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【東証プライム:5803】「非鉄金属」
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企業概要
当社グループでは、環境問題やエネルギー問題などの社会課題解決を通じた事業の持続的発展を目指し、情報通信事業部門、エレクトロニクス事業部門、自動車事業部門を中心に新技術並びに新商品の開発を積極的に推進しています。当社グループの研究開発活動は、新事業創生・研究開発部門、及び各事業部門内の開発部にて実施しています。
[新事業創生・研究開発部門]
生成AIをはじめとするデジタル技術の革新により、通信データ量は指数関数的に増加しています。こうした背景のもと、情報通信ネットワークには高速化、大容量化、低遅延化が求められる一方で、データセンタを含むネットワーク全体の消費電力の増加が新たな社会課題となりつつあります。
当社は次世代光通信分野において、高密度・大容量伝送を可能にするマルチコアファイバ(Multi-Core Fiber;MCF)と、MCF用コネクタを含む接続技術の実用化に向けた開発を進めています。特に近年では、テレコムネットワークやデータセンタでの実装が期待される、標準クラッド外径で4つのコアを持つMCFの開発に注力しています。MCFは用途や伝送距離に応じて異なる伝送性能が求められるため、光学特性の異なる複数種類の4コアMCFを用途別に開発中です。2025年3月には、情報通信研究機構(NICT)が構築する非圧縮8K映像伝送システムに、当社製4コアMCFケーブルが導入されました。これにより、従来の光ファイバでは導入が難しかった限られた配線空間での大容量伝送を実現しました。さらに、2025年3月に開催されたOFC(Optical Fiber Communication Conference:光通信に関する世界最大級の国際学会)では、将来の超高密度ファイバの候補として、短距離伝送用における世界最高密度の16コアMCFを新たに発表しました。MCFの実用化には、既存のシングルコア光ファイバとの接続互換性の確保も極めて重要であり、入出力デバイスやコネクタなど周辺技術も含めた開発を加速させていきます。
次世代エネルギーの分野では、すでに事業化を進めているファイバレーザの高性能化・高出力化をさらに加速するとともに、光を用いたエネルギー伝送や情報伝送への応用に向けた研究開発を推進しています。ファイバレーザの高性能化・高出力化では、ビーム品質に優れるシングルモードファイバレーザの出力を5kWまで向上させると同時に、レーザ光を出射するデリバリーケーブルの長尺化を実現しました。これにより加工効率の大幅な向上と装置の使用性向上に貢献できると考えています。また、本ファイバレーザは、特にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの難加工材料に適用可能と考えており、周辺機器メーカやユーザ企業と連携を取りながら加工優位性を実証し、市場展開を進めていきます。
ミリ波の分野では、超高速で大容量な無線通信インフラを実現する、5G基地局向けミリ波帯通信デバイスの開発を進めています。2024年度には、世界トップクラスのビーム制御能力と送受信能力を持つ、WLP(Wafer Level Package)版高周波IC及びこれを搭載したミリ波アンテナボードを開発しました。現在の5Gミリ波基地局市場は想定より低調ですが、将来の需要増に備え、高性能、高付加価値、低コストのミリ波無線デバイスの開発を進め、高速・大容量無線通信技術の構築に貢献していきます。また、産業用無線映像伝送システム向けには、60GHz帯無線通信モジュールの開発を進めています。本モジュールは、2Gbpsを超える通信スピードや500mを超える長距離伝送、ミリ秒オーダーの超低遅延など、世界トップクラスの性能を有しており、遠隔監視や遠隔制御など、高リアリティ・高レスポンスを求められる用途において高い評価を得ています。ミリ波技術をはじめとする高周波技術の応用範囲は広く、獲得したコア技術を既存事業に展開するとともに、他分野への応用も行ってまいります。
以上のような当社既存事業との親和性の高い「次世代光通信」、「次世代エネルギー」、「ミリ波応用」の3分野を中心とした研究開発を進め、革新的な情報通信ネットワークの構築や、環境負荷低減などの社会貢献につなげてまいります。
[Beyond2025] ~持続可能な社会に向けた取り組み~
(高温超電導線材)
レアアース系高温超電導線材は、液体ヘリウムを使用しない次世代の高温超電導機器を実現する製品としてエネルギー分野、医療や分析、産業機器などへの応用・展開が期待されています。当社はこの高温超電導線材の開発および量産技術開発を精力的に進め、世界トップレベルの性能を実現しています。最近ではカーボンニュートラル実現のために欧米を中心に高温超電導線材を用いた核融合発電の開発が精力的に行われています。高温超電導線材は核融合発電に必要なプラズマを閉じ込め、制御するための高温超電導マグネットに用いられ、当社製品を採用したお客様より高い評価を得ています。また、当社はフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)に理事企業として参画し、国内外への関連イベントにもJ-Fusionのメンバーとして参加しています。今後も環境負荷の低減と持続可能なエネルギー供給の実現に向け、さらなるイノベーションを追求し、高温超電導の技術開発、事業化を通じて社会の発展に貢献してまいります。
