企業日本精線東証プライム:5659】「鉄鋼 twitterでつぶやくへ投稿

  • 早わかり
  • 主な指標
  • 決算書
  • 株価
  • 企業概要
  • 企業配信情報
  • ニュース
  • ブログ
  • 大株主
  • 役員
  • EDINET
  • 順位
  • 就職・採用情報

企業概要

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

(1)経営の基本方針

 ステンレス鋼線並びに金属繊維(ナスロン®)を主力製品とする当社グループは、長年にわたり培ってきた技術力と新しい分野への挑戦により、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献することを経営の基本理念としております。

 産業構造が環境・エネルギーのクリーン化、デジタル化へと進むなか、ステンレス分野への期待はさらに高まり、「より細く、より強く、より精密な」方向が求められています。ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これらの期待に適応すべく『Micro & Fine Technology』をスローガンに掲げ、次世代素材、技術開発をこれからもリードし続けてまいります。

 また、株主並びにお客様など、内外の関係先からの信頼と期待に応えるため、常に市場の変化に迅速に対応できる柔軟な経営体制の構築を通じて、安定した収益基盤の維持・拡大を図るべく事業活動を展開してまいります。

(2)中長期的な経営戦略及び目標とする指標

 当社グループは2021年4月より『中期経営計画(NSR23)』(最終年度2024年3月期)をスタートさせ、「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を中期スローガンとして掲げ、高機能・独自製品の比率を一層高め、企業価値向上に努めてまいります。NSR23の経営目標として連結経常利益42億円、連結売上高経常利益率(ROS)10%以上、連結総資産経常利益率(ROA)10%以上などに加え、2030年度CO2排出量削減目標▲30%(2013年度比)を掲げESG経営を推進しています。なお、NSR23の基本方針については、後述(4)中期経営計画(NSR23)に記載しています。

 

NSR23目標

連結売上高(百万円)

42,000

連結経常利益(百万円)

4,200

連結ROS(経常利益/売上高)

10.0%以上

連結ROA(経常利益/総資産)

10.0%以上

連結ROE(純利益/株主資本)

8.0%以上

連結配当性向(配当/税引後利益)

40%程度

高機能・独自製品連結売上高比率

70%以上

CO2排出量削減率(2030年度目標)※

▲30%

※2013年度比

 高機能・独自製品とは、当社グループで独自開発した技術を用いることなどにより実現可能となったシェアナンバーワンやオンリーワンの製品群となります。高機能・独自製品は、お客様の製品に高い付加価値をもたらす役割を担っています。

《高機能・独自製品の一例》

製品名

説明

ばね用材

「ステンレス鋼線」とは、ステンレス鋼線材に対して二次加工を施し、表面性状、線幅、線径、機械的特性などの精度の高い機能を付加し、それを保証したワイヤーの総称をいい、ばね・ねじ・金網などに加工されます。

当社のばね用材については、高強度や高耐熱、超非磁性などのお客様のニーズに応じ、線ぐせや光沢などを調整したオーダーメイド製品を提供しています。医療関連や精密電子機器、次世代の水素社会を支える素材となります。

極細線

線径100μm未満の製品を総称し、フィルター用途やスクリーン印刷用途に用いられています。細径化ニーズに対応してきた結果、現在11μmという単線としてはステンレス鋼線の極限の細さを実現しており、スクリーン印刷用途で用いられる極細線は、高精度・高細密が要求される太陽光発電パネルや電子部品の製造プロセスに欠かせない素材となります。

金属繊維(ナスロン®)

当社が独自の技術で開発したステンレス鋼繊維であり、その線径は1~50μmと非常に細く柔軟性を有します。金属の性質を保持しながら有機繊維と同様にニット状やフェルト状などへの加工が可能となります。このナスロン®を用いた高機能メタルフィルターは、より高強度、より高耐熱で耐食性も優れており、フィルムや樹脂、炭素繊維などの製造の濾過プロセスで利用されています。

超精密ガスフィルター(NASclean®)

金属繊維(ナスロン®)をもとに製作した薄層のメタルメンブレンフィルターであり、半導体・フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の生産過程に用いられるガスの濾過に用いられ、半導体製造装置などに組み込まれています。社会のデジタル化に伴いデータ処理の高速化と機器の低発熱化・省電力化が必要となり、カーボンニュートラルに向けたより高性能な半導体が必要となるに伴い、超精密ガスフィルター(NASclean®)に対する需要も高まっています。

