企業兼大株主旭化成東証プライム:3407】「化学 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社、連結子会社及び持分法適用会社(以下、「当社グループ」)が判断したものです。

(1) 経営方針・経営戦略等

① 当社グループミッション等

 当社グループでは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッション(存在意義)のもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)として掲げています。

 また、グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を定めており、すべてのステークホルダーの皆様に対し「誠実」に経営することを通じて、社会の課題解決や事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たしていくことを基本方針としています。

② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等

<経営環境・経営課題>

当社グループは、創業以来100年間、「生活基盤の確立」「物資豊富な生活」「豊かで便利・快適な生活」「新興国での需要」といった各時代のニーズに応えてきました。

 国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)に象徴されるように、社会課題に対する意識は世界的に高まっています。特に、2020年より感染拡大したCOVID-19による世の中の変化は、「地殻変動」とも言うべき、私たちがかつて経験をしたことがない大きな変化をもたらしました。人びとの価値観は大きく変化し、社会課題や環境課題が顕在化しています。いのちや健康、衛生に対する意識が高まるとともに、リモートワークの普及などを通じて人びとの働き方や暮らしが大きく変わり、個人の生きがい、働きがいがより一層重要視されるようになりました。また、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にあるように、自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体における人権尊重の取り組みが、企業活動の前提として求められています。

地球環境への関心も高まっており、特に気候変動リスクの主要因である温室効果ガスの排出量の削減は、人類の喫緊の課題です。また、プラスチックについて、不適切な廃棄による環境汚染問題や資源の有効活用の観点などから、海洋プラスチック汚染対策やサーキュラーエコノミー(循環型社会)に向けた取り組みが求められるなど、各国での規制がより一層強化されています。

これらの課題は1つの企業・産業で解決できないものも多く、企業や産業を超えた共創が益々重要になってきます。例えば、住宅とエネルギー、医療と住宅等のように、これまでの産業の境界を越えて相互に関連しあうテーマ・課題が多く存在しています。また、デジタル技術の急速な進歩普及が、これらの共創を加速させ、産業間の垣根は益々低くなっていくことが予想されます。このような環境は、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3つの領域を持つ当社にとっては大きな事業機会であると認識しています。当社は、3つの領域にまたがり人財・コア技術・マーケティングチャネル等、多様な資産を有しており、これらをデジタルの力で繋げ、活かすことで、当社独自のアプローチで社会課題の解決に貢献できると考えています。不確実性の高い時代だからこそ、当社の持つ多様な資産を最大限活用しながら先手を打ち、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求していきます。

ⅰ サステナビリティマネジメントの強化

 当社グループは、2021年度に「サステナビリティ基本方針」を制定しました。これは、サステナビリティに関する方針をより具体的に記述することで、当社グループの方針を明示するとともに、サステナブルな社会の実現に向けた行動を一段と推進していくことを狙いとするものです。


経営方針・経営戦略

● 旭化成の2030年の目指す姿

COVID-19をはじめとする社会の大きな変化は、人類が取り組むべき課題を浮き彫りにしました。その課題は、当社が掲げてきた「Care for People」「Care for Earth」(人と地球の未来を想う)と重なるものであり、世界共通の課題の解決に向けた貢献を加速させていきます。当社は5つの価値提供分野として、カーボンニュートラル/循環型社会に貢献する「Environment & Energy」、安全・快適・エコなモビリティに貢献する「Mobility」、より快適・便利なくらしに貢献する「Life Material」、人生を豊かにする住まい・街に貢献する「Home & Living」、生き生きとした健康長寿社会に貢献する「Health Care」にフォーカスして事業展開を進めていきます。

 我々が直面する課題は、産業の垣根が低くなるにつれて、様々な業界にわたって相互に関連してきます。これは多様な事業を持つことで、様々な分野での知見を有する当社にとって大きな事業機会であると認識し、この事業機会に対して当社グループの「コア技術」「変革のDNA」「多様な人財」を以て、更なる成長を目指します。その結果として、2030年近傍には、営業利益4,000億円、ROE15%以上、ROIC10%以上を展望します。また、当社グループのGHG排出量目標として2013年度比で30%以上の削減を目指します。


・ 中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~の進捗状況

2022年4月に発表しました中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~は、2030年の目指す姿に向けたファーストステップと位置づけ、利益成長、ROE、ROICを重要指標として、「次の成長事業への重点リソース投入」と「成長投資の刈り取りと戦略再構築事業の改革」による事業ポートフォリオ進化を進めています。中計1年目となる2022年度は、半導体不足の長期化や中国ロックダウンによる需要減退、原燃料価格高騰など厳しい経営環境が影響し、営業利益は1,284億円と低迷しました。経営環境は徐々に改善すると見込んでいますが、中期的な視点で成長を目指すスタンスは変わっておらず、当初成長戦略に沿った実行を徹底することで再び成長軌道へ回帰し、当初目標の2,700億円は2~3年遅れでの達成を目指します。2024年度の営業利益目標は2,000億円以上と再設定し、資本効率の目標も利益目標の修正に合わせて、2024年度でROE9%以上、ROIC6%以上へと変更しています。

ⅰ 事業ポートフォリオ進化の基本方針

 事業ポートフォリオの進化にあたっては、“成長の為の挑戦的な投資”と“構造転換や既存事業強化によるフリー・キャッシュ・フローの創出”の両輪を回すことが重要と考え、「スピード」「アセットライト」「高付加価値」の3つを強く意識して推進しています。「アセットライト」については、旧来の設備産業的な考えにこだわらず、各事業に応じて最適なビジネスモデル、スキームを追求していきます。この考え方には2つの視点があり、既存事業の視点では、既に保有しているアセットの最大活用による利益創出を目指します。特にマテリアル領域ではカーボンニュートラルに向けたGHG排出量削減の視点から、EXITの可能性等も含めた検討を進めています。また、新規事業の立ち上げの視点では、研究開発投資を一から自前で行い、事業化の設備も自己所有で行うことにはこだわらず、他社資本の活用など、最適な資本のかけ方を追求していきます。新規事業展開において「アセットライト」を志向することは「スピード」の向上にも繋がり、結果的に旭化成が優位なポジションを築ける分野にフォーカスされ「高付加価値」に繋がると考えています。

