ウェルネス・コミュニケーションズ
【東証グロース:366A】「サービス業」
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企業概要
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「ウェルネス・データで、未来をつくる。」ことをパーパスに掲げ、疾病予防と健康増進の領域において、顧客である企業・健康保険組合、並びにその先にいらっしゃる従業員の皆様・ご家族の皆様の健康に係る対応を一括でサポートするサービス展開を行ってまいりました。また、健診ソリューション事業において健康診断のお願いをしております全国の医療機関につきましては、当社の大切なパートナーであるとの認識に立ち、健康診断に関する業務効率化・経営の安定化に寄与すべく、送客含め事業展開を行っております。
近年、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、サステナビリティ情報に関する開示や人的資本情報の開示が義務化される等、法令への対応が求められている一方で、長時間労働の是正や雇用形態に捉われない公正な待遇、高齢者や女性の就労促進が掲げられる等、「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変化することによりコーポレート・ウェルネスはなくてはならない環境に置かれております。デジタルシフトが進む企業の加速度的な健康経営や働き方改革等の流れを汲み、健康管理クラウド事業へさらに注力し、Enterprise・Large企業のニーズに応じた健康管理クラウドシステムの提供、並びにコーポレート・ウェルネス領域や健康診断・検査関連市場における専門資格人材不足に対応し、Growbaseを通じた人材サービスや産業保健活動全般のサービス展開を行ってまいります。
さらに、当社では、企業や健康保険組合の健康管理支援・人的資本開示のサポートをするだけではなく、自社内においても従業員が三大疾病に罹患した場合の治療と仕事の両立支援、女性に限らず昨今のダイバーシティや多様性が重要視される社会における従業員の健康支援、コミュニケーションや休暇取得促進等を行っております。また、2023年3月17日付でサステナビリティ委員会を設置し、継続的な対応を行うべく、組織体制を整えております。
引き続き、当社に関係するステークホルダーの皆様にご満足いただける企業活動を推し進めることにより、企業価値向上を図ることを経営の基本戦略としております。
(2)経営環境
当社のセグメントごとの経営環境は以下の通りであります。
(健診ソリューション事業)
健診ソリューション事業におきましては、法令上で定められた各種健康診断に加え、従業員の高齢化や、がんの罹患増に伴う介護や病気予防のニーズ拡大に伴い、各種健康診断・人間ドック市場規模は堅調に推移すると想定しております。また安全配慮義務や労働生産性向上、人的資本開示義務化の観点からも、従業員に対する健康投資をより一層重要視し、健康診断やメンタルヘルス対策、エンゲージメント向上等に取り組む企業が増加傾向にあります。
一方で、高齢者医療費の負担増等に伴い健康保険組合の慢性的な財政状況の悪化が懸念されます。そのことが、当社経営環境に急速且つ大きな影響を及ぼすものとは考えておりませんが、健康保険組合の財政状況の悪化を受けて、今後、健康診断・人間ドック受診対象年齢や条件の見直し、検査項目の削減などの影響が発生すると想定します。事業主(企業人事部)を主な顧客層とする当社ですが、健康保険組合の財政状況悪化が当該事業における課題と考えており、当社としましては、健康診断施設への予約手配や健康診断結果授受工程等における一層の業務効率化やシステム化、ソリューションメニューの拡充並びに高付加価値化を図るとともに、事業拡大に向けた投資に注力してまいります。なお、健康診断の予約、精算代行、健康診断結果データ化等に関するサービス提供者を、総じて健診代行事業者と呼んでおり、競合としては、福利厚生企業や労働衛生機関等があります。当社の持つ競争優位性としては、健康診断関連サービスを専業として行っており、顧客ニーズに即したきめ細かな対応(受診者の受診状況の捕捉、健康診断結果を医療機関から顧客に納品するまでの速度)や、高い品質管理(健康診断結果をデータ化するだけではなく、エラーチェック、当社基準に置き換え一元化)が特徴となります。また、自社で健康管理クラウドシステムまで保有しており、連携が可能であること、ISMSを取得していることで個人情報の管理及びセキュリティ強化に努めていることが強みであります。これらにより、当社ネットワーク健康診断サービスの出荷数推移については、以下の通りです。