(3)サステナビリティ経営

 当社グループは、中期経営計画スローガン「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を基に、環境問題、人権尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などの重要な経営課題に対して計画的に取り組んでいます。

 製造業である当社では、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減といった社会的な責務を意識しており、その中でも、事業活動に伴うCO2排出削減の目標(2030年目標30%削減(2013年度比)、2050年目標:カーボンニュートラル)を設定し持続可能な社会の実現を目指しています。また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。

 また、当社グループは、ビジネス規範に対するコンプライアンス教育の徹底、健康・安全や生産性向上など働きやすい環境の整備、多能工化やスキルマトリクス評価による人的資本の質の向上など、人的資本への投資を通じて持続的成長の基盤を培っています。知的財産の活用・拡張に対しても、伸線加工や金属繊維ナスロンなどのコア技術を活かした新たな高機能・独自製品の創出のほか、水素関連などのサステナビリティ成長分野に対する中長期視点での研究開発の推進に取り組んでいます。

 当社グループは、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動に係るリスク及び収益機会が当社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、リスクと機会を特定するとともに、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。また、投資家等とのエンゲージメントにも資するよう、TCFDが推奨する開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を含め、同提言に沿った情報開示を当社ウェブサイトにて行っています。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「サステナビリティ報告書2022」(17頁から18頁)をご参照ください。「サステナビリティ報告書2022」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/sustainability/report/)に掲載しております。

 ※ TCFD:(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

(4)中期経営計画(NSR23)

①中期経営計画の基本方針

NSR23においては、以下の4つの基本方針を掲げています。

a.日本精線リニューアル計画の継続・推進

b.新製品開発と新市場開拓 : サステナブル社会に貢献

c.水素を巡る新事業の探索

d.コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実

a.日本精線リニューアル計画の継続・推進

 前中期経営計画から取り組んできました日本精線リニューアル計画(NSR)を継続推進し、高機能・独自製品の機能・能力増強と持続的成長のための生産基盤の強化を図ります。具体的には、東大阪工場の酸洗設備に関する第2期合理化計画を通じて生産能力増強や作業安全性・環境負荷軽減を推し進めるほか、さらなる細径化ニーズに応えるべく極細線及びばね用材の機能・能力増強を図ります。金属繊維部門においても老朽化した製造設備のリフレッシュ投資により生産基盤強化や品質改善を計画しており、半導体関連市場の需要増に対し超精密ガスフィルター(NASclean®)の安定したサプライチェーンの構築にも注力いたします。

 また、THAI SEISEN CO., LTD.の機能を強化し、ステンレス鋼線部門の国内外の最適生産体制の構築を進めるとともに海外マーケット(中国・東南アジアなど)の取引深耕を図ります。具体的には、ばね用材、極細線、電磁SUSといった高機能・独自製品の機能強化に向けた投資を推進し、重要製品の枚方工場代替生産拠点としての位置づけも確立してまいります。金属繊維部門についても、耐素龍精密濾機(常熟)有限公司と韓国ナスロン株式会社との連携によって海外市場への拡販を推し進めてまいります。

b.新製品開発と新市場開拓 : サステナブル社会に貢献

 環境、エネルギー、5Gなどサステナビリティ成長分野に、極細線、高機能ばね用材や超精密ガスフィルター(NASclean®)など当社の高機能・独自製品を提供し、製品を通じてサステナブル社会に貢献してまいります。例えば、極細線の細径化は太陽光パネルの発電効率向上に大きく貢献しています。また、超精密ガスフィルター(NASclean®)の性能をいっそう向上させた新製品を市場投入することで半導体製造装置の高性能化ニーズに応えてまいります。半導体製造プロセスにおいてEUV(極端紫外線)露光技術が採用されたことによって半導体チップの微細化がさらに進展するなか、1.5ナノまでのパーティクル(粒子)の除去ができる当社製品の濾過精度に対するニーズは高まっています。また、ステンレス鋼短繊維を材料とする当社ガスフィルターは低圧損(注)という特長があり、これまで培ってきた技術の優位性をさらに向上させてまいります。結果として、高機能・独自製品の比率を高めるとともに、新製品の競争優位性をもって収益性の高い製品ポートフォリオの維持・向上を目指します。