経営環境変化により収益が想定より下回ったことを受け、改めて各事業のポジションと中期的な方向性をROICと利益成長率の観点から整理しています。ヘルスケア領域においては2022年度の業績は期待を下回る水準でしたが、一時的要因も多く、当初の利益成長計画から1年遅れ程度と捉えています。これまでの積極的な投資からの刈取りを徹底してROICを高めながら、非連続成長の機会を継続的にうかがい、持続的成長を目指します。住宅領域はグループにとってその安定的で高いキャッシュ創出を行う事業として、非常に重要な役割を担っています。アセットライトな事業モデルを展開し、高いROICを維持しながらも、海外住宅を中心とした成長機会については積極的に検討を進めています。マテリアル領域においてはデジタルソリューションが高いROICを維持しながら高成長も期待できる事業であり、非連続成長機会も含めて積極的な拡大施策を実行していきます。また環境ソリューションにおいては、セパレータや水素関連の事業の中期的成長ポテンシャルが高く、先行的な投資を当面は継続させる予定です。短期的にはそれらの投資からの利益貢献は期待しにくいため、当面の収益改善に向けた生産性向上などの取り組みを徹底します。それ以外の事業については、構造転換の加速が喫緊の課題となっており、特に基盤マテリアル事業を中心とした汎用的な製品については抜本的な打ち手を検討します。


ⅱ 成長戦略

中期経営計画2024においては、次の成長を牽引する10の事業を「10のGrowth Gears(以下、GG10)」として設定しました。Growth Gearには旭化成の成長を回すギアとともに、社会の変革を回していくギアという2つの意味を込めており、持続可能な社会の実現への貢献を加速していきます。「次の成長の為の挑戦的な投資」をGG10にフォーカスする考え方は変わりませんが、この1年の状況も踏まえGG10の中でもリソースアロケーションの優先順位をより明確にして推進しています。ヘルスケア領域における「クリティカルケア」、「グローバルスペシャリティファーマ」、「バイオプロセス」と、マテリアル領域のライフイノベーション事業の「デジタルソリューション」を“重点成長”分野と位置づけ、過去投資からの利益刈取りに注力しながらも、非連続成長を含む積極投資を継続させる予定です。環境ソリューション事業における「水素関連」、「CO2ケミストリー」、「蓄エネルギー(セパレータ)」の3つは、先行的投資の側面が強い“戦略的育成”分野と位置付けています。ハイポアにおける北米投資など、今中計期間に規模の大きな投資意思決定を行うことも見据えており、中期的視点での成長につなげます。GG10のそれ以外の事業は“収益基盤拡大”分野と位置づけ、安定収益創出を維持しながら、その収益基盤を確度高く強化できる投資を検討します。GG10に関しては2022~2024年度の累計投資額(意思決定ベース)で約6,000億円、2024年度のグループの事業利益の50%以上(本社共通費などを除く、事業利益の合計値に占める割合)という目標を掲げていますが、いずれも当初の予定に沿った形で進捗しています。


ⅲ 構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出

 当初計画より業績が下回る状況を鑑み、事業の構造転換をこれまで以上に加速させていきます。これまで、COVID-19の影響等で足元の業績が悪化した「戦略再構築事業」の改革と、業績は堅調でも旭化成の目指す姿との適合性から事業の方向性を考える「抜本的事業構造転換」の2つのアプローチで進めておりましたが、事業におけるチェーンのつながりも踏まえてそれらのアプローチを統合して検討しています。対象事業の売上規模は約7,000億円以上(2021年度実績)と、幅広に初期的な検討を進めています。その中でも「戦略再構築事業」でEXITと判断した対象を含む複数の事業については、中計期間内に構造転換の完了を目指しており、それらの事業の売上高は合計で1,000億円以上の規模となります。また収益のボラティリティが改めて課題として浮き彫りになった汎用的な化学品などは、“石油化学チェーン関連事業”として売上高約6,000億円規模を検討対象(前述の1,000億円と重複する事業も一部含む)として、特にカーボンニュートラルを見据えた場合の事業の在り方に重きを置いて議論を進めています。検討においては、①JVなどによる他社との共同事業化、②事業からのEXIT、③カーボンニュートラル関連の技術開発・高付加価値化の推進、の3つの戦略オプションに対して、③を追求しながらも、①と②の可能性も並行して検討しています。既に複数の事業にて方向性を確定して具体的なアクションを進めており、それ以外の事業についても2024年度中には方向性を確定させることを目指します。

ⅳ 財務・資本政策

(外部環境・課題)

2022年度は事業環境悪化により、営業キャッシュ・フローは当初想定より減少しました。このような状況においても、中長期的な成長に資する案件への投資は、採算性をより精査しながら着実に実行しています。また、安定的配当を重視した株主還元方針に基づき、増配を決定しています。財務健全性を示すD/Eレシオは想定の水準を維持できているものの、生産性向上やコスト削減などによる体質強化を図り、アセットライトを意識した事業モデルへの転換などを通じて、当社グループのキャッシュ創出力や資本効率を持続的に高めていきます。

(具体的な方針・戦略)