年度 | 出荷件数 (単位:万件) |
2021年3月期 | 24.7 |
2022年3月期 | 26.5 |
2023年3月期 | 30.9 |
2024年3月期 | 36.8 |
2025年3月期 | 38.8 |
(健康管理クラウド事業)
健康管理クラウド事業におきましては、大企業を中心に人的資本投資や健康経営の推進、働き方の多様化等が一層重視される中、従業員の健康管理体制を強化したい新規顧客からGrowbaseの受注が継続的に拡大しております。特に大企業においては、メンタル疾患やメンタル不調者が企業における経営課題となりつつある状況も踏まえ、これらメンタル面や健康診断結果をもとにしたフィジカル面のケアが企業に求められております。Growbaseは、心と身体の一元管理を個人単位にて行う事が可能なシステムであり、これら経営課題の解決ツールとして、今後導入がより進んでいくものと想定しております。実際に、Growbaseの利用者ID数は、創業前の前身であるヘルスサポートシステムリリース時より、年々増加しており、近年はオンライン会議ツールとの連携や、人事システムとの連携により、さらに増加の一途です。GrowbaseのID数推移については、以下の通りです。
年度 | ID数(単位:万ID) | 年度 | ID数(単位:万ID) |
2007年3月期 | 5.4 | 2017年3月期 | 21.3 |
2008年3月期 | 5.4 | 2018年3月期 | 22.7 |
2009年3月期 | 5.4 | 2019年3月期 | 29.1 |
2010年3月期 | 6.8 | 2020年3月期 | 53.4 |
2011年3月期 | 7.3 | 2021年3月期 | 64.5 |
2012年3月期 | 7.9 | 2022年3月期 | 86.2 |
2013年3月期 | 8.6 | 2023年3月期 | 118.9 |
2014年3月期 | 10.6 | 2024年3月期 | 148.9 |
2015年3月期 | 15.1 | 2025年3月期 | 174.4 |
2016年3月期 | 17.3 |
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また、SDGsやCSRの側面からも健康経営に関する取り組みを行う企業も見られており、これら企業においては、社員一人当たりの健康投資額は今後も増加していくものと想定しております。
上記に関して、大企業に留まらず、今後は中小企業にも同様の流れが広がっていくものと考えており、かつ企業において必要となる法的要件(※1)も増加して、健康経営・健康管理のデジタルシフトが進んでいくものと想定しており、市場規模は継続して拡大していくものと考えております。市場拡大に伴う新規参入企業につきましては、Growbaseでは、過去6期間で1,526の機能(※2)を拡充し、ユーザビリティの向上を図ってまいりました。その結果、当社顧客の継続利用による低いCCRの実現や新規導入企業の獲得を行いました。これらにより、パッケージシステム、SMB企業向けのSaaSシステム、近接領域システム等の新規参入企業に対しての参入障壁を形成しておりますが、当社としましては、Growbaseをメンタルヘルスやeラーニング、組織分析(※3)等の機能拡充、並びに産業医・保健師の紹介によるカウンセリング、健康相談の提供でソリューション拡充、並びに人的資本経営支援等の周辺領域への展開により、市場の変化・ニーズに沿ったサービス展開を迅速に行うことを最優先に対応してまいります。
※1:健康診断受診率向上や、事後措置の強化、長時間残業面談、労働時間管理等
※2:2020年3月期から2025年3月期の機能リリース数
※3:健康診断結果やストレスチェック等の健康データによる組織毎の分析及び課題抽出の機能
(医療機関等支援事業)
医療機関等支援事業の主要事業であるBPOサービスは、協会けんぽ及び総合健康保険組合に加入している企業を対象とした健康診断の予約や精算代行等を行うサービスです。ネット―ワーク健康診断サービスとは違い、健康診断の予約のみ委託したい等、顧客が必要とするサービスへの柔軟な対応が強みとなっており、安定して顧客を獲得していくことを想定しております。