(注)

 低圧損とは、ガスが濾過フィルターを通過する際の圧力損失が少ないこと。結果として、同じ濾過精度かつ同じ流量のガスの精製のために消費するエネルギーを削減できます。

 製品を通じたサステナブル社会への貢献(一例)

c.水素を巡る新事業の探索

 水素エネルギーを活用する水素社会においては、安全な水素の運搬・貯蔵方法の確立が必要不可欠となっています。水素を多く含むことができる常温で液体である『有機ハイドライド(MCH:Methylcyclohexane)』は取扱いが比較的容易であるため既存のガソリンスタンドをインフラとしての活用が展望できる方法として注目されています。当社では、独自に開発したモジュールを用いて、水素キャリアであるMCHから水素を回収することに取り組んでいます。さらに、水素のみを透過できるPd合金膜による水素分離膜モジュールを介することによって、水素濃度を超高純度(9N)に高めることができます。この中期経営計画においては、再生可能エネルギーを用いた小型プラント実証実験によって高純度のグリーン水素を回収することに取り組み、将来の新事業開拓への展望を見極めてまいります。

d.コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実

 コーポレート・ガバナンスの充実によって持続的な利益成長と企業価値の向上につながるとの認識のもと、コーポレート・ガバナンスとその根幹であるコンプライアンス経営を重要課題の一つと位置付け、引き続き改善・充実を図ってまいります。また、CGコード改訂(2021年6月)や東証市場再編(2022年4月)を踏まえたガバナンスやリスク管理などの体制強化に鋭意取り組んでまいります。

 また、前述したようにコロナ禍を機に事業継続マネジメント(BCM)を抜本的に見直し、大規模災害等の不測の事態に見舞われた場合でも迅速に事業再開できる体制を整備し、当社がステンレス鋼線のトップメーカーとして供給責任を果たしていく取り組みを推し進めてまいります。また、with/afterコロナ禍におけるテレワーク定着と働き方改革推進を図っていきます。

 さらに、事業活動に伴うCO2排出削減の目標を設定し持続可能な社会の実現を目指してまいります。2050年のカーボンニュートラルを最終目標とし、2030年のマイルストーン目標としてCO2排出量を2013年度比30%削減に設定しました。具体的には、省エネ・生産性向上に引き続き努めるとともに、化石燃料エネルギーを直接消費する設備の電化(電気炉への更新)や新技術エネルギー炉の採用(水素、アンモニア、メタネーション)を計画的に進めてまいります。また、環境負荷低減に向けた取り組みなどサステナビリティ経営に関する情報開示にも注力してまいります。

②中期経営計画の進捗状況

 中期経営計画の基本方針に則り、2年目となる2022年度の各施策を着実に展開しました。

a.日本精線リニューアル計画の継続・推進

 ステンレス鋼線部門においては、高機能・独自製品の機能・能力増強に資する設備投資を計画どおり展開しています。枚方工場では、ばね用材や極細線の増産投資を行い生産能力の上方弾力性確保を進めています。東大阪工場では、酸洗設備に関する第2期合理化計画や耐震補強工事に関する投資に着手しました。また、太径伸線機の配電盤の更新にも着手し浸水へのBCPを進めています。さらに、両工場ではCO2排出の削減を図るために蒸気配管改善や廃熱回収ボイラーの設置を進めています。その他、タイ精線では、ばね用材の高機能化を目的にニッケル鍍金設備が完成し、アジア地域で需要の高まってきたニッケル鍍金ばね用材の提供が可能となりました。また、極細線の増産投資の完成によって、枚方工場を補完する生産体制を構築できました。

 金属繊維部門においては、老朽化した製造設備のリフレッシュ投資を推進しています。リーフフィルター向け自動超音波洗浄装置を導入し生産性向上や防音対策などの作業環境の改善が実現できました。老朽化した熱処理炉の更新投資など金属繊維事業の持続的成長に向けた生産基盤強化に向け計画的に取り組んでいます。

b.新製品開発と新市場開拓 : サステナブル社会に貢献

 ステンレス鋼線部門においては、シングルμmへの挑戦を続けています。試作品の品質評価及び設備改良を推し進めてきた結果、9μmの超極細線をお客様にサンプル提供し性能評価を頂くとともに内製ダイスの量産化にも着手しました。新製品としては、船舶のディーゼルエンジンは排気ガスのクリーン化のために燃焼温度の高温化が求められることから、耐熱性や耐摩耗性に優れた材料を用いた溶接線を開発しました。船舶の定修時にエンジンバルブをリユースできることから省資源化への貢献も期待されています。