■ 資金の源泉と使途の枠組み

現中期経営計画の3年間における営業キャッシュ・フローは、収益低迷により当初見立てより減少し6,000~7,000億円を見込んでいます。一方、投資キャッシュ・フローは、過去に意思決定した案件に対するキャッシュアウトが含まれていることもあり、当初見込み水準と同じ8,000~9,000億円を想定しています。しかしながら、厳しい事業環境とキャッシュの状況を踏まえ、投資意思決定においては採算性をこれまで以上に厳しく精査し、厳選した案件にフォーカスしています。株主還元についても当初見込みと変わらず、3年間累計の還元総額で1,500~1,800億円を計画しています。資金調達は有利子負債で行うことを基本とし、現段階では2,500~5,000億円の増加を見込んでいますが、事業売却や投資の際の他社資本活用など、より戦略的観点でのキャッシュソースの確保も検討していきます。D/Eレシオは0.7程度、ネットD/Eレシオ0.6程度を見込んでおり、十分な財務健全性を維持できると考えています。


■ 設備投資・投融資

現中期経営計画の3年間において累計1兆円超の意思決定を見込み、そのうち約6,000億円をGG10に投入することを予定しています。2022年度はこの計画に沿って着実に進捗しており、投資案件の選定にあたっては財務規律を重視し、「環境価値」「投資効率」「投資スキーム」の3点の視点で案件を精査していきます。「環境価値」視点ではカーボンプライシング等を考慮しても投資価値があるか、「投資効率」視点では最終的にその事業のROICが向上するか、「投資スキーム」視点では他社資本の活用等、より適した投資形態になっているか、このような視点を持って成長に向けたメリハリのある投資を実行していきます

■ 株主還元

2022年度はPolypore社ののれん及び無形固定資産の減損損失計上により当期純利益が大きく落ち込みましたが、配当を通じた安定的な株主還元を実現する方針を重視し、1株あたり配当金は36円と前年より2円増配しています。また、2023年度及び2024年度においても収益は当初計画を下回る状況を見込んでいますが、安定的な株主還元を行う方針は堅持し、1株当たり配当金は現状水準の維持・向上を予定しています。自己株取得は資本構成適正化に加え、投資案件や株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施していきます。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」と合わせてご参照ください。

■ 資本効率の改善と企業価値の向上

現中期経営計画ではこれまで以上に資本効率を重要視しています。収益計画の見直しを受け、自己資本利益率(ROE)の2024年目標を11%以上から9%以上に下方修正しましたが、資本効率の向上を強く意識した施策に引き続き取り組みます。具体的には、投下資本利益率(ROIC)が加重平均資本コスト(WACC)を継続的に下回るような低資本効率事業の構造転換、営業収益力強化や製造原価低減に加え販管費削減などの収益力強化などに取り組み、ROEの改善を目指します。株価収益率(PER)の観点では、石油化学チェーン関連事業の構造転換を着実に実行すること、過去に行ったヘルスケア等への投資からの利益成長を実現させること、さらには長期的視点での当グループの成長に向けた水素やセパレータ事業の展開を実行していきます。これらの施策を通じ、株価純資産倍率(PBR)の早期向上を目指します


ⅴ 経営基盤の強化

経営環境の不透明さが増す中では、事業を支える土台となる経営基盤をより強固にすることが重要であると考えています。経営基盤強化として、「無形資産の最大活用」「Green(グリーントランスフォーメーション)」「Digital(デジタルトランスフォーメーション)」「People(人財のトランスフォーメーション)」「リスクマネジメントの強化」「コーポレート・ガバナンスの最適化」について重点的に取り組んでいます。

■ 無形資産の最大活用

 当社グループでは、3領域にまたがり、人財、コア技術、マーケティングチャネル等、多様な無形資産を持ち、活用できることが強みであり、デジタルを活用し、これらの無形資産を最大限コネクトさせることによって、戦略構築や新事業の創出を推進しています。

 具体例はマテリアル領域の取り組みである「P-PaaS: Product based Platform as a Service」です。単なるモノ売りではなく、当社ノウハウや、顧客接点等の無形資産を活かしたソリューション型事業への転換に取り組んでいます。旭化成の素材・製品の付加価値をベースとして、顧客の価値向上となるプラットフォームを提供するというコンセプトをP-PaaSと表現し、その可能性を追求しています。既にそのコンセプトに沿っている取り組みも複数進んでおり、クラウド型生鮮物流ソリューション「Fresh Logi」や偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia®(アクリティア)」など、顧客のビジネスプロセスを変革できるソリューションを提供していきます。

また、当社グループでは、従来から知財情報の戦略的活用を志向しており、事業戦略に知財情報を活用するIPランドスケープ(以下、IPL)活動を全社的に推進してきました。知財部門の強みであるIPLと知財の実務能力を融合させることで、知財部独自の視点に立った事業戦略モデル案の策定・提言活動を実施しています。IPLの詳細は「6 研究開発活動 2 基盤的な取り組み (2) 知的財産の活用」もご参照ください。

企業の強みとなる無形資産を活用して競争力の維持・強化を図り、中長期的な企業価値を創造するサステナブルなビジネスモデルを構築し、それを巡る企業経営者と投資家との間の相互理解と対話・エンゲージメントを促進させる必要性が増し、企業価値向上に知財面から貢献する意義が益々高まってきました。上記の背景から、当社グループでは2022年度に社長直下に知財インテリジェンス室を創設し、無形資産の多面的な可視化による情報解析等を通して、経営・事業戦略策定に貢献しています。今後も、グループ全体での無形資産の活用をさらに加速し、企業価値向上に繋げていきます

■ Green(グリーントランスフォーメーション)

・ カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現に向けた活動

(温室効果ガス(GHG)の削減)