また、PET関連事業については、施設が地域中核病院内のがん検診関連施設であることから安定した事業であり、今後ますます医療や健康管理に求められる役割や責任は増し、特にがん等の疾患に関する発見の遅れやそれに伴う治療の遅れなどが懸念される現況下では、更なる検査需要の拡大などが見込まれ、需要は底堅いものと考えております。なお、現在、当社にて運営されている地域中核病院向けのPET関連事業は2026年3月31日に契約期間満了を迎え、その後は契約更新が行われないリスクが存在しております。当社としては、新たな検査施設及び設備導入を検討する医療機関や、デジタル化・事務業務の効率化・強化を目的としている医療機関向けに、新たなソリューション事業の開発・開拓に取り組んでまいる所存です。
(3)中期経営戦略
職域における健康管理(コーポレート・ウェルネス)市場は、健康経営の実践や、健康・福祉や働きがい等に関係するSDGs目標の達成に向けた取り組み推進、さらには、新型コロナウイルス感染症をきっかけとしたテレワークの普及等、働き方の多様化への対応、デジタル化におけるクラウドシステム利用意向といったニーズや課題に対応していくことが求められる状況にあります。また、少子高齢化がもたらす生産人口動態の変化は、国内のコーポレート・ウェルネス市場において、これまでの、従業員の健康管理や維持向上等の取り組み範囲に留まらず、健康経営の実行により従業員の業務パフォーマンスの向上につなげることに対してもニーズが拡がりつつあります。
こうしたコーポレート・ウェルネス市場の変化に対し、当社では、大企業市場の深耕を優先して取り組むことを目標に掲げ、健康管理SaaSであるGrowbaseにおいては、顧客が持つ課題解決に対応した機能拡充による周辺領域への展開を目指し、メンタルヘルスやeラーニング、組織分析、ラインマネジメント支援等の機能提供、並びに健康管理BPaaS(※1)による産業医及び保健師の紹介を行い、カウンセリングや健康相談の提供によるソリューション拡充、並びに人的資本経営支援、企業が従業員向けに保険等の福利厚生サービスの提供やAPI等による連携サービス強化に取り組むことで健康管理プラットフォーム化を推進し、蓄積されたデータに基づくソリューションの開発等に取り組む方針としており、ACV(※2)の向上を目指します。並行して、ネットワーク健康診断サービスにおけるメニューやサービスモデルの再構築や拡充を図り、サービスの高付加価値化を推進します。また、2025年3月期より、全社横断型組織 としてCoE(※3)を設置し、当社内のオペレーションに関するデジタル化やペーパーレス化、両サービスのシステム基盤強化並びにデータ利活用等の技術投資にも積極的に取り組み、一層の収益力向上、改善を図り、高品質なサービスの持続的な提供を行ってまいります。
今後は、その基盤上で、産業医や保健師による面談や保健指導、組織や従業員個人毎のヘルスケアデータに基づき個別最適化された健康情報や健康増進サービスの提供等を行うPHR(※4)事業への布石となる取り組みも推進し、「企業と人を元気にする。」というビジョンの実現に邁進いたします。
※1:健康管理BPaaSは、健康管理領域における業務プロセスを外部に委託できるクラウドサービスです。BPaaSは、(Business Process as a Service)の略です。
※2:ACVは、顧客1人あたりの年間契約額であり、ACVは、(Annual Contract Value)の略です。
※3:CoEは、特定の業務領域において高度な専門知識とスキルを持つプロフェッショナルが集まる組織単位を指し、CoEは(Center of Excellence)の略です。
※4:PHRは、個人の健康・医療・介護の情報を表し、パーソナル・ヘルス・レコード(Personal Health Record) の略です。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
健診ソリューション事業においては、実際に健康診断を受診した人数である健康診断結果の出荷数が財務指標である売上高と連携していることから、出荷数を客観的な指標として採用しております。
また、健康診断の料金は、選択される健康診断コース及び医療機関により顧客毎に売上単価及び仕入単価が変動します。健康診断項目が多いコースや人間ドックを選ばれるにつれ、売上単価は高くなります。そのため、全体の売上高を全体の出荷数で割り戻して算出する平均売上単価も当事業の客観的な指標として採用しております。
健康管理クラウド事業においては、法人向けSaaS業界特有の指標を会社のKPIとするべく、客観的な指標は、契約企業グループ数、ユーザーID数、チャーンレートとしております。なお、KPIの算出方法について、契約企業グループは、当社及び代理店と契約を締結している顧客を指し、顧客が健康保険組合の場合、その組合に属する企業は集計しておりません。ユーザーID数については、Growbaseを利用される対象者従業員数及び顧客の管理担当者数になります。チャーンレートは、当月解約顧客数を前月利用顧客数で除算した月次チャーンレートの平均を算出しております。