 金属繊維部門では、より低圧損かつ高い濾過精度を有する超精密ガスフィルター(NASclean®)の新製品開発と拡販に注力しています。具体的には、1.5ナノmまでのパーティクル(粒子)の除去ができる大流量フィルターや、腐食性ガスを使用する工程で採用される高耐食性合金の集積フィルターが評価され、国内外の半導体製造装置に採用されました。また、従来より開発してきた新製品も完成し、製品ラインナップの拡充を実現しました。

c.水素を巡る新事業の探索

 当社では、独自に開発したモジュールを用いて、水素キャリアである有機ハイドライド(MCH)から水素を回収する技術(水素貯蔵回収モジュール)を開発しました。本技術を基に連続運転が可能な小型プラントを用いて有機ハイドライド(MCH)から水素を回収する実証実験を行うため、2021年度に水素吸蔵回収モジュールの小型プラントへの投資を進めてきましたが、2023年度中での実験開始に目途がつきました。水素の品質や反応器の耐久性、安全性を検証し、水素コスト等を検証するとともに、回収した水素は工場内で活用することを計画しています。

 また、当社が保有する金属フィルター加工技術、並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールを用いることによって、超高純度の水素を精製することができます。水素製造装置における水素精製装置(PSA「Pressure Swing Adsorption」)代替や、半導体産業で使用される超高純度水素ガス精製分野など、極めて高い純度の水素ガスを要求される用途としての貢献に期待されています。

d.コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実

 当社グループは、東証市場区分再編に際しプライム市場を選択し、プライム市場上場企業に求められる改訂CGコードのフルコンプライに向け、2022年1月25日に大同特殊鋼株式会社の形式支配力基準による連結子会社となり、同社関係者の役員派遣の制約が外れました。2022年度は、社外取締役3名体制(うち女性取締役1名)として独立社外取締役の選任割合を増やしガバナンス体制の強化を実現しました。さらに、大同特殊鋼株式会社を親会社とする当社では、独立社外取締役及び独立社外監査役全員を構成員とする特別委員会を設置し、支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引行為について審議・検討を行う体制を導入しました。

 また、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」にて気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重などサステナビリティ課題への取り組みを組織的に推進しており、2022年度の「CDP気候変動質問書」に初めて回答し、2022年12月に「B」評価を取得しました。また、2023年5月に「サステナビリティ報告書2022」を創刊し、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。

(注)

CDPとは企業や自治体を対象とした世界的な環境情報開示システムを運営する国際環境非営利団体。CDPは2003年以来、世界の主要企業を対象に、温室効果ガスの排出や気候変動による事業リスク・機会などの情報開示を求める質問書を年1回送付し、その回答をもとに企業の気候変動問題への対応を「A」から「D-」の8段階で評価しています。

 健康・安全や生産性向上など労働災害の撲滅や働きやすい環境の整備にも注力し、ダイバーシティの推進にも努めています。2023年3月に、「日本精線グループ人権方針」を制定し、4年連続での「健康経営優良法人」認定などの実績を残すことができました。

 事業継続マネジメント(BCM)の推進で認識した耐震対策や受配電設備等の補強を計画的に取り組みました。引き続き、コロナ影響の再拡大や大地震、水害等の自然災害など不測の事態が発生しても、従業員の健康・安全の確保と製品供給責任を果たせるように計画しています。

③目標とする経営指標

 当社グループは、以下の数値を目標とする経営指標として設定しています。中期経営計画2年目の結果としては、下表のとおりの実績となりました。

 引き続きこれらを重要指標と認識し、企業価値の向上に努めてまいります。

 

2021年度

2022年度

NSR23目標

連結売上高(百万円)

44,795

49,055

42,000

連結経常利益(百万円)

4,599

4,317

4,200

連結ROS(経常利益/売上高)

10.3%

8.8%

10%以上

連結ROA(経常利益/総資産)

9.5%

8.2%

10%以上

連結ROE(純利益/株主資本)

