有する欧米の新興バイオ医薬品企業にフォーカスし、そのニーズにマッチしたきめ細やかな提案を行うことにより、大手グローバルCROとの差別化を図り、顧客基盤を拡大してきました。今後、こうした多様な顧客層から安定的なリピート受注を獲得するため、グローバル営業人材の採用/育成を強化するとともに、グループ間の連携体制をより一層強化していきます。
② グループ経営の効率化
新薬開発のグローバル化と顧客層の多様化に伴い、臨床開発における各種業務をワンストップで委託するニーズが高まっています。新興バイオ医薬品企業や中小規模の製薬企業は、グローバルでの医薬品開発・販売に必要な機能を自社で保有していないことも多く、CROに対し高度な専門性とコンサルティング能力が求められる状況にあります。
当社グループでは、強みとする治験モニタリング業務に加え、データマネジメント・解析業務を拡充しています。さらに日本への進出を検討している国内外の新興バイオ医薬品企業に対し、創薬支援業務として医薬品市場分析と開発戦略立案、規制当局に対する届出・相談、治験実施計画書や申請関連書類の作成、規制当局への承認申請、共同開発や導出などのパートナリング支援等を行っております。また、医薬品発売後において、競合品との差別化や医薬品の適正使用に資する臨床医療データを収集する臨床研究等の企画から論文作成に至るまで、新薬臨床開発の上流・下流工程においてもサービス提供範囲を拡大しております。
こうしたサービス拡大を進めながらも収益性を向上させるため、グループ全体での適正な組織体制への変革及び連携強化を進めています。加えて、協業関係の強化による外部リソースの有効活用を図り、多様化する顧客ニーズに柔軟に対応してまいります。
③ 海外事業のさらなる成長
世界最大の医薬品市場である米国とそれに次ぐ欧州において、当社グループは、大手製薬会社に加え新興バイオ医薬品企業との信頼関係を構築し順調に事業を拡大しています。継続して欧米子会社の営業機能を強化し、日本・アジア事業と連携した営業活動を展開することで、グループ全体で受注獲得能力の拡充を図ってまいります。また、当社が拠点を有する中国、韓国、台湾などの製薬・新興バイオ医薬品企業も、自国内での開発に加え、欧米、日本への進出を検討しており、当社のグループネットワークを活用することでこうしたニーズにも対応してまいります。
加えて、2024年にはオーストラリアに子会社を設立し、南半球においても開発業務を遂行できる体制の構築を推進しています。オーストラリアは、バイオスタートアップ企業への優遇税制を整備しており、特に初期フェーズの治験誘致に積極的であるため、顧客企業からの引き合いが増加しています。オーストラリアでの第Ⅰ相臨床試験の実施後、欧米で大規模な第Ⅱ、Ⅲ相試験を実施して販売承認を取得するケースも多く、大型案件の受注獲得につながる可能性が見込まれます。オーストラリアでの事業を拡大させることにより、顧客企業にとって最適な開発戦略を提案・実行できるグローバルCROとしてのケイパビリティを一層強化します。
④ テクノロジーの進化に起因する新薬開発の変化への対応
近年、AI(人工知能)や分散型臨床試験(DCT)など、デジタル技術の活用が加速し、臨床試験の効率化に対するニーズが高まっています。こうした状況下において、当社グループでは、このニーズに適切に対応するため、必要なシステムの導入検討・推進を積極的に図るとともに、テクノロジーと臨床開発の双方に精通し、その知見を統合的に活用できる人材の採用/育成を強化してまいります。また、自社に不足する機能についてはグローバルな視点での戦略的パートナリングを推進し、必要に応じて内製化を視野に入れることで、多様化する治験効率化ニーズに対応してまいります。
⑤ 財務基盤の強化
海外拠点拡充などの中期的成長戦略を迅速・柔軟に実現するためには、当座比率、自己資本比率を高め、調達コストを意識した機動的な資金調達を可能にする必要があります。
当社グループは、前出の戦略による増収と、高稼働率の維持、コスト管理の徹底により、1株当たり当期純利益の持続的な成長を目指すとともに、株主還元と成長資金の確保の両立に努めてまいります。
(5)次期の見通し
① 概要
当社グループの展開地域における下記の状況に基づき、次期の連結業績見通しにつきましては、売上高11,200百万円(当期比7.3%増)、営業利益300百万円(当期は583百万円の営業損失)、経常利益320百万円(当期は498百万円の経常損失)、親会社株主に帰属する当期純利益150百万円(当期は539百万円の親会社株主に帰属する当期純損失)を見込んでおります。
地域別の状況は下記のとおりです。
