企業兼大株主マルハニチロ東証プライム:1333】「水産・農林業 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループでは、お客様の生涯の健康に役立つ商品をご提案するための研究開発、技術蓄積を旨として、研究活動を進めております。

 特に、中期経営計画に掲げている、「イノベーション・エコシステム」を効率的に推進するために、①フードテック領域、②マリンテック領域、③バイオテック領域、などの領域に注力いたしました。

 当連結会計年度における研究開発費の総額は1,652百万円であり、特定のセグメントに区分できない研究開発費の各セグメントへの配賦額を含めたセグメント別の内訳は、水産資源事業1,008百万円、加工食品事業295百万円、食材流通事業332百万円、物流事業50百万円、全社費用配賦差額△34百万円であります。

 主なセグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。

水産資源事業

 世界的な人口増加と新興国の経済成長により、良質かつヘルシーなたんぱく源である魚の需要が世界規模で急増しているなか、水産、養殖分野での取り組みの重要性が高まっております。特にSDGs目標14「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」に貢献することを目指して、養殖魚のエサとなる天然魚や魚粉原料をできる限り使用しない低魚粉、低魚油飼料を開発すべく、昆虫ミールに着目した研究開発を行っております。また、ブリやカンパチは、血合肉が変色しやすく改善が求められているため、これまでに血合肉の変色を抑制できる養殖用飼料の開発・実用化を手掛け、おいしさの部分においても、呈味成分等を詳細に分析することで客観的な指標を見出し、更に高いレベルの品位を目指して改良を進めております。

 沿岸域での海面養殖だけではなく、台風や赤潮などの自然環境に影響されにくく、残餌や糞により海洋環境を汚すことのない閉鎖循環型陸上養殖については、研究助成を受けて産官学と連携を取りながら、山形県遊佐町において、サクラマス陸上養殖実証試験に係る研究開発を進めておりました。助成研究は2020年度で終了となりましたが、事業化に向けた研究を継続中であり、更に飼育設備を拡充し、遺伝子情報を活用した高成長種苗の育種や高密度飼育技術の開発・検討に取り組んでまいります。この陸上養殖研究の知見を生かし、2022年10月、三菱商事株式会社との合弁により、富山県入善町でサーモンの陸上養殖事業を行う「アトランド株式会社」の設立に至りました。デジタル技術も活用した陸上におけるサーモンの持続可能で安定的かつ効率的な生産体制の構築、地産地消型ビジネスモデルの実現、低・脱炭素化への貢献を目指し、2025年度の稼働開始、2027年度の初出荷に向け、サクラマスと並行してアトランティックサーモンの飼育試験を山形県遊佐町にてスタートしております。

 種苗生産研究では、2020年4月に、増養殖事業部傘下の「南さつま種苗センター」を、中央研究所管轄の新会社として組織変更した「㈱マルハニチロ養殖技術開発センター」の本格稼働により、2022年度はブリ140万尾とカンパチ6.1万尾を生産し、順調に安定生産技術を積み重ねております。ブリでは、これまで天然親魚からの採卵でしたが、より養殖に適した人工孵化第一世代の親魚から採卵して完全養殖を達成しており、高成長系統の選抜育種も併用し、養殖の生産性をさらに上げていく予定であります。また、2021年3月に、完全養殖クロマグロ育種改良のための基盤・応用技術の開発に関して、国立研究開発法人の水産研究・教育機構と協働していくことで合意し、共同研究を進めております。この取り組みによって、人工種苗を用いたクロマグロ養殖の体質強化と持続的発展に資する技術開発を推進してまいります。

 水産・養殖現場では、AI(人工知能)やIoT(Internet of things)を活用して、生産性向上や省力化を目指した取り組みを進めております。ICT(情報通信技術)に関する先端技術と水産・養殖現場の課題を適切にマッチングさせ、費用対効果が出るような技術開発、例えば、AIの画像認識技術を活用した魚の尾数をカウントするシステム「かうんとと」の開発、養殖向けの環境データモニタリングシステムの開発など様々な課題に取り組んでいます。また、養殖現場の省力化のために以前より人手で行ってきた養殖魚へのワクチン接種の自動化の検討を進め、ワクチン自動接種機の運用試験を開始しました。さらに、東京海洋大学が主催する「海洋AIコンソーシアム」に協力機関として参加し、東京海洋大学の行う卓越大学院プログラム、その他の海洋AIに関する教育及び研修に関する支援を進めております。

 エビは調理後の食感や味を向上させるために浸漬剤による処理を行っており、エビの加工現場で用いる独自配合の浸漬剤の開発・実用化を進めております。これら浸漬剤を用いた処理により、素材が持つ美味しさを保ちつつ、品質を向上させることができ、特に食感や色の改良が認められております。これらエビの浸漬に関する技術は、特許を出願、取得しております。さらに、浸漬処理の技術は、エビだけではなく、その他の水産物への応用にも取り組んでおります。

 魚介類の国内での消費量が減少し続ける中、魚介類の価値を高めるための一つの取り組みとして、魚由来の成分の健康に及ぼす影響、さらに、日常の食生活の中で魚を中心とする食事の健康への効果を実証するための各種検討を進めております。

 水産加工現場から排出される未利用資源の有効利用に関する技術開発を行い、環境負荷低減の取り組みを進めております。

加工食品事業

 食品の見た目、香り、味や食感などの特徴を官能評価で数値化し、プロファイリングを行い、栄養成分や物性などの美味しさに関わる科学的な要素を分析し比較することで、理論的に食品の特徴をコントロールする取り組みを行っております。