持続可能な社会の実現に向けて、当社グループは2021年5月に、2050年時点でのカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指すことを表明しました。当社グループの事業活動に直接関わるGHG排出量であるScope1(自社によるGHGの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の排出量を対象としています。カーボンニュートラルを実現するため、エネルギー使用量の削減、エネルギーの脱炭素化、製造プロセスの革新、高付加価値/低炭素型事業へのシフトなど、実現に向けたロードマップを策定し、目標達成に向けて取り組みを加速させていきます。また、2030年には、2013年度対比でGHG排出量を30%以上削減することを目指しています

その具体化のため、2022年度にはカーボンニュートラル担当役員を設置するとともに、カーボンニュートラル推進プロジェクトを新設し、GHG削減策の具体的検討、2030年、2050年目標達成へのシナリオ案の検討、コスト試算等を実施しました。2022年度に実施した個別の施策としてはエネルギーの低炭素化の推進が挙げられます。2022年3月に燃料転換工事(石炭から液化天然ガス[LNG]への転換)が完工した火力発電所は順調に稼働を開始しました。また、数十年にわたり活用してきた水力発電設備について、今後も長く活用できるよう、設備の更新と効率化の工事を順次進めています。旭化成ホームズ㈱では、「ヘーベルメゾン™」の屋根に太陽光発電設備を設置する取り組みを進めており、発電した電気を事業に活用しています。さらには、国内外の機能樹脂コンパウンド拠点など、外部からの電力を購入している工場では、証書、クレジットを活用した電力実質再エネ化の取り組みを開始しました

当社グループの事業活動におけるGHG排出量の削減はもとより、お客様も含めたバリューチェーン全体でのGHG排出量削減を進めるためには、当社製品に関わるGHG排出量を的確に把握することが必要です。そこで、製品のカーボンフットプリント(原料採掘から製品生産までのGHG排出量)算定に関する取り組みも推進し、主要製品での算定を進めるとともに、算定のシステム化も開始しました

カーボンニュートラル実現に向けた事業化の検討と推進も引き続き加速しています。水素関連においては、設備の大型化や変動する再生可能エネルギー由来の電力活用にも対応できる信頼性の高い製品の技術開発を行うため、川崎製造所において、水素製造用のアルカリ水電解パイロット試験設備の導入を決定しました。詳細は、「6 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」) アルカリ水電解システムの開発」をご参照ください。技術開発以外の点では、水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)に理事会員として、また、Hydrogen Council(水素協議会)にステアリングメンバーとして参画し、水素に関する情報収集、当社技術のPR、プレゼンスの向上、他社との協業機会の探索を開始しました。一方、バイオエタノールから基礎原料を創出する技術の開発も進めています。バイオエタノールは様々なバイオマス原料の中で、大量かつ比較的安価に入手できる可能性が高い原料であること、また、当技術は既存のコンビナートやプロセスの利用が可能であることから、化学産業のグリーン化に資するものと考えており、実現に向けたさらなる技術開発を進めていきます。

一方、当社グループの製品やサービスで世界のGHG排出量削減に貢献することも重点テーマです。当社では第三者の専門家の視点を入れて妥当性を確認した、GHG排出量削減効果を期待できる製品・サービスを「環境貢献製品」として拡大・普及することを進めています。2022年度までの累計で20事業・製品を「環境貢献製品」として位置付けました。これらの「環境貢献製品」によるGHG削減貢献量を、2030年度には2020年度の2倍以上とし、また売上高に占める割合も高めていくことを目標とし、様々な取り組みを実施しています。

なお、気候変動が企業の財務に与える影響を分析し開示するよう求める「TCFD提言」に基づく検討を行い、結果を開示しています。詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ共通 ②気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応」をご参照ください

(プラスチックの課題への対応)

当社グループでは、プラスチックが海洋に流出することや、マイクロプラスチックとして地球環境、生態系に悪影響を及ぼすことを防ぐのはもとより、限りある資源を持続可能なものとして活用していくための取り組みを進めています。例えば、世界で広く用いられている汎用プラスチックの1つであるポリスチレンについて、グループ会社のPSジャパン㈱がケミカルリサイクルの実証に向けた最終の準備を進めています。また、ポリエチレンについては、消費財メーカー、成型メーカー、リサイクル業者等のサプライチェーンの関係者や大学と協力し、リサイクル技術の開発に関する取り組みを推進しました。ただし、使用済みプラスチックを廃棄物とせずに資源として活用していくためには、技術の開発だけでなく、消費者も含めた社会全体の取り組みが必要であり、当社では再生プラスチックの資源循環を可視化するプラットフォーム「BLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)」の開発を進めています。2022年9月には、株式会社ファミリーマート、伊藤忠商事株式会社、伊藤忠プラスチックス株式会社との協業で、株式会社ファミリーマートの都内店舗での実証を行いました。使用済みペットボトルを回収BOXに投函したあと、リサイクル素材に加工されるまでを、スマートフォンのアプリでトレース(追跡)できるサービスの実証実験です。この取り組みを通じて、デジタルプラットフォームによるトレーサビリティの価値を確認し、さらなるプラスチック資源循環を推進していきます

また、持続可能な製品の国際的な認証制度の一つであるISCC PLUS認証を複数製品で取得しました。当認証は、バイオマス原料や再生原料等が、製品製造を含むサプライチェーンにおいてマスバランス方式で適切に管理されていることを第三者機関が確認し認証するものです。今後、顧客や社会からの期待に応じ、当認証取得製品を提供していきます。なお、プラスチックや循環経済に関する諸課題への対応は、各社共通のテーマでもあることから、当社グループはCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)、循環経済パートナーシップ(J4CE)、一般社団法人 日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟等のアライアンスや業界団体の活動にも積極的に参画し、課題への取り組みを他社と協力しながら推進しました


■ Digital(デジタルトランスフォーメーション)