日本・アジア地域におきましては、その主要地域である日本において、ドラッグ・ロス問題に代表されるように厳しい事業環境が続いておりますが、グローバルな営業活動により国内外の製薬企業等からの新規案件の引き合いが増加しており、日本を含む複数の国際共同試験の受注獲得により業績の回復を見込んでおります。韓国は、医療ストライキ等により既存案件の遅延等の影響が継続する一方、日本・台湾等からデータマネジメント・統計解析業務を含む新規案件の受注が増加し収益に貢献し始めており、韓国国内企業から打診を受けている多数の新規案件の獲得により業績改善を目指します。台湾は、台湾国内外の製薬企業への営業活動により複数の新規案件を獲得しており、業績回復を見込んでいます。
米国におきましては、既存の大型案件が予定どおり終了する見通しですが、米国市場における新薬開発の需要は旺盛で、大型案件を含む多数の新規案件の引き合いがあり、さらに営業活動を強化しこれらを確実に獲得することで受注残高の回復を目指します。米国市場は当社ビジネスの最重要地域であり、他拠点との連携を一層強化するとともに、人材・システム面への投資により受注能力を強化し、持続的な成長を図ります。
欧州におきましては、米国事業との連携を推し進めたことにより新規案件の受注獲得が進みつつあります。営業面でグローバル・シナジーをさらに強化することで、米国企業からの欧州を含む新規案件の受注獲得を拡大してまいります。
② 受注残高の推移
当社グループのCRO事業において受託する治験業務では、1年から3年程度の治験実施期間において、症例数や対象疾患に起因する治験の難易度などにより受託総額が決定します。この実施期間についてクライアントと委受託契約を締結し、契約に従い毎月売上が発生します。育薬事業においても、同程度の期間についてクライアントと委受託契約を締結し、契約に従い毎月売上が発生します。
受注残高は、既に契約を締結済みの受託業務の受注金額の残高であります。これは、今後1年から5年程度の期間で発生する売上高を示しており、当社グループの今後の業績予想の根拠となる指標であります。
各地域の受注状況につきましては、以下のとおりです。
日本においては、ドラッグ・ロス等による厳しい事業環境が続いておりますが、複数の新規案件の獲得や契約変更により、2024年3月期末から受注残高は増加いたしました。なお、上記に含まれない、契約締結作業中の国内製薬会社からの複数の受注内定案件があります。また、大型の国際共同試験を含む新規案件の引き合いが増加するなど営業活動の成果が発現し始めています。アジア地域においても、韓国では医療ストライキの影響等により韓国国内での既存案件の売上計上や新規受注獲得が想定通りに進まなかったものの、台湾や中国からデータマネジメント・統計解析業務を含む複数の新規案件の契約を締結した結果、2024年3月期末から受注残高が増加いたしました。日本・アジア事業と欧米事業が連携し、海外バイオテックに対して日本・アジア市場への進出を提案するなどの営業活動を粘り強く継続してまいります。
米国においては、既存案件の売上計上が順調に進む一方、受注内諾を得ていた試験の実施が見送りとなるなどの要因により新規案件の積み上げが進まなかった結果、2024年3月期末から受注残高が減少いたしました。既存の大型案件が順調に進捗し完了する見通しである一方、上記受注残高には含まれない複数の契約締結作業中の新規案件があります。また、バイオテックを中心に複数のグローバル案件を含む多数の打診を受けており、受注残高を積み上げるべく、営業活動を強化しております。
欧州においては、既存案件の期間延長や工数追加の契約変更等による受注の増加がありましたが、既存案件が順調に進捗し売上を計上した結果、2024年3月期末から受注残高が減少いたしました。一方で、米国事業との連携を推し進めたことにより新規案件の受注獲得が進みつつあり、また、上記の受注残高には含まれない契約締結前の案件があります。営業面でグローバル・シナジーをさらに強化することで、欧州を含む新規案件の受注獲得を拡大してまいります。
以上の受注環境のもと、2025年3月期末時点の受注残高は2024年3月期末と比較して3.7%減の117億円となりました。
表.受注残高の推移
(単位:百万円)
| 2024年 3月期末 (A) | 2025年 3月期末 (B) | 増減率 (%) (B-A)/A | |
受注残高 | 12,188 | 11,737 | △3.7 | |
地域別 | 日本 | 3,877 | 4,350 | 12.2 |
米国 | 3,221 | 2,756 | △14.4 | |
欧州 | 3,655 | 3,192 | △12.6 | |
アジア | 1,434 | 1,437 | 0.2 |
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