9.4%

8.6%

8%以上

連結配当性向(配当/税引後利益)

40.5%

41.7%

40%程度

高機能・独自製品連結売上高比率

63.0%

64.0%

70%以上

 注)比率(%)については小数点第2位を四捨五入

(5)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

①経営環境

2022年度の世界経済は、コロナ禍の収束によって経済活動の正常化が期待されましたが、ロシアによるウクライナ侵攻がサプライチェーンの混乱や資源価格の高騰を引き起こし、欧米ではインフレ対策のための利上げによる景気の減速傾向が現れてきました。中国でもゼロコロナ政策転換による感染症急拡大が経済活動の大きな制約となりました。日本経済においても、コロナ感染症の抑制と経済活動の再開によって持ち直してきましたが、世界経済の減速、資源・エネルギーや食料品などの価格上昇の影響を受け、さらに円安影響により景況感の先行きに対する不透明感が大きくなってきています。

 中長期的な視点では、世界的に気候変動に対する問題意識が高まりカーボンニュートラルに向けたリスクとビジネス機会を意識した取り組みが求められています。炭素税導入による調達・操業コストの増加や内燃機関車用部品材料の需要減少などのリスクへの対策の準備が必要となっています。一方、太陽光パネル製造で必要となる極細線やIT社会を支える半導体の製造装置に組み込まれる超精密ガスフィルター(NASclean®)など、当社の高機能・独自製品はサステナブルな社会において底堅い需要があります。高機能・独自製品の提供によってサステナブル社会に貢献しつつ収益機会の拡大に取り組んでいきます。

②優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 今後については、米中露や中東等での地政学リスクが資源価格高騰や先端半導体の輸出制限等の経済安全保障上の制約となることのほか、欧米金融機関の経営悪化や中国の不動産市場の調整等を発端とする景気の下振れリスク等、多くのリスクシナリオを認識しています。

 当社グループの主力製品であるステンレス鋼線は、中国や韓国のステンレス鋼線メーカーとの競争激化による収益低下などの懸念があり、同様に、金属繊維(ナスロン®)も化合繊維向け等の一般汎用製品については競争が激しくなっています。

 このような経営環境を踏まえ、当社グループは2021年4月より『中期経営計画(NSR23)』(最終年度2024年3月期)をスタートさせ、「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を中期スローガンとして掲げ、高機能・独自製品の比率を一層高め、企業価値向上に努めています。NSR23の経営目標として連結経常利益42億円、連結売上高経常利益率(ROS)10%以上、連結総資産経常利益率(ROA)10%以上などに加え、2030年度CO2排出量削減目標▲30%(2013年度比)を掲げESG経営を推進してまいります。

 具体的には、ステンレス鋼線部門において、販売面では環境、エネルギー、5Gなどサステナビリティ成長分野に極細線、高強度ばね用材など当社グループの高機能・独自製品の拡販に努めるとともに、成長性のある海外マーケットを開拓してまいります。生産面においては、前中期計画から取り組んできました日本精線リニューアル計画(NSR)を継続推進し、高機能・独自製品の機能・能力増強と持続的成長のための生産基盤の強化を図ります。また、THAI SEISEN CO., LTD.の機能を強化し、国内外の最適生産体制の構築を進めてまいります。

 金属繊維部門においては、中国、韓国の現地法人の活用による海外市場への拡販、高精度化する需要に応える商品開発を進めるとともに、半導体関連市場の需要増に対し、超精密ガスフィルター(NASclean®)の安定したサプライチェーンの構築を進めてまいります。

 サステナビリティ経営における課題としては、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減といった社会的な責務を意識し、持続可能な社会の実現を目指してまいります。また、高機能・独自製品の安定提供を通じてサステナブル社会に貢献することも当社の責務と認識しています。さらには、将来の水素社会を展望した研究開発を進めるとともに、事業継続マネジメント(BCM)の再構築や働き方改革など、リスク管理やガバナンスなどの体制強化にも鋭意取り組んでまいります。

 以上の諸施策を確実に実行することにより、収益の一段の向上を図るとともに、事業のグローバル化推進や高度化・多様化する顧客ニーズへの対応、サステナブル社会への貢献を通じ、『さらなる企業価値の向上』にグループ一丸となって取り組んでまいります。

PR
検索