当社グループが持つ多様な無形資産を活用し、ビジネスモデルを変革し価値創造をリードするものとして、デジタル技術の活用を積極的に推進しています。推進にあたっては、全体ロードマップを策定し、2021年度までを現場に密着し実課題をデジタル技術で解決する「デジタル導入期」及び事業軸・地域軸・職域等に横串を刺しデジタルを展開する「デジタル展開期」として、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進の基礎固めを進めてきました。2022年度からは「デジタル創造期」としてデジタル基盤強化、経営高度化、ビジネス変革の視点で、DXによる経営革新を実現し、今後、グループ会社全体、全社員がデジタルを活用するのが当たり前になる「デジタルノーマル期」を目指しています。これまでの取り組みにより、当社は経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄2021」「DX銘柄2022」「DX銘柄2023」に3年連続で選出され、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の三省の共同著書「ものづくり白書」にも取り組みが掲載されました


 また、当社グループ全体でのDXに関する活動が認められ、様々な団体からの表彰等、評価を頂いています。

・日経B2Bマーケティングアワード 大賞(デジタルマーケティング)

・HRX of the Year 2022優秀賞(人材育成)

・JDMC2023年データ人材賞(人材育成)

・Forbes CIO Award 2022経営貢献賞(DX全般)

・SAP Japan Customer Award 2022(サステナビリティ)

(DX推進体制の強化)

グループ全体でDXを加速していくために、推進体制の強化に継続して取り組んできました。2021年4月にデジタル共創本部を設立後、いくつかの重要な組織変更を行いました。2022年4月には、全社展開を加速したい営業・マーケティング領域について、体制強化を行い、カスタマーエクスペリエンス(CX)戦略強化をしています。また旭化成グループのDX推進・企画について一元的に各組織の業務・施策を効果的に推進するDX経営推進センターを設置しました。さらに、2023年1月にはDX経営推進センター内にデジタルタレント戦略室を新設し、全社員デジタル人財化計画やオープンバッジなどの人財育成カリキュラムを運営しています。また、各事業部門のトップとデジタル共創本部の連携体制(リレーションシップマネージャー制度)を整え、各事業における課題・重点テーマ等を共有し、密に連携して具体的な取り組みを進めています

(人財の育成)

デジタル人財の育成も積極的に実施しており、グループ全従業員がデジタルリテラシーを身につけ、全社員がデジタル活用のマインドセットで働く「4万人デジタル人財化」構想の下、DXオープンバッジ教育プログラムを進めています。このプログラムはレベル1から5までの5段階でデジタルリテラシーとスキルを向上させていく構成になっています。また、このような育成プログラムの実施や採用を通じて、高度なデジタル技術とデータを活用し、事業の課題解決や、新しい価値・ビジネスモデルを創出できるデジタルプロフェッショナル人財の育成・獲得を積極的に進めています。2022年度末にデジタルプロフェッショナル人財1,206名を育成・獲得し、現時点の目標は予定どおり達成しました。

(デジタル創造期の3つの柱)

2022年度からは「デジタル創造期」として、デジタル基盤強化、経営の高度化、ビジネスモデル変革を推進しています。デジタル基盤の強化では、デジタル人財の育成・獲得の加速、デザイン思考等を活用したアジャイル開発のグループ全体への浸透、データ活用促進等を進めています。経営の高度化では、経営の見える化/意思決定への活用、知的財産活用の高度化、人財を活かすための活用、先端研究開発、カーボンフットプリントの見える化等に取り組んでいます。ビジネスモデル変革では、無形資産の価値化/共創の加速、マーケティングの革新、サプライチェーン連携、新事業創出、スマートファクトリー等に取り組んでいきます。この3つの視点で共通の技術やノウハウを生かしグループを横断するプロジェクトとして行うとともに、各領域毎に具体的テーマが進んでいます。また、DXの進捗を測るKPI(2024年度目標)として「DX-Challenge 10-10-100」を定めました。2022年度末で、デジタルプロフェッショナル人財を2021年比で10倍(グローバル全従業員のうち2,500名程度)の目標に対し1,206名、グループ全体のデジタルデータ活用量を2021年比で10倍の目標に対し2.6倍、そして通常活動のDX活用による利益貢献に加え、選定した重点テーマで100億円の増益貢献(2024年度までの3年累計)に対して28億円の実績となっています。デジタルで多様な資産を最大限に活用し、ビジネスモデルを最速で変えていきます。


■ People(「人財」のトランスフォーメーション)

当社は1922年に創業し、2022年に100周年を迎えましたが、この間事業ポートフォリオを大きく変革してきました。1960年代には石油化学事業と繊維事業が売上高の大半を占めていましたが、社会課題の解決に向けた事業展開により、現在は3領域経営を進めています。大きな変革を遂げながら成長してきましたが、今後も、持続可能な社会に向けてさらなる変革が必要です

そのなかで現中計では、従業員に求める心構えとして「A-Spirit」という言葉を掲げています。旭化成の「A」と、アニマルスピリットの「A」をかけたもので、具体的には、野心的な意欲、健全な危機感、迅速果断、進取の気風、という4つのことを強く意識し、チャレンジングな人間、チャレンジングな人財であってほしいと伝えています。また、そのような想いから、挑戦・成長を自ら求めていく「終身成長」と、多様性を促す「共創力」を人財戦略の柱としています。これらは、当社グループが100年かけて培ったグループバリュー、多様性、自由闊達な風土などの無形資産をさらに磨き、活かしきるということでもあります。


「終身成長」に関しては、一人ひとりが自立的にキャリアを描き、成長に向けた学びや挑戦を進めること、そして、リーダーが個人とチームの力を最大限引き出せるようマネジメント力を強化することが重要と考えています。また「共創力」に関しては、多様性を“拡げる”“つなげる”という視点でさまざまな取り組みを進めています。主要KPIとしては、「高度専門職任命者数」、「従業員エンゲージメント(成長行動指標)」「ラインポスト+高度専門職における女性比率」を掲げており、下図のとおり順調に推移しています。