(ファイバレーザ)
金属のマーキング、溶接、切断で使用されるレーザ加工機の市場では、従来の固体レーザから、ビーム品質が良く、かつ小型で電力変換効率が高いファイバレーザへの置き換えが進み、加工用途も拡大しています。固体レーザでは、レーザ光は空間を伝搬させていましたが、ファイバレーザではファイバで導光することによって、レーザ光の扱いが飛躍的に容易かつ安全となり、様々な加工機やバイオ分析、医療分野などへの応用が可能となりました。当社は、光通信用ファイバや光部品で培ったコア技術をベースにファイバレーザの研究開発に注力してきました。2023年度は金属切断加工分野における厚板対応や高速化といった要望に応えるため、レーザの高出力化を進め20kW超高出力レーザを上市しました。また成長を続けている半導体市場において、半導体製造装置メーカと共に各工程用途に最適化したパルスファイバレーザの開発を継続し、生成AIの急速な半導体需要拡大に対する生産性向上を支えています。またレーザ核融合の分野において、レーザ核融合エネルギーの社会実装を目指す国内スタートアップである株式会社EX-Fusionと連携し、将来ファイバレーザのレーザ核融合への適用も視野に入れ、パートナーシップを構築しています。今後も低消費電力かつ長寿命なファイバレーザ製品により、環境負荷低減および持続可能な社会の実現に貢献していきます。
(急速充電)
政府が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」により、今後拡大が見込まれる電気自動車の充電インフラの領域において、急速充電ケーブルコネクタの開発を推進しています。電気自動車の台数増加や搭載されるバッテリの大容量化に伴い、充電時間短縮や充電渋滞解消を目的に定格出力90kW以上の急速充電器の設置が進んでいます。当社では、2023年に国内初となる定格150kWの液冷方式のケーブルコネクタを上市し、現在は操作性と高出力を両立させる液冷方式のケーブルコネクタの開発に取り組んでおり、液冷ケーブルの太さを現行比20%減、ケーブル重量を現行比36%減、コネクタ重量を現行比16%減を目指しています。電気自動車の普及を側面から支援することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
セグメント別の研究開発活動及びその成果は次のとおりで、当連結会計年度の連結研究開発費は184億円であります。
[情報通信事業部門]
SNSや動画配信サービス、クラウドサービスの普及の他、近年では生成AI技術の拡大による通信トラフィックの急増に伴い、光ファイバケーブルの需要が世界的に拡大しています。当社では、既存設備を有効利用しながら経済的に光ファイバ網を構築する技術として、世界トップレベルの細径・高密度な光ファイバケーブル「SWR®/WTC®」技術を用いた様々な新製品を開発し、上市しています。2024年度は、データセンタ間、及びメトロネットワークでの旺盛な需要を背景に、当社既存品比で約20%の細径化と30%の軽量化、2倍の高密度化を実現した細径864心空気圧送用光ケーブルAir Blown Wrapping Tube Cable™を開発し、リリースしました。今後もSWR®/WTC®の技術をもとに革新的な光ファイバケーブルを開発し、世界各国の通信ネットワークの発展に貢献していきます。
生成AI需要の高まりを受け、世界的にデータセンタの構築が急ピッチで進む中、より高密度に光配線を収容可能な小型・細径の光コネクタ付きケーブルの需要が拡大しています。2024年度は、Multi-Fiber Push On (MPO)コネクタ付きトランクケーブルにSWR®/WTC®を採用することで、小型軽量化したデータセンタ向けトランクケーブルをリリースいたしました。2025年度は、さらなる小型・細径化を実現するミニ多心コネクタ(MMC)付きSWR®/WTC®トランクケーブルの開発を進めております。ミニ多心光コネクタ(MMC)については、既に製品化している16心タイプに続き、更に高密度実装が可能な24心及び32心タイプの開発を進めていきます。また、光伝送装置周辺の静電気保護区域でも安全に使用出来る静電気発生防止対策多心光コネクタ用クリーナをリリースいたしました。今後も、光通信工事の作業性向上と高品質な光ネットワーク網の構築に引き続き貢献してまいります。
通信用の光ファイバでは、データセンタを中心とした急速なデータトラフィック量の増大に伴う光ファイバケーブルの更なる高密度・細径化の要求に対応するため、細径ファイバの生産性向上および低コスト化に注力いたしました。また光通信機器等で使用される偏波面保持機能ファイバに関し、高速通信で使用される小型光通信機器での収納に適した曲げ半径4mmに対応したTitaniaBend PANDA PM* ファイバを、国際学会Photonics West2025にて発表しました。2025年度から当製品のサンプル出荷を開始いたします。今後も通信、及び通信機器メーカの要望に応じたファイバを開発していきます。