 食塩を控えるなど健康志向の強い消費者に対応できるよう、減塩しても美味しさが変わらない技術や噛みやすく飲み込みやすい食感(物性)が必要な介護食を安定して製造するための技術開発に取り組み、当社商品への応用展開を進めております。

 機能性表示食品とは、健康の維持や増進など、科学的な根拠に基づいた機能が事業者の責任でわかりやすく表示されているため消費者が正しく選ぶことができ、さらに、安全性も確保されているものであります。当社では、長年続けてきた魚油由来の健康成分であるDHAとEPAに関する研究成果をもとに、機能性表示食品の開発にいち早く取り組んでまいりました。その結果、業界初やカテゴリー初となる機能性表示食品を次々に開発し、これまでに、DHA・EPAを関与成分とした中性脂肪を低下させる機能がある食品、DHAを関与成分とした情報の記憶をサポートする機能がある食品として、多数の品目について消費者庁で届出を受理されております。また、多様な生理活性を有する脂質研究を基に多くの医薬品を創製してきた小野薬品工業株式会社と当社が協業し、エビデンスに基づく機能性脂質製品の商品開発に共同で取り組んでおります。具体的には、当社水産加工現場から排出される未利用資源よりDHAが結合したリン脂質を含むイクラ油を基にしたサプリメントを共同で開発しました。これには睡眠の質を向上させ、あるいは一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立つ機能があることを臨床試験で確認し、機能性表示食品として受理され、2022年3月より「レムウェル」(小野薬品ヘルスケア)の販売に至りました。両社は、信頼できるパートナーとして、お互いの知見や事業ノウハウを有効活用し、引き続き脂質のもつ有用な生理活性に着目して、食品と医薬品の間に位置する予防・未病の分野を開拓し、より多くの方へ生涯にわたる健康をお届けしてまいります。

 DHA以外にも、当社が原料調達などでの優位性を有する他の素材についても検討を進めており、サケ白子に含まれるプロタミンの抗菌性を活用した口腔ケア等への応用研究、スケソウダラ由来魚肉タンパク質の機能性研究など、水産物由来の機能性成分に関する研究を推進しております。

 自然解凍冷凍食品、フローズンチルド商品など、多様なカテゴリーからなる当社商品に関して、商品の安全性担保のための基盤となる微生物制御技術の研究を進めております。独立行政法人製品評価技術基盤機構との共同研究では、近年注目を浴びているマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いた、食中毒原因菌であるセレウス菌(Bacillus cereus)の迅速かつ精密な識別・同定(菌種特定)法を2018年に確立いたしました。さらに、当該分析法を用いた同定精度向上とともに、食中毒菌等の迅速検出技術、増殖予測技術についても研究を進めており、「MALDI-TOF MSを用いた食品希釈液からの直接同定方法の開発」について日本農芸化学会2022年度大会で発表し、「トピックス賞」を受賞しました。

 また、新たな取り組みとして、持続可能な“次世代の魚タンパク”の商業化生産を目指し、2021年8月に細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社と「魚類」の細胞培養技術の確立に向けた共同研究を開始しました。同社は、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、培養コストの低価格化と、細胞培養の大規模化技術の開発を行う革新的なスタートアップ企業です。同社が独自に展開する食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養システム “CulNet System™”は、これまで牛と家禽の細胞で有効性が確認されており、本研究ではこれらを新たに魚類の細胞にも拡張してまいります。検証に必要な生きた魚(細胞)の提供を当社が担って、研究を推進してまいります。2023年1月からは、細胞性食品(いわゆる「培養肉」)のルール形成を行う団体である一般社団法人日本細胞農業研究機構に参画して活動を進めております。当社は創業以来、良質な魚タンパクの供給を通じて人々の食と健康に貢献して参りました。魚類細胞性食品の生産技術が実現できれば、世界中で高まる魚需要に対して、持続可能な次世代の魚タンパク質の提供が可能になると考えております。

食材流通事業

 2015年4月の制度化で誕生した「機能性表示食品制度」は、科学的根拠の提示と適切な品質管理のもと、事業者責任において食品に機能性を表示することを可能とした制度であります。この制度は、加工食品のみならず、農水産物などの生鮮食品も対象としておりますが、生鮮食品の各種栄養成分や機能性関与成分の含量は加工食品と比べて安定しにくいため、規格管理が難しいことが障壁となっておりました。当社ではこのハードルを越えるべく、代表的な養殖魚として知られる「カンパチ」の機能性関与成分であるDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)量について、年間を通じた調査を行い、規格管理を実施することで2018年1月に生鮮食品区分の水産品として初の機能性表示食品の届出が受理され、2018年8月より販売を開始しております。さらに、株式会社ベイシアとの取り組みで、水産売場において中性脂肪を低下させる効果がある機能性表示食品として販売することを検討し、届出が受理され、2021年4月よりベイシア各店での販売に至っております。続く第2弾として、マグロのたたきに含まれるDHA・EPAが規定量以上含まれるように当社の精製魚油を添加した商品設計を行い、2023年4月より中性脂肪を低下させる効果を謳った「新鮮プレミアム 鮪たたき」の販売を開始いたしました。現在、更なる魚種拡大の可能性についても検討を進めており、機能性をもつ生鮮食品の販売拡大を目指しております。

 さらに、水産・食品分野のリーディングカンパニーとして、関連学会での発表はもとより、関連セミナーにおける講師、理科授業の実施など、成果や技術力の情報発信に加え、社会に対する貢献活動に継続して取り組んでまいりました。

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