 また、2022年度より次の3点を役員報酬に連動させ、取り組みを加速させています。

指標

指標の算定方法

2022年度目標値・基準値

2022年度実績値

働きがい

メンタルヘルス不調による

休業者率

0.80%

1.07%

DX

デジタルプロフェッショナル

人財総人数

1,000名

1,206名

ダイバーシティ

ラインポスト及び高度専門職における女性の占める割合

3.9%

3.8%

具体的な取組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 人的資本に関する開示」を参照ください。

■ リスクマネジメントの強化

詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください

■ コーポレート・ガバナンスの最適化

詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください

ⅵ 財務・非財務主要KPI

中期経営計画2024の実行、そして、その先の目指す姿の実現のために、財務・非財務のKPIを明確にして、各施策を実行していきます。財務KPIにおいては、利益成長・資本効率・事業ポートフォリオ転換の視点で、2024年度目標・2030年度目標を設定し、具体的な施策の実行を進めていきます。非財務KPIに関しては、10の成長を牽引する事業(GG10)における有効特許件数の割合、デジタルプロフェッショナル人財と高度専門職の育成・獲得、そして、当社GHG排出量、環境貢献製品を通じたGHG削減貢献量を主要なKPIとして設定し推進を加速していきます

中期経営計画2024で設定した財務・非財務主要KPI一覧


③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等

各セグメントにおいて次の成長を牽引する事業(GG10)に重点的にリソースを投入していきます。GG10の詳細は「②当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅱ 成長戦略」をご参照ください。各セグメントの経営方針・経営戦略は以下のとおりです。

 「マテリアル」セグメント

 本セグメントにおいては石油化学関連の収益安定化を図りながら、付加価値の高い事業の構成比を高めることで利益成長を目指します。

価値提供分野「Environment & Energy」、「Mobility」、「Life Material」

●基本戦略:カーボンニュートラルの実現に向け、既存の延長線ではない戦略・戦術でポートフォリオ変革を図り、収益性と投資効率の向上を目指す

経営指標:営業利益、営業利益率、ROIC

経営環境・経営課題

本セグメントにおいては、「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、セパレータや石油化学関連製品を中心とする環境ソリューション事業、自動車用途向け製品を中心とするモビリティ&インダストリアル事業、電子部品・電子材料、繊維、消費財を中心とするライフイノベーション事業を運営しています。これらの事業において、ビジネスモデルや市場の状況、競争優位性等の事業環境は、製品群によって大きく異なるため、各事業が置かれている環境認識に基づいた経営課題に対して取り組んでいます。本セグメント全体の観点では、事業ポートフォリオの転換を最も重要な経営課題と認識し、次の成長分野への重点的な投資を行う一方で、既存アセットを最大活用することでのキャッシュ創出や事業の構造改革を推進しています。本セグメントにおける経営環境は以下のとおりと認識しています

ⅰ 環境ソリューション事業

主要国における電気自動車等の環境対応車の需要の急速な立ち上がりと、それに向けたリチウムイオン電池需要の高まり

・カーボンニュートラルの動きを受けた、石化関連製品の中長期視点でのサステナビリティ対応の加速・脱炭素に貢献する技術やソリューションに対するニーズの急速な高まり

ⅱ モビリティ&インダストリアル事業

・次世代モビリティで求められる安全、快適、環境特性に優れた素材ニーズの高まり

ⅲ ライフイノベーション事業

電気自動車の普及やデジタル社会への進展に伴う、先端半導体技術のニーズの高まり

通信技術の高度化や衛生意識の変容等、新たなライフスタイルによる様々なセンシングニーズの高まり

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ 環境ソリューション事業

■ 価値提供の方向性:独自の技術・知見を活かした新しい価値の創出

これまでに培った技術や知見などの事業基盤を活かした、旭化成が目指す2つのサステナビリティ(“持続可能な社会への貢献”と“持続的な企業価値向上”)の好循環の実現への貢献

■ 主な取り組み

グリーンソリューション推進(水素関連の事業化推進、CO2ケミストリーの多面的展開)

・蓄エネルギー分野の深耕(セパレータ事業の成長追求、知見を活かした新しい事業展開)

カーボンニュートラルに向けた取り組み推進(石化事業の中期的な転換、グループ横串体制での取り組み加速)

ⅱ モビリティ&インダストリアル事業

■ 価値提供の方向性:提案型事業へのシフト

電気自動車等の環境対応車に求められるサステナビリティ要求に対する、軽量かつ安全な製品のコンセプト提案、環境調和型素材の提案

・キーカスタマーへの横断的なマーケティング強化

■ 主な取り組み

・自動車内装ファブリック事業:Sage Automotive Interiors, Inc.を中心とした事業の拡大と合理化、買収したAdient plcの自動車内装ファブリック事業や環境特性に優れた人工皮革「Dinamica®(旧ラムース®)」との相乗効果の追求

・エンジニアリング樹脂事業:自動車構造部品や自動車用リチウムイオン電池構造部品に向けたエンジニアリング樹脂発泡体「サンフォース®」展開の加速やCAE(Computer Aided Engineering)等のデジタル技術活用を通じた自動車メーカーの開発パートナーとしての価値提供

ⅲ ライフイノベーション事業

■ 価値提供の方向性:先進・独自技術による高付加価値素材の提供

・デジタル社会の進展で求められるニーズへの、特徴ある部品・部材、ソリューションの提供

・生活者の視点に立った、健康で快適な暮らしに貢献する製品・サービスの提供

■ 主な取り組み

・電子材料、基板材料事業:DXの加速による最先端半導体を支える革新材料開発の強化

・電子部品:省エネ・快適市場において競争力のあるセンシングデバイス・ソリューションの展開

電子材料と電子部品との融合による特徴ある部材・部品、ソリューションの展開

新事業の展開加速:半導体プロセス材料の事業拡大に向けた共同研究・開発の促進、次世代パワーデバイス用途に最適な電流センシングデバイスの製品展開、CO2センサー、アルコールセンサーなどを活用した快適・安全・安心な車室空間ソリューションの提供、センシング技術と高性能な保冷素材を活用した鮮度保持ソリューション「Fresh Logi™」の展開