*PANDA:Polarization-maintaining AND Absorption-reducing、PM:Polarization-Maintaining
光ファイバケーブルの敷設工事等で使用される光ファイバ融着接続機や、光機器の製造等で使用される特殊光ファイバ用融着接続機及び周辺工具を開発しています。2024年度は工事用光ファイバ融着接続機として主にデータセンタで使用されるSWR®の多心化に併せて多心融着接続機のシリーズ製品のラインナップを増やしております。また、光機器の製造等で使用される工具に関してもお客様のニーズに応えるために、被覆除去機と光ファイバリコータの製品ラインナップを拡充しました。被覆除去機は光ファイバを融着接続する前の光ファイバの被覆除去を行う装置で、一部機能を削除した廉価モデルを追加しました。光ファイバリコータは融着後の光ファイバ融着接続部をUV硬化樹脂で再被覆するための装置で、再被覆する部分の長さが標準機の2倍のモデルを追加しました。今後も引き続き光ファイバ融着接続の品質向上に貢献する製品を開発し、光ファイバの敷設や光部品製造の品質向上・効率向上に貢献していきます。
なお、当セグメントに係る研究開発費は129億円であります。
[エレクトロニクス事業部門]
民生及び産業用の電子機器に使われるフレキシブル・プリント配線板(FPC)、コネクタ、メンブレン*、電子ワイヤ、センサ、ハードディスク、サーマル製品の開発を行っています。スマートフォンに代表されるモバイル機器は、情報通信速度の高速化や高機能化が進み、周辺機器との連携が強く要求されています。また、自動車の電動化、情報化、知能化が加速する中で、近年需要が増えている自動車用電子部品は、各種環境下での高い信頼性が要求されています。
*メンブレン:銀などの金属インクを樹脂基板に印刷することにより形成した電子回路基板
(FPC事業)
FPCについては、スマートフォンを中心とした電子機器の高密度化や高速伝送に対応するため、高精細回路、電気特性を向上させた多層基板の開発を進めています。また、車載用途として、バッテリ監視用途などの車両の電動化や、先端運転支援システム(ADAS)に対応する製品群の技術開発を進めています。加えて、医療、ウェアラブル用途などの特殊構造の製品開発にも取り組んでおります。
(コネクタ事業)
コネクタについては、「小型・低背」「堅牢」「高速伝送」「作業性」「防水」をキーワードに、高機能化(高操作性、高強度、大電流、複合化など)した製品開発を推進しています。モバイル機器用途では、Board to Boardコネクタの小型・堅牢化や、バッテリ用コネクタ等の製品バラエティ拡充を進めています。産業機器用途では、NC工作機やロボット、半導体製造装置に対応した小型・防水・多芯の製品ラインナップ拡充を進めています。また5G関連の通信用途向けコネクタの開発や、自動車用途における自動車の情報化・知能化に対応すべく、高速通信用コネクタの開発に注力しています。
(電子部品事業)
メンブレンについては、印刷回路の細線化や新規機能性ペーストの商品化を進め、従来のパソコン、車載市場に加え、医療、ヘルスケア、産業機器といった新しい市場を開拓しています。その中でも特に、ストレッチャブルメンブレン(伸縮性印刷回路)を応用した立体配線基板の開発に注力しています。
電子ワイヤについては、エレクトロニクス市場での更なる高速、高容量データ伝送やモバイル機器、ウェアラブル機器で求められる高屈曲耐久を実現する機器内配線用極細同軸ケーブルアセンブリの開発や極細同軸ケーブルの技術を応用し絶縁体に圧電材料を使用したケーブル型圧電センサの開発を進めています。また極細同軸によるケーブルの細径化により、内視鏡用途など医療市場の開拓に取り組んでいます。
センサについては、産業分野、医療分野で求められる、高精度な超微圧センサの研究開発に取り組んでいます。
サーマル製品については、生成AIや大規模データ解析に使われるCPU/GPUの高発熱化に対応するため、独自構造を持つ新型コールドプレート、3Dベーパーチャンバの高性能化に取り組んでいます。また、産業機器、電気自動車で使われるパワー半導体の高発熱化にはベーパーチャンバやヒートパイプ製品の大容量化に取り組んでいます。
なお、当セグメントに係る研究開発費は23億円であります。
[自動車事業部門]
自動車の高機能化に伴う電装品への小型軽量化のニーズに対応した細径・軽量電線や、半導体ヒューズや半導体リレーを内蔵した小型電源分配ボックス、CASEに代表される分野の技術革新に対応した新商品・新技術の開発を推進しています。
また、車載LANの高速化ニーズに対応した1G~10Gbpsの高速通信ハーネスや、10Gbps以上の超高速通信ハーネスの開発を推進しています。さらに、車両の電動化ニーズに対応した、高屈曲細径ケーブルや高電圧電源分配ボックスなどの開発、カーメーカーの車両開発期間短縮を実現するハーネス製造シミュレーションシステムの開発、ワイヤハーネスのBCPの一環として生産自動化システムの構築を推進しています。
なお、当セグメントに係る研究開発費は22億円であります。
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