タウンズ
【東証スタンダード:197A】「医薬品」
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企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「私たちタウンズは、独自の体外診断用医薬品により、人々の生活に安心と潤いを届けます。そのために、技術・知識を集積し、新たな製品の開発、品質改善に取り組み続けます。」を経営理念としており、より良い製品を世界に向けて発信し続けることを方針としております。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、体外診断用医薬品の競争力を強化し、業績を向上させていくことが重要であると認識していることから、中期経営計画策定に当たり重視している経営指標は、売上高、営業利益、当期純利益、営業利益率、EBITDA及びEBITDAマージンとしております。
(3)経営戦略等
当社は、「診断技術で、安心な毎日を。」をコーポレートスローガンとして、世界の安心な毎日を創るために、感染症POCT※1分野において、創業以来30年以上の長きにわたり、多くの製品を開発・販売し、世界に向けて高品質な製品の提供を目指しております。2020年10月に新型コロナウイルス抗原検査キットの製造販売承認を得て「イムノエース®SARS-CoV-2」の販売を開始する等、現状においても国内のPOCT市場を牽引していると自負しております。今後に向けては、新たな事業の柱を築き更なる高付加価値企業となるべく、以下の戦略を推進しております。
① 新たな検査技術の開発
当社は、既存のイムノクロマト法に加えて、高付加価値な次世代の検査技術の開発に取り組んでおります。
開発中のD-IA(デジタルイムノアッセイ)※2は、抗原検査キットと同等の簡易な操作性でありながら、ラボレベルの検査にも比肩し得る高い精度の検査を、小型かつ安価な装置で迅速に実施できることが最大の特長であります。
ディスク型の装置に検体をセットすれば同時に最大で8検体を検査でき、1名分の検体を最大8項目同時(例えば風邪症状の患者の検体を、新型コロナ、インフルエンザ、アデノウイルス、溶連菌、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス等複数の呼吸器検査項目を同時に検査することや、性感染症疑いの患者検体を、HIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎等複数項目を同時に検査することを想定)に検査したり、あるいは1項目であれば最大8名分を同時(例えばクリニックの繁忙期や、大量の検査を日常的に実施する検査ラボにおいて、同時に8名分の検査を行うことで検査の効率化・迅速化に貢献)に検査する等、さまざまな使い方が想定できます。また定性検査のみならず、定量検査も可能であります。当社はD-IAにより、POCT検査を質的にも量的にも進化させ、クリニック環境においてラボレベルの検査を簡易に行えるようにすることを目指しております。D-IAの他にも、血中のバイオマーカーを定量的に測定することができる小型血液検査装置や尿中バイオマーカーを簡便に測定できる尿検査システムの開発、新たな抗体取得技術による高性能な抗体の創出、体内の免疫細胞状態を解析するアプローチを用いた診断技術の開発、全ゲノム検査への取り組み等、当社の技術基盤の強化に向けて様々な角度から取り組んでおります。
② 慢性疾患領域への進出
当社は、血中の亜鉛濃度を測定して亜鉛欠乏症の診断を行う「アキュリード 亜鉛」を皮切りに、慢性疾患分野への進出に取り組んでおります。具体的には、免疫プロファイリング※3を活用した血液検体によるがんのコンパニオン診断※4、POCTによるがんのリキッドバイオプシー※5検査、簡易尿検査システムによる腎疾患検査、イムノクロマト法による歯周病検査キット等、様々な製品の開発を進めております。
③ 予防・未病領域の開拓への取り組み
当社は、予防・未病領域への取り組みとして、低侵襲※6に取得できる検体を用いたホームテストの活用とそこから得られる健康情報の解析や、各医療機関と連携した検体データベースの構築に向けた準備を進めております。それらを活用することで、新たなバイオマーカーの発見や、予防・未病領域向けの新たなPOCTの開発に繋げていきます。
④ 海外展開
当社の海外展開は、短期的には既存製品を取扱う各地域の代理店網の強化を進めております。中期的には品質を維持しつつコストを抜本的に見直した海外向け仕様品の開発・展開、長期的には新開発の高付加価値製品の投入を行っていきます。
⑤ 新工場設立
当社は、新工場の設立を計画しております。今後の事業成長に向け、既存製品向けの製造ラインの増設に加えて、新製品に対応した製造ラインを設置し、またFactory Automationの推進により人員数の効率化を実現すると共に、品質の安定化を進めます。加えて、広大な敷地を活用して原材料在庫の十分な保管スペースを確保することで、倉庫費や物流費の削減が可能となることや、従来の1拠点のみの生産体制から2拠点体制に移行することで、緊急事態時にも生産ラインを止めることなく事業継続が可能となるBCP面の効果も想定しております。