・CO2センサー、アルコールセンサー事業:各種センサーを活用した快適・安全・安心な車室空間ソリューションの提供

Ⅱ 「住宅」セグメント

●価値提供分野:「Home & Living」

●基本戦略  :国内事業は生涯にわたる顧客価値の最大化、海外事業は成長投資継続とこれまでの投資からのリターン創出による、高いROSとROICの維持と、キャッシュ創出力の向上

経営指標  :営業利益、営業利益率、売上高FCF率

<経営環境・経営課題>

日本国内の建築請負事業においては、COVID-19の影響で、住宅展示場来場者数の減少により、新規集客・受注活動に影響が出ていますが、都市・近郊・郊外それぞれのエリア特性やお客様のニーズに合わせたきめ細かいサービスを実施していくことで引続き高品質な住まいの提案に努めています。依然として先行き不透明な状況が続くため、従来の住宅展示場に依った集客・受注活動からデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルへ転換することが課題です。一方、自然災害の多発化、COVID-19による顧客意識の変容、人生100年時代におけるライフスタイル・ワークスタイルの多様化、さらに脱炭素化の加速により、住宅を取り巻くニーズは変化し続けています。今後は、災害に強く安心できるレジリエンス(防災力)の高い住宅、環境負荷を低減する住宅やシニア、子育て世帯が安心かつ快適に生活できる住宅等の事業機会は益々広がっていくと考えています。これらの機会に対応し、都市で培ったノウハウを活かし、日本国内の関連市場へ新事業を展開していくこと、また、日本国内市場の成長の鈍化を踏まえて、海外市場へ事業展開を加速していくことが課題であると考えています

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進や生産性の向上

ⅱ サステナビリティ実現に向けた取り組み強化

・旭化成ホームズ㈱が参加しているRE100目標達成に向けた早期実現の推進

・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEH-M(ゼッチ・マンション)普及に向けた取り組みの推進

集合住宅「ヘーベルメゾン™」の太陽光発電設備で創出した環境価値による当社及び旭化成ホームズ㈱の本社使用電力のグリーン化の推進

環境貢献度の高い断熱材「ネオマフォーム™」の拡販

環境省による「生物多様性のための30by30アライアンス」への旭化成ホームズ㈱の参加

ⅲ レジリエンスの強化

・耐震性・耐火性の高い住宅や防災科学技術研究所とのリアルタイム地震被害推定システム研究など、安心できる住まいを実現させる取り組みの推進

・DX技術を活用したプッシュ型の災害時無人対応システムによる、お客様へ災害時における安心の提供

他社とともに推進してきた「宮益坂ビルディング」建替え事業が「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2023」において、「準グランプリ・金賞」を受賞

旭化成ホームズ少額短期保険㈱が開発した独自の保険商品とサービス体制で災害時の安心提供を強化する取り組みが、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2023」において「最優秀賞」を受賞

ⅳ 海外事業の展開加速

・豪州事業

事業を開始したニューサウスウェールズ州のほか、新たにビルダーを買収するなど他州にも事業エリアを拡大しています。ビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない競争優位性の高い豪州モデルを確立させることで、豪州における注文住宅の建築請負及び分譲住宅の販売においてトップブランドを目指します。2023年2月には豪州子会社のNXT Building Group Pty Ltd(旧McDonald Jones Homes Pty Ltd)を通じて、ビクトリア州で戸建住宅の建設・販売を行うArden Homes Pty Ltdを買収し、豪州市場において更なる事業拡大を目指します

北米事業

大手建築部材サプライヤーErickson社、基礎工事や設備工事を行うAustin社、配管工事を行うBrewer 社とともにシナジーの発揮を目指す体制の構築に努め、旭化成ホームズ㈱が持つ工業化住宅のノウハウを通じて、製造や施工現場での多岐にわたる工程を合理的に担えるサプライヤーモデルを確立させることで、施工合理化と高品質な建物の提供を目指します。2022年10月には、米国の住宅の建築工事を行うサプライヤーのFocus 社(Focus Plumbing LLC等5社)を買収し、米国の住宅建築における生産性や品質の更なる向上を目指します。

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

●価値提供分野:「Health Care」

●基本戦略  :医薬・医療機器の双方でグローバル市場の幅広い事業機会を捉え、グループの利益成長を牽引

●経営指標  :EBITDA、EBITDAマージン、ROIC

<経営環境・経営課題>

医薬事業において、COVID-19の影響によるMR(医薬情報担当者)の対面活動の制限は継続しているものの、オンラインでの企画の強化やチャネルの拡大など病院訪問を前提としないMR活動の推進や、米国における感染拡大影響の緩和により売上は堅調に増加しています。また、医療事業においては、生物学的製剤市場の継続的な成長と製薬会社における新薬の開発及び商業生産化へのニーズの高まりにより、ウイルス除去フィルターの需要が増加しています。今後もこの基調が継続するものと予測しており、安定生産と生産能力増強を通じて供給責任を果たしていきます。クリティカルケア事業においては、除細動器の半導体等の部材調達難による販売数量の減少や、景気後退を背景とした北米における医療機関向け除細動器の受注の減少により2022年度は成長が一時的に停滞しましたが、この状況は徐々に改善しつつあり、今後も成長を継続していく見通しです

中長期的には、医療費削減圧力が高まることによる国内の市場成長の鈍化が予想される一方、先進諸外国においては、より良い医療に対するニーズの高まりや長寿社会の進展に伴い、引き続き安定的な市場成長が継続すると認識しています。そのため、「ヘルスケア」セグメントの中長期的な成長のための課題は、グローバルにおける事業展開を加速することであり、当社グループに足りない経営資源を追加・補強する手段としてM&Aやライセンス導入による事業開発を位置付けています。2022年度は、医療事業においてBionova Scientific, LLC (次世代抗体医薬品CDMO)の買収を通じて、既存のバイオプロセス製品事業、装置事業、バイオセーフティ試験受託サービス事業に加え、バイオ医薬品CDMO事業に参入しました

今後は、2021年度にZOLL Medical Corporationが買収したRespicardia,Inc.とItamar Medical Ltd.の2社や、上述のBionova Scientific, LLCなどの収益成長による投資成果の刈り取りを図るとともに、既存事業の成長とM&A等の事業開発の活用を継続することで成長を続け、医薬・医療機器の双方でグローバル市場における幅広い事業機会を捉え、当社グループの成長を牽引する柱となることを目指します

<経営方針と経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ クリティカルケア事業

心肺蘇生、心疾患領域を中心とした既存事業の持続的成長、及び企業買収を通じた既存事業強化と周辺領域への拡大により、重篤な心肺関連疾患領域での成長を追求します。近年、買収した企業は以下のとおりです

2019年6月 Cardiac Science Corporation(自動体外式除細動器(AED))

2019年6月 TherOx, Inc.(急性心筋梗塞治療用機器)

・2021年4月 Respicardia, Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療 植え込み型神経刺激デバイス)

2021年12月 Itamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューション)

ⅱ 医薬事業(海外)

・免疫・移植周辺を中心とした疾患領域、及び大病院市場へフォーカスし、旭化成ファーマ㈱とVeloxis Pharmaceuticals, Inc.の連携のもとで事業開発、臨床開発、販売を推進しています。また2021年度より、両社協同でART-123の化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の発症抑制に関する日米国際共同第1相臨床試験を開始しました。

・Veloxis Pharmaceuticals, Inc.の腎移植手術患者向け免疫抑制剤「Envarsus XR」の着実な伸長、及びOSE Immunotherapeutics SAから導入したCD28阻害薬「FR104」(臓器移植における新規免疫抑制薬)を開発しています。

ⅲ 医薬事業(国内)

重点領域(整形外科領域、救急集中治療、免疫)における新薬上市と販売の拡大を継続します。整形外科領域においては、骨粗鬆症治療薬「テリボン®オートインジェクター」の更なる市場への浸透を図ります。免疫領域においては、関節リウマチ治療剤「ケブザラ®」と、2021年度にサノフィ株式会社より導入した免疫調整剤「プラケニル®」の更なる市場浸透を図ります。研究開発においては、オープンイノベーションや事業開発を活用し、重点領域におけるパイプラインを拡充しています。

ⅳ 医療事業

生物学的製剤の市場成長に合わせたウイルス除去フィルター「プラノバ™」の市場ポジション・販売拡大と生産能力の増強に加え、製薬企業向けバイオセーフティ試験受託サービス事業やバイオ医薬品CDMO事業への事業展開により、製剤の安全性と生産性向上に貢献する製薬企業にとってのプレミアムパートナーとなることで製薬市場の成長を取り込みます。

近年、買収した企業は以下のとおりです

2019年10月 Virusure Forschung und Entwicklung GmbH (ウイルス等安全性試験受託サービス等)

2021年12月 Bionique Testing Laboratories LLC (マイコプラズマ試験受託サービス)

・2022年5月 Bionova Scientific, LLC (次世代抗体医薬品CDMO)

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 事業上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」に記載の項目に加えて、以下の事業上の課題があります。

Ⅰ 「マテリアル」セグメント

ⅰ 環境ソリューション事業

環境ソリューション事業においては、リチウムイオン電池用セパレータの世界的な需要変化及び競合他社の販売政策により販売量・販売価格が当社予測を下回る可能性があります。そのため、当社グループは、多様化する顧客ニーズに対応すべく、中長期で需要が増えると予測する電気自動車等の環境対応車や蓄電システム(ESS)用途を中心に生産能力の増強を推進し、湿式・乾式という特徴が異なる両タイプの製品を保有することを活かし、安定的かつ高水準の品質を強みに様々な顧客ニーズに対応します。また、同事業は、各国の規制・環境問題や供給制約の顕在化等によるサプライチェーンの変化、テクノロジーの変化により、事業環境が急激に変化することが中期的なリスク要因と考えられるため、事業環境の動向の把握と迅速な対応を続けていきます

 モビリティ&インダストリアル事業

モビリティ&インダストリアル事業は、世界の自動車業界の動向に影響を受ける場合があります。2022年度の自動車関連部材については、COVID-19、半導体不足による影響を受け、自動車生産台数の減少による関連製品の需要減が見られました。また、事業運営は、ロシア・ウクライナ情勢を契機とした燃料価格の高騰に伴う用役コスト上昇、中国ゼロコロナ政策等の影響によるサプライチェーン混乱、及び金融引き締めによる世界経済の減速等、年間を通じて厳しい環境下にありました。そのような中で各国の自動車関連市場を注視するとともに、サプライチェーンの管理を強化し、適正な水準の在庫を保有することで、変化する需要に柔軟に対応していきます

一方、中長期的には自動車の「CASE」と呼ばれる技術革新の進展が加速し、又は変化していくことにより、 新たなニーズが生まれてくると考えています。特に低炭素社会の実現に向けて、電気自動車等の環境対応車の需要拡大や資源の有効活用など、欧州を中心に自動車業界における環境負荷低減の動きが今後加速するものと考えており、このような社会ニーズに向けた対応が必要です

車室空間には、これまでにない快適性やデザイン

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