検出制御機器、計測制御機器等を展開しているキーエンスは、自社で生産設備をもたない「ファブレス企業」として成功を収めている企業の１つです。同社の強みは、付加価値の高い独自商品の開発力にあり、ここ数年は売上高当期純利益率が30%を超えるなど、その利益率は驚異的な高さを誇ります。

キーエンスの損益計算書(P/L)を円グラフで見てみましょう（図1）。円グラフの紫色が当期純利益を表し、黒字のときは円の左側に紫色の部分が現れます。キーエンスの利益率の高さは、円グラフに占める紫色の部分の割合が大きいことによく表れています。今度は、キーエンスの貸借対照表(B/S)を円グラフで見てみましょう。この円グラフの特徴的なところは、純資産（黄）と現預金等（水色）の割合が大きい点です。一般に、純資産（黄）や現預金等（水色）の割合が大きいと経営の安定度が高いと言えるので、B/S、P/Lの円グラフからもキーエンスが優良企業の１つであることが垣間見えます。

【　図1　キーエンスの決算書（P/L、B/S）　】

それではキーエンスと同様のB/SやP/Lをもつ企業はあるのでしょうか？キーエンスがファブレス企業であることを考えると、直感的に商社のビジネスモデルに似ているのではないかと考えられます。そこで、総合商社大手の三菱商事のP/Lの円グラフを見てみます (図２)。この図を見ると、三菱商事の当期純利益（紫）の割合はキーエンスのそれに比べてかなり小さくなっていることがわかります。なお、この傾向は住友商事、三井物産などの他の大手商社のP/Lをキーエンスと比較しても同様に見られました。

また、図３の三菱商事のB/Sの円グラフをキーエンスのそれと比較すると、両社の円グラフの色のバランス（配色）は大きく異なっており、経営戦略の違いが円グラフにも表れていると言えそうです。このように、キーエンスと商社の会社の決算書には大きな違いが見られます。

【　図２　キーエンスと三菱商事のP/Lの比較　】

【　図３　キーエンスと三菱商事のB/Sの比較　】

その他にも幅広い業種で資産状況や利益率がキーエンスと似ている企業を探していったところ、１つの企業が見つかりました。医薬品業界の小野薬品工業です。両社はそれぞれ電気機器、医薬品と異なる業界に属していますが、総資産、売上高はほぼ同規模となっています。

小野薬品工業の決算書をキーエンスと比較してみましょう。図４のP/Lの円グラフを見ると、キーエンスと小野薬品工業は円グラフの配色が似ていることがわかります。小野薬品工業もキーエンスと同様に当期純利益（紫）の割合が大きいことから、高い利益率を誇る会社であると言えます。キーエンスは付加価値の高い独自商品の開発を売りに事業を展開しています。一方の小野薬品工業も自社開発品比率が高いことが強みとなっており、他者に真似できないオリジナリティのある商品を開発するという経営戦略が利益率を高くできる土壌になっているのかもしれません。

また、図５を見ると、B/Sの円グラフの配色も似ており、キーエンスと同様に小野薬品工業のB/Sの円グラフでも、純資産（黄）と現預金等（水色）の割合が大きくなっています。これは、両社とも毎年の利益が現預金等として積み重なったためと推察できます。なお、キーエンスがファブレス企業であるのに対し、小野薬品工業は自社の工場を保有しており、有形固定資産（緑）の割合は小野薬品工業の方がやや大きくなっています。それにも関わらずキーエンスのように高い利益率を挙げていることは注目に値します。

【　図４　キーエンスと小野薬品工業のP/Lの比較　】

【 図５ キーエンスと小野薬品工業のB/Sの比較 】

決算書が似ているキーエンスと小野薬品工業ですが、両社の平均年収を比較してみると、小野薬品工業の846万円に対し、キーエンスの1397万円と大きな開きがあります。もし小野薬品工業がキーエンス並みの給与を支払ったとしたら、現在の利益率を達成するのは至難の業でしょう。これだけの給与を支払っていながら高い利益率をキープできるキーエンスは、やはり「凄い」と言わざるを得ません。

このように、決算書が類似した企業を見つけることができれば、面白い発見があるかもしれません。

【参考】キーエンス・三菱商事・小野薬品工業の比較
　　　　　　http://www.ullet.com/diff/6861/8058/4528.html