⑥ 知財・戦略投資
当社は、慢性疾患領域への進出を始めとする事業ドメインの拡大・強化に向けて、10年後のビジョンと現状の技術基盤を比較し、不足している・強化すべき領域を中心に、知財への投資や技術提携先への資本投資を戦略的に行ってまいります。
⑦ 戦略人事
当社は、今後事業領域を拡大して国内外で高い成長を続けていくために必要なのは、それを実現する人財の登用と、最大限能力を発揮してもらうための仕組み、現社員と融和した組織作りだと考え、重要課題の解決に直結する戦略人事を実行してまいります。
※1 POCT:Point Of Care Testingの略になります。日本医療検査学会(旧:日本臨床検査自動化学会)POCTガイドラインによると、「臨床現場即時検査」として定義され、被検者の傍らで医療従事者が行う検査であり、検査時間の短縮及び被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療、看護・疾病の予防、健康増進に寄与し、ひいては医療の質、被検者のQOL(Quality of Lifeの略。生活の質の向上)及び満足度の向上に資する検査としております。
当社の製品群であれば、イムノクロマト法を原理とするインフルエンザやSARS-CoV-2等の抗原検査キットが該当しております。
※2 D-IA(デジタルイムノアッセイ):デジタルイムノアッセイ(digital immunoassay)の略称であり造語であります。新規検出原理として研究開発を進めている検出プラットフォームの1つであります。金コロイド標識抗体を使用し、抗体抗原反応の後、専用ディスク内の反応部位に金コロイド標識抗体と抗原の複合体を捕捉し、その後標識物である金コロイド粒子のみ科学的に遊離させます。遊離させた金コロイドのみ移動させ光学的に検出します。金コロイド標識抗体等の移動は専用ディスクを回転させることにより生じる遠心力を利用しております。従来の金コロイド粒子の検出方法は、イムノクロマト法に代表されるように金コロイド粒子の集積により生じる赤紫色の呈色を検出するものでありますが、D-IAにおいてはレーザーを照射し金コロイド1粒子からそれぞれ生じる散乱光を検出します。1粒子カウントを可能とすることから「デジタル」検出が可能となり、本検出原理名称の由来ともなっております。金コロイド粒子そのものを1粒子カウントすることで、抗原低濃度領域における高感度検出が可能となり、また粒子カウントによる定量検出も可能となります。
※3 免疫プロファイリング:患者血液中のT細胞やB細胞等、細胞性免疫機構に関わる細胞の状態(免疫細胞集団の状態)を指します。患者の病態の進行により、細胞集団の状態は変化します。がんの発生には免疫システムが密接にかかわっていることが示唆されており、免疫チェックポイント阻害剤はがん細胞により抑制されていた免疫システムを抑制状態から解放し再活性化することにより、自己免疫細胞によりがんを治療する方法(免疫療法)として知られております。ただし、がん細胞を攻撃する細胞集団が免疫療法に適した状態でないと、十分な効果が期待できません。そのため、抗がん剤の一種である免疫チェックポイント阻害薬の投与前に免疫プロファイルを測定し、免疫療法に適した状態であるかを事前に知ることは治療効果を予測するうえで有用と考えられます。
※4 コンパニオン診断:コンパニオン診断とは、投与される医薬品の効果や副作用を事前に予測するために実施される検査であり、治療前に実施することによりある治療法がその患者に適しているかを事前に確認することができます。患者が有する遺伝的特性や治療時の免疫プロファイルの状態を基に、適切な治療法を選択することができ、より効果的な治療が可能となります。コンパニオン診断により、患者ごとに効果が高く副作用の少ない治療が選択できるため、治療効果を高め、ひいては患者のQOL向上に資することができます。また、特にがん領域においては、免疫チェックポイント阻害剤等の高額治療も存在しており、コンパニオン診断による効果的な治療法の選択は、医療費低減への貢献も期待されます。
※5 リキッドバイオプシー:血液や尿といった採取された体液等、さまざまな検査に用いることができる液状の検体を用いた検査(液体生検)の総称であります。がんの検査においては、一般的に体内から臓器等の組織片を採取する生検が実施されます。当該生検は内視鏡や太い針により組織片を採取する方法でありますが、患者への身体的負担が大きい点が課題であります。また、がんの種類や採取部位によっては生検であっても十分な量の組織片を確保できません。近年、がんの種類や進行度等に応じて、がん細胞に由来する核酸(DNAやRNA)が血液中に滲出していること、また血液中に遊離し循環しているがん細胞由来のDNAを回収して、がん細胞特有の遺伝子異常を包括的に検出することも実施されております。採血は組織生検に比べ侵襲性が低く、繰り返し実施できる医療行為であり、リキッドバイオプシー検査はがん検査を変える可能性を有しており、一般的な組織生検を補完しつつある技術であります。
※6 低侵襲:医療行為において、採血で静脈に針を刺す行為や胸部X線撮影において放射線で被曝させること、また手術で開腹するために切開すること、これはすべて侵襲性のある行為となります。これらの医療行為においては痛みや身体的負担を生じ、医療行為によりその程度は異なります。医療行為により侵襲性は異なり、身体へ与える影響が少ないものを低侵襲性又は非侵襲性と称しております。一般的に採血等の行為は最低限の侵襲性に留まっており、低侵襲性であるとされております。検体採取において無痛針を利用することで採血時の痛みを低減又は無痛にする等、より侵襲性の低い検体採取法の開発も進んでおります。
(4)経営環境及び優先的に対処すべき事業上並びに財務上の課題
体外診断用医薬品業界においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえて、医療現場におけるPOCTの重要性が一層認知されている一方で、競合他社の参入により、競争は激しくなっております。
また、昨今の新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行の発生や薬剤耐性問題、性感染症の蔓延等を背景として、網羅的かつ迅速な検査による、高精度な疾患鑑別へのニーズが高まりを見せており、感染症検査において、同一の検体で複数項目を同時に検査するマルチプレックス検査化や更なる高精度化への流れが加速しております。
このような状況のなか、当社は「診断技術で、安心な毎日を。」というコーポレートスローガンのもと、企画開発から製造、販売までを自社一貫体制で行う強みを活かし、医療機関や患者を始めとする世の中の幅広いニーズに応える製品を提供するため、以下の課題に取り組み、事業の継続的な成長と企業価値の向上に努めてまいります。
① 営業チャネルの強化・拡大
当社は2024年6月30日時点で35名の営業員を有しており、その6割以上が10年以上にわたる業界経験を持つ人財であります。今後はさらに人員を拡充することで、新規及び既存の医療機関との関係構築・強化に注力してまいります。一方で、現状で当社がアプローチし切れていない医療機関もあることから、当社製品を扱う重要代理店との関係強化に加えて、製薬会社との共同販売推進による営業チャネルの拡大に取り組んでおります。
② 特定製品への売上依存
当社の各感染症検査キットの市場シェアは、概ね拡大傾向で推移しております。以前はインフルエンザ検査キットが当社売上の大きな割合を占めていたものの、2020年10月に新型コロナウイルス抗原検査キット「イムノエース®SARS-CoV-2」を発売して以降は、新型コロナウイルス感染症関連製品への売上依存度が5割以上を占めており、新型コロナウイルス感染症の流行度合いにより業績に大きな影響を受ける状態にあります。当社は継続的に次世代型の検査技術や新製品の開発、新たな市場の開拓に取り組み、新型コロナウイルス感染症関連製品以外の売上拡充に努めております。また、新製品の迅速な市場展開に向け、薬事申請を含む規制対応の体制強化や、量産製造への移行プロセスの最適化等に取り組んでおります。新たな収益基盤を速やかに構築することで、特定製品への売上依存度を下げるように努めております。
③ 海外事業拡大に向けた基盤整備
当社は、各地域における特定の代理店を通じて海外市場での販売を行っております。今後海外事業をさらに拡大していくために、より海外市場に受け入れられやすい価格と高品質を両立させる海外仕様製品の開発を行っております。また海外市場向けの薬事申請体制の強化や海外のKoL(Key Opinion Leaderの略。特定の疾患領域において権威ある医師や大学教授の方々)との関係構築等と併せて、海外営業体制やマーケティング体制の強化に取り組んでおります。
④ 新たなコア技術の開発
現状の抗原検査キットの枠を超えて事業領域を拡大するために、新抗体開発技術、D-IAや簡易尿検査システム等の新たなコア技術の開発を行っております。これらの技術を活用し、既存の呼吸器感染症検査の領域のみならず、D-IAを用いた性感染症検査や慢性疾患の検査等の新疾患領域、免疫プロファイル検査の開発、予防・未病領域における超早期マーカーの発見や新たな検査技術の開発、簡易尿検査システムによる家庭での日常的な疾患リスクのモニタリング技術の開発等に取り組んでおります。
⑤ 情報通信技術活用による生産性向上
現在推進している新基幹システムの導入プロジェクトに伴い、業務体系を見直し、様々な業務データを標準化・マスタ整理をすることで、社内における非効率的なオペレーションを解消し、業務体系の効率化及び生産性の向上に取り組んでおります。
⑥ 人財採用及び育成の強化
当社の、今後の更なる成長に向けては、人員体制の一層の強化が必要であります。専門人財の積極的な採用活動や、社内人財への教育体制の強化に努めてまいります。
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