医療機関等支援事業においては、主要なサービスであるPET関連事業は対象顧客が1社であるため、客観的な指標は設定しておりません。他方、BPOサービスにおいては、顧客の要望により、顧客が必要とするサービスが変動するため、サービス対象者数を客観的な指標としております。
なお、健診ソリューション事業の健康診断結果出荷数をプラットフォームであるi-Wellnessの利用者IDとして、健康管理クラウド事業のID数及びBPOサービス対象数を合算したID数を事業全体のKPIとしております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①大企業を中心としたコーポレート・ウェルネス市場の深耕
当社は20年近く健康診断に関するサービスを専業として提供してきた実績があり、創業時からEnterprise・Large市場を開拓しており、2025年3月末時点では、主要事業において、大企業を中心に3,540社との取引を行っております。健診ソリューション事業、健康管理クラウド事業両事業ともに顧客規模別でみたID数構成は、1,000ID以上の企業が大半を占めており、今後も基礎収益力の更なる向上を目指し、Enterprise・Large市場の開拓・深耕に注力予定であります。
②Growbaseを起点としたコーポレート・ウェルネス・バリューチェーンの構築・推進
Enterprise・Large市場におけるコーポレート・ウェルネスやウェルビーイング取り組みにおいて必要となる機能の拡充や連携サービス強化等によるARPU(※1)拡大を図るとともに、BPOや人材サービス等の新規事業の創出に注力します。また、コーポレート・ウェルネス領域における企業人事及び健康保険組合等が抱えるニーズや課題に対応した機能強化を進め、Growbaseのプラットフォーム化を推進するとともに、産業医や保健師による面談や保健指導、組織や従業員個人毎のヘルスケアデータに基づき個別最適化された健康情報や健康増進サービスの提供等を行うPHR事業への布石となる取り組みも推進します。
③健診ソリューション事業の再構築及び高付加価値化
人件費・原価上昇耐性及び人材流動化耐性の高い安定収益事業モデルへ転換し、サービス品質レベルに応じてプライシングの変更を検討し、納品仕様等のサービス要望や利益率等によるクライアント区分の整理を実行し、サービスメニューの標準化及び価格/課金体系の見直しを実行します。
健診案内から結果報告後までのフローにおいて、基幹システム及びi-Wellnessのサブシステム化・インフラ補強等による強化によりシステムやオペレーションの見直しを図ります。また、健診コースの見直し・拡充等を行うとともに、健診前後のソリューション開発によるアップセルの強化を行うことで、ネットワーク健康診断サービスの再構築及び高付加価値化によるARPU向上に注力いたします。
④未来をつくる組織改革・人材育成の推進
当社の成長戦略を推進し、事業の拡大を図る上で、人材の育成及び確保並びに制度・環境の整備も優先的に対処すべき課題と考えております。Growbaseの更なる拡販を行うにあたっては、事業・プロダクトに拠らない機能別組織へ改変し、各組織に求める役割や機能の明確化、同時に、営業人材、顧客対応を行うCS・CX人材、技術投資を行い開発・運用を行うシステムエンジニアの採用をより一層強化してまいります。また、人事上の課題対応や中長期成長を牽引する組織・人材の開発に注力すべく、個人別スキル可視化・能力開発/研修制度の拡充、評価を含む人事関連制度の見直し・浸透、年齢・性別・経験にとらわれない抜擢登用の促進等を図ってまいります。
⑤財務上の課題
当社は、これまで金融機関からの借入実績はなく、資金需要は自己資金及び営業活動によるキャッシュ・フローを源泉とした安定的な財務基盤を維持しており、優先的に対処すべき財務上の課題はありませんが、上記事業上の課題に対する対処及び継続的な設備投資を実行できるよう、内部留保の確保と株主還元の適切なバランスを検討し、既存事業の営業キャッシュ・フローの改善等に対処する等、財務体質の強化に努めてまいります。
※1:ARPUは、1ユーザー当たりの平均売上金